魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe-   作:フォールティア

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オッサンの話です


/2 bedauern

 

地上本部 執務室

 

「…………」

 

クラナガンの街並みを一望出来る窓に背を向け、レジアスはデスクに座り、端末に来る報告を読んでいた。

先日まであった覇気は鳴りを潜め、代わりに静かな圧力を纏っていた。

その様子を傍らで見ていたオーリスは声を掛けようとするが、言葉が出ない。

 

……事の発端は三日前に遡る。

 

 

 

 

地上本部及びクラナガンへの襲撃。

管理局最高評議会──なによりスカリエッティとの密約があったレジアスにとって、これはあまりにも悲惨な裏切りであった。

『地上の治安改善と戦力の拡充』。それだけを目指して支援してきたと言うのに、返ってきたのはこの様だ。

たった数時間で守りたかった街は目の前で破壊され、人々は死んでいった。

それでもと必死に指揮を執り続け、状況が落ち着く頃には夜が明けていた。

 

『今は……何時だ』

 

『午前6時26分です』

 

『そうか…………』

 

革張りの椅子に身体を預け息を吐き出す。

 

『他の支部は』

 

『未だ連絡が付きません……陳述会に集まっていた方々の内、まだ動ける者が民間人救助と各支部を見回ると出て行きました』

 

『避難所のスペースが足りんか……ここの下の階まで全て開放だ。傷病人を下層階に、まだ動ける者は上層階に移動させるよう伝えてくれ。それと航空部隊はテントと物資を持って行かせ、無事な施設に臨時の避難所を作らせろ。重傷者は優先して付近の病院か此処に輸送するようにも』

 

『わかりました』

 

オーリスが部屋を出ていくその背を見送って、もう一度大きく息を吐く。

状況が落ち着いたと言ってもそれは一時的なものだ。むしろ夜が明けたこれからこそが本番だろう。

怒りに任せて暴れ出したい衝動も叫びたい衝動も呑み込んで、矢継ぎ早に入る報告を読む為に端末を起動するが、荒々しく開くドアの音に思考を中断された。

 

『オーリス、まだ何かあったの、か──────』

 

端末から顔を上げたレジアスの目に映ったのは(オーリス)の姿ではなく……かつての親友の姿だった。

 

『ゼス、トなのか……?』

 

『……これが、こんな光景が。お前の望んだ未来なのか……?』

 

8年振りか。もう会うことはないと思っていた親友。

その顔に浮かんでいたのは再会の喜びではなく、燃えるような怒りだった。

 

『…………生きて、いたのか』

 

『お前に会って話を聞くまで、死ぬつもりは無かったからな』

 

『…………』

 

『8年前のあの日。お前は俺達を嵌め、スカリエッティに売ったのか?……共に誓った願いすら忘れ、権力の魔性に堕ちたのか!?』

 

ゼストの手にデバイスが展開され、その切っ先が向けられる。

鈍く光る刃を見つめながら、レジアスは口を開く。

その声は、微かに震えていた。

 

『違う……売るつもりなど無かった。お前が……()がスカリエッティと関わっていると疑っていたのは知っていた。だから止めようと動いたが、その時にはもう』

 

目を背ける事無く、されど懺悔するように拳を握り締めながら言葉を紡ぐ。

 

『…………』

 

『……俺がスカリエッティと繋がっていたのは事実だ。アインヘリヤル(・・・・・・・)……個人の資質に依存しない魔導兵器。それを作らせる為にな。全てはあの日の誓い……皆の平和の為だった。だが奴は』

 

『戦闘機人、か』

 

『気付いた頃には遅かった。奴は最高評議会とも繋がり、戦闘機人の力をチラつかせながら言ってきた。更なる資金援助を、とな。毎回、培養槽に入れられたメガーヌを見せながらな』

 

自嘲気味に笑ったレジアスだったが、溢れ出す悔恨に誤魔化しが効かず、頭を抑え、掻きむしりながら呻くように声を絞り出す。

 

『目を背けるしか無かった……誓いを守る為と言い訳して、力を求めなければ狂ってしまいそうだったんだよ』

 

手袋を血に染めながら、レジアスは叫ぶ。

 

『俺が!……俺が奴と関わらなければ、お前もクイントも死ぬ事は無かった。メガーヌとその娘があんな様になる事も!!……全部、俺が悪かったんだ。すまない……すまない……!』

