魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe- 作:フォールティア
早朝 機動六課 射撃訓練室
タンタンタン、と小気味よい射撃音が部屋に響く。
それなりの時間撃っていたのだろう。
デバイスの銃口が微かに赤熱し、か細い煙を上げていた。
「うーん……やっぱりおかしい」
構えていた
「どう思う?」
「……
「……よね」
クロスミラージュの返答に頷く。
射撃の精度が上がる。それ自体は嬉しい事だ。だが、ティアナ自身がその成長速度に納得出来ていなかった。
エルトリアでの戦い。
あの修羅場での経験がそうさせた、とシグナム副隊長は言っていたが、それにしたっておかしい。
エルトリア以前とは別人に置き換わったんじゃないかと、ティアナ自身が思うくらいには何もかもが変わっていた。
まず標的を視認した瞬間に照準が終わっている。何なら視野外でも感覚で捉えてしまえる。
試し撃ちに付き合ったスバル曰く、「後ろどころか360度全部に目が付いてるの?」と疑問を呈するほどだ。
次に、これは感覚的なものだが、相手の弱点を即座に捉える事が出来るようになっていた。
動作的、構造的な『ここを撃たれると瓦解する』ような箇所が点のように見えるのだ。
シミュレーションのビルで試したが、土台でも何でもない箇所を軽く撃っただけで、ビルが倒壊した。
……より正確に言えば、ビルのデータが消滅した。
これだけでも十分だと言うのに、最近になって自覚したことだが、魔法……とりわけ魔力弾の貫通力が異常に上がっている。
模擬戦でヴィータの防御魔法を一撃で抜いた時は流石に驚いた。
以上の三つが、ティアナが最近になって感じた自身の異常だ。
特に二点目がおかし過ぎる。
「成長……と片付けるには流石に変よね」
シャリオ、シャマルにも既に相談はしたが、やはりエルトリアからの成長ではないかという結論だった。
なのはにも相談、といきたかったが訓練以外の時間はヴィヴィオの世話がある。流石に邪魔するのは忍びない。
とはいえ、相談とまでは言わずとも、このモヤモヤとした感覚を誰かに聞いて欲しい。
さてどうしたものかと考えて、一人心当たりが浮かんだ。
「アイツ、今日暇だったかしら?」
口調こそ疑問符が入っているが、ティアナの中では最早聞いてもらう以外の選択肢は無かった。
そうと決まれば話は早いと、ティアナはクロスミラージュを待機形態に戻し、撃ち抜かれた紙の標的を集めて片付けると、足早に訓練室を後にした。
扉が閉まる。
訓練室の天井にぶら下がったモニターには、スコアが表示されていた。
ティアナ・ランスター
所要時間 1時間13分
撃破数 676体
命中精度 100%
「あ、やっぱりここに居た」
「ん?……ってランスターか」
ナカジマ姉妹の件の翌日、午後の訓練までの時間つぶしに駐機場で輸送機のメンテナンスをするヴァイスを駄弁りながら手伝っていると、ランスターがやってきた。
「こっちに来るなんて珍しいな。午後練はまだ先だろ?」
そう聞くと、ランスターは少し悩むような素振りを見せてから口を開いた。
「ちょっと時間ある?」
「まあ、あるにはあるが……」
言いながら後ろを見ると、車体の下に滑り込んだヴァイスが手を振っていた。
行って来い、と言う意味だろう。
俺は持っていたスパナを工具箱へ戻して、ランスターに訊ねる。
「で、なんの話だ?」
「うーん……言うよりは見せた方が早いかも」
「?」
