魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe- 作:フォールティア
マクスウェルがその姿をクレン・フォールティアだと認識した時、始めに感じたのはその存在の『圧』だった。
先程までとは何もかもが違う。本当にあの弱々しかった彼なのか?
だが、それよりも問題なのは。
「……何故、生きている」
確かに殺した。
眉間を撃ち抜き、骸が海へと落ちる姿を目にした。
ならばとっくに自分の『家族』となっている筈だ。
それがどうして、今、こうして平然と立っている?
「頭ブチ抜いてくれてありがとうよ、マクスウェル。お陰で色々スッキリした」
「何?……ッ」
胡乱な事を言うクレンの眼を見た瞬間、マクスウェルは反射的に銃剣の銃爪を引いた。
目標を撃ち抜くはずの弾は十字架に弾かれ、虚しく消え失せた。
「……当たらねぇよ」
見れば十字架の姿も、これまでとは違っていた。
デバイスの様な機械的な構成も重厚さも無ければ、焔を纏ってもいない。
剣だ。薄く、鋭く、ただ対象を殺す事に目的を集約した殺戮兵装。
その切っ先が、マクスウェルへと向けられる。
宣戦布告、いいや違う。
これは紛うことなき、
「行くぜ、
──殺害宣告だ。
言葉が思考へと流れ出す、溢れる。
あの海から俺が連れ出した数多の魂たちの声だ。
『死にたくなかった』『おかあさんにあいたい』『もう終わりたい』『どうしてこんな事に』『生きたい』『生きたかった』『死にたい』『あの子に会いたい』
与えられた不条理、理不尽に嘆く声。
だが、その内に在るのはただ一つ。
『許さない』
その不条理、理不尽を与えた者への憤怒。
「ああ、連れて行ってやるよ」
【
十字架と『一つ』になったヴィーザルから、頼もしい言葉が聞こえる。
「させるか──!」
俺が何をするか理解したのか、マクスウェルがご自慢の家族たちを全てこっちにけしかけて来る。
無力化したはやて達よりも俺を優先したんだろうが……こっちとしてはおありがてぇ限りだ。
「ヴィーザル」
【
十字架の切っ先を化け物達へゆっくりと振る。
傍から見れば距離も間合いも無い、無為な行動だろう。
だが、それだけで十分だ。
剣先の軌跡をなぞるように放たれた斬波が化け物達の躰を両断した。
「なんや、それ……インチキかいな」
後ろでへたり込んだはやての、間の抜けた声が聞こえた。
インチキではな……インチキみてぇだな。
まあ、もっとインチキ臭くなるんだが。
「マクスウェル」
「……何だい」
「お前、家族家族って言う割には、死んでも悲しまないんだな」
「………………何が、言いたい」
「いや、何。俺でさえ持ってるモノを、お前は持っていないんだと、再確認しただけさ」
嗤うように銀鎖の蛇がじゃらじゃらと鳴る。
マクスウェルの顔にはこれまでの余裕はなく、苛立ちに歪んでいた。
その様は事が上手く行かずに癇癪を起こすガキのようだ。
──あの海の中に漂う魂達に色々なモノを聞いた。
星の事、文化、人の営み。
そして、一人の子供の話。
聡過ぎるが故に恐れられ、知り過ぎるが故に遠ざけられる。
友も家族も己を怖れ、離れていった。
孤独を知るが故に他者を知らず、己の願いだけが肥大化する。
ただ、愛して欲しい。温もりが欲しい。家族が欲しい。
全くもって、巫山戯た話だ。
哀れと思えど、同情は無い──。
「知った口を聞かないで貰いたいね」
「あぁ知らねえ。テメェの事なんざクソ程興味もねぇ。だが──」
十字架を大地へと突き立てる。
「こちとらガキの癇癪諫めねぇと寝覚めが悪ぃんだよ」
「は?」
「説教の時間だクソガキ、テメェの殺した奴らに泣いて詫びやがれ」
さあ、始めるか。
俺の創造を。
大気が震える。
大地が軋む。
空が歪む。
マクスウェルの展開した『世界』が怯えるように揺れる。
「
身の内から、外へと。
己と言う世界を広げる。
世界というテクスチャを侵襲し、塗りつぶし、塗り変える。
絶対的な自我の肯定。
摂理の侵食汚染。
「
報復せよ、復讐せよ。
その憤怒を今こそ吠え立てよ。
身の内を焦がす獄炎が溢れ出す。
「
「
「
黒い焔より幾千もの剣が象られ、大地を呑み干さんと突き立たつ。
それは墓標であり、報復の覚悟を知らしめる象徴。
「
赫い海を喰らわんと、黒の世界が牙を向く。
それは無慈悲に殺され、辱められ、堕とされた魂たちの慟哭と憤怒の表象。
「
「
黒天が、世界を覆った。
天上に輝く蒼い月だけがこの十字架の丘を照らしている。
静かで美しいとさえ思える光景に、しかしはやては恐れを抱いた。
(なんや、これ──)
何処までも純粋に研ぎ澄まされた怒り。
報復せよと幾重にも残響する叫びが聴こえるような錯覚さえ覚える。
(これが、クレンの創造)
マクスウェルのような悍ましさは無い。
ただ煮え滾る怒りが音もなく燃えているような、静かな熱を感じる。
この世界が何を齎すのか、自分たちはどうなるのか。
解らない、解らないが、一つだけ解る。
「クレン」
「ああ」
「──頼んだで」
ここから先は彼の戦いである事。
もはや人間では到達しえない、理外の闘争なのは確かだろう。
悔しく、歯痒い想いを呑み込んで絞り出した言葉に、クレンは一歩踏み出すことで応えた。
「任せな」
見えずともはやてには分かった。
クレンはきっと……笑っている。
──今、此処に。新たな『魔人』が産まれ落ちた。
創造の発音は
「ニーベルゲン ヴァーゲルタング バルムンク」です