魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe- 作:フォールティア
座標不明地点
光の無い暗闇の中、一人の男が歩いている。
「クアットロ、そちらの調子はどうかな?」
男の名はジェイル・スカリエッティ。
次元犯罪者にして、1代で禁忌の技術を作り上げた『天才』。
数多の世界で被害を出してなお捕まらず、止まらない。
結果、ついた忌み名は『無限の欲望』。
「セッテ、オットー、ディードが起きたか……ノーヴェとウェンディの装備は?完了している?いい子だ、仕事が早いね」
そんな彼は果てが見えない暗闇を、まるで散歩でもするように歩きながら『娘たち』の一人、クアットロと通信していた。
「ドゥーエとチンクは……ああ、任務中だったね。終わり次第、家に帰ってくるよう伝えておいておくれ。それと、ルーテシアには彼女の欲しがっていたモノを」
その声音には、まるで本当の娘に語りかけるような慈愛が籠もっていた。
暗闇の果てを感じ、スカリエッティは二言三言交わすと通信を切った。
そして一歩踏み出す。
「やぁ、ご機嫌は如何かな。終わり齎す竜よ」
「……スカリエッティか。相変わらず、お前の挨拶は大仰に過ぎる」
今までの暗闇が嘘だったかの様に、眼の前には淡い光で満たされた書斎が待っていた。
小さな壁掛けランプの中で揺らぐ、蝋燭の火に照らされた夥しい数の本はさながら城壁の様にも見える。
そんな異様な部屋の奥。アンティーク調の書斎机に男が一人、座していた。
紺髪蒼眼。彫刻と見紛う顔には言葉と裏腹に表情は無く、ただ伽藍洞の視線をスカリエッティに向けていた。
「『
視線を意に介すこと無く、書斎机の前にあるソファに腰を降ろし、スカリエッティは戯けたように言ってみせた。
男は呆れたように小さく息を吐くと、手に持っていた本を閉じた。
「──出来たのか」
「ああ、後は鍵を取りに行くだけさ」
短い問いかけに、スカリエッティは笑みと共に答えた。
「私の
「ここまで来れたのは初めてさ。
男がそう言って本を宙へ投げると、その本は一人でに棚へと収まった。
暫くの沈黙の後、男は瞑目して語る。
「……『第六』の事もある。幕を開けば時間は無いぞ」
「君の言う、『水銀』に捕捉されるかい?」
「ここが平行宇宙の最外部だとしても、奴は見つけるだろうよ。漠然としている今でさえ、こうしてカウンターを用意しているのだからな。だがおかげで目処が立つというのも……皮肉なものだ」
男は思い浮かべる。
未だ邂逅に至らぬ、同胞たるマクスウェルを降した赤髪の『恩讐』を。
「今回の回帰が、恐らく最後の機会だ。これを逃せば、私もお前も、『黄昏』に呑まれるだろう」
「最後の機会。良いじゃないか、実に良い。やりがいがあると言うものだよ」
男の忠告を聴いてなおスカリエッティは笑う。
神の摂理に唾を吐く、正に冒涜と呼べる行いを、魂が消え失せると知っても嬉々として彼は実行するだろう。
何故ならば。それこそが彼の本願なのだから。
スカリエッティの解を聞いて、男は立ち上がる。
「──では、往くか。スカリエッティ」
男の言葉にスカリエッティは恭しく一礼することで応えた。
「何処までも。──我が友、リヴィアス」
夕方
機動六課 総隊長執務室
「教会から最新の予言解釈が届いたんやけど……やっぱり、公開陳述会が狙われる可能性が一番高いみたいや」
茜に染まった執務室では、はやて、なのは、フェイトが集まり話し合っていた。
「当然、警備はいつも以上に厳重になる。機動六課もそれぞれ分担して持ち場に付くことになってる……本当は前線メンバー全員で行きたいとこやけど、建物に入れるのは隊長である私ら三人だけ」
