魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe- 作:フォールティア
隔離街での一件から一日経ち、クラナガンは慌ただしく来たる最終決戦に向け準備をしていた。
防衛陣形構築の為に街中に魔導兵器の設置をしたり、魔導師の装備をアップグレードしたりと内容は様々だ。
特にシャーリー&マリエル率いる技術班は凄まじく、いつの間にやらディバイダーとフォートレスを大量生産していた上に戦闘人員に配備、戦艦には旧アルカンシェルに匹敵する艦砲を増設とやりたい放題……もとい八面六臂の活躍具合だ。
そんな中俺達はというと……。
「ゆりかごの起動にヴィヴィオが必要だってのはわかったが、だったらなんで奴らはまだ仕掛けてこないんだ?」
地上本部にて会議中。
内容は主に、隊長陣の定例会議で判明した聖王のゆりかごの存在と、もう一つ。
「それは恐らく、月が関係してる」
ヴィータがぶっきらぼうに吐き出した疑問に、無限書庫のユーノ・スクライア司書長が答える。
この司書長、八神や高町達と旧知の仲らしく、以前から聖遺物やスカリエッティについて調べていてくれたらしい。
司書長と言うだけあって知識量もかなりのもので、今もこうしてツラツラと答えてくれる。
「騎士カリムからの情報提供と、僕が調べてきた情報を合わせると、ゆりかごの起動自体は既に可能の筈だ。ヴィヴィオちゃんと言う聖王の器たる鍵と、レリックの魔力があればね。ただ、出来るのは起動と……精々短時間の飛行程度だろうね」
「戦闘行為は?」
「不可能だね。元々聖王の莫大な魔力と命を燃料にした代物だからね。未成熟なヴィヴィオちゃんとレリック位じゃとてもじゃないけど保たない。聖遺物を燃料にしたとしても消費速度に供給が追い付かない」
「その為に月……いや、月の魔力が必要ってことか」
「そういうこと。月の魔力は持続的かつ強力だ。それをゆりかごに集中して注げば……」
「飛行も戦闘も縛り無く出来る、か……」
沈黙が会議室に降りる。
最善はそうなる前にゆりかごを見つけ出す事だが、探索に割ける人員も時間もこちらには無い。
つまりどうあっても完全起動したゆりかごとの戦闘は避けられないということだ。
幸いなのはこの事実が土壇場ではなく、今判明した事だろう。
「猶予はどんなもんだ、司書長」
「ユーノで良いよ、クレン。猶予……そうだね。あれだけの巨体だ、双月のどちらかだけでは賄えない。となると、双月が揃う月齢の日。更に言えば皆既日食による月の魔力が最高潮となる日。つまり……明後日だ」
司書長の言った明後日。その日が文字通り最終決戦となる。
この事実に対して、この場に居るメンバーは思ったより冷静だった。
変に動揺する様子も無く、むしろ何となく察していたような感じだ。
「みんな、あんまり驚かないんだね」
「まあ、色々経験してきたし……」
「むしろ一日余裕あるんだなぁって」
逆に驚くユーノにナカジマとランスターが気不味そうに返す。
まあ、コイツらと言い俺と言い、1年経たずにここまで密度の濃い経験をしてきたからなぁ……。
横で同調するようにうんうん頷かなくていいんだぞエリオ、キャロ。
「心強いね、はやて」
「せやろ?自慢の子達やで!」
ドヤ顔すんな八神──
「……( ・∀・)」
「!(・∀・)」
いやこっち見んな。
つかなんだその顔は。
「ったく、ちゃらけんなよ八神」
「フェイトちゃん、クレンに振られてもうた」
「ふふ……はやて、ちゃんとアタックしてから言いな?」
「辛辣っ!?」
ハラオウンの冷静なツッコミ(ツッコミか?)にオーバーリアクションする八神のおふざけに、場の空気が和らぐ。
一頻り笑った後、
「ふう、さて……そろそろ誤魔化すのもキツくなってきたし、現実みよか」
八神がそう切り出した。
さっきも言ったように議題はゆりかごの他にもう一つある。
会議室のド真ん中、テーブルに置かれた厳重そうなケースが複数。