 

歯を食い縛り、硬いデスクの天板に何度も拳を叩きつける。

友との邂逅に慙悔は止め処なく口をついて流れ、噛み締めた唇からは血が滲む。

 

『──殺してくれ等と、甘えた事を言ってくれるなよ』

 

その様子を見ながら冷たく言い放ち、ゼストは槍の切っ先を降ろした。

内心を見透かされたような感覚に、レジアスが俯く。

暫しの沈黙の後、静寂を破ったのはゼストだった。

 

『クイントはもう戻らない。だが、メガーヌとルーテシアはまだ取り戻せる筈だ』

 

ゼストのその言葉に、レジアスが顔を上げた。

 

『……何をするつもりだ』

 

『俺は既に死人だ。個人的な未練も、今しがた無くなった……後は、部隊長として最後の仕事をするだけだ』

 

『よせ、それは……』

 

その言葉の意味する事を、レジアスは理解していた。

友が何をしようとしているのかも。

 

『この数年。奪う事しか出来なかったろくでなしだ。悪いが、最後くらいは誰かを救わせてくれ。こんな事、贖罪にもならんだろうがな』

 

『…………』

 

『贖う時だ。俺も、お前も。未来に、俺達が作った禍根を残すべきじゃないだろう』

 

『……そう、だったな』

 

投げ渡された小さな記録端末を受け取る。傷だらけのそれは、友がどれだけ戦い、どれだけの思いでここまで来たかを語っていた。

たった数分の再会と、最後の別れを思い、レジアスはただ静かに頷いた。

 

『では、さらばだ。地獄で会おう』

 

『ああ。待っていろ、直に会いに行く』

 

瞬き一つ。

もう、目の前に友の姿は無かった。

 

『…………行くか』

 

つくづく、馬鹿な男だと自嘲する。

こんな時になるまで、自分は自分の罪から目を背け、気付かないふりをしていた事に。

彼の言った通りだ。この事件の一端を担ってしまった者として、その禍根を未来に残すなどあってはならない。

立ち上って執務室のドアを開くと、戻ってきていたオーリスと鉢合わせる。

 

『中将?』

 

丁度いいタイミングだと思い、驚いた娘の肩を叩く。

 

 

 

『すまないが、皆を呼んでくれ。──八神部隊長もな』

 

 

 

そうして、ゼストが記録端末に仕込んでいた『関係者』のタレコミという体の情報を使い、スカリエッティと自身の関係を暴露。

今回の事件の一端を担った事を認め、代表として糾弾したはやてによりその場で逮捕された。

 

とはいえ状況が状況の為、下手に指揮系統を乱すわけにもいかない事から、この件には箝口令が敷かれ、直接の関係者以外には知られていない。

レジアスも処分上は拘束となっているが、地上本部、ひいてはクラナガン全体の救助活動の全責任者として変わらず指揮を執っている。

はやて曰く、

 

「多くの人を救って下さい。その人達の命を守り、責任を持つ事。それが今、貴方がするべき贖いです」

 

そして、

 

「今は地上とか空とか関係ない。全員が向き合わなきゃいけない局面なんです。不甲斐なさなら私だって感じてます。でも、だからこそ貴方も私も今は止まっちゃいけないんです」

 

とまで言われてしまった。

若僧若僧と言っておいて諭されるこの体たらくだ。

今出来ることを、と苦難に抗い続けているのは彼女とて同じだったのだ。

ならばとレジアスは任を負い、こうして報告を受けては次々と指示を飛ばしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラナガン襲撃から、4日目。

一昨日からの雨は相変わらず降り続け、街を濡らしている。

窓に吹き付ける雨音の中、地上本部に設置された臨時の指揮官室……地上本部局長執務室に、はやてはやって来ていた。

雑多に並べられた長机には、各支部長に先日到着したクロノ、聖王教会からカリムが来ている他、医療や救助担当の責任者など、はやて含め十数名がここに集まっていた。

 

「……今日の定例会議を始めよう」

 

部屋の主にして、総責任者でもあるレジアスが重々しく口を開く。

 

「まずは現在の状況だが──物資の問題はクロノ提督が集め、持ってきて下さったおかげで当面は持ちそうだ。改めて感謝を」

 

