魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe-   作:フォールティア

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/4 Geschichtenerzähler

 

翌日。昼夜問わず行われた避難民の後方(聖王教会)への輸送はレジアス中将の陣頭指揮のもと、恙無く完了した。

時計を見れば時刻はまだ朝の7時。

冬という事もあり、まだ薄暗い空の下、俺達は隔離街へとやってきた。

 

「……こうして正面から見るのは久々やけど、相変わらずデカい壁やなぁ」

 

隔離街がそう呼ばれる所以となった高さ凡そ30mの隔離外壁を眺めながら、傍らに立つ八神が感慨深げにそんな事を言った。

巨大な壁は左右どちらも視界の先まで続いていて、終端が見えない。

直径4kmをぐるりと囲っているのだからそれもそうなのだが。

 

「ほ、ホントに行くの?」

 

「今更なにビビってんのよスバル」

 

俺と八神の後ろで慄いているナカジマをランスターが叱咤する。

その様子を見て高町、ハラオウン、エリオにキャロが苦笑していた。

……そう、どういう訳かスターズ、ライトニングのメンバーが揃い踏みなのだ。

当然、シグナムとヴィータも居る。

 

「回収できそうな資料は私に報告してね。使えそうなら私がなんとかするから」

 

「「「「「了解(ヤー)!!」」」」」

 

そして何故か……何故か、シャーリー率いる技術班が着いてきている。

いやホントなんで居る?つかどっから話聞きつけてきた。

 

「レジアス中将から頼まれちゃってね。状況が状況だから、使えるものはなんでもいいから探してこいってさ」

 

俺の視線に気付いたシャーリーがあっさりと白状した。

……まあ、形振り構っていられないというレジアスの気持ちはわかるが。

 

「大丈夫大丈夫、迂闊な事はしないから。こんなトコで死んだら笑い話にもならないしね」

 

シャーリーの言に技術班全員がうんうん頷いた。

無駄に統率取れてんの何なんだ……。

 

「はあ、まあいい。昨日の調べで無人なのは確認済みだが、物はそのまんまのが多い。不用意に触ったりすんなよ」

 

改めての忠告に全員が同意したのを確認して、俺は壁に対してあまりに小さな門へと近づき、

 

「行くぞ」

 

押し開いた。

 

 

 

 

 

 

 

雨こそ止んだものの相変わらずの曇天の下、隔離街の中を歩く。

今のクラナガンの荒廃具合と大差ない光景が視界一杯に広がっているが、まあ、これは此処じゃ当たり前の風景だ。

道路に散乱したゴミ、窓が割れたビル、積み重なった瓦礫と、何に使われたか分からない注射器の残骸や何ともつかない骨。

街とは言われちゃいるが、その体裁すら保てていないスラム。

何度か足を踏み入れている隊長陣はともかく、今回が初めてというナカジマ達や技術班は街の様子に唖然としていた。

 

「……静かすぎるね」

 

「この通りは何時もならジャンキーやら客引きの娼婦共が居るんだがな」

 

ハラオウンにそう返しながら改めて街の様子を見る。

都会の喧騒とはまた違う、粘着くような喧しさが本来ならある筈なのだが、今は精々俺達の足音とビル風の鈍い音位しか聞こえない。

奇妙で、気味の悪い静けさが隔離街を包んでいる。

時折、ラボのような所に立ち寄っては技術班の資料回収を手伝いつつ、街の中心地に向かい歩を進めていく。

 

「結局、あたしらを何処に連れてくってんだよ、クレン」

 

小一時間の行軍に痺れを切らしたヴィータに問われ、俺は視界の先を指差す。

 

「彼処だ」

 

「……地下鉄の駅?」

 

元々は交通の要だっただろう複数の道路が集まる大きな交差点。

そこから少し離れた場所に地下へと続く階段が口を開けていた。

近付くと、まるで化け物の口のような暗闇が階段の先から饐えた臭いの風を吹かせながら俺達を迎えた。

 

「此処に何がある」

 

「……行きゃわかるさ」

 

シグナムの問いを誤魔化して、俺は暗闇へと階段を降りる。

そのまま暗闇の中をペンライトを照明代わりに進み続けホームに着くと、そのまま線路に降りて更に進む。

 

「ね、ねぇ、ティア。ここなんだか怖いよ……」

 

「あんだけ死線をくぐっといて幽霊が怖いとか言うんじゃないでしょうね」

 

「ここは『最終処分場』だったから、有り得なくもないがな」

 

「「え」」

 

「…………」

 

「さ、最終処分場って?ちょっとクレン、黙らないでよぉ!」

 

