魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe-   作:フォールティア

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明けましておめでとうございますm(_ _)m
本年もよろしくお願いいたします!


/44 Aufräumen und die Nacht

 

死にたくない

 

死にたくない

 

しにたくない

 

しに く い

 

し    い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────ほぉ」

 

何もない、何も映さない暗闇の中、襤褸を纏った男が立っている。

何もかもを持ち、何もかもを映して居るようで、何もかも欠落している様にも見える男が一人。

何も無いはずの足下を見て微かに声を漏らした。

其処には何も無い。

その目には何も映らない。

 

だが確かに、『何か』が有った。

 

余りに小さな砂利の一粒を爪先に当てたような感覚。

虚無の中にあって有り得ざる異常。

 

「成程────」

 

感嘆するようでいて、しかし空虚に男は口を僅かに歪めた。

 

「どうやら、今宵は少しばかり脚本がズレそうだ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────────────」

 

この光景を、何と表すればいいのだろうかと、はやては投げ出しかけた思考を掻き集めた。

 

一瞬の閃光、咄嗟に全員に保護魔法を掛けなければ鼓膜が吹き飛び兼ねない轟音。吹き荒ぶ爆風と煙。

それらに目を瞑り、再び瞼を開けて見えた物は──

 

「────青空」

 

醜い肉塊と成り果てたコロニーも、狂笑を叫びあげていたマクスウェルも……あの悍ましい赫の空も。

全て、消えていた。

残されたのは二人の魔人の激突によって荒れ果てた大地と、満身創痍の自分達。

そして……。

 

「……………」

 

空を見上げる、クレン・フォールティアと言う『魔人』がただ一人。

 

ああ、ダメだ──そっちは、ダメだ。

 

確証のない予感が警鐘を鳴らす。

このままだと彼が、ずっと遠くに消えてしまう予感。

 

「クレン……」

 

震える声で彼を呼ぶ。

遠すぎるその背中を呼び止めるように。

いつの間にか変質から元に戻っていた身体を引き摺りながら、歩き出す。

 

他の皆はあの衝撃に気を失ったのか、誰も声を上げることは無い。

通信もイカれたのかノイズすら聞こえない。

風の一つも吹かない、ただただ無音の世界。

不格好に足を引き摺った跡を残す音だけが、やけに響いて聞こえる。

 

「クレン……!」

 

蓄積した疲労と、枯渇しかけの魔力のせいで視界が滲む。

それでも歩みを止めようとは思わなかった。

ただ一言を、伝えるが為に。

 

ああ、あまりにも遠い。

ほんの少し前まで、すぐ隣にあった筈のあの背中が。

遠く遠く、彼岸の果てまで行ってしまったかのよう。

 

倒れかける足に喝を入れる。

閉じかける瞼を意地で開く。

頭を上げ、ただ前を見据えて、あの背中へ。

 

時間にすればほんの一分にも満たない時間。

はやてにとって長く永い道程を歩いて、ようやく。

彼の肩を強く、しっかりと叩いた。

 

「クレン」

 

「…………八神?」

 

一瞬の間の後、呆気に取られたように、クレンがはやての顔を見る。

その顔は魔人ではなく、はやてがよく知る、クレン・フォールティアという一人の『人間』の顔だった。

 

(あぁ──)

 

あぁ良かった、と心の底からそう安堵して。

はやてはクレンに──

 

「────お疲れさま!」

 

そう言って、笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「4番ランチ、まだ荷物乗るぞ!!」

 

「誰かラボの荷出し手伝って〜!」

 

「資材はこっちに纏めてくれ、整理するから」

 

マクスウェルとの決戦から一週間が経った。

ラボは帰り支度でにわかに忙しく人員が動き回り、所構わずガヤガヤと賑やかだ。

そんな中、俺はと言うと──。

 

「ヴィーザルが聖遺物と融合したのはまあ良いでしょう、元よりそうなるだろうな〜とか思ってましたし?通常魔法を使えなくなったのもまあ、良いでしょう。聖遺物の出力を考えれば今までが特殊な状況だったんでしょうし。ですが形を……形状再設定を不可能にした!!そんなのって無いでしょう!!もっと色々改造したかったのに!!」

 

「いや知らねえよ!?」

 

「ちょっと、医務室では静かにしてくれないかしら〜?」

 

医務室のベッドに寝かされた上、シャーリーに質問責めされていた。

いや待ってくれシャマル、俺は被害者だぞ。

 

俺以外にもあの戦闘に参加した殆どがここで療養中。

マクスウェルの聖遺物の影響で身体が変質していたのが元に戻っていた事の経過観察も兼ねて、ロディック艦長が『片付けはやっとくから全員休め、寝ろ』と厳命したからだ。

最初の二、三日は大人しかったが、流石に暇過ぎたのか今となっては各々好き勝手に過ごしている。

筋トレや読書に始まり、トランプやらボードゲーム、果てはどっから持ち込んだのかゲーム端末まで。

医務室なのに医療器具に違和感を覚えるくらいの自由空間である。

 

俺自身は至って健康で、片付けの手伝いくらいは出来るのだが、『やかましい、休め』と艦長に一喝されたので大人し……く休みたかったなあ……。

 

