魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe-   作:フォールティア

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公開陳述会 当日

 

AM 06:00 機動六課

 

早朝の風は冷たく、海辺にある六課は薄い朝霧に包まれていた。

 

「出戻りご苦労さん、だな」

 

「全く、総隊長殿も人使いが荒いぜ」

 

駐機場の壁に寄り掛かりながら、俺とヴァイスは明るくなっていく朝日を眺めていた。

俺は煙草を、ヴァイスは缶コーヒーを片手に。

ヴァイスは真夜中に高町たちを地上本部に送り届けて、仮眠の後、先程戻ってきたばかりだ。

 

「しっかし、今日が次元世界最後の日とはねぇ。そうは思えないくらい清々しい朝じゃねぇか」

 

「何だよ、ヴァイス。お前予言とか信じるクチか?」

 

「総隊長や提督に教会の騎士、それにお前がヤバそうだって言ってる時点で信じるしかないだろうが」

 

言って、ヴァイスは缶コーヒーを煽る。

既に六課設立の理由は課全体に共有してある。

ここまで来たら隠す理由も無いし、目的を共有しておいた方が色々トクだから、とは八神の談だ。

 

「んで、今日はボディーガードだっけか?」

 

「だな。それと、上の連中に俺の『安全性』をアピールしときたいって話だ」

 

「うっわ見世物かよ」

 

「八神もギリギリまで渋ってたけど、流石に拒否して痛くもない腹を探られるのは更に面倒だからな。俺が承諾した」

 

それでも八神は俺を会場に連れ出したくは無さそうだった。

今日はスターズ、ライトニングも会場警護に当たる。そうなると必然的に六課が手薄になってしまうからだ。

ザフィーラとシャマルが残るとは言え、二人は防衛型。

普通の魔導師ならいざ知らず、相手は偽典聖遺物を保有した戦闘機人。

幾らディバイダーとフォートレスがあっても、流石に戦力差があり過ぎる。

 

「おいおい、俺は戦力外かよ。いざとなったら」

 

「お前、まだ銃爪引け無いだろ」

 

「…………」

 

エルトリアから帰ってきてすぐ、俺はヴァイスから過去の話を聞いた。

六課に来る以前、犯罪者から人質を引き剥がすべく撃った弾が、その人質である少女の眼に偶然にも当たってしまった事。

以来、ヴァイスは自身のデバイス……ストームブリンガーの銃爪に指を掛けられないでいる。

 

「……っと、情けねぇよなぁ。向こうはとっくに赦してくれてるってのに、俺はまだ自分が赦せねぇ」

 

そう言ってズルズルと壁に背を擦りながらしゃがんでしまったヴァイスが、大きな溜息を吐き出した。

 

「まあ、だからこそ出来る事があるだろ」

 

「あぁ?」

 

「いざとなったら、ヴィヴィオを連れて逃げろ」

 

「クレン、そいつは──」

 

ヴァイスが何かを言い掛けて、止めた。

これは残酷な提案だ。トラウマを重ねろと言っているに等しい。

 

六課が危機的な状況に陥った場合、ザフィーラもシャマルも全員見捨てて脱出しろ。

 

そう言っているから。

だが必要な事だ。

八神から渡されたレポート……俺の夢の正体。あれが事実だとすればヴィヴィオも今日狙われる可能性が高い。

ヴィヴィオを使って何をするのかまでは分からないが、厄介な事になるのは確かだろう。

 

幸い、ここには散々ヴァイスが改造した(シャーリーも何故か改造に参加していた)私用車がある。

スピードについては折り紙付きだ。クラナガンの市街地に入れば連中とて下手な攻撃はしないだろう。

 

「何となく、そうかもとは思っちゃいたが……ヴィヴィオちゃんは狙われる程か」

 

「連中の狙いが俺以外だとしたらな」

 

「そんで、そんなトラウマ必至級の脱出劇を俺にやれと?」

 

「ああ。アレを運転出来るのはお前しか居ねえ」

 

「……はぁ〜〜〜〜〜〜〜」

 

バカでかい溜息を吐いて、ヴァイスは俺に手を出してきた。

 

「?」

 

「タ・バ・コ、一本くれ」

 

「……吸わないんじゃなかったのか」

 

仕方なく、言われた通り煙草を一本渡す。

 

「吸いでもしねぇとやってらんねぇって思ったんだよ」

 

咥えたのを見てライターで火を付けてやると、ヴァイスは思い切り吸って────噎せた。

 

「ゲッホ、ヴフォッ、ォェッ…………マッズ!?不味過ぎんだろコレ!ヴェッ」

 

「そらまあ、安モンだしな」

 

「安モンにしても味の限度があんだろうが!?」

 

「貰っといてそこまで言う?」

 

酷い言われ様である。寄越せつったのそっちだろ。

そうやって暫く噎せながら、時間を掛けてヴァイスは煙草を一本吸い切った。

 

「──やってやんよ」

 

そしてただ一言、そう言った。

 

「……頼む」

 

俺もまた、短く返す。

遠くから、朝を告げるチャイムが鳴る。

空を見れば朝霧はとうに晴れ、朝日が空を染めていく。

どちらからともなく、壁から背を離す。

 

「なあ、クレン」

 

そのまま歩き出そうとした背に、声が掛かる。

 

「どうした?」

 

振り返ると、ヴァイスが手を挙げて笑っていた。

 

「帰ってきたら、また煙草くれよな」

 

「ハ、不味かったんじゃねえのか?」

 

「慣れりゃ案外悪くなかったんだよ」

 

「そうかよ……わかった、帰ってきたら煙草もくれてやるし、一杯奢ってやる」

 

「っし、言質ゲットォ!」

 

