魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe- 作:フォールティア
模擬戦後、高町による総評が終わり朝練は終了。
皆思い思いにストレッチをして身体を解していた。
模擬戦の結果?……まあ、惜しいとこまではいったんじゃないか。
「おい、ギンガ大丈夫か?」
「こ、これが毎日?毎朝?地上の精鋭部隊でもここまでキツイのは中々ないわよ……」
ナカジマに身体を伸ばして貰いながらギンガの口から息が漏れる。
まあ、普段ならここまでする必要は無いんだが……今回はギンガが来た事で高町達もテンションが上がっちまったんだろう。
当社比10%増、という感じで攻撃に力が入っていた。
何時もの四対一で俺がやってもかなりキツイレベルの模擬戦だった。
「流石に毎朝は無いよギン姉」
「けど、似たような密度ですね」
「どうしてあなた達がそんなに強いのか、理由が良く分かったわ……」
ナカジマとエリオの答えに、ギンガの肩から力が抜ける。
まあ、ギンガの言う通り、この密度の訓練を毎日やってればそりゃ誰だって強くなる。
「多分、四日くらいやれば隔離街の全戦力吹っ飛ばせるじゃないか、今のこいつら四人なら」
「え?じゃあ隊長達入れたらどのくらい?」
「一日要らねえな。リミッター解除なら一時間かかんねぇで終わる」
「うわぁ」
「聞いといてドン引きすんなよナカジマ……」
そんな感じで雑談していると、不意にこちらに向かって走ってくる音が聞こえた。
この感じ、ヴィヴィオk──
「おじいちゃん!!」
突撃。衝撃。
股。音。激痛。
「────────」
抱き止めようと、振り返ったのが完全に仇となった。
そう、ヴィヴィオの頭突きが俺の愚息に直撃したのである。
斜め下から突き抜けた衝撃は極限の激痛を齎し、俺の脳神経を燃やし尽くさんとする勢いで脳天を突き抜けた。
視界は白く焼け付き、聴覚さえも一時的な麻痺を起こす。
身体から力が抜け落ちてしまいそうになる、だが。
「──フンッ」
ヴィヴィオを即座に受け止める。
俺は聖遺物をその身に宿す男、この程度で倒れる訳にはいかない。
いかな、い……のだ。
「ヴィ、ヴィオ……高町なら、向こうだぞ……?」
「おぉ、気合いで耐えた」
「エリオ君大丈夫?」
「うぅ、見ただけで痛い……」
ナカジマは何故か関心し、エリオは同じ苦しみが分かるのか顔を青くして、キャロに心配されていた。
ランスターとギンガは顔を反らしていた。正直助かる。
俺が指差したほうに高町を見たヴィヴィオはぱっと顔を明るくすると元気に駆け出した。
「ママ!」
離れて行くヴィヴィオを見送って、俺は膝から崩れ落ちた。
「──ぐぉぉぁぁぁぁぁ…………」
いくら次元違いの頑強さを誇る聖遺物遣いだろうと、生理的苦痛はあると思い知らされる。
「だ、大丈夫?っておじいちゃんとかママって何!?」
流石に見かねたのか、駆け寄って背中を擦ってくれているギンガが困惑した声を上げる。
ああ、そう言えばギンガとアテンザは知らないのか。
「ら、ランスター。説明頼ぉぉぉぉ……」
「ああもうわかったから、アンタは黙ってなさい!」
ランスター説明中……。
「──と言うわけで、なのはさんとフェイト隊長がヴィヴィオの保護者……つまりママになったわけです」
「なるほど……」
ランスターの非常に分かり易い説明を受けて、ギンガも納得してくれたようだ。そして俺も回復できた。
簡単に言えば、身寄りのないヴィヴィオを二人が引き取り、それをヴィヴィオに説明するときに自身をママと呼称、それが定着した。という話だ。
「ヴィヴィオちゃんについては解ったけど……おじいちゃんって結局何なの?」
「全く解らん」
ギンガの最もな質問には悪いが俺も答えられない。
当のヴィヴィオに聞いても、
「おじいちゃんはおじいちゃん!」
である。
なので理由は全く解らないが、ヴィヴィオの中で俺はおじいちゃんという事になっている。
