魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe-   作:フォールティア

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/15 Tag des Herbstes-3-

 

PM 17:30 地上本部地下通路内 機材搬入路

 

「ッハア……ハァ」

 

吹き飛ばされ、床に伏したチンクから目を離さず、ギンガは肩で息をしていた。

レールアクション・ヘリッシュクレイドル。

ウイングロードをレールに見立て、自身の後方で魔力を爆発、それを用いた超加速による急接近と左手に臨界まで圧縮した魔力を対象に叩き込む、いわば人体レールガン。

戦闘機人、聖遺物を鋳込んだ肉体に物言わせた破壊戦術。

とはいえ、如何に頑強と言えど、まだ順応仕切っていないギンガの精神には想定以上の負荷が掛かっていた。

 

「……ふぅ、皆とはまだ連絡がつかないみたいね」

 

通信を起動しても返ってくるのは相変わらず砂音のようなノイズだけだ。

彼女達──戦闘機人を倒したは良いもののここからどう動くべきか。

 

「一度地上に向かうべきかしら」

 

そう思案を巡らせていると──

 

「おい」

 

「──やっぱりね」

 

振り返ると、ギンガの予想通りの光景があった。

 

「ノーヴェ、油断したッスねぇ」

 

「うるせえ、遊んでただけだ」

 

「私は遊んでいなかったんだがな」

 

ウェンディ、ノーヴェ、チンク。三人が先の戦いなど無かったかのように立ち上がっていた。

 

(予想してたとは言え、厄介ね……)

 

後退し、構えながら思案する。

先程の戦いは三人の無意識的な侮りがあったからこそ対応できた。

ここからはそれが無い。文字通り分の悪い状況だ。

 

「ギンガ・ナカジマ」

 

「……何かしら」

 

唐突に、チンクが声を掛けてくる。

 

「私達は、出来ればお前を連れてくるようドクターから頼まれている」

 

「おい、チンク姉」

 

ノーヴェの言を手で抑えながらチンクは続ける。

 

「そしてそれが不可能なら……殺害しろとも」

 

「…………」

 

「……お前のような戦士を殺してしまうのは惜しい事だ。私は、お前に投降して欲しい」

 

それは、脅しであり、懇願だった。

チンクの眼差しは真剣そのものであり、心からギンガを惜しく思っている事が否応にも理解できる。

同時に、これが最後通告だと言うことも、ギンガは理解していた。

張り詰めた空気、殺気の一歩手前まで上がった闘気、言いながら解かれない構え。

否と答えた瞬間、彼女達は自らの聖遺物を解放するだろう。

そうなれば結末は一つだけ。ギンガ・ナカジマの死が確定する。

 

「────」

 

思わず、口角が上がる。

『それがどうした』と、心が吠える。

今更な話だ。

死線ならば幾つも見た。死に目ならば幾つも見た。

魔導士として当たり前の光景を何度も見た、経験した。

今度は自分の番だと言うだけだ。

故に。

 

「答えは一つ──お断りするわ」

 

三人の殺気が膨れ上がる。

常人ならばそれだけで圧死しかねない殺意の濁流を前にして、ギンガは牙を剥いてみせた。

 

「ハ──」

 

勝ちの目は無い。ならばどうするか。

戦の常道、人の常道。決まっている。

 

「嫌がらせ、させてもらうわ──!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PM 17:42 機動六課 地下道路

 

【すいません、ヴァイス陸曹。嫌な役を押し付けて……】

 

「気にすんなよグリフィス、好きで請け負ってんだ謝んのは無しだぜ?」

 

スイッチを入れていく小気味よい音を車内に響かせながら、通信越しのグリフィスにヴァイスはおどけて見せた。

 

地上は最早陥落状態だ。

戦闘機人二名とガジェットドローン数十機の猛攻によりシャマル、ザフィーラが撃墜され、地上の建屋もほぼ全壊に等しい。

先に帰宅させていた為に一般職員に被害が出ていない事だけが幸いだろう。

残っていた職員はグリフィスを筆頭に各自シェルター前に陣取り、ドローンに対応しながら瀬戸際の防衛戦を繰り広げていた。

 

そんな中、ヴァイスはクレン、グリフィスに頼まれた仕事をするべく車と共に地下道路へとやって来ていた。

スポーツタイプらしい黒い合皮の助手席には、不安気にうさぎのぬいぐるみを抱き締めるヴィヴィオの姿があった。

『ヴィヴィオを連れての六課からの脱出』。

それがヴァイスが頼まれた仕事だ。

幼女を連れての防衛放棄、敵前逃亡──軍法会議待った無しの酷い仕事だ。

それでも、悪友二人に総隊長、更には親代わりの二隊長に頼まれてしまっては断れない。

 

「……そっちはどうだ、やれそうか?」

 

【時間稼ぎなら得意ですよ。必要なら幾らでもドローンをぶっ壊してやります】

 

「ハ、頼もしいねぇ、我が悪友は」

 

荒い息混じりでも嘯いて見せたグリフィスに、ヴァイスは笑った。

普段は冷静で、少し焦り気味だというのに、肚が決まったのかいつも以上に勇敢だ。

挿し込んだキーを回す。

小さく爆ぜるような音と共に、愛車の心臓(エンジン)が起きる。

 

「おじさん……何処に行くの?」

 

不安気な表情のまま、ヴィヴィオがおずおずと聞いてくる。

襲撃発生の時、彼女は眠っていたため上の惨状を知らない。

気付いたら車に乗せられていたのだから不安に思うのも無理は無いだろう。

 

「君のママの所さ。何、ちょっとしたドライブ──お出掛けだよ」

 

我ながら酷いセリフである。

どっからどう見ても誘拐犯のそれだ。

 