「まあ、三人揃ってれば大抵のことならなんとかなるよ」
「隊員たちも、もう実力は十分身についてる。偽典聖遺物相手でも大丈夫だよ」
不安気に語るはやてを慰めようと、フェイトとなのはは自信気に応える。
ディバイダー、フォートレスの習熟、聖遺物遣いであるクレンとの模擬戦を含めた苛烈なまでの訓練を熟しているのを、二人は間近で見てきたのだ。
今の彼女たちなら安心して任せられる。二人はそう確信している。
「うん……そう、そうやな。ごめんな、二人とも。ちょっと気弱になっとったみたいや」
「ううん、気にしないではやてちゃん」
「友達なんだから、ね?」
両サイドから二人に挟まれ、はやては抱きしめられた。
久々に感じる親友たちの温かさに涙が溢れそうになる。
「──所で、はやて」
「うん?」
「前よりクレンと仲良くなってない?」
「──────」
涙が引っ込んだ。
「くぁwせdrftgyふじこlp」
奇っ怪な声を上げたはやてだが、両サイドを固められて逃げることは叶わなかった。
「……仲良くとか別になっとらんけどぉ?」
二人の策に嵌められたと気付きながら、はやては言い返すが、その目は泳ぎに泳いでいた。
自分でもなんでそんな反応をしているのか分からないが、はやてとしては以前とそう変わりない関係だと思っていたのだが、二人には違って見えたのだろうか。
「最近、二人でいる時とか距離近くなかった?」
「えっ」
「あと声のトーンがちょっと高い」
「えっ」
「顔も少し赤かったり」
「よし、OK、待って、二人ともちょっと待って」
なんだか良からぬ方向にヒートアップしかけたので、一旦深呼吸を挟んで落ち着く。
恋バナだ。もしかしなくても恋バナである。
機動六課は女所帯、それに年齢も近いのが大半で、年頃の女性だ。
そういう話題に目敏いのは全世界共通なのは分かる。
しかしまさか自分が標的にされるとは、はやては思ってもみなかった。
「えーと、なんやけど……私そんなんやった?」
「「うん」」
「即答……」
全く身に覚えのないことだが、二人を見る限りそうらしい。
「でも私としては普段通りなんやけど。クレンも別に今までと変わらんし」
そんなはやての答えにフェイトは「あ〜……」と曖昧な声を出した。
フェイトから見て、エルトリアから帰還したあとの二人の距離感はツーカー、或いは阿吽の呼吸とも称するようなモノだった。
ある時、フェイトが書類を届けた時の事だ。
執務室のドアを開けたフェイトが見たのは、「ん」というだけでお互いにペンを貸したり、コーヒーを淹れたり……挙げ句ソファに並んで座りながらデスクワークと読書をする二人の姿だった。
「あれが……普段通り……?」
フェイトは頭を抱えたくなった。目のあったなのはも同じ心情なのか、苦笑いを浮かべていた。
なのはが見たのは、ある訓練終わりの時の事。
たまたまその日は雨が降っており、びしょ濡れになりながら訓練を終えて屋内に戻った所、はやてが人数分のタオルを抱えて待っていた。
そして全員に配り終えると、クレンの頭を手ずから拭きだしたのだ。
クレンもクレンで特に抵抗せず受け入れ、はやてはいたずらっ子のように笑っていたのを覚えている。
「今までと変わってない……?」
もしそれが本当だったとして、エルトリア前からあんなのだったとしたら……。
「「お互いに無自覚かぁ〜……」」
「え、ちょ、何?何二人で納得しとるん?ちょっと、なのはちゃん?フェイトちゃーん?」
二人の溜息と一人の困惑が、夕闇の空に木霊した。
夜
機動六課 野外シミュレーター
「ふぅ……」
シミュレーターの縁に座り、煙草を吹かす。
安物らしい雑な風味が吐き出した煙と共に空に消える。
夕方、一通のメールが俺の携帯端末に届いていた。
