魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe-   作:フォールティア

48 / 91
/40 Verletzung

 

ただ一歩、クレンが足を踏み進める。

戦いの火蓋はそんな呆気の無い物で落とされた。

 

創造位階。それもお互いに自らの渇望を世界に押し付ける覇道である以上、起こる事は至極単純だ。

 

「さあ、陣取り合戦と行こうぜ?」

 

「ふざけたことを……っ!」

 

何方がより己の願いが強いのか。

即ち、互いの世界のぶつけ合いである。

マクスウェルは苦虫を噛み潰したような顔で大小様々な『家族』を赫い乳海より産み出し、クレンへとけしかける。

その数、千三百体。

対するクレンはただ十字剣の切っ先をマクスウェルへと向けた。

 

「復讐の時間だ、お前達」

 

魂達が歓喜に震えるのを感じながら、十字剣を振り払う。

たったそれだけの所作でムシュマッヘの首が千々に斬れ、ウリディンムの胴は両断され、バシュムの頭が捻り潰れ、ラーム・ラハムの身体に孔が開く。

 

「なんだ、それは」

 

一瞬で創り上げられた凄惨たる現実に、マクスウェルの頬に冷や汗が一筋流れる。

 

また一歩、クレンが歩みを進める。

マクスウェルの世界が軋みを上げる。

 

──同格の筈だ。

慰めにもならないのを承知で、そう考える。

同じ創造位階、なのに何故、こうも違う?

これではまるで──。

 

「赤子と大人じゃないか……」

 

魂という燃料の差は歴然だ。

何せ此方は数世代に渡る蒐集によってニ千万もの数に及んでいる。

惑星の守護者たる特異点、彼女達を一蹴に降してみせたのだから、その強さは今この場に居る誰より確かな物の筈だ。

なのに何故、自分の中から高々四百万程度の魂を奪っただけの彼が自分を圧倒するのか。

この明らかな『異常事態』が理解出来ない。

 

「なんなんだ……なんなんだよ君はァ!!」

 

理解出来ない恐怖に、堪らず叫ぶ。

心からの慟哭に、クレンはただ一つ答える。

 

「ただの──復讐代行だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──俺の創造。俺の世界。

 

その力は少しややこしい。

前提として己と、相手──今ならマクスウェル──の魂全てと『対話』し、報復を望む者を己の力とする。

そして生じる摂理は当然、報復だ。

 

奪った者から奪い、殺した者から殺す。

害成す者に害を成す。

 

『相手の敵意を倍にして返す。』

 

理屈では難しいが、実際やってみると至極やりやすい。

何せこれは俺が隔離街でやってきた事の延長線上にあるから。

要はいつも通りだ。話を聞いて、復讐を代行する。

少し違うのは、報復を望む魂達が共に力を振るう位だ。

 

……怒りというものは、人間が持つ感情の中で最も苛烈で、強いものだ。

 

それが放つ熱量は時として人の身に余る業を成す。

高々、四百万の魂が数千万の魂に喰らいつく事なんて、ワケのない話だ。

 

消えると解っていても、こんな形に堕とした奴に一撃をぶつけ無いと気が済まない。

そんな魂ばかりだ。今更、彼我の戦力差なんて恐れるものじゃない。

 

大体、あんな中に有って自我を失わなかった魂達だ。

ただの燃料に墜ちた魂なんて歯牙にも掛けないだろう。

 

大蛇を焼き、獅子を擂り潰し、毒竜を斬り割いて、人で無しを塵にする。

其処らに突き立つ剣を薙ぎ、投げ、刺し、振り下ろす。

その度にマクスウェルの世界は軋み、罅が入る。

指数関数的に消えていく魂と肉塊を一つ一つ確かめながら突き進む。

もはや戦いとすら呼べない蹂躙行軍。

 

一歩進む度にマクスウェルは引き攣った顔で後退る。

 

「来るな、来るんじゃない。何で、何でこんな……どうして」

 

そして、互いの世界の境界線へと辿り着く。

マクスウェルは俺の目と鼻の先で怯えた表情でこちらを見ていた。

そこで俺は考えていた事を口にした。

 

「ずっと違和感があった」

 

「え……」

 

俺の言葉に、マクスウェルは呆気に取られたようで、息を漏らした。

 

「なあ、マクスウェル。何世代も生き抜いて世界を見てきたお前に、俺は問いたい」

 

「な、何を言って」

 

「お前にとって、家族ってなんだ?」

 

「──────────は?」

 

聖遺物、或いは俺自身の渇望、本質に気付いた時、俺はマクスウェルの創り上げたこの世界と、言葉に違和感を覚えた。

 

──『家族』。

思えばマクスウェルは事あるごとにこのワードを口にしていた。

 

俺自身、血縁としてのそういった者は居なかったが、似たような存在は居た。

そこに向ける感情も、理解しているつもりだ。

喜びを共有したり、共に悩んだりもした。

……居なくなった時は、悲しさや虚しさもあった。

 

だが、どうにもコイツにはそれがない。

今だってそうだ。

アレだけ家族、家族と言いながら、俺にこれだけ殺されても悲しむ様子は一切無い。

俗に言う、親愛の情のようなモノを感じないのだ。

 

最初はそう言っているだけの狂言だと思っていたが、どうも腑に落ちなかった。

赫海に落ち、マクスウェルの過去を垣間見た時、俺は漸く合点がいった。

 

「家族、家族、は──」

 

「なぁマクスウェル。お前」

 

フィル・マクスウェル。コイツは多分──

 

「家族が何なのか、知らないだろ」

 

──親愛を、知らない。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。