魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe- 作:フォールティア
「やぁぁぁ!!」
「まだ、足掻くのか」
振り下ろされた一対の銃剣を受け止めながら、マクスウェルは呆れとも、称賛とも似た呟きを吐く。
アルカンシェルⅡの光は既に無く、破壊の奔流を耐え抜いた彼に待っていたのは特異点たるアミタ達と、機動六課の特攻めいた決死の攻撃だった。
「当然、です──!」
「アンタから私達の世界を取り戻すんだから!!」
動きの止まったアミタの影からキリエが躍り出、大剣を凪払う。
「残念だけど」
普通ならば確実に入った一撃はしかし、片手で止められた。
「それは無理な話だよ」
「なっ──ぐぁっ」
アミタを巻き込んだ回し蹴りが直撃し、弾丸のように地面へと衝突する。
マクスウェルにとってはただの蹴りだが、彼女達の骨を砕くにはそれだけで十分に過ぎた。
「かっ、ぁ……」
「あれでまだ息がある。全く、厄介だな特異点というのは」
血反吐を吐きながらも立ち上がる二人を見て、肩を竦める。
ほとほと呆れ果てた頑丈さだ、嫌気が差す。
先の自分の言葉をそのまま返されているようだ。
『お前には無理だ』と。
二人の追撃を『家族』に任せ、マクスウェルは次の標的を見定める。
機動六課は最早虫の息だ。
放って置いてもいずれ完全に変質して、赫海の一部となるだろう。
使える兵装で以て抗っているが、それが精々だ。
ならば問題は残る五人、ディアーチェ達だろう。
判断と同時に飛来する赤い砲撃魔法を切り払い、即座に銃爪を引くが、放たれた光弾が届くことはなかった。
「やらせないよっ!」
「そういうことだ、腐れ者」
シュテルを守るべく、レヴィとディアーチェの魔法が炸裂する。
「……世界の死に際の断末魔、生への渇望の具現」
殺到する蒼雷と黒闇を片手で握りつぶし、一息に空を駆ける。
「なにっ」
「それが特異点。──『星の熱量と存在の重量、全てを託された、惑星の使徒』」
一瞬の間に懐へと踏み込まれてなお、自爆紛いの反撃の為にディアーチェは魔法陣を構築しようとするが、それ諸ともに腹を切り裂かれ、枯れ葉のように吹き飛ばされる。
「本来ならリソースはほぼ無限、頑強さも僕たちに比類するレベルだが……」
「お前ぇ……っ!!」
振り下ろされるレヴィのバルニフィカスを蹴り砕き、バランスの崩れた身体に拳が叩き込まれる。
「か──」
骨が砕け、血煙を吐き出しながら墜落するレヴィに目もくれず、最後の標的たるシュテルへと接近し──
「枯れ果てた星の出力ではこれが限界か」
咄嗟に出された左腕を籠手ごと切り落とす。
奇しくもそれは数年前のあの事件の焼き増しと同じ結果──。
「──掴まえましたよ」
にはならなかった。
デバイスをかなぐり捨て、空いた右腕を絡め、マクスウェルの腕の関節を極める。
「何を」
こんな事をしたとて、マクスウェルには何のダメージも無い。
だが、ほんの少し。瞬き一つに満たないこの間隙を生めればシュテルには十分だった。
「頼みます、ユーリ、イリス」
「「任された!!」」
シュテルの声に応えるように躍り出た二人の斬撃が、マクスウェルの左腕を切り裂き抉る。
「──これは」
ここに来て初めて負傷らしい負傷をおったことに、驚きを隠せない。
「貴方の言うとおり、この星は枯れかけです」
「その出力は確かに弱い。私達全員に満遍なく供給したら、当然その力は弱くなる」
鎧装を完全に展開したユーリと、身の丈程の長刀を携えたイリスが一気呵成に攻め立てる。
『危険』を察知したラーム・ラハム達が壁となり立ちはだかるが、抵抗する間もなく両断されていく。
「まさか……リソースを偏らせたのか?五人を囮に」
唖然とする。
かつての『ぬるま湯』の彼女たちなら、確実に取らない選択をした事に。
「元より無傷で勝てるなんて思ってないわよ……!!」
「それでも、私達は貴方に──貴方にだけは!!」
苛烈なまでの猛攻。
もはや型も何もない魔法と高等科学の乱流が波濤となってマクスウェルを襲う。
銃剣は砕かれ、盾となる家族は蹂躙され、肉体は傷付いていく。
(なるほど、枯れかけとは言え、星の質量を偏らせた重さというのはこれ程までに重いものか)
それでも死なない。倒れない。致命的ではない。
マクスウェルは、
もっと恐ろしいものを知っている。もっと苦しいものを知っている。