ナカジマ、ビビり過ぎだろ……。

少しからかっただけで顔面蒼白になってランスターに抱き着いて離れなくなった。

ランスターからキッと睨まれた。すまんて。

 

まあ、最終処分場と言うのは本当なのだが。

隔離街じゃ抗争なんて日常茶飯事だし、人死にが無い日の方が少ない。

とはいえ葬儀場なんて高尚なもんがこの街にあるはずも無い訳で。

地下かつ人の少ないここで燃やしたり溶かしたり何だりとやっていたのだ。

 

暫く進んだ所で線路脇にある扉を開き、更に地下へと降りる。

ここまで来ると高町も俺が何処に向かっているのか解ったらしい。

 

「クレン君が行きたい場所って、もしかして」

 

「ああ。そのまさかだ」

 

階段を降りきって少し進んだ線路の先で、足を止める。

地下鉄の入り口よりも更に黒い大穴がぽっかりと空いていた。

俺が来たかった場所。そう、ここは──

 

「俺が高町達と最初に会った場所であり……俺が、聖遺物を得た場所だ」

 

 

 

 

 

ナカジマが敷いたウイングロードの回廊を降りた先に、それは変わらずに在った。

 

「モノリス……」

 

微かに淡い光を放つ漆黒の巨大な板が、まるで俺達を待っていたかのようにその表面に幾筋もの光を走らせる。

 

「これが、フォールティアが聖遺物を得たと言うモノリスか」

 

「あの時はゆっくり見てる時間がなかったから分からなかったけど……何だか生きてるみたいだね」

 

モノリスをまじまじと眺めながらシグナムと高町が口々にそう言う。

他の皆もこれが放つ異様な空気に落ち着かない様子だ。

そんな中で、八神は努めて冷静にモノリスを見つめていた。

 

「…………クレン」

 

「ああ」

 

「此処で、何があったん」

 

「それは──」

 

答えようとしたその時、

 

「やはり、連れてきたか。成程、些か脚色が必要なようだ」

 

この場の誰でもない声が空間に響いた。

これまで聞こえなかった自分達以外の声に、高町達が一斉にデバイスを構える。

技術班を守るように陣形が即座に構築される。

 

「ふむ、エルトリアを乗り越えただけはある。この程度ならば当然か」

 

言葉とは裏腹な、軽薄で無感動、或いは無関心な声音。

まるで最初から知っている(・・・・・・・・・)ような口振り。

 

「しかし成程、これならば問題無い」

 

モノリスが明滅する。

ニ三の繰り返しの後、漸く声の主が姿を現した。

 

「……随分、勿体ぶった登場だな。ファリア──いや、メルクリウス」

 

「演出、というものだよクレン・フォールティア。或いは、ザルマンとでも呼ぶかね?」

 

俺の言葉にボロを纏った、男にも女にも、子供にも老人にも見える人影が貼り付けたような皮肉めいた笑みを浮かべながら、モノリスの傍らで俺達を見た。

 

「さて、こうして来た以上、私から今一度語れと言うのかな、クレン・フォールティア」

 

「ありゃ語りじゃなくて情報の押し付けだろうが」

 

芝居がかった口振りのメルクリウスに若干の苛立ちを覚えつつ、八神達に武器を下げさせる。

 

「クレン、この……人?は?」

 

「お初にお目に掛かる、不屈なる者達。私は──ああ、ファリア。ファリア・メルクリウスとでも呼んでくれたまえ」

 

八神の疑問にメルクリウスが恭しく一礼するが、やはり何処か態とらしい。

演技めいているとでも言えばいいのか、コイツの語り方、態度、動きに至る全てがまるで台本通りに芝居する役者のように見えてしまう。

八神もその違和感を感じ取っているのか、武器こそ下ろしているものの警戒を解くような事はしなかった。

 

「貴方は、何を知っているんです?」

 

「君達が直面している敵の正体、この世界の行く末、何故こうなったのかを知っている」

 

淡々とした答えに、八神が俺の顔を見る。

コイツの言ってる事は本当か?と言外に訴えているのが判る。

 

「事実だ。じゃなかったらこんなトコに連れてきてねぇさ」

 

「だって、ファリア・メルクリウスってクレン君の夢に出てきた──」

 

「ああ、それは私本人だとも」

 

割り込んで答えたメルクリウスに八神が一瞬呆けたあと、頭を抱えた。

 

「否定したいのに経験のせいで納得しかない──!」

 

そら、こんだけ聖遺物絡みで不死身とか見てりゃそうなるわ。

他の面々も慣れたものか、あまり驚いてはいなかった。

……この様子なら、変にパニックになることは無いだろう。

メルクリウスに目線を送ると、仕方なさげに口を開いた。

 

