魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe-   作:フォールティア

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あけましておめでとうございます


/16 Tag des Herbstes-4-

 

──力が有れば。

 

ずっとそう思っていた。

あの日、炎と瓦礫に囲まれて死を待っていた、その時から。

自分を守り、誰かを守る為に、邪魔となる一切を打ち砕く力が欲しかった。

 

──力が有れば。

 

私は────

 

 

 

 

 

PM 17:52 地上本部地下通路

 

 

「なによ、あれ……」

 

一足遅れでやってきたティアナとなのはが見たのは、床に臥すギンガと──

 

「▇▇▇▇▆▆▆▅▂────!!」

 

咆哮する(スバル)だった。

 

 

 

 

 

 

 

「チッ、まさか聖遺物使いに覚醒するとはな……」

 

油断無くスバルを睨みながらチンクは厄介げに眉を顰めた。

流石に想定外である。

タイプゼロ。ギンガと同じである以上、スバルの骨格にも聖遺物が鋳込まれている筈だ。

それに加えて聖遺物の形成位階への到達……もはや捕獲どうこうでは無くなった。

 

──殺すしかない。

 

火を灯せ(Zündet das Feuer an,)槌を振るい(einen Hammer schwingend,)鉄を打て(Schlagen Sie das Eisen an)

 

即断即決。

迷いなくチンクは聖遺物の起動を選択した。

連続しての使用はドクターからもあまり推奨されなかったが、仕方ないと割り切った。

 

叫ばず、罵らず、(Schrei nicht, fluche nicht,)静謐の内に礼賛せよ(Lobpreis in der Ruhe)

 

ひりつく様な感覚で解る。

今のスバル・ナカジマは間違いなく──化け物だ。

 

我は豊穣を齎すもの(Ich bin der Überbringer der Fülle,)我は境界を隔てしもの(Jenseits der Grenze)

 

故に殺す。殺さねばならない。

チンクにとって聖遺物使いとして目覚めてしまったスバルの危険度は、ギンガ以上のものとなった。

もはや無視して撤退できる状況ではない。

 

恐れなき者よ、忘れるな(Furchtlos, nicht vergessen)世を照らす灯火こそ(Es ist das Licht, das die Welt erleuchtet)汝を灼く炎である事を(Sei die Flamme, die dich versengt,)

 

 

創造(Mi Ha'ash)──」

 

 

火神の灼眼(Auge des Svarog)

 

右眼の眼帯を引き剥がし、瞼を開く。

瞬間。

 

「──ッ」

 

スバルの左肩に爆発が起きた。

爆発の瞬間、飛び退ったことでバリアジャケットが吹き飛び、肩に火傷を負う程度で済んだが、そうしなければ肩から先が無くなっていた事は爆心地のクレーターが如実に語っていた。

 

「ウェンディの礼だ、左腕を消し飛ばすつもりだったんだが……姉妹揃って勘が良い」

 

そう言って肩を竦めたチンクの右眼は……燃えていた。

赫々とした炎が眼窩の中で蠢いている。

だと言うのにチンクは痛みを感じないのか平然と立っていた。

 

【ノーヴェ】

 

【なんだよ、チンク姉】

 

【ウェンディを連れて撤退しろ】

 

【はぁ!?】

 

唐突に撤退しろと言われ、ノーヴェが念話越しに叫ぶ。

 

【あたしも聖遺物を起動すりゃコイツなんか簡単に──】

 

【先程のような加減が出来る相手じゃない。私にお前達ごと焼き払えと言うつもりか?】

 

【…………】

 

火神の灼眼……視認した空間を爆発させる業火の偽典聖遺物。

本物と偽物とは言え聖遺物同士のぶつかり合いだ、連携を意識した使い方など出来る状況ではないし、もとより連携に向いていない力だ。

存分にこの力を振るうには却ってノーヴェ達が足枷になる。

 

【……チッ、了解。死ぬんじゃねぇぞチンク姉】

 

「……ふっ」

 

こちらを気遣うノーヴェの声音に、チンクはただ一度笑う。

 

(死ぬな、か。さて、難しい問題だな……!)

