魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe-   作:フォールティア

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/04 Ruhige Tage

 

「────む」

 

朝霧の漂う湖の畔で、男は目を覚ます。

傍らには男と同じ様に草を敷いただけの簡素な寝床に眠る少女と融合騎の姿があった。

 

「…………」

 

少女の顔に掛かった若紫の髪を指でどかし、融合騎が蹴り飛ばした小さな毛布を掛け直すと、男は静かに立ち上がり、湖へと歩き出す。

水面に映る男の顔は正に巌の様で、眉間の皺といい、固く結んだ口といい、人相としては酷いものだと自嘲したくなる。

冷水で顔を洗い、まだ少しぼやけた思考を覚醒させると、男は目深に被っていたフードを外した。

 

男の名はゼスト・グランガイツ。

 

ルーテシア、アギトと行動を共にする、一人の『騎士』である。

 

【やあ、ゼスト。気持ちの良い朝だね】

 

「──スカリエッティ」

 

朝の爽やかな空気を澱の底に沈めるような声に、ゼストは顔を顰めた。

通信越しでも、コイツの声は不快に過ぎる。

 

「何の用だ」

 

努めて感情を抑えてスカリエッティに問う。

ルーテシアでは無く自分に直接連絡をしてくる場合、大抵碌でもない事態を引き起こす時だ。

そしてその予感は何時も的中する。それも、ゼスト自身が望まない形で。

 

【そろそろ、計画を進めようと思ってね──協力して貰うよ。ゼスト・グランガイツ】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なあ、これ絶対朝練でやるメニューじゃないよな」

 

「アンタが、ゼェ、それを……ハァ、言うんじゃ……無いわよ……!!」

 

口をついて出た俺の言葉に、息も絶え絶えなランスターが吐き捨てた。

以前より負荷の上がった訓練だが、今日は高町に頼まれてランスター達対俺の、4対1の模擬戦が組まれた。

しかも双方直撃判定一回で脱落のサドンデス形式。

二十分にも及ぶランスター達の奮戦の結果、俺の勝ちで幕を閉じた。

 

「しかし俺も抑えてたとは言え、二十分も耐えるとか。お前らも大概バケモンじみて来たな」

 

聖遺物こそ発動してないが、肉体のスペックは言いたか無いが天地の差だ。

それをランスターは策で埋めてきた。

 

「まさかビルの倒壊に巻き込んで直撃判定出そうだなんて、普通考えねぇだろ」

 

ナカジマとエリオが撹乱陽動、フリードとキャロが援護しつつランスターと弾幕を張りながらビルの基礎を破壊。

これを俺の攻撃を掻い潜り、勘付かせないようにやるのだから、流石に焦ったぞ……。

シミュレーションとはいえ、四方(・・)からビルが倒れてくる圧迫感にはゾッとした。

 

「あれでなんで直撃判定じゃないのぉ……」

 

「倒壊まで時間があるだろ?だからビルをぶった斬って当たらないようにした」

 

「「「「…………」」」」

 

ナカジマの疑問に答えると、四人が信じられない物を見たような顔をした。何故。

 

「バッッッッッッッッッカじゃないの!?」

 

「めっちゃ溜めたなぁ」

 

「普通ビルは斬れないのよ!!あんな大質量スパスパ斬れてたまるかぁ!!」

 

「無法……無法だぁ!」

 

「僕も斬れるようにならないと……!」

 

「エリオ君、それは流石に無理じゃないかな……」

 

「キュ〜……」

 

ランスターはキレ、ナカジマは嘆き、エリオはなんかあらぬ方向性に覚悟を決め、キャロとフリードがそれを窘める。

うーん、カオス。

 

「はーい、皆お疲れ様〜」

 

そんな様子を離れてモニタリングしていた高町が、労いの言葉を掛けつつやってきた。

 

「「「「ハイ!!」」」」

 

さっきまで四人ともぶっ倒れてたのに何時の間にか整列してやがる……。

 

「クレン君もお疲れ様。どうだった?」

 

「ディバイダー仕様も馴染んでるみてぇだし、戦術も良好。模擬戦なら文句なしだな」

 

「実戦だと?」

 

「……連中相手だとまだ少し厳しいかもな」

 

連中……スカリエッティ一派の聖遺物使い、戦闘機人とかいう奴らを相手取るならもっと力が欲しい。

逆に言えば出力さえどうにかなれば負ける事は無いだろう。むしろ辛勝すら有り得ない。

それくらいにコイツらの実力は上がっている。

 

「エルトリアでの経験か?」

 

「かもね……さて、今朝の朝練は終わり!みんな身体を休めるように!!」

 

「「「「お疲れ様でした!!」」」」

 

四人の大きな挨拶が朝空に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝練が終わり、朝食を済ませた俺は書類仕事を早々に終わらせて、シャーリーの居るデバイス整備室に来ている。

 

「よお」

 

「あぁ、クレン君。早かったですね」

 

「ヴィーザルの調子はどうだ?」

 

所狭しと様々な機器が並ぶ中を進みながらヴィーザルのメンテナンスを頼んでいたシャーリーに訊ねると、シャーリーは肩を竦めた。

 

「相変わらず、ですね。現状では聖遺物でもあり、デバイスでもある……というのが結論です」

 

「そうか」

 

「カートリッジシステムと複合武装が消失した代わりに出力が以前より数百倍上昇。外殻装甲の追加も拒絶され聖遺物の『檻』としての機能も消失してるけど、どういう訳かデバイスコアは現存。機能不全もなく良好な稼働をしている」

 

「つまり?」

 

「ほぼほぼ聖遺物と化してる」

 

「管理局的に大丈夫なのか?」

 