本来なら本局の崩壊と共に虚数空間を漂っている筈の、ここには無いはずの物。
「…………これ、どうしよっか」
つまり、聖遺物である。
「いやホントどうすんだよこれ」
「というかなんで此処にあんのよ」
ランスターのもっともな疑問に答えるやつは誰も居ない。
それもその筈、いざ会議をするぞと部屋のドアを開けた時既にここにあったからである。
まさかと思い、クロノ提督に聞いてみたが「何それ知らん……怖(意訳)」と返された。
レジアス中将は胃の辺りを抑えながら、
「元々、そちらと関連した物だろう?その、なんだ、管理は……任せる……痛たた」
とぶん投げられた。
ここ数日殆ど寝てない上に絶えず指揮しているストレス、察するに余りあるのでそっとしておいた。
この案件までぶん投げたらぶっ倒れそうだったし。
で、現実逃避しながら会議して今に至る。
「管理するってもな……そういや、ナカジマは聖遺物使ったんだよな」
「え、ああうん」
俺からのパスにナカジマは右腕を掲げる。
デバイスと融合したらしいそれは、今はナカジマの右手の甲で剣の様な紋様になっている。
なんでも、戦いの最中気付いたら聖遺物──剣の欠片を手に握っていて、無意識に使っていたとか。
「つまり聖遺物は勝手にピンチのナカジマの所にワープした上に、使わせたと」
「なにそのホーミング呪いのアイテム」
「その第一被害者お前だぞランスター」
「……そうだったわ」
額をぺしりと叩いてランスターは天を仰いだ。
いや自覚無かったんかい。
「んで、ナカジマ。その後はどうだ、身体の調子は」
「うーん、特に問題は無いかな?傷の治りが速かった位かも」
どうやらエルトリアでの俺のような殺人衝動はまだ無いらしい。
その点は良かったと言える。
しかし、管理か……
どうするべきか悩んでいると、シグナムが挙手した。
「主、聖遺物はそれぞれ反応を示した者が居たと思いますが」
「あー確かに、シャーリーが言っとったね」
「ナカジマが使用した聖遺物……剣の欠片もそうだった筈。ならばこれらの聖遺物は既にそれぞれ担い手を選んでいると考えて間違いないかと」
「つまり?」
「いっそ聖遺物を担い手に預けてしまっては?」
八神がめっちゃ渋い顔になった。
あれだ、「それはそうなんだけど、立場的に言いにくいんだよねそれ」みたいな板挟みの顔だ。
とは言えシグナムのいう事も、一理ある。
虚数空間すら移動してくる以上、どこに置こうが関係無いだろうし、それならいっそ紐付け(強制)された人に持っていてもらった方が分かりやすいし、ナカジマのように窮地での助けになる可能性もある。
ただし、聖遺物の特性……魂の消費を考えると諸刃の剣だ。
だからこそのあの顔である。
運良くナカジマもランスターも殺人衝動が起きていないだけで、使った瞬間に衝動に襲われたり、急速な魂の消費で死ぬ可能性もある。
いつ爆発するか分からない爆弾を預けるような真似だ、流石の八神も即答は出来ない。
「うーん……」
とは言え、戦闘機人……偽典聖遺物に対抗するならばこの上ない力になるのもまた事実だ。
如何にディバイダーとフォートレスを装備したとて、聖遺物を発動した戦闘機人に勝つのは正直、無謀だろう。
それを考えると聖遺物を持たせた方が戦力的には良い。
悩む八神に、会議室は沈黙する。
「……………………わかった」
長い唸り声の後、瞑目していた八神ははっきりと宣言した。
「出撃時、適合者全員に聖遺物を渡す──皆に、預ける。これは賭けになる。皆、乗ってくれる?」
『了解!!』
命懸けの賭け。
それでも、この場に居る連中は即答した。
場当たり的な熱狂では無い。信頼し、ここまで六課を引っ張ってきた八神の言葉だからこその答えだった。
そんな視線を受け止めて、八神は大きく頷いた。
「──決戦は明後日。皆、気張っていこう!!」
「………………む」
薄暗闇の中、リヴィアスは瞼を開く。
どうやららしくもなく微睡んでいたと自覚して、溜息を吐く。