はしゃぐヴァイスを見て、俺も笑って手を挙げた。

 

「そんじゃ、また会おうな」

 

「おう、生きて帰ってこいよ」

 

そう言い合って、互いに背を向け歩き出す。

朝空は、もう白く染まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

AM 11:55 地上本部

 

「人だらけだな……」

 

見渡す限りの黒山の人集りに辟易する。

八神、シグナム、ハラオウンと共に地上本部に入った第一声がそれだった。

 

「何時もこんなに混んでるわけやないんやけどね」

 

「……コイツら全員要人か?」

 

「そうでも無いなぁ。大半の要人の方達は任務だったり、かなり遠い管理世界に赴任してたりで、来れない事の方が多いかな」

 

「成る程ね……」

 

「とは言え、お偉方が来てるのは事実や。粗相したらあかんよ?」

 

「なんで俺がやる前提なんだよ」

 

流石にそこんトコの分別はあるわ。

さっきから聴こえる俺達──主に俺──への陰気な陰口をスルーしているのが証明だ。

俺はまだしも、八神を化け物呼ばわりたぁどういう了見だ。

 

「クレン、大丈夫やから」

 

「……チッ、分かってる」

 

声のする方を睨もうとして八神に窘められる。

隔離街とはまた違う悪意のあり方に、俺も少しばかり苛立っているらしい。

過敏だな、どうにも。

 

「……陳述会ではお前も壇上に上がるんだ。立っているだけとは言え、奇特の目で見られるのは確かだろう。周りは精々出来のいいサンドバッグだと思え」

 

努めて無感情そうにシグナムが言う。

コイツもコイツでこの場の雰囲気に不愉快さを感じているようだ。

 

「私達、というかはやてとクレンの出番自体は陳述会の後半だから、それまではちょっと我慢してもらえるかな?」

 

「するのは良いが、お前も額に青筋浮かんでるから落ち着けハラオウン」

 

笑顔にもちょっと無理あるぞ、怒気を隠せ。

 

そんな調子で俺達は陳述会の会場である大会議室へと脚を進める。

頼むから、何事もなく終わってくれよ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PM 16:18 ミッドチルダ上空

 

「茶番だな」

 

夕暮れの茜に染まる空の中、古びた外套を風に遊ばせながらゼストは一言そう言った。

 

「茶番?何がだよ」

 

ゼストの言葉の意味がわからなかったのか、傍らに浮かぶ赤髪の融合騎──アギトが首を傾げた。

 

「今回の事、全てだ。ヤツは……スカリエッティはもうこんな事をせずとも管理局を落とせる筈だ」

 

「言われてみれば確かに……偽典聖遺物を持ったナンバーズにルールーと旦那とアタシ。それにあんだけの数のガジェットドローンがあれば余裕だな」

 

「こちらとしては目的を達せられればそれで構わない、が……」

 

開かれた端末の画面に目を向ける。

画面にはレジアスの顔写真が映っていた。

 

「……」

 

ゼストの目的は一つ。

レジアスに会い、『過去』の清算をする。

ただそれだけだ。

だが、それだけの為に果たして幾つの命が失われるのか。

そうしてまで叶えるべき目的なのか?

 

「……ああ」

 

叶えるべきだ。

とうに堕ちたこの身。今更人道など語るべくもない。

散々奪って来ておいてやはり止めるなど言えるものか。

 

覚悟を決め、端末の画面を消す。

正面には地上本部がその偉容を晒していた。

 

「……茶番だな」

 

再び呟いた言葉には自嘲が含まれていた。

きっとこの覚悟も、想いも。

 

貴様の掌の上なのだろう?──ジェイル・スカリエッティ。

 

 

 

 

 

 

 

 

PM 16:28 ■■■■■■■

 

「ナンバーズ及びゼスト、ルーテシア、各所に配置完了」

 

【後は攻撃開始の合図を待つだけです♪】

 

仄暗い闇の中、ウーノと通信越しのクアットロからの報告を受けて、スカリエッティは静かに笑った。

 

「随分嬉しそうだな、スカリエッティ……いや、昔の名で呼ぶべきかな?」

 

「それは200年前に捨てたよ、我が友よ。……そうだね、嬉しいとも」

 

座していた椅子から立ち上がり、傍らに立つリヴィアスへと語りかける。

 

「君と出会い数百年。否、君の言う回帰を含めれば数千年かな?それだけ積み上げてきた努力がいよいよ結実するんだ。嬉しくない理由がないじゃないか!」

 

恍惚と歓喜に満ち溢れた言葉は止まらず、スカリエッティは舞台で踊る役者のように大袈裟に手を振るい、語る。

 

「神の座を奪い、世界を塗り替える!正に天に唾吐く大罪たる所業!!多くの兵器を創り上げ、多くの命を奪ってきた私でさえ遂ぞ一人では考え得ず、成し得なかった大業が、今日!この時を以てその一歩を進むのだから!!歓喜せずに、祝福せずに、寿がずにいられないさ!!」

 

両手を広げ、凶笑のままに喜びを語るスカリエッティの姿に、通信越しのナンバーズ達はぞわりとした寒気に襲われ、ゼストはただ黙し、ルーテシアは眉を顰め……リヴィアスは小さく笑った。

 

「漸く、漸くだ……私の夢、私の願い、私の想い、私の渇望が……『人が神を造る』時が、満願成就の時が来る!!」

 

狂気のままに謳い、狂嬉のままに騙り、狂鬼の如く嗤う者が其処にいた。

 

「さあ始めよう!!鐘を鳴らそう!!」

 

 

 

 

──大いなる茶番劇(farce)の始まりだ

 

 

 

 

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