俺も俺でもう慣れたから良いが。
「みんな〜、そろそろ戻るよ〜」
そのまま雑談をしていたら高町から声が掛かる。
各々返事をして立ち上ると、ヴィヴィオと手を繋いだ高町とハラオウンのあとに続いてシミュレーターの外へと歩き出す。
こうして、少しだけ何時もと違う朝は終わりを迎えた。
昼。クラナガン 時空管理局地上本部 執務室。
秋の穏やかな陽射しが差し込む中、革張りの椅子に腰掛けた男が重く息を吐き出した。
「不審な点は無し、か」
男の名はレジアス・ゲイズ。
ここ地上本部のトップであり、首都防衛隊の代表を務める者である。
贅の付いた身体のようにも見える軍服の内は、見るものが見れば鍛え抜かれた肉体があると一瞥で理解出来る程の巨躯であり、岩を削り出したような顔には今は少しばかりの落胆が見えた。
「はい。エルトリア出向時に行った査察と同じ結果でした」
「ふん、小賢しい狸娘が」
執務机を挟んで立つ、娘であり秘書でもあるオーリス・ゲイズの報告に、レジアスは眉根を寄せた。
「公開陳述会まで間もない。交渉材料を抑えておかねば……」
「引き続き、こちらの査察部を動かします。しかし……本局査察部や一部の部隊がこちらを調べて回っているようです」
オーリスの言に、レジアスの眉根は皺をさらに深くした。
「いつも通り……とは行かんか。少しばかり動きは抑えておけ。最高評議会からの支援は、私から問い合わせておく」
そう言ってレジアスはオーリスから話は終りだと言うように視線をずらす。
意を汲み取ったオーリスは一礼をすると執務室から出ていった。
ドアが締まり、気配が遠ざかっていくのを確かめて、レジアスは椅子に寄りかかるともう一度深く息を吐き出した。
「隔離街出身の聖遺物遣い……そのような危険因子まで取り込んで、咎めもなければ、問題にすらならない……最高評議会といい、三提督といい、一体何を考えている」
レジアスは機動六課を疎ましく思っている。
それは単純にその目覚ましい成果に対してでは無く、突出した能力を持つ魔導士を半ば独占し、総隊長であるはやて含め過去に大規模な犯罪に加担、関与した者まで部隊に組み込んでいる実態……そして何よりそれを良しとする本局に対しての思いもある。
ただでさえ地上と本局との人材分布の差は歴然だ。
だというのに地上部隊の強化をするならいざ知らず、本局の部隊を新設されれば反感を覚えて当然だろう。
故にこそ、機動六課へ揺さぶりをかけ、あわよくば地上部隊の予算拡充、地位の向上。
そして、魔導資質を問わない兵器の製造を狙っていたのだが……。
「カレトブルッフと手を組んでいたのは想定外だったな」
これもまた先を越されてしまった。
ただでさえ此方は手札が少ないというのに、あちらは三提督らの舌先三寸で幾らでも役を揃えられる。
反則にも程があると、愚痴の一つも言いたくなる。
だが、まだ手札はある。
あまりにも危険な鬼札が。
「スカリエッティ、一体何を企んでいる…………?」
「さて、今日わざわざ皆に集まって貰ったのは他でもない。スカリエッティの戦闘機人たちについて、話そう思ってな?」
夕方、機動六課のブリーフィングルームでは、臨時のブリーフィングが始まろうとしていた。
正面に設置されたモニターには、数ヶ月前に俺やナカジマ達が戦った戦闘機人達の画像が出されていた。
「と言っても、戦闘機人の基本情報はもう皆に共有してある。今日は先日の調査によって追加された情報の説明や。マリエル技士、よろしくお願いします」
「はい」
八神に促され、モニターの下にアテンザが現れる。
「改めて、本件の調査に加わりましたマリエル・アテンザ技士官です。よろしくお願いします。さっそくですが追加情報についてお話します」
モニターの画像が切り替わり、俺が戦ったメガネコートの女が映る。
その姿は足元から消えかかっている奇妙なモノで、俺から逃げる為に聖遺物らしき何かを起動した時の物だろう。
