魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe-   作:フォールティア

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「ほらよ」

 

「え、あ、ありがと……」

 

コーヒーの入ったカップを八神に渡して、毛布を肩に掛ける。

カップを両手に持って、漸く自分が思ったより冷えていた事に気付いたようだ。

 

「あったかいなぁ」

 

「そりゃ淹れたてだからな」

 

ぶっきらぼうに返しながら隣に腰を降ろす。

 

「…………」

 

「…………」

 

……き、気まずい。

身体を冷やしたら良くないだろうと色々持ってきたは良いが、渡した後を全く考えていなかった……!

いやだったら何で座ったのだ俺よ。

そら話聞いてやれと言われはしたが、向こうが喋らないんじゃどうしようもなくないか?

ともあれ、何か適当に話題を振ってみるか。

 

「久しぶりだな、こうやって話すの」

 

「そやねぇ、お互いあれやこれや忙しかったから」

 

あの決戦から帰ってきてからと言うもの、八神は方々に指示を出しながら忙しくしていた。

そのせいか、こうして二人で話すのは随分久々だ。

 

「クレン、体調は?」

 

「至って健康だ。じゃなきゃ態々お前を探しに出て来ねぇよ」

 

「何、心配してくれとるん?」

 

「ああ」

 

「……」

 

八神が押し黙ってしまった。

……待て、何で俺は即答した?

 

「お……俺含めて皆がな?」

 

何だか気まずくなって変な補足を付け足してしまった。

いや無難だな、無難。うん。

 

「そそそそっか、そうやな、ごめん」

 

「おう……」

 

沈黙。

どうしてこうなった。

だぁぁぁぁぁあ!!何を間違えたぁぁぁぁあ!!

なんかもう頭抱えたくなってきた。こんなむず痒い感じだったか?コイツとの会話って。

なんというかもっとこう、気楽じゃなかったか?

久々過ぎて感覚忘れちまったか?俺。

 

「あー……」

 

と、言うか。

こんなしおらしい八神は初めて見た。

大きめの毛布にすっぽり収まって両手に持ったカップからちびちびコーヒーを飲む姿は小動物的ですらある。

はぁ……細かい事考えるのは止めよう。単刀直入に聞いてしまおう。

 

「……何があった」

 

何と無く顔は見づらいから視線は正面を見ながら聞いてみる。

少しの沈黙の後、八神が答えた。

 

「んー、何ていうか、もやもやというかぼやぼやとするというか」

 

「なんだそりゃ」

 

「けど今は収まった」

 

「なんだそりゃ」

 

思わず二回同じ科白を言ってしまった。

八神が話を続ける。

 

「多分、安心したんやと思う」

 

「安心?」

 

「うん。生き残った事、勝てた事、クレンが……生きてて、勝って、無事だった事」

 

「ああ──」

 

マクスウェルに一度殺された時……俺は八神の目の前で頭を撃ち抜かれ、赫海に落ちた。

聞けば八神は俺が帰って来るとマクスウェルに啖呵を切って皆を鼓舞したらしい。

それでもきっと不安だったのかも知れない。

俺が死にきって、もう戻らないかも知れない。皆死んでしまうかも知れない、と。

 

「医務室でクレンが目ぇ覚めた時からや、こうなったの。気ぃ張ってたのが一気に緩んだんやろなぁ」

 

「あん時凄かったもんなアンタ。メッチャ踊ってたぞ」

 

「え、ウソやろ!?」

 

「ウソだ」

 

「……」

 

「アッツ!?おま、無言でカップ押し付けんなよ!?」

 

「罰や罰!あんだけ心配掛けたんやからこれくらい黙って受けとり!!」

 

ぐ、そう言われると何も言い返せねぇ……。

グイグイとカップの熱を腕に押し付けられるのを甘んじて受けていると、不意に肩にトン、と小さな重さを感じた。

見れば八神が俺の肩に頭を乗せていた。

 

「本当に……心配したんやから」

 

「……あぁ」

 

思えば、俺は八神に心配を掛けさせ過ぎていたのだろう。

脱走するわ、目の前で死ぬわ、蘇ったかと思えばコロニー消し飛ばすわ……全く、我ながら心配する要素しかねえ。

 

「ごめん、少しこのままでもええ?」

 

「構わねぇよ」

 

だから、この肩口を濡らすモノを、受けないわけにはいかない。

 

「もう、一人で行こうとせんといて」

 

「ああ」

 

「抱え込まないで、私に話して」

 

「ああ」

 

「約束、やからね」

 

そこまで言って、八神が顔を上げる。

雲間から、月が顔を覗かせた。

 

「………………」

 

穏やかな月光に照らされたその笑顔に、俺は息を呑むことしか出来なかった──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──その、本当によろしいんですか?」

 

「事情が事情ですし、本局は上手いこと言い包めますんで」

 

翌日、パラディオンブリッジにて、申し訳無さげに佇むアミタにはやては笑って返した。

話していたのはアミタ達エルトリア人の今後の事だ。

マクスウェルが斃れ、赫海──聖遺物の汚染は消えたが、それが齎した環境破壊の爪痕が星の各地に残ってしまった。

結果としてアミタ達が再生した惑星の八割以上が荒れ果てた荒野へと変わり、本来の緑豊かな大地が残っているのはラボの周辺のみとなってしまった。

アミタ達の掲げる惑星再生をするにも、物資のやり取りをしていたコロニーも先の被害により既に無く。

エルトリアは人類が住むには以前にも増して厳しい状況へと追いやられていた。

 

この状況を受け、アミタ達はこの一週間協議を重ねた結果、本事件の重要参考人として管理局に保護を申し入れた。

アミタ、キリエとしては父母の眠る地を離れるのは苦渋の決断だろう事は、はやてもロディックも分かっていた。

二人はこれを本局──主にクロノ──と相談の上に認め、今に至る。

 

「何れにせよ皆さんには参考人として来ていただく事にはなっていましたし。クロノく──提督も丁重にもてなすと言ってくれましたから、安心して任せてください」

 

「私からも本局には言っておこう。何、言って聞かなければ実力で聞かせるだけのこと」

 

「それ、査問官が聞いたら大変なことになりますよ?」

 

ロディックの冗句に苦笑する。

元海賊の彼ならば本当にやりかねないからだ。

 

「艦長、準備整いました」

 

「む、そうか」

 

副艦長の言葉にロディックは談笑を切り上げると、艦長席のスイッチを押し、艦内放送のチャンネルを開いた。

 

「全乗組員に告げる。先ずは皆、ご苦労だった。そしてよく生き残った。誰一人欠けず戦い抜き、こうして共に帰れることを心から嬉しく思う!」

 

「これより本艦は管理局本局への帰路に着く!諸君、家に帰るまでが作戦だ!気を抜くなよ!!」

 

そう言い切って笑い、艦内放送を切るとブリッジの全員がロディックの合図を待っていた。

 

「パラディオン、発進!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、エルトリアを巡る戦いは幕を降ろし、クレン達は自らの巣へと帰る。

 

彼方へ飛び去る艦の背を、ただ一つの星だけが見送っていた……。

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