いつもハッキリと言うランスターらしくない、何とも歯切れの悪い感じに首を傾げていると、これまたらしくない、突拍子もない事を言い出した。
「クレン、私と一対一の模擬戦をして」
「………………は?」
そうして突如として組まれた俺とランスターとの一騎打ち(模擬戦)だが、流石に無許可でやるわけには行かず、高町に許可を貰いに行った結果、あれよあれよと話が広まり……。
「なんでこうなるのよ……」
「いや予想ついたろ」
シミュレーターには隊長陣、ギンガ含めた戦闘メンバーが野次馬に来ていた。
それもその筈、ランスターは基本的にチームを指揮する司令塔としての役目があり、キャロと同じく積極的に前に出て戦う事が少ない。
言ってしまえば前線の援護が主な戦いだ。
個人での戦いを想定した訓練をしていない訳ではないが、当然そちらを主眼に置いている。
そんなランスターが俺と一騎打ちと来たら、全員気になるわけで。
因みに、俺は今までランスター、ナカジマ、エリオとキャロの四人と一対一で戦った事が無い。
それもこれだけ人が集まった理由の一つだろう。
……ランスター的にはあまり嬉しく無いようだがな。
「そりゃまあ、前に無茶したから監視したいってのもあるんだろうけど」
「まあ良いじゃねえか、好きに見しとけ」
「アンタは……はぁ、もう諦めたわ」
言い合いながら、何時もの廃ビル群の中に立つ。
空戦が出来ないランスターに合わせ、今回は地上戦のみの仕様だ。
ルールは単純明快。バリアジャケットに設定されたシールド量を先にゼロにした方が勝ち。
当然、俺は聖遺物を使えないので剣型のストレージデバイスを使用する。
それ以外は一切制限無しの何でもあり。
【二人とも、準備はいい?】
手元の銀鎖を確認していると、オープンチャンネルの通信で高町の声が聞こえた。
「何時でも」
「私も大丈夫です」
弛緩していた空気が即座に鋭く研ぎ澄まされる。
ランスターが
俺も合わせて、剣を逆手に握り直しながらランスターの目を見て、違和感を感じた。
(なんだ……?)
一瞬、目の色が変わったような……。
そんな事を考えて居ると、
【────はじめっ!!】
模擬戦の幕が上がった。
同時に放たれるのはランスターの魔力弾。
橙の閃光に対し、俺は剣で切り払う選択を──ッ!?
「チィッ」
無理矢理上体を捻って弾を躱して、ランスターを睨む。
「テメェ、何時からそんな芸当出来るようになりやがった」
「やっぱり、アンタなら気付くと思った」
そうして当然と言わんばかりに息を吐いて、ランスターはこちらを見た。
理屈は解らない。理由も皆目見当もつかないが、これだけは確かだ。
今の一撃を受けていたら、
弾の威力は問題じゃない。それよりも重要なのはランスターが狙った場所だ。
左膝側面。
なんてことは無い、当たったとしても少しダメージを受けるだけの筈の箇所。
だというのに俺は本能的に『ここに中ったらバリアジャケットが瓦解する』と悟った。否、理解させられた。
何よりも恐ろしいのはランスターの狙い方だ。
俺が弾を切り払うと読んだ弾の軌道をしていた。
剣の動線を迂回するようなそれは、回避しなければ確実に被弾していただろう。
あの一瞬でアイツはそれだけの魔力弾の精密操作をやってのけていた。
高町が純粋な火力だとするならば、ランスターのこれはさしずめ『針』だ。
「相談したいのはこれの事なんだけど……アンタわかる?」
その当人はあっけらかんと、そんな事を言いやがる。
俺は冷や汗を拭って答えてやった。
「フ────解るか馬鹿野郎!!」
そんな変態技術知っててたまるか!!