「フォールティア嘱託魔導士が接敵したこの戦闘機人が発動した魔法らしき術式ですが、解析の結果、既存の魔法式の何れにも該当しないものでした」
部屋の中がざわめく。
どの魔法式にも属さない魔法のような何か。
それに該当するものを俺達は知っている。
「特筆すべきはその能力。デバイスの戦闘記録から推測するに、彼女の発動したこの力は『存在の希釈』。人間の五感、デバイスなどの記録媒体、魔力感知など、あらゆる物から一切の観測が不可能となり、こちらからの攻撃を摺り抜ける能力です」
「おいおい、なんだそりゃあ……」
隣に座るヴァイスが呆れたような声を出す。
言ってしまえばただ透明になる能力。しかし、実際には厄介に過ぎる力だ。
直線的な魔法では照準が効かず、近距離戦ではそもそも物理的接触が不可能だ。
いわば濃霧を相手取るようなもの。
普通の魔導士からすれば無法だろう。
「さらに言えば、この能力下に術者が触れた者すら入れます」
そう、一番の厄介はこれだ。
もう一度切り替わった画像にはメガネコートがバカデカい『砲』を持った女を抱えて消えかかっている姿があった。
「ヘリを撃ったのは、抱えられてるヤツか?」
ヴィータの問いにアテンザが首肯すると、シグナムは目線を鋭くした。
「如何なるものにも観測されずに、大火力を叩き込める者を絶好の位置に配置出来る、か……厄介だな」
シグナムの言には俺も同意する。
実際に現場に居て、発射される直前まであの大規模な魔力反応に気付けなかった。
それだけの隠蔽力がこの能力にはある。
「仮にこの砲を持った戦闘機人のようなタイプが複数存在し、この能力で何にも感知されないまま同時多発的に砲撃された場合……クラナガンは地図から消えます」
全員の血の気がさっと引く。
廃都市を一撃で壊滅させた砲撃が完全な不意打ちで複数同時。
当然、防衛もクソもない。
何も出来ないまま焼き払われておしまいだ。
「対応策はフォールティア嘱託魔導士が行なったように範囲殲滅魔法による炙り出しでしょうが……正直、現実的ではありません」
あれはあの廃都市だったから出来た手法だ。
クラナガンでやったら確実に相当以上の犠牲が出る。
管理局としては当然却下だろう。
と、話が脱線しかけたことに気付いたアテンザが咳払いをして、俺達に問いかけた。
「……これだけの力を発揮するもの。皆さんはもうご存知でしょう」
「聖遺物、ですか」
ギンガの発言にアテンザは頷いた。
「そう、聖遺物です。そして現在確認出来た戦闘機人
は四名。この四名全員が聖遺物保有者と仮定できます」
それは、ここに居る全員にとって最悪の仮定だった。
そんな空気を感じ取りながらも、アテンザは話を進める。
「ですが、おかしな点が二つあります」
「……それは?」
「一つは特定の形が無い事。もう一つはフォールティア嘱託魔導士の聖遺物に比べ、圧倒的に力が劣っている。という事です」
これだけ法外な力でありながら力が弱い?
どういうことか問い掛ける視線に応えるように画像が変わる。
今度は、複数の線が引かれたグラフが現れた。
「シャリオ技士官が開発した聖遺物使用者の魂の出力を測定する術式で測定した所、ヘリを撃った砲撃も、存在の希釈も、フォールティア嘱託魔導士の聖遺物発動時の出力に遠く及ばないのです」
グラフに引かれた四本の曲線をよく見ると、一番高い位置に有るのが俺、逆に一番下が一般的な魔導士。
中間より少し下に戦闘機人と表示されていた。
「この出力であれば、倒せはせずともディバイダー、フォートレスを用いての対抗は可能です」
グラフに一本、線が追加される。
それは戦闘機人とほぼ同じ曲線を描いていた。
その画像の下、アテンザが語る。
それは正に、敵はここだと宣言するように。
「聖遺物のような気質でありながら、本物の聖遺物に及ばない形の無い概念的存在。私とシャリオ技士官はこれをこう呼称しました」
「──偽典聖遺物」