 

ナイフを投げると同時、二人は動き出す。

片や姉妹のもとへ、片や目覚めた化け物のもとへ。

 

戦端が開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘開始から凡そ十分が経過した。

間近で見る聖遺物使い同士の戦いに、ティアナも……なのはさえも介入出来ないでいた。

スバルに集中しているチンクの目を掻い潜り、なんとかギンガを回収したものの、凄まじい戦闘の余波に足止めされノーヴェ達を見逃してしまった。

チンクもそれを狙っていたのだろう、わざと射線をずらした爆撃を何度か放っている。

だが、今のチンクにはそうする余裕すら無くなっていた。

 

轟──!!

 

「チィッ」

 

舌を打ちながらギリギリで拳を回避する。

強すぎる──。チンクはスバルに対して恐れにも似た感情を抱き始めていた。

聖遺物と同化した右腕のガントレットは鈍色の金属に覆われ、機械的な見た目からかけ離れた流線状の有機的な見た目へと変貌していた。

クレンの十字架がバランスの取れた融合だとするならば、スバルのこれは聖遺物による侵食のようにも見えるだろう。

そして、その力は──

 

「アァァァァァァ!!!!」

 

「これも砕くか、化け物が!!」

 

『破砕』。ただその一点に尽きる。

チンクの灼眼の力は視認した対象を生物無機物問わず爆発させる概念を押し付けるもの。

防御など意味は無く、回避しようとしたとて空間そのものを対象に取られれば回避の間もなく死に至る。

 

「殺させない、壊させない────お前達が砕けろ」

 

だが、スバルの右腕はその概念すら破砕する。

先程から何度もスバルの急所を狙った爆発を発動させているが、その悉くがスバルが右腕を振るっただけで不発に終わった。

ならばと間接的に狙った爆発は、右腕に殴られて噴き上がる爆炎ごと赤い火花となって散った。

 

繰り広げられる爆撃と拳の応酬が、地下通路を紅蓮に照らす。

 

(最悪の相性だな……偽典聖遺物とはいえ創造に形成でこうも拮抗されるとは。全く、一体何に喧嘩を売るつもりなんだ、ドクターは)

 

投げナイフを投げつけ、即座にスバルの足を狙って灼眼を発動する。

しかしスバルは右腕で灼眼の射線(・・)を破壊すると投げナイフを左手で握り潰した。

そして一瞬姿がブレた次の瞬間にはチンクの眼前で拳を振るっていた。

 

「どけ」

 

金に輝く瞳が、無感動に睥睨する。

 

「…………ッ!!」

 

寸前で反応出来たのは奇跡だろうか。

或いは、発狂しなかった事を。

投げナイフをありったけ投げ、灼眼を同時に発動しながら大きく飛び退るが、膝をついてしまう。

自爆まがいの攻撃によるものか、追撃は来ない。

どうにか、直撃は避けた。

 

「ッハア……っく」

 

──触れてしまった右腕を犠牲に。

 

「タイプゼロ……本物、伊達では無いか」

 

上腕から先が破砕機にでも掛けたように拉げ、人工筋繊維とフレームがズタズタのまま外気に晒されている。

余波によるものか、右脇腹のボディースーツも破れ、あらわになった皮膚は真っ黒に内出血を起こしていた。

一撃当たっただけでこれだ。

もし回避が間に合わず、顔面にでも入ろうものならなど考えたくもない。

たった十分の交戦でチンクの身体も、精神も悲鳴を上げていた。

フレームが歪み、神経伝達が途切れ途切れになり、視界が霞み、筋繊維が痙攣している。

何よりも……そう、何よりも。

 

「……………邪魔」

 

チンクは、スバル・ナカジマに恐怖した。

 

バリアジャケットが破れ、ナイフの破片が身体中に突き刺さり、フレームを剥き出し、血を流して尚。

平然と立っている彼女に。

スバルがチンクへと歩き出す。

 

一歩、一歩。

 

破片を抜く度に血が溢れ皮膚を濡らす。

 

オーバーヒートした身体からジリジリと、電気が弾ける。

 

それでも止まらない。

視線は真っすぐにチンクを視ている。

 

「──────」

 

その目を見て、チンクは理解した。

 

『敵』として認識されていない。

 