帰ってきて医務室にぶち込まれ、次に目を覚ました時に全員から顔を覗き込まれてた時はホラーかと思ったわ。

その後はスターズ、ライトニング、終わりにヴァイスまで、見舞いと称した雑談に付き合わされた。

 

日々の検査と、アホほど密度の濃かった時間のせいで終わらない報告書作成で、瞬く間に時間が過ぎて今に至る。

 

「はぁ……で、跡地はどうだったよ」

 

「どうもこうも、何もなかった(・・・・・・)ですよ」

 

「そうか」

 

あの一撃でコロニーもマクスウェルも消え失せた。

あれだけ俺達を苦しめた奴だったが、その最期は呆気の無いものだ。

奴の消滅と同時に、赫海による影響も消滅したことがその後の調査で判明している。

現在は主に赫海に飲まれていた領域の安全性を調査隊を派遣して確認している。

とはいえ安全性はほぼ確実らしく、調査隊曰く『世界の修正力』が働いているというのが説だ。

 

「何にせよ、ここでの仕事は終わりか」

 

「そうだね、あまり長く向こうも空けられないし、準備が終わり次第……明日には出発かな」

 

話を聞いていたのか、茶の入った紙コップを片手にハラオウンがやってきた。

 

「一週間休みが貰えただけマシか」

 

「グリフィス君達も頑張ってくれてるからね」

 

「アイツ真面目だからなぁ……」

 

今頃ゲッソリとした顔で書類かたしてんだろうな、簡単に想像出来る。

 

「あ、そう言えばはやてを見なかった?」

 

「八神を?」

 

「私は見てないかな……どうかした?」

 

「ううん、そういう訳じゃ無いんだけど、なんだか元気が無さそうで。見掛けたら少し話し相手になってくれるかな」

 

「まぁ、良いが」

 

「ありがとう、お願いね」

 

そんな話の後、少し雑談をしてその場は解散した。

時間はもうじき夜になる。

散歩がてら八神を探すとするか。

──俺も、アイツには言っておかないといけないことが有ることだし。

ベッドから降り、制服の上着を羽織って俺はランチから外へ出た。

 

日中に粗方片付けは終わったようで、あれだけ機材や資材でごった返していたラボの周りは閑散としていた。

ラボの方を見ると明かりが点いていて、中からは作戦に参加していたスタッフ達の声が聞こえる。

声から察するに、ちょっとした食事会をしているようだ。

邪魔をしては悪いと思い、気付かれないよう窓から中を覗いてみたが八神は居ないようだ。

 

(……とりあえず外から回ってみるか)

 

ズレた上着を直して、ラボに背を向ける。

少し冷えてきた空気を感じながら、ラボの周りをぐるりと歩いていると、医務室代わりのものとは別の、もう一台のランチの上に人影を見つけた。

どうやら、らしくもなくあんな所に居たようだ。

 

「……仕方ねえな」

 

小さなその背中を見て、俺は一度ランチへと戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

なんとなく、考えがまとまらない。

止めるシャマルに無理を言ってスタッフメンバーに指示を出し、労いも込めて食事会の許可を出した後、はやては一人ランチの上で星を見ていた。

考えるべき事は山程ある。

あるのだが、ぼんやりとしてしまう。

あれからもう一週間も経とうと言うのに、どうにもこんな風になってしまう。

会話は出来るけれど、事務的というか集中出来てないというか。

 

「あー……なんやろ、これ」

 

もやもや?ぼやぼや?

言語化しようにもこんな事は初めてなので全く表現出来ない。

なんなら若干ムカついている。

何でだろうかとあーだこーだと考えていると、そう言えば戻って来てからこっち、一度も話していない人物が居ることに気が付いた。

 

「…………そうや、何で話してなかったんやろ」

 

彼が目を覚ました時は自分でも驚くほど喜んだ記憶はある。

ただその後は報告書やら全体指示やらで慌ただしく過ごしていた。いたのだが……

 

「話す機会なら幾らでもあった筈やけど」

 

そう、休憩時間や消灯前に話そうと思えば話せた筈だ。

なのに今になって気付くこの体たらく。

まさか無意識に避けていた?いやいやそんなまさか。そうする理由も無いのに?だったらなんで?いや嫌いとかそんなんじゃないし?

 

「うー……わっからん!」

 

「さっきから何あーだのうーだの唸ってんだ」

 

パンクしそうになる頭を抱えていると、声と共に視界が真っ暗になる。

 

「は?え?」

 

「なんだその間抜け声、アンタでもそんな声出すんだな」

 

からかうような言葉に、真っ暗になった原因を引っ剥がす。

 

「……もう、ふ?」

 

ベージュ色の毛布の残りが、頭からスルリと落ちた。

いやそんな事よりも大事な事がある。

さっきから笑いを堪えたような声がする方向に顔を向ける。

一週間どころかもっと聞いていなかったんじゃないかと思えるくらい、久しぶりの声。

 

「よぉ、八神」

 

「………………クレン」

 

微かに見上げた右隣に、彼が立っていた。

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