あの冷たさ、寒さを知っている。
だから──。
「──君たち、邪魔だ」
ぐしゃり。
攻撃が、止まった。
「な、ぁ?」
「なん、で、これ……は」
突然現れた腐肉の槍に身体を何ヵ所も貫かれ、二人は血反吐を吐き散らす。
鎧装は砕け散り、長刀は折れ、そして。
「堕ちろ」
身体は血袋に成り果てた。
「ユーリ!イリス!!」
アミタの悲鳴が鳴り響く。
脱力しきった身体が地面に堕ちるのを、シャマルの魔法が受け止める。
「……シャマル」
「内臓をやられてる、早く本格的な治療しないと直ぐにでも……」
「……っ」
診断と同時に治療を始めたシャマルの答えに、はやては歯噛みする。
状況は最悪を超過して致命的だ。何せもう戦力が無い。
エクスカベータらやヴェレも、殆どが破損ないし過剰運用によるオーバーヒート。
上空のドローンも、異界の圧力に耐えきれずに一機、また一機と数を減らし、フォートレスの出力は最早、風前の灯火。
やれることと言えば魔法と、辛うじて動くヴェレでラーム・ラハム達を近付けさせないことぐらいだ。
こうしている間にも変質は刻々と進み、はやて自身、もうシュベルトクロイツを支えにしなければ立つことすらままならない。
空を睨めば、こちらを冷たく見下ろすマクスウェルが見えた。
その顔に、言い様の無い違和感を覚える。
(さっきまでの余裕が、ない……?)
圧倒的な差違に笑ってすらいたのに、今はその影すらない。
だが本気になったわけでも、怒っているようにも見えない。
むしろ、まるで何かに怯えるような……。
「ああ、その目。気に入らないな」
不意に目が合う。
マクスウェルは冷めた目ではやてを見ながら、唸るように声を出した。
「君たちこそ怯えるべきだろう?恐れるべきだろう?なのに何でまだ、そんな……戦う目をしていられる?」
心底信じられないと、責めるような問い掛けに、はやては正面から答える。
「さっきも言ったやろ。クレンは必ず戻ってくる。私達はまだ動ける…………アンタに勝つ可能性は、まだゼロじゃない」
答え終わると同時、ケロイドに変わった脇腹に激痛が走る。
そこからは見覚えのない獣の脚が生え始めていた。
「……そうかい。よく解った」
諦めたようにマクスウェルは肩を落とし、頭を振った。
そして、直後。
「が──ぁ」
「君こそ一番に殺すべきことが」
一瞬で距離を詰めたマクスウェルの手が、はやての首を締め上げていた。
突然の苦しさに肺から空気が抜け、はやての視界が白く明滅する。
部隊の仲間たちの悲鳴が耳朶を叩くのが遠くに聞こえる。
遠退きかける意識を歯を喰い縛って耐えながら、マクスウェルを睨む。
「君は彼女達の希望であり旗印だ。君が声高に希望だの未来だの口にすれば、それだけで力になる、なってしまう」
「────っ」
なのは達がはやてを奪還しようと動こうとするが、急速に訪れた変質の激痛と崩れたバランスに、魔法の構築すら覚束ず、地面を這うことしか出来ないでいた。
「君が死ねばそれも無くなる。君たちの可能性はゼロになる……これでチェックメイトだ」
首に掛けられた力が一層に強くなる。
フォートレスの防御はすでに無く、はやての命を守るモノは無い。
意識が途絶えかけ、石榴のように弾ける自分の頭がイメージとなって過る。
明確な死が目の前まで来ている。
……それでも尚、はやてはマクスウェルを『笑った』。
ここに来て初めてみせた、人を馬鹿にするような笑いを。
「何が、可笑しい」
「はは……知っ、てる?マク、スウェル」
「……何を」
「そ、れ────フラグって、言うんよ」
斬
「──────────────は?」
目を見開く。口が呆けたような息を漏らすのを止められない。
理解が出来ない。信じられない。信じたくない。現実じゃない。有り得ない。
こんな事があって良い筈がない。
空転する思考が却って現実を認識させる。
──切り落とされた右腕の先。
大地に突き立った十字架の袂に『それ』は居た。
じゃらり。
風にのたうつ蛇頭の銀鎖が、まるで獄囚の足音のように鳴く。
野晒しにされた罪人の襤褸切れのような外套が、黒い影を落とす。
祈るように跪いた男が顔を上げる。
そこあったのは敬虔なる信徒の顔ではなく。
獲物を見つけた獰猛なる獣の顔だった。
「──待たせたな、
立ち上がり、閉ざされた瞼が開かれる。
世界を見たその瞳は、『蒼く』耀いていた。
「こっからは──俺の戦争だ」
クレン・フォールティア、帰参。