邪魔な『障害物』としてしか、自分は見られていないと。

唇が震える。身体が震える。視界が震える。意識が震える。

あれだけの攻撃をしてそうとしか認識されなかった事実に、チンクは思考が止まりそうだった。

それでも、ノーヴェ達の時間を稼ぐという目的の為に、最後の投げナイフを手に装填した。

 

視線がぶつかる。

 

スバルが足を踏み出し、チンクがナイフを構えた、その時。

 

限界を迎えた二人の意識は途絶した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………これ、回収どころじゃなさそうね」

 

地下通路の床の中(・・・)、映像越しに一部始終を見ていたナンバーズ、セインは苦笑した。

IS ディープダイバー。固体液体問わずすり抜け、潜ることが出来る擬似的な次元潜行により、セインはナンバーズで最も優れた斥候として重宝されている。

そんなセインはノーヴェ達に頼まれチンクの回収に来たものの、チンクは倒れ、高町なのは、ティアナ・ランスターが居るこの状況では即時離脱も難しいだろう。

 

「どうしたもんか〜……ん?」

 

どうするか思案していると、不意に視線を感じた。

投影されたモニターの向こう。スバルを介抱するティアナの銀色の眼(・・・・)と目が合った。

 

「っとぉ!?」

 

反射的に身体を反らしてすぐ、一発の魔力弾が耳を掠めた。

モニターをもう一度見ると、次元殺し(ディバイダー)状態のデバイスの銃口を此方に向けたティアナが居た。

 

「チッ、外したわね」

 

そんなティアナの言葉にセインの顔が引き攣った。

 

(か、確実に私の頭狙ってた……!あんなの喰らったら死ぬって!ってうわぁ!?)

 

そうこうしていると次々と魔力弾が発射され、逃げ回るセインへ殺到する。

予知でもしているのかと言いたくなる正確な射撃を掠り傷を作りながらもギリギリで避け続ける。

 

「どうなってんのさ、あの眼は……!」

 

これではチンクを助けようにも近付けない。

ティアナも既に聖遺物へ適応しているらしいという情報を加味すれば、此方の聖遺物使いとしての優位性も失われる。

つまり、少しでも隙を見せたら頭を撃ち抜かれて終了だ。

 

「クソゲーすぎんでしょうが、その聖遺物!!」

 

まるで此方の動きを分解するような精密射撃に加え、ディバイダーで次元の壁を食い破って来るためISは最早意味を成さず、救助対象には最高戦力(高町なのは)が付いてしまった。

……なんで単騎で来たんですか?と過去の自分を殺したくなる。

 

感情としてはやはり姉を助けたい。

だが理性的に考えて、この戦力差はもう出し抜く道すら存在しないと理解している。

クアットロと同様、自分の偽典聖遺物は戦闘には向いていない。

発動したところでこの状況を打開するには至らないだろう。

何より、ティアナ・ランスターのあの眼。

あの此方を見通す力とはあまりにも相性が悪い。

 

「……………………あぁ、ちくしょう」

 

考えに考えて、セインが選択したのは……撤退だった。

追撃を避け、より深く潜行する。

銃弾が届かぬ程に。

 

「ごめん、チンク姉。ごめん、ノーヴェ、ウェンディ」

 

 

 

 

 

こうして、地下通路での戦いは終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PM 18:06 クラナガン 市街幹線道路

 

 

ガラ空きとなった幹線道路を、1台の違法改造車が駆け抜ける。

その速度は音速の一歩手前まで出ているにも関わらず、車体が崩壊するような事も、タイヤがバーストする様子もない。

 

「クソが、やっぱり追ってくるわなぁ!」

 

そんな馬鹿げたモンスターマシンを運転しながら、ヴァイスは忌々しげにバックミラーを睨む。

ミラーには此方を追いかけて来る戦闘機人二人の姿が見えていた。

逃走開始から程無いというのに、気付かれるのが早過ぎた。

おかげで迂回を余儀なくされ、こうして広い道でカーチェイスする事になってしまった。

 

「ったく、こちとらいたいけ(・・・・)な一般魔導士だってのに、戦闘機人二人掛かりとか大人気ないんじゃねぇの?」

 

聞こえやしない嫌味を言いながらアクセルを更に踏み込む。

 

「ヴィヴィオちゃん、大丈夫かい?」

 

「う、うん……大丈夫」

 