「……なあ、今の見たか?」
「ああ」
戦闘範囲外のビルの屋上から投影モニターで模擬戦を観戦していたシグナムとヴィータは、賑わう他の面々を余所に静かにその様子を観ていた。
「ランスターの放った最初の一撃。あれはあの剣型デバイスのバリアジャケットの構造的弱点だ」
「確かクレンの着てるやつって型落ち品だったよな」
「ああ、倉庫で眠っていた物だ。しかしその事をランスターは知らない筈だ」
「なのに一瞬で見抜いた上、あの小さな箇所を狙ったと」
「そう考える以外ないだろうな」
モニターの向こうでは異様な光景が広がっていた。
これまで隊長陣総掛かりでなんとか模擬戦で降してきたクレンが、条件付きとはいえティアナの攻撃に苦戦しているのだから。
「クレンの攻撃はティアナにとっちゃ一撃必殺だが……」
「ランスターの攻撃も、フォールティアにとって一撃必殺に今はなってしまっているな」
片やクレンは圧倒的手数から繰り出される針の一撃を警戒せねばならず。
片やティアナはそれらを維持しながらクレンの突撃を防がねばならず。
どちらの顔にも余裕なんてものは無かった。
二人が廃ビルの中へと飛び込むと中継映像もまたビルへと入っていった。
「うわ、ティアナのヤツ、あんなの出来るようになってたのかよ」
「ワイヤーガンを使った簡易魔法陣……まさかあんな技法を使うとは」
近代魔法の基本はデバイスを用いたテンプレートを展開する魔法陣構築が一般的だが。
当然、それ以前の年代では物理的な、人力での書き込みによるものが存在する。
現代では殆ど廃れたような技法だが、ティアナはクレンから逃げながらそれをワイヤーで円陣を描き、その内に呪文を書き込むことで疑似再現した。
その発動と同時、ビルの四方八方から魔力で編まれた鎖が伸び、クレンを拘束する。
「そうか、ビルの自重そのものを重しにしたのか」
「つってもクレンならそれくらい直ぐ解けるだろ?」
「ああ、普段のアイツならな。だが『今』のクレンには少々厳しいだろうな」
シグナムの指さした先、クレンの左膝には鎖が巻き付いていた。
「左膝!じゃあ今無理に鎖を千切ろうとすっと……」
「構造的弱点にダメージが入るだろうな。それに、千切る暇を与える程、ランスターも甘くはないだろう」
言いながら、シグナムは先日ティアナに相談された事を思い出していた。
その時は経験による成長だと思っていたが、今は違う。
本人の言う通り、今のティアナ・ランスターは……何かが可怪しい。
実際、シグナムの言う通りティアナは追撃の一手を打っていた。
逃げ場のない閉所、ビル全体を使った大規模拘束で弱点を抑えた今、クレンに回避する手立ては無い!
「だから──!」
吹き抜けの最下にクレンを見下ろして、ティアナは魔法陣を展開する。
一つ、また一つと魔力球が現れ、やがてそれはビルの中を埋める程の密度となる。
エルトリアでの経験から編み出されたそれは、自身の魔法であるヴァリアブルシュート、クロスファイアシュートを合わせた新たな魔法。
即ち、
「
防御魔法すら撃ち貫く百数十発の魔弾がクレンへと降り注ぐ。
その様はさながら驟雨の如く。
着弾による爆風が吹き上がる中、ティアナは油断なく次の一手の為に手を動かす。
確信めいた直感が告げているのだ。
(まだクレンは動ける)
と。
圧倒的な弾幕を押し付けながら、初手で見抜いた弱点を狙う弾を仕込ませた。
普通ならここで終わりだろう。
だが、この程度で終わるならクレンは聖遺物遣いなどと言う『化け物』と呼ばれてはいない──!
「今のはちっとばかりヤバかったぜ、ランスター」
「でしょうね……っ!!」
立ち込める噴煙の中、声が聞こえたと同時ティアナは真横へと跳んだ。
直後、銀鎖の蛇頭がフロアを噛み砕きながらそこへ突撃した。
それを見ることすらせず、ティアナは階下の煙へと銃爪を引く。
一見すると無駄弾とすら見えるが、しかしそれは確実にクレンを捉えていた。
「こんな中でも見えんのかよ、テメェの眼」
「何でか視えるのよね、アンタの姿!」
そう、ティアナの眼にはしっかりとクレンが視えていた。
煙が存在していないように思える程、その動きが手に取るように解る。撃ち込んだ弾が切り払われたのも。
「……オーケー、クソッタレだなその眼。弱点視えて、煙も壁も抜いて視えるとかセコいにも程があんだろ。普通じゃねぇよ」
煙の向こうでクレンが肩を竦め、悪態を吐く。
「普通じゃない」。その言葉にティアナは何故か安堵した。
経験や努力とは違う、異能。
ティアナが知る中で最もその権化と思えるクレンにそう言われた事で、ようやくティアナはこの『力』を認めることが出来たように感じた。
それはそれとして、クソッタレと言われるのは心外だが。
「……ケリ、つけましょうか」
「ああ、良いぜ」
短いやり取りが終わると同時に二人が動く。
ティアナはクロスミラージュから魔力弾を乱射し、更に魔力球を生成、発射することで弾幕を張る。
お互いのバリアジャケットのダメージはほぼ限界。
ならばこの弾幕で削り切る──!
