魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe-   作:フォールティア

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4.Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe
/01 Der Tag nach dem Einsturz


 

12月。多くの者にとってそれは突然の出来事だった。

時空管理局本部及び地上本部を含めた主要支部を狙った同時襲撃。

その何れもが成功され、数百年の安寧を保ってきた管理局システムに致命的な亀裂を及ぼした。

 

穏やかな世界しか知らぬ、幼子の様な民草達は自らを覆う日常というヴェールを引き剥がされたことに気付き、泣き声を上げる。

 

始まりにようこそ(Welcome to the beginning)

 

全次元世界に発せられたスカリエッティの犯行声明に、人々は理解する。

これで終わりでは無いと。ここからが始まりなのだと。

 

死の饗宴は、直ぐそこまで来ているのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地上本部、クラナガン侵攻から3日後。

 

たった数時間の攻撃で都市機能が完全に破壊されたクラナガンは荒廃しきり、絶えずサイレンと瓦礫を退かす重機の音、人々の啜り泣く声と怒号が響いている。

日常的な喧騒からは程遠い、『戦地』の喧騒がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

クラナガン 南区災害支援所兼避難所 指令室テント

 

 

「6番車両と9番車両は西から回って状況の確認、急いで………………………息吐く暇も無いなぁ」

 

「都市の八割方が持っていかれたからな。他の支部は?」

 

土砂降りの雨の中、隈の出来た瞼を抑えながらテントに入ってきた八神にペットボトルの水とタオルを投げわたす。

俺は俺で救助活動ですっかりボロボロになった制服の上着を雑に脱ぎ捨て、硬いパイプ椅子に腰を下ろした。

テントの天幕越しに、雨が打ちつける音が耳に響く。

 

「東区のとこは比較的マシやったから、避難民を幾らか引き受けて貰えることになった。向こうの方なら道路も無事やからそっから教会に怪我人優先で送ることも出来るし、それも取り付けといた」

 

「そうか……」

 

沈黙が降りる。

八神がペットボトルの水を一気飲みする音だけが、周囲の喧騒に紛れて聞こえてくる。

 

 

────俺がヴァイスを見つけ、その死を見届けて。

気付けば襲撃は終わっていて、残されたのは悲鳴と火と瓦礫、そして死体の山だった。

 

クラナガンは中心地から都市の八割を住民達の同時多発的な集団錯乱により破壊され、その機能を止めてしまっている。

それにより消防などの対応がキャパオーバーで間に合わず、こうして俺達が出張っている。

 

地上本部は高町と八神、そしてランスター達によってなんとか無事だ。

……とは言え、ギンガが瀕死の重傷、ナカジマも重傷となれば無事とも言い難いが。

ともあれ、建屋自体は最初の砲撃以外は少しの損傷で済んだために、今は臨時の指揮系統の統括と野戦病院となっている。

 

六課は建屋が壊滅したが、幸いな事にシェルターに避難していた人員は無事だった。

だが、戦闘機人と戦ったシャマルとザフィーラは重傷、その後を引き継いだグリフィスや指令室のオペレーター達もガジェットとの戦闘で負傷してしまった。

────ヴァイスがヴィヴィオを連れて出ていなければ更に被害は甚大だっただろう。

 

そして俺達、比較的無事な人員は一昨日から殆ど寝ずに救助活動に当たっていた。

 

「少し休んだらどうだ。寝てないだろ」

 

「今はまだ無理や、本局とも連絡付かん上に、地上本部……レジアス中将の件もまだ終わっとらんし」

 

「スカリエッティの後ろ楯……金出し(スポンサー)が、まさか地上本部のトップたぁな」

 

判明したのは昨日だが、思い掛けない『関係者』のタレコミでレジアスとスカリエッティが繋がっていたことが明らかになった。

情報の精査の結果、確かな話らしく、本人も認めている。

なんでも、魔導師の資質に頼らない兵器を造る見返りに資金提供をしていたとか。

レジアス曰く、他にも政治家や資本家が噛んでいるらしいが……大半は今回の襲撃で死んでいるのが確認されている。

 

「ホントなら臨時の査問会が開かれるんやけど、今はそうも言ってられんし、そもそも本局からなんの音沙汰もないから下手に動けへん。せやから今は地上本部で拘束中や」

 

ゴシゴシと荒々しく頭を拭きながら、八神はホワイトボードに貼り付けられた地図に丸を書き込んでいく。

 

「……それは?」

 

「今回、特に被害が酷かった区画や。クラナガン中央区を中心に計九箇所。何れも集団錯乱によってかなりの死傷者が出てるんやけど……」

 

「管理局の支部、ショッピングモール、住宅地……バラバラだな」

 

「そう、バラバラなんよ。手当たり次第破壊してるからそうなんやろうけど、それならそれで妙な規則性がある気がするんよ」

 

言われてみれば確かに、妙な感じだ。

一見するとただの偶然だが、そうと片付けるには変な気がする。

 

「は、はやてちゃん!!」

 

二人して地図を睨みながら唸っていると、高町がバリアジャケットを泥で汚したまま慌てた様子でテントに駆け込んできた。

高町は確か、北区の救援だった筈だが……。

 

「なのはちゃん?どうしたん、何かあったん?」

 

「クロノ君……だ、第一艦隊が来たの!」

 

「えぇ!?」

 

高町の言葉に、八神が珍しく驚いた声を上げた。

 

……………第一艦隊って、なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラナガン 地上本部 小会議室

 

「……まずは、遅れてしまってすまない」

 

会議室に集まった面々に対し、クロノ提督が最初にやったのは謝罪だった。

 

「本来なら迅速に駆けつけるべき所を、そう出来なかったのは一重に私の責任だ。申し訳ない」

 