ヴァイスの問い掛けに控え目に返事をするヴィヴィオ。

心なしかこのモンスターマシンのスピードに興奮したように目をキラキラさせているのは気の所為だろうか。

気の所為だと信じたい。

 

「……っと、ヴィヴィオちゃん」

 

「?」

 

「今からちょっと揺れて危ないから、目を瞑って口をキュってしててくれるかい?」

 

「……?うん」

 

横目でヴィヴィオが言う通りにしたのを確認すると、ヴァイスはハンドルを回した。

クラッチペダルを踏みながらシフトレバーをリバースに。

急速に掛かるはずのGは技術班お手製の耐G機構により1Gの範囲に抑えられたまま、車は180°回転した。

 

「なっ」

 

「……正気?」

 

物理法則を無視した挙動に、戦闘機人の二人……ディード、オットーも流石に驚愕した様子だった。

 

「よお、美人なお二人さん」

 

バック走行なのに速度を変えないまま、窓を開けてヴァイスは気さくに挨拶した。

 

「こんないい夜にデートのお誘いはありがたいんだが、今日はちょっと用事があるんだ。悪いけどまた今度にしてくんない?」

 

「……僕達を馬鹿にしてる?」

 

「おいおい、そんな事ねぇって。君等みたいな上玉、何時もだったら見逃さないってのは本当だぜ?」

 

「オットー、こいつ殺しましょう。なんか生理的に嫌です」

 

「同感」

 

戯けたヴァイスの言葉にディードとオットーが構える。

向けられた殺気に内心冷や汗をかきながらも飄々とした顔を崩さずに、ヴァイスはおどけて見せた。

 

「そうカッカなさんなって、せっかくの美人が台無しだぜ?まあ、そうだな……お詫びと言っちゃなんだが、アンタらにゃプレゼントをあげるよ」

 

そう言ってヴァイスはダッシュボードから手のひら大の小包を取り出すと、二人へ向かって投げ付けた。

 

「不要」

 

興味なさげなオットーが宙を舞う小包を破壊しようと手を上げた瞬間。

 

バンッ!!

 

「「!?」」

 

小包が爆ぜ、閃光と共に白い破片のような物が二人を包んだ。

 

「これは……!」

 

「EMP……チャフグレネード!?」

 

機械によって構成された二人の視界が千々に乱れ、ヴァイスの姿さえブレて見えなくなる。

視界を奪われ、平衡感覚すら覚束なくなった二人は堪らず宙に止まってしまう。

 

「……戦闘機人。聖遺物使ってようが機械部分は

こっち側(・・・・)ってか。シャーリーにゃ感謝だな」

 

シャーリー特製 EMPチャフグレネード。

閃光と共に電子機器へ強力に干渉する特殊な電磁波と大量の電波妨害フィルムを爆発範囲内にばら撒く、電子戦装備。

ギンガ、スバル、そして戦闘機人との戦闘データからシャーリーが生み出した『戦闘機人を止める』為だけに作られた試作品である。

 

ぶっつけ本番で使ってみたものの、その効果は見事なものだと、ヴァイスは舌を巻いた。

 

「っと、感動してる場合じゃねぇな」

 

意識を切り替え、ヴァイスは車を前へと向き直すとなのは達の居る地上本部へとアクセルを踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが。

 

 

 

「──────悪いが、行き止まりだ」

 

 

 

その道は絶たれる。

 

 





灰の爪剣(Grau Næġling)
グラウ・ネイリング

スバルの聖遺物。形成位階。
能力は『破砕』。
スバルの持つ固有スキル、振動破砕を拡張したような性質であり、有機物、無機物、魔法、果ては爆発等の現象そのものすら触れた時点で破壊する。

外見は右腕に装着された流線状の有機的な鈍色の金属に覆われたガントレット。ストライクシューターを侵食したような形になっている。


火神の灼眼(Auge des Svarog)
オーゲ・デス・スヴァローグ

チンクの聖遺物。創造位階(偽)。
能力は『爆発』。
視認した対象を生物、非生物、空間問わず爆発させる。
IS ランブルデトネイターと組み合わせることで圧倒的な面制圧力を誇る。

外見は右眼眼窩に埋め込まれた炎の眼球。
常に燃えており、眼帯を外すと炎が溢れ出す。
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