「ぶっちゃけ限りなく黒に近いグレーですね」

 

「だよなぁ……」

 

それはつまる所俺を嘱託魔導士たらしめている『枷』が無いにも等しい状況と言うことだ。

先日あった地上本部の臨時査察では偽のスペックデータを提出するという、バレたら一発アウトの荒業で回避したそうだが、このまま隠し通すというのも難しいだろう。

 

「この事、八神は?」

 

「もう伝えてあります。多分後で言われるでしょうけど、暫くは通常戦闘でもかなり抑えた戦い方をして貰うと思います」

 

「だな……」

 

軽い素振り程度でガジェットを両断するのをさらに抑えて戦わないと行けないか……以前のヴィーザルのような物理的なリミッターが無い分、より気を回さないといけなくなるな。

 

「とはいえ、私達の相手は聖遺物使い……抑えると言ってもそう簡単ではないでしょう」

 

「聖遺物で思い出したんだが、エルトリアで回収したヤツは今どうなってるんだ?」

 

「ああ、アレなら今は本局で保管、調査されてますよ。ただ──」

 

「ただ?」

 

「時折ひとりでに動くみたいです。知り合いが言ってました」

 

「なにそれ怖い」

 

聞けばどういう訳か保管ケースからすり抜けて出ている事があるらしい。しかも全部。

その知り合い曰く、何処かに向かいたがっているようにも見えるとか。

 

「ホラーじゃねぇか」

 

「まあ人の魂入ってるんですから、半ば呪いの人形と似たようなモンでしょう」

 

「お前って、存外ドライだな……」

 

「散々とんでもない光景見せられたんですから、慣れもしますよ」

 

ニヒルに笑って見せたシャーリーに肝っ玉の強さを感じていると、昼休憩を知らせるチャイムがなった。

 

「お、もう昼か」

 

「メンテナンスも終わりですし、食べに行きますか」

 

「だな」

 

待機形態になったヴィーザルを受け取って、昼食を摂るべく整備室を出ると、高町とナカジマにかち合った。

 

「あれ?クレン君にシャーリー?」

 

「よお、今から昼飯か」

 

「うん。そっちも?」

 

「ああ」

 

「私達ヴィヴィオと一緒に食べようと思ってるんだけど、クレン君も来る?」

 

そのまま廊下を歩いていると、高町からそんな提案が飛んでくる。

 

「俺は構わないが……」

 

「うーん、私は食べたら直ぐに戻っちゃうし、遠慮しときます。クレン君は行ってください。『おじいちゃん』、何ですから♪」

 

「テッメ、シャーリー!!」

 

「ひゃあ怖い、それじゃまた!!」

 

駆け出したシャーリーの背が瞬く間に廊下の角に消えた。

アイツ脚速ぇな……。

 

「ったく……はぁ」

 

「…………クレンおじいちゃん」

 

「聞こえてんぞナカジマ」

 

「ギクッ」

 

「あはは……それじゃ行こっか?」

 

高町に促され、ヴィヴィオの居る部屋に俺達は歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方。ミッドチルダ地上、108部隊隊舎。隊長室。

照明を落とされた部屋には、投影モニターの光だけがあった。

そのモニターを三人の男女が見つめている。

 

「現場検証と合わせて、六課からデータを頂きました」

 

スバルと似た顔立ちの女性──ギンガ・ナカジマが口を開いた。

それを継ぐ形で緑髪の女性、マリエル・アテンザ技士官が続ける。

 

「この魔法陣状のテンプレート、使っている動力反応、これまでの物より桁違いに高水準かつ高性能です。それに加えて聖遺物まで持っています」

 

「間違いなさそうだな」

 

壮年の男、ゲンヤ・ナカジマの問いに、マリエルははっきりと頷いた。

 

「はい。この子達全員、最新技術で作られた『戦闘機人』です」

 

戦闘機人──人体に機械部品を埋め込んだ、文字通りのサイボーグ。

才能や努力に左右されず、安定した戦力を生み出す。と言えば聞こえは良いが、倫理的にも技術的にも生産は安定せず、その発展は表立っては閉ざされていた。

だが、スカリエッティは如何なる手を使ったのか完成に漕ぎ着け、しかも安定した生産すら可能にしていた。

さらには聖遺物すら行使するという、現状の管理局にとって悪夢のような存在になっている。

 

「……マリーさんのデータを、六課とすり合わせないといけないのですが」

 

「通信で済ます話じゃねぇな……俺が直接出向くか」

 

「八神部隊長のお戻りは、20時過ぎになるそうです」

 

「マリエル技士官はお暇かい?」

 

「ええ、私もそろそろスバルの顔も見たいですから、ご一緒します」

 

「ああ、こっちからも頼む……19時頃出るとするか。それまでは休憩室で適当に時間を潰しといてくれ。ギンガ」

 

「わかりました。ではマリーさん、こちらに」

 

ギンガに促され、マリエルが部屋を出た後、照明の戻った天井をゲンヤは見上げた。

 

「やっぱりと言えば、やっぱりか」

 

視線を降ろすと、机に置かれた写真立てに映る、今は亡き妻の笑顔が見える。

 

「まだ何も。何も終わっちゃいねえか──なぁ、クイント」

 

問いかけても、妻の笑顔は変わらず、答えが返ってくる事は無い。

 

戦闘機人、レリック、聖遺物。これまで数多の犠牲を出しながら、なおもスカリエッティは止まらない。

無限の欲望。その名の証左かのように。

だが、ここ最近は動きがあまり無い。静かに過ぎる程。

それでもゲンヤには確証めいた勘がある。

確実に、近く管理局を揺るがす致命的な何かが起こると。

 

「──スカリエッティ、何を考えてやがる」

 

 

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