「あぁ、いえ……」

 

頭を下げるレジアスに、面食らったクロノは曖昧に返すしか無かった。

 

「次に被災者の状況だが……コーディス医務官、どうだ」

 

「重傷者を聖王教会が受け入れて下さったおかげで、どうにか落ち着いてきましたが……落ち着いた事で却って精神的に病む者も増えて来ているのが現状です」

 

つらつらと冷静に医療担当の女性が答えると、レジアスは顎を撫でた。

 

「メンタルケアか……放っておくのはマズイな」

 

「既に小さなものですが、諍いが幾つか。今はまだ此方で対応できますが」

 

「心理士は何人居る?」

 

「……心理士として動けるのは十人程度でしょう。他はむしろケアを受ける側です」

 

「厳しいな……」

 

現在、避難所には優に数百人が避難している。

そのメンタルケアをたった十人で対応するのはあまり現実的ではないだろう。

 

「それでしたら、教会本部の神父とシスターを派遣しましょう」

 

それに対して手を挙げたのはカリムだった。

 

「ですが、そちらには既に重傷者の受け入れをしていただいている。人手は足りますか?」

 

「問題ありません。休養に出ていた者達も、事を聞き付け戻ってきていますから。東地区の教会支部は無事でしたよね?」

 

「ええ。窓が割られた程度でしたので、補修してあります。」

 

東地区支部長の答えに、カリムは頷くとレジアスを真っ直ぐ見つめた。

 

「派遣した神父とシスターを交代しながら常駐させますので、時間問わず教会にお連れ下さい。僅かながらでしょうけれど、お力になれる筈です」

 

「……了解した。騎士カリム、助かります」

 

深々と頭を下げたレジアスにカリムもまた面食らい、一瞬思考が止まりかけた。

そんな事を都度繰り返しつつ会議は進み、レジアスがいよいよ本題に入る。

 

「状況はなんとか落ち着いている。だが……最大の懸念事項が一つ残っている」

 

「スカリエッティ……」

 

「そうだ。ヤツの犯行声明に、騎士カリム……機動六課が把握していた『予言』だ」

 

レジアスの厳とした声に、部屋の空気が変わる。

 

「情報共有した為、皆もう解っていると思うが。既に予言の一節は成された」

 

『古き結晶と無限の欲望集い交わる地 死せる王の元、聖地よりかの翼が蘇る 死者達が踊り、中つ大地の法の塔は虚しく焼け落ち 其れを先駆けに、数多の海を渡る法の船も焼け落ちる』

 

部屋の中央に展開された投影型モニターが、カリムの予言を映す。

 

「地上本部、ないしクラナガンはその機能を失い、火に焼かれた。そして管理局本部も今や虚数空間を漂う残骸となった。最高評議会も何も無い。事実上、管理局システムは崩壊した。だが、予言はこれで終わりでは無い」

 

レジアスが端末を操作し、予言の続きを映し出す。

 

『そして法と理が焼け落ちた後、昏き地の底より死血を啜りし竜が現れる 境界は崩れ去り、数多の海は虚無へ沈む 終結の竜は果てへと至り、回帰に牙を剥く』

 

「……予言の先が示すもの。それは管理局システムの終わりではない。文字通り──世界の終わりだ」

 

ごくり、と誰かの唾を飲み込む音が聞こえる。

幾らか先に知っていたとしても、やはりこの予言の意味するモノの重大さは胸に重く伸し掛かる。

 

「つまり、今回の襲撃事件にはまだ続きがあると?」

 

「予言が確かならばそうなるだろう。当然、今回の比ではない規模だ」

 

西地区支部長である壮年の男性が息を漏らし、南区支部長の女性に至っては頭を抱えだした。

 

「それに、予言の後半には無限の欲望(ジェイル・スカリエッティ)が書かれていないが、代わりに死血を啜りし竜と書かれている……つまりもう一人、スカリエッティと比肩するいや、それすら超える存在が現れるとすら示唆されているが……これについては専門家に説明してもらおう。入ってくれ」

 

レジアスの呼びかけにドアが開く。

ブロンドベージュの髪を靡かせ部屋に現れた人物に、はやてとクロノは驚いて椅子から立ち上がった。

 

「「ユーノ(君)ッ!?」」

 

 

「やあ、二人とも」

 

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