以前カリムに訊いた……シスター、クラウディア・イェルザレムについての事だった。
端末を開いてメールを呼び出すと、カリムからの几帳面な挨拶と、添付されたファイルがあった。
「…………」
煙草を携帯灰皿に押し込んで、ファイルを開く。
そこには、シスターの経歴がずらりと並んでいた。
「二十年前に聖王教会に入信、当時十歳。三年でシスターになり、地方の教会支部を転々とする……」
要点を呟きながら情報を整理しつつ、読み進めていく。
「六年前、当時担当だった教会からD4地区に新設の教会支部へ異動を志願……隔離街に自分の意志で行ったのか」
六年前と言えば、その年に俺はシスターと出会った。
しかし、それにしては……偶然にしては出来すぎていると感じてしまうのは、俺が疑り深いだけなのだろうか。
この文を境に、数年分記録が抜けている。
恐らく隔離街の情報封鎖に拠るものだろう。彼処は徹底して外部へ情報を出したがらないからな。
まあそこに関しては俺自身記憶しているから問題ない。
問題はその後だ。
「……二年前。本部招集により隔離街から帰還。前任の教区長より隔離街の教会封鎖を告げられると出奔。隔離街に向かったと思われるが、隔離街側もこれを否定。以降消息及び生死不明……」
息が漏れる。
隔離街に向かった?なんの後ろ盾も、武器もなく、
「…………」
そんなのは蛮行だ。自殺行為だ。
あんなロクデナシの巣窟に居たってのに、なんだってそんな事……。
「ん?」
ふと、報告書をスクロールすると下にカリムの短い言葉と共に、画像が貼り付けられていた。
『こんな報告になってしまってごめんなさい。
下の画像は隔離街近くの森に落ちていた彼女の手紙です。
筆跡から彼女のものと証明された、唯一の物。
どうか読んであげてください。』
画像ファイルを開くと、そこには確かに見覚えのある筆跡が書かれた、所々文字が擦れ、朽ちて破れた手紙があった。
『教会のみ なへ。
いきなり居なくなって ってごめんなさい。
必ず戻るから、どうか待っ いて。
困ったことがあったら、 レンを頼りなさい。
みんなのお兄ち だから、きっとあなた達を守 くれるから。
クレン、どうか子供たちをお願い。
もし困っ 、門番さんに言って。子供 ちを教会に保護して貰 ようお話してあるから。
どうか、ど か健やかに。』
「……………………………あぁ」
悪態の一つも吐いてやりたいのに声が出ない。
書かれた言葉はどこまでも俺達を思っていて。俺の知るシスターの声が、文章を通して聞こえるような気さえする。
自分がどうなるかなんて解っていたろうに、それでも俺達の無事だけを祈っていた。
「アンタの望み通り、みんな健やかにやってるよ。シスター」
教会に預けたガキ達は元気にしていると、以前カリムが態々知らせてくれた。
そして俺も、こうして何とか上手くやってる。
隔離街の教会はもう無いけれど、これなら文句ないだろ?
「クレン?」
不意に、声が掛かる。
「……八神、か」
振り返ると、八神が首を傾げていた。
「どうしたん?」
「シスターについて、カリムが調べてくれてな」
横に腰掛けた八神に端末を見せる。
時間を掛けて文書を読んだ八神は少しの間瞼を閉じた。
「……立派な方やね」
「あぁ、本当にな」
「……あれ?」
不意に、端末を見ていた八神が声を上げた。
「どうした?」
「手紙の裏側が添付されとる」
「裏側?白紙じゃないのか?」
疑問に思いつつ、二人で端末を覗き込む。
画面には確かに、手紙の表ともう一枚、画像が有った。
二つに折られ、本来何も書かれていないはずのそこには、短い文章が書かれていた。
「「月に気を付けて……?」」
思わず、二人揃って空を見上げる。
宵の空には、ただ二つの月が黄色く輝いていた。