「……構いませんよ、状況が状況だ。それよりも、本局に何があったのです?提督ほどのお方がこちらに対応出来ないような事が?」

 

比較的被害が少なく、まだ精神的余裕のある初老の男性──東区の支部長が代表して切り込む。

襲撃から三日。

これだけの被害だ、本来なら当日の内に本局から支援が来て然るべき筈だと、会議室の面々が口々に言う。

それに対して提督は瞑目し、

 

「………………心して聞いてくれ」

 

そう前置きをして、言った。

 

 

「──時空管理局本部は、壊滅した」

 

 

と。

シン、と騒がしかった会議室が静まり返る。

 

「本部が……壊滅……?冗談でしょう?」

 

「事実だ。地上本部が襲撃を受けたのと同時刻、本局も戦闘機人による襲撃を受けた」

 

その後に続くクロノ提督の状況説明は、凄惨な物だった。

 

初手にクラッキングによって観測室という目を潰され、次に通信部門。

そして作戦指令室が爆破されたことで本局はその機能を停止した。

更に時を置かずして施設内部の複数箇所から爆発と火災が発生、消火設備すらハッキングないし物理的に破壊され被害の拡大を止められない状態に。

クロノ提督は予言の日ということも有り、臨戦態勢を取らせていた第一艦隊を使い、詰め込めるだけの人員と物資を積み込んで本部を出港。

そして、本部は崩壊し虚数空間を漂うデブリと化した。

 

「──それから、今日に至るまで各次元世界で任務中だった他艦隊を召集し、救援物資を集めここに来た」

 

これが、顛末だ。

そう言って締めくくったクロノ提督の顔は今にも崩れ落ちそうな程の疲労が見えた。

その様子に、先程まで不満を見せていた他支部の面々も閉口するしか無かった。

 

「……荷下ろしが終わった物資は順次必要な所に分配を。本局の人員で活動が可能かつその意思がある者も居る。彼らも救助活動の人員として使ってくれ」

 

しかしそれも直ぐに終わり、『これからどうするか』に意識を切り替えた提督、支部長達は次々と意見を交わし始め、会議は無事1時間程で終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラナガン 地上本部 臨時遺体安置所

 

会議は無事終わり、それぞれ解散して自らの仕事に戻る中、俺は八神と一時別れ、臨時遺体安置所に来ていた。

 

臨時遺体安置所。

病院も葬儀場も破壊され、本部内には避難民や傷病人が犇めいている中で、遺体を冷凍、保管しておけるスペースや余裕なんてあるはずもなく。

結局、ドライアイスと遺体を納めた遺体袋を野外に置くしか無かった。

 

最低限の整地がされ、ブルーシートが敷かれた上に遺体袋がずらりと並んだそこを歩く。

八神から渡され、開かれた傘に雨粒が弾かれる。

雨は、相変わらず土砂降りのままだ。

 

「…………」

 

目的の場所まで後少しと言うところで、小さな人影を見つけた。

この雨の中、傘もささずにある遺体袋の前でしゃがみ込んだまま動かない。

そこは俺の目的地でもある────ヴァイスの遺体袋だ。

 

「………………」

 

止まってしまっていた脚を、遺体袋へ動かす。

人影には見覚えがあった。

四日前……襲撃の前日にヴァイスから写真を見せてもらった記憶がある。

 

『こいつは?』

 

『……俺の妹だよ。ラグナつって前にも話した、俺がしくじって傷付けちまった子』

 

『実妹だったのか』

 

『ああ……。恨んでないって、本人は言ってくれてるけどよ。俺はまだ、自分で自分を許せてないんだ』

 

『…………一度会って話してこい』

 

『えぇ?急にどうしたよ』

 

『良いから。腹割って話しゃ変わるかもしんねえだろ』

 

『そういうもんか?』

 

『そういうもんだ』

 

ほんの数日前の話なのに、やけに懐かしく思える。

記憶の追想から意識を戻すと、遺体袋の前まで来ていた。

 

「…………」

 

俺の足音が聞こえていないのか、彼女は動かない。

──一体どれだけの時間ここにいたのか。

首元で揃っている筈の髪は濡れそぼり、薄緑の服は身体に張り付いてしまっている。

12月の冷たい雨の中、震える身体を抱えて。それでも動かない。

……まるで、此処で死んでも構わないと言っている様に。

 

「……ヴァイスの妹、ラグナだな」

 

「………………」

 

ピクリ、と肩が跳ねる。

 

「……誰」

 

「ここで眠ってるやつの…………友人だ」

 

俺がそう答えるとラグナの震えが止まった。

 

「ねぇ……お兄ちゃんは、事故で死んだの?それとも殺されたの?」

 

「………………」

 

「答えてよ」

 

年端のいかない子供から発せられたとは思えない冷たい声に、俺は仕方なく答えた。

 

「殺された。子供を守ろうとして……殺された」

 

「………………そう、なんだ」

 

言って、俺の内側にある渇望が鈍く燃えるような感覚を覚える。

そう。殺された。

アイツは、殺された。

俺は思わず、問うた。

 

「……お前は、どうしたい」

 

「私は…………」

 

少しの沈黙の後、少女が立ち上がり振り返る。

左目の眼帯を外し、両の眼で俺の眼を見つめて、

 

 

「私のお兄ちゃんを殺したヤツを…………殺して」

 

 

そう、ハッキリと言い放った。

 

渇望()が燃え上がる。

その言葉を待っていたと。お前()の願いを待っていたと。

 

抑え込んでいた情動が動き出す。

鈍っていた自意識が回りだす。

自然、口端が吊り上がる。

 

 

 

「ああ、良いぜ──その復讐、俺が請け負った」

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