魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe-   作:フォールティア

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/08 Maschinenmensch

 

翌日。朝練が終わり、書類仕事も済ませた俺は早々に暇していた。

今日は珍しくシャーリーが本局に行って居ない(カレトブルフの連中と一緒だったからまた何かやらかしたんだろう)ので、アテンザ技士官にさえ気を付ければ厄介な事にはならないだろう。

 

……手紙の件についてはあれから八神と話し合った結果、一度無限書庫で調べてもらう事で落ち着いた。

 

そんなこんなで廊下を歩いていると、トレーニングルームの明かりが点いているのが見えた。

こんな時間に誰かが使っているとは珍しい。

気になって中を覗くと、ナカジマ姉妹が二人してバーベル上げをしていた。

何か常識外れた数の重りが見えた気がしたが、気のせいだろう。

 

「朝練終わったばっかだってのに、元気だなお前ら」

 

「クレン君?」

 

俺の声で漸く気付いたのか、バーベルを戻したギンガが意外そうな目で俺を見た。

ナカジマも遅れて上体を起こし、同じような顔で俺を見上げた。

双子なだけあって動作までそっくりだな。

近くにあったタオルを投げ渡して、訊ねる。

 

「んで、こんな時間にどうしたんだ?」

 

「スバルが珍しく書類仕事を早く終わらせてね。私も同じくで暇してたの」

 

なるほど、俺と似たようなモンか。

それで二人揃って追加トレーニング、と。

 

「あ、なのはさんにはちゃんと許可貰ってるよ?」

 

「だろうな」

 

じゃなかったら高町の所に連行してお説教タイムだ。

以前のオーバーワークの一件から、トレーニングルームは隊長の許可を得てから使用することになっている。

破れば当然、高町による地獄のシゴキが待っている。

なぜ知っているかって?

……誰にでもルールを忘れることくらい、ある。

 

「シミュレーターの使用許可も貰ったの。軽い運動くらいなら問題ないって」

 

「軽い、運動……」

 

見たことのないデカさの重りが付いたバーベルをチラと見る。

あれで軽い運動……?

 

「ティアにも息抜きしてこいって言われたから、これからシミュレーターに行こうかなって」

 

「良ければクレン君も一緒にどう?」

 

「俺も?」

 

確かに暇してはいるが、邪魔じゃないだろうか。

そう思っていると、

 

「ちょっと聞きたいこともあるから」

 

と、ギンガに言われてしまい、ナカジマもそれを首肯した。

こうも言われては無碍には出来ない。

 

「OK、わかった」

 

そう答えた俺は、二人に連れられトレーニングルームを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、ここのシミュレーターは他とは違うわね〜」

 

「そんなに違うの?ギン姉」

 

シミュレーター上に出来た森の中を歩きながら雑談する。

妹の前だからなのか、ギンガも少しリラックスした話し方になっていた。

 

「最新のこことは違うから、ちょっとハリボテ感があるの。まあ却ってそれが想像力を刺激して、良い訓練にもなるんだけど」

 

「へぇ、余所は余所で結構違いがあるんだな」

 

そんな風に話しながらしばらく歩いていると、少し逡巡するような沈黙の後、ギンガが意を決したように俺を見た。

 

「ねえクレン君、君は戦闘機人についてどう思う?」

 

「…………」

 

これはまた、難度の高い問いが来たな。

 

「私達が戦闘機人なのは」

 

「ああ、知ってる。たしかスカリエッティのとは違うんだよな」

 

「そう、製造者が違う」

 

二人が戦闘機人──所謂、サイボーグのようなものだっと知ったのは、ヴィヴィオを保護したあの戦闘の直後だった。

 

「気になることでもあるのか?」

 

「そうね……うまく言葉に出来ないんだけれど」

 

「どうしてあの人達はあんなことしてるんだろう、って。私とギン姉、あの人達は」

 

「同じ戦闘機人なのに、ってか?」

 

こくり、とナカジマが頷いた。

それは、初めて見た同族に対する疑念だった。

自分達と彼女達との違い、人と戦闘機人との違い。

そういった複数の『違い』に言いようのない不安を抱えているようだった。

さて、どう答えたものか。

 

「まず戦闘機人をどう思うかだが……正直、アホの考えた兵器だな」

 

「あ、アホ?」

 

「だってそうだろ?タダでさえコストが掛かりまくる人造魔導士を土台にして更に改造するんだぞ?時間は掛かるし、見合った成果を出すにはそれこそスカリエッティの戦闘機人連中レベルじゃねえと見合わねぇ。どう考えてもリスクもコストも割に合わねぇだろ」

 

マクスウェルのラーム・ラハムのようにホイホイ作り出せるのならいざ知らず、だ。

隔離街でも戦闘機人を造ろうとした奴が何人か居たが、そのどれもが金や設備の問題で頓挫していた。

 