「では、語るとしよう。神にならざる狂気を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──その世界には、神がいた。

 

神の治める世界は完全であり、それ故に停滞していた。

知る事を繰り返し、既知を増やし、個我を消し、無知なる罪を悪性とし浄滅する。

塩の純白に満たされた数理の牢獄。

 

完成された管理世界。

しかしそれに否と唱えた者が居た。

 

永劫続く世界などあってはならない。

生命に死があるように世界も死に、生まれ変わるべしと語るものが居た。

神の死を望み、世界の死を望む、『終わり』という想念。

その想念は静かに、しかし確かに神の座へと手を伸ばした。

 

だが、外なるものに弾かれた想念は、神にはなれなかった。

 

 

 

──その世界には、神が居た。

 

神が求める究極にして一つの結末の為に繰り返される世界。

誕生と死滅が無尽蔵に廻り、歴史は同じレールを都度走る。

未知の為に既知を回し続ける円環の地獄。

 

『想念』は終わりを求めた。死を求めた。

 

しかし真実の死は訪れない。

生まれ続け、死に続ける。

変化は無い。変貌は無い。変遷は無い。変容は無い。変身は無い。変態は無い。

ただただ同じ生、同じ死が積み上がる。

 

やがて、『想念』は至る。

 

この世界は間違っている。

 

この世界が壊れている。

 

しかしこれが『正しい』と言うのならば。

 

こんな世界、狂ってしまえ。

 

何もかも。

神も、人も、世界も、命も狂い崩れて終わり去れ。

皆等しく私と共に狂い死ね。

 

その果てにこそ、新たな地平が生まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──神になりかける程の死の想念が、繰り返しの蓄積に発狂した。そしてそれが今度こそ神になる為にスカリエッティと行動している、と」

 

メルクリウスの語りを聞き終えて、暫く唸っていた八神がそう纏めた。

 

「仮にその狂気が神の座とやらに付いたらどうなるんだ?」

 

「十中八九、世界の終わりやな」

 

ヴィータの疑問に八神は額の冷や汗を拭いながら答えた。

あれだけの説明で大体理解したらしい。

 

「メルクリウス……さんの言う事が事実なら、神の座は個人の強烈な我を世界に適応するシステムみたいなもんやろ。そこに『皆仲良く狂って死にましょう』なんて打ち込んでみぃ、なんの生産性もなく皆死んでおしまいや」

 

クラナガンですらあの様だ。

それが宇宙規模……世界のルールとして定められたとなれば、そうなるだろう。

詰まる所。

 

「スカリエッティの裏に居るソイツを殺さないと、世界がヤバいってこった」

 

マクスウェルとは比にならない、なりかけとは言え文字通り神との殺し合いだ。

俺達がこれからやる事は。

 

「貴重な話をありがとうございました、メルクリウスさん。話ついでに一つ聞いても?」

 

聞きながら、八神の目つきが変わる。

 

「何かね」

 

「そこまで語るんやったら、そのなりかけの神さまの倒し方も知ってるんとちゃいます?」

 

「…………ふむ」

 

鋭い視線を受けながらも、それをまるで感じていない様子でメルクリウスは瞑目する。

 

「そう問う時点で解を得ていると思うが、尚も確証を得たいと言うなら答えよう。…………神を殺すのなら、こちらも神を使えば良い」

 

淡々と、当然のように言ったメルクリウスに対し、八神は……

 

「やっぱり、そうですか」

 

無感情に、頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話を終え、皆が地上へ帰るべく来た道を戻る中、俺と……何故か八神は残っていた。

どうにも、八神はまだ聞きたい事があるらしい。

 

「それで、まだ何か用かな」

 

「えぇ、聞きたいことなら山程。ですが一つだけ」

 

相変わらず芝居がかったメルクリウスの態度に、八神は構わずに問う。

 

「……これで、何度目ですか」

 

要領を得ないその問いにメルクリウスの口角がほんの少し上がった。

 

「これ迄に三度」

 

「………………………わかりました」

 

大きく深呼吸したかと思えば、一礼して八神は背を向け歩き出す。

 

「今回で、最後になることを望みます」

 

そう言い残し立ち去る背中を眺める。

 

「……良いのか、あんなに喋って。殆ど気付かれてたぞ。エルトリアの聖遺物を置いてたとか」

 

「…………」

 

「これも、三度繰り返したってか」

 

沈黙するメルクリウスに肩を竦める。

 

「まあ、良いさ。多分一番大事なとこは気付いてないみたいだし」

 

右手を握る。

掌に刻まれた文字を確かめるように。

 

 

 

 

 

「──アイツらが、黄昏の中で穏やかにいられるようにしないとな」

 

 

 

 

 

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