「なのはママ!フェイトママ!」

 

幼いヴィヴィオにはそんな怪しさはどうやら関係無かったらしい。

純粋に二人の母の所に行ける事を喜んでいた。

喜色満面の笑みを見て、ヴァイスは一瞬微笑むとすぐに意識を切り替えてハンドルとシフトレバーを握った。

 

ヴァイス(・・・・)

 

「ああ」

 

【……ご無事で】

 

「そっちもな──死ぬなよ」

 

【はい!】

 

闊達な返事を最後に通信が切れると同時、ヴァイスはアクセルを踏み付けた。

 

「さあ、ドライブと行こうかぁ!」

 

急加速した車が発進し、瞬く間にその姿が見えなくなる。

後に残ったのは、テールランプの残影と、くすんだ排気ガスの匂いだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

PM 17:50 地上本部地下通路

 

 

駆ける。駆ける。

 

「……ッ」

 

逸る気持ちをそのままに、スバルはマッハキャリバーを加速させる。

 

二人の戦闘機人を撒いた後、なのはとフェイトと合流したスバル達は二人にデバイスを渡し、ライトニング分隊は六課へ、スターズ分隊は未だ連絡のつかないギンガの捜索へと向かう事となった。

 

ティアナを抱えて飛ぶなのはさえ置き去りにして、スバルが先行する。

はたから見ても、その焦燥は明らかだった。

 

「ギン姉……!」

 

嫌な予感はずっとあった。

何かを無くしてしまうような、そんな予感が。

姉と連絡がつかないと分かった時にそれは更に強くなった。

 

駆ける。駆ける。

 

間に合ってくれ、何も無く無事で居てくれと願いながら疾駆する。

 

やがて通路の先に光が見えてくる。

躊躇う事無く飛び込むとそこには──

 

「────ぁ」

 

脇腹が大きく抉れ、血の海に沈んだ■■■の姿があった。

 

血腥い臭いが鼻腔を殴り付ける。

 

千々に拉げた手脚が

 

溢れた臓物が

 

赤く染まった菫の髪が

 

『それ』がダレなのか理解を拒む。

 

「ギン、ねぇ……」

 

だけれども、解る。解ってしまう。

己の半身とも言える最愛の家族なんて、見間違えたくても見間違えられない。

ぎこちない動きで倒れ臥す姉へと近付く。

ふらついた足が血溜まりに触れた瞬間──

 

「今度は逃さねぇ」

 

三人の戦闘機人が頭上から拳を、ナイフを、楯を振り下ろす──!!

 

「──────お前達か」

 

当たれば死ぬ、必殺の攻撃を前にして、スバルはただ一言呟いた。

 

 

 

 

 

聖遺物を解放した三人の攻撃。

これだけの一撃。

終わったと、ウェンディは確信していた。

 

自分の腕が無いことに気付くまでは。

 

「…………は?」

 

右肩から先にあるはずの物が無い。

自覚した途端に激痛が身体を駆け抜ける。

同時に疑念が湧き上がる。

何故、自分の腕が千切られた?

どうして青髪のタイプゼロが平然と立っている?

どうして、どうしてどうし──

 

混乱するウェンディの思考は、突如として途絶える事になる。

 

最後にウェンディが見たのは、反射で構えた楯を砕いて顔面に迫る鉄拳だった。

 

 

 

 

「な──ウェンディ!!」

 

地面にクレーターを作りながら叩きつけられたウェンディに、ノーヴェが叫ぶ。

吹き上がる土煙の中、ゆらりと影が立ち上がる。

誰も、反応出来なかった。

ウェンディが地に伏しその身体を弛緩して始めてノーヴェもチンクも状況を理解したのだ。

 

「ギン姉を、やったのは、お前達か」

 

土煙の影が静かに問う。

その瞳はこの土煙にあってなお、煌々と金色(・・)に耀いていた。

ゾワリと、全身が総毛立つ。

先程のギンガと同等、否、それ以上の圧力を二人は感じていた。

 

「だったらなんだよ、仇討ちでもスんのか?」

 

ノーヴェが挑発するように答えると、スバルは

 

 

 

「▇▇▇▇▆▆▆▅▂────!!」

 

 

 

絶叫、否……咆哮。

慙悔と憤怒が入り混じった咆哮が地下の空洞すべてを震わせる。

スバルから放たれ、膨れ上がる圧力は尚も増し大気を揺らがす程に増大した。

──土煙が晴れる。

現れたスバルは、溢れ出した魔力をそのままに、荒い呼吸を繰り返していた。

その手には折れた剣(・・・・)が握られていた。

 

「馬鹿な……聖遺物だと」

 

一目見ただけで解る。

アレは自分たちの裡に宿る物と同一……いや、寧ろそれ以上の代物だとチンクは断定した。

 

聖遺物──人の清い願いも醜い祈りもない混ぜに込められた遺物。

 

戦で怯むを知らぬ王が(Der König, der in der Schlacht nicht zurückschreckte, )誉れに思いをいたし(dachte an die Ehre,)渾身の力込めて(Besiege das Schwert, )戦火潜りし剣を(das durch das Feuer des Krieges gegangen)打ち下す(ist, mit all deiner Kraft!)!!」

 

怒りのままスバルは呪言の如く詠唱を謳い上げ、そして──

 

形成(Yetzirah)!!!!」

 

剣を、自らの右手に突き刺した。

 

 

 

 

────身体が軋む。

 

心音が煩い────。

 

痛くて痛くて堪らない。

 

けれど、そんなものはどうでもいい。

 

わたしから、大切な人を奪うヤツらを砕けるなら。

 

こんな苦痛、踏み潰してやる。

 

 

 

灰の爪剣(Grau Næġling)──!!」

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