「ボロボロに言うわね……」

 

「事実だからな。で、ナカジマの疑問についてだが」

 

これについては既に答えがある。

いや、答えてもらっている、が正しいか。

 

「ナカジマ、高町の言う才能の話、覚えてるか?」

 

「覚えてるよ!忘れるはずない」

 

そう言って俺の言葉の意図に気付いたのか、「あ」と小さく息を漏らした。

 

「待って、才能の話?」

 

「ああ、ギンガは知らないんだったか」

 

首を傾げたギンガに、高町にとっての才能とは何か?について話した。

あの話は俺も少し感じた所があったからか、舌が回ってしまった。

 

「才能とは環境……ね」

 

「スカリエッティの戦闘機人達と、私達の違い」

 

「違って当たり前なんだよ、ナカジマ。あいつ等とお前で、進んできた世界がまるで違うんだから」

 

そう、戦闘機人であることに違いは無い。

あるとするならば、それは此処に至るまでに歩んできた環境に他ならない。

 

「気にするな、とは言わねぇ。だが胸は張っとけよナカジマ」

 

「……うん!」

 

さっきとは打って変わって、スッキリした顔になったな。

 

「そうね……深く考えすぎてたのかも知れないわ。ありがとう、クレン君」

 

「礼なら高町に言ってくれ。俺は言葉を借りただけだ」

 

ギンガに言われて少し気不味くなって視線を逸らし、ぶっきらぼうに返すと。

 

「わかった、なのはさんにお礼言ってくる!」

 

素直に受け取ったナカジマが全速力で駆けていった……。いや速っ。

 

「今のは物の例え…………聞こえてねぇな」

 

もうシミュレーターから抜け掛けてるし。

 

「ふふ、ごめんね?モヤモヤしてたのが晴れて、はしゃいじゃったみたい」

 

「まるでワンコだな」

 

「言い得て妙ね……チワワかな」

 

「うっそだろお前、どう見ても大型犬だろうが」

 

「えぇ、そうかな?」

 

そんな事をギンガと言い合いながら、ナカジマの背を追うように歩き出す。

 

午後の日差しが、穏やかに俺達を照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、機動六課 デバイス整備室

 

「んー、んんんンんん」

 

整理されながらも物に溢れたデバイス整理室に、唸り声が上がる。

声の主たるシャーリー、シャリオ・フィニーノはキーボードを叩きながらモニターのデータを睨んでいた。

 

「どうしたんです?フィニーノ技士官は」

 

「またなんかヤバイの見つけたんだろ。いつもの事だから気にしないでいいよ」

 

「えぇ……?」

 

と、周りの同僚達がそんな話をしていてもシャリオは変わらずキーボードを打ち続ける。

彼女が見ているのは、先日行なったナカジマ姉妹の定期メンテナンスの結果だ。

 

(至って健康体、機械パーツの異常もない。けど、身体能力が上がってる……いや、上がりすぎている)

 

スバルに関してはまだ理解が出来る。

エルトリアでの戦闘経験、その後のアップグレードされた訓練が関係しているだろうからだ。

しかし、ギンガは違う。

ヴィヴィオ保護の戦い以降は殆ど普段と変わっていない。

にも関わらずスバルと同等の身体能力に成長している。

 

(一体何が……?)

 

流石にこれは異常だ。

二人の検査履歴を片っ端から洗いながらシャリオは他の様々なデータを参照、統合しながら考えを巡らせていく。

 

(訓練?違う、そんなレベルの上がり方じゃない……それにこの成長曲線、まるでなにかに呼応するような)

 

そこまで考えて、キーボードを叩く指が止まる。

呼応。そのワードが浮かんだ瞬間、シャリオの脳裏にある結論が浮かぶ。

 

「いや、まさかねぇ……?」

 

画面が切り替わり、映し出されたのはナカジマ姉妹のレントゲン写真。

そこには彼女達を戦闘機人足らしめる、機械の骨格があった。

そして、もう一枚の写真を展開する。

 

二対の折れた剣。

 

エルトリアで回収された聖遺物の内の一つであり、ナカジマ姉妹……とりわけスバルに反応を示したモノだ。

 

「…………これは、マリエルさんにも相談しないと」

 

これは一人で確証が得られるものでは無い。

シャリオはそう判断して、報告書のテンプレートを呼び出すと文章を打ち込み始めた。

 

(確証が得られる?違う、そんなんじゃない……信じたくないだけかも知れない)

 

仮に、自分の考えが正しかったとしても、シャリオは信じたくないと思うだろう。

少なくともこの考えに至った時点で、

設計者と同じ事を考えた(・・・・・・・・・・・)事実に嫌悪感を抱いたのだから。

 

「正気の沙汰じゃない」

 

 

聖遺物を、骨格に鋳溶かすなんて。

 

 

シャリオの打鍵音は、夜中まで消えることは無かった。

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