「ランスター、こいつは忠告なんだが」
しかし、その中でクレンは笑って。
「一対一こそ、周りをよく見とけよ?」
一瞬で、ティアナへと肉薄していた。
即座に視野外、背後から迫る敵意を察知してクレンの意図を解明する。
(銀鎖との挟み打ち、それくらい読んで──)
そこでふと気付く。
クレンの手に本来有るべきものが無い。
そう、剣型デバイスが。
ストン。
全くの意識外、力無く放り投げられ、煙の中を自由落下していた剣型デバイスが、ティアナのバリアジャケットを切り裂いた。
「……納得いかない」
夜。一日の業務が終わりスバルとの相部屋へと戻ってきたティアナは、枕を抱えて不貞腐れていた。
「ま、まあまあ……結果はともあれ、悩みはスッキリしたんだし、いいじゃない」
「そうだけど……ああもう、あんな負け方したら不完全燃焼よ!!」
ウガー!と火を吐く勢いで吠えてから、小さく溜息を漏らしてベッドへ倒れる。
模擬戦は惜敗。……結果はともあれ認めよう。
何よりスバルの言う通り、朝まであったモヤモヤした感覚が軽くなったのが今日の収穫だ。
そういった意味で、今日の模擬戦には大いに意義があったと言えるだろう。
相変わらず、この力がどうして発現したのかは解らないが。
「……スバル、なんでこっちに来るのよ」
「えぇ〜いいじゃん」
そんな事を考えていると、スバルがニヤケ面でベッドに潜り込んできた。
こういう時は大抵、スキンシップと称したセクハラが始まる。
…………のだが、何故かスバルがティアナの顔を見たまま固まってしまった。
「スバル?どうしたのよ」
「ねぇティア。エルトリアから帰ってきてからずっと気になってたんだけど」
「?」
「眼の色、なんかたまに変わってない?」
「はい?」
いきなり何を言い出すのだろうか、この同僚は。
カラーコンタクト等生まれてこの方やったことは無いし、瞳の色が変わるような病も無い。
「気の所為じゃ無い?」
「いや、今も変わってるんだけど」
「え、なにそれ怖いんだけど」
真顔で言うスバルに気圧されて、ティアナは立ち上がってデスクの引き出しから手鏡を取り出して……呆然となった。
「…………………………マジね」
そう呟いたティアナの眼は何時もの青では無く……銀色だった。
「あれ?ティア、こんなの持ってたっけ」
唐突な現実に呆然自失していると、横からスバルが引き出しを指差した。
つられてそちらを見ると、引き出しの中に覚えのないものが転がっていた。
「これって……」
先端が丸い円柱型の銀色の何か。
サイズは小さく、親指と人差し指で摘める程度の大きさだ。
円柱には何やら小さな文字と装飾が施されており、アンティークアクセサリーのようにも見えた。
「うーん、どこかで見たような」
「奇遇ね、私もよ」
とはいえ果たしてどこで見たものか。
二人して頭を悩ませていると、何やら廊下から慌ただしく走る音が聞こえて来た。
そして、その音の主はこの部屋まで来ると、バン!!と勢い良く扉(自動開閉式)を手で開いた。
「二人とも!今ここから聖遺物の反応が急に出たんだけど何か有っ───────」
扉をこじ開けた張本人、シャーリーが慌てた様子で捲し立てて……固まった。
その視線の先に有るのは……ティアナの指に摘まれた小さな銀の円柱。
「「……へ?」」
「それだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!??」
「「えぇぇぇえぇぇぇぇぇ!?!?!?」」
素っ頓狂な絶叫が、夜の六課に木霊した。