視界に広がるのはかつての暗闇でも、書斎でも無い。
幾何学的で無機質な冷たい空間だった。
聖王のゆりかご。
自らの願いの為、そして友自身の願いのために用意された、『門を象る方舟』。
その中の一室に、リヴィアスは居た。
「珍しい、君が眠るとは。一体何時ぶりだい?」
「さてな、もう覚えていないさ……ジェイル」
一人だった筈の空間に現れた友人に驚くでもなく笑ったリヴィアスは、正面のソファで当たり前のように寛ぐスカリエッティを見た。
「……例の『鍵』、使えるのか」
「もちろん、調整は完璧だとも。その為に態々あちらに預けるなんて回りくどい事をしたのだから」
「母への
「それも考えたがね、出力が足らないのは目に見えていたのさ。大体──つまらないだろう、それ」
道化のような大仰さで肩を竦めてみせるスカリエッティにリヴィアスは呆れたように鼻を鳴らす。
「まあ、使えるならそれで構わんが……あとどれ程掛かる」
「明日には完了するね。そうしたら後は……」
「月の並ぶ時……明後日か」
その時こそこの世界と別れ、互いの願いの為に神の摂理に牙を剥く時だ。
「君をここまで連れてくるのに一体どれだけ掛かった事か。ああ、漸く私は私のユメを叶えられる。感謝するよ、我が友よ。私を見出してくれてありがとう」
恍惚と語るスカリエッティからの感謝に、しかしリヴィアスは静かに首を横に振った。
普段とは違う様子に、友であるスカリエッティも怪訝となる。
「違う……違うのだよ。ジェイル、我が友よ」
輪廻を破却する前の、最後の時間。この先に感傷する間隙などありはしない。
だからだろうか。リヴィアスは言葉を止められなかった。
「私がお前を見出したのでは無い。ジェイル・スカリエッティ──いや、名も無き者よ。お前こそが、私を見出したのだ」
一人の男が居た。
肌は浅黒く、紫の髪は砂と土にくすみ、金の瞳は濁っていた。
痩せた身体に黄ばんだ服とも呼べぬ襤褸を纏い、同じような者達と共に暗い穴蔵へと押し込まれていた。
男は炭坑夫の奴隷だった。
人としての尊厳もなく、十把一絡げにまとめ買われ、使い潰される。
鶴嘴を振るい、岩壁を砕く。
日々の繰り返しの中で、死人が出ない日は無く。
ある者は飢えて死に、ある者は喉の渇きに死に、ある者は砕けた石片に刺され死に、ある者は生き埋めになって死んだ。
男は元は神職にあった。
日々の平穏、作物の豊穣、隣人の幸福を神に祈った。
それが、奴隷となった。些細な事で。
男には解らなくなっていた。
祈り、願い、その為に働いた。
だというのにこの有り様だ。
──私は何に祈ったのだ?
見えもせず、触れもせず、誰が作ったかもしれぬ像と名しか知らぬ神に。
その果てにあったのは動乱と、飢餓と、不幸ばかりだ。
だからこそ、男は思う。
──神とは、本当に居るのか?
──無辜の民が踏みにじられ、罪人が跋扈するこんな世界に、果たして神は在るのか?
『存在/不在』の、『証明/確信』を求めた。
故に願った。ただ一つを。
──神を造ろう。
──見え、触れて、誰もが知り、名を語る神を。
鶴嘴を振り下ろす。
──もしも、本当に神がこの世界におわすならば。この行いを糾すだろう。
鶴嘴を振り下ろす。
紛れもない神威の冒涜を求めた。
それはある種の希望だった。
鶴嘴を振り下ろす。
──もしも、本当に神がこの世界に居ないならば。私の造った神が世界を糺すだろう。
鶴嘴を振り下ろす。
確固たる神の摂理を求めた。
それはある種の絶望だった。
鶴嘴を振り下ろす。
矛盾を抱えながら、それでも男はそれこそが唯一だと高らかに笑った。
そして、その願いの種火は目の前にあった。
暗い穴蔵の底、鶴嘴が砕いた岩壁の先に。
世界の隅に追いやられたような真っ暗な闇の中で。
骨と皮だけになったそれを見た。
落ち窪んだ眼窩の奥に蠢く呪いを。
生きている。これはまだ、生きている。
笑う、嗤う、微笑う、嘲笑う。
ああ、ああ……出会ってしまった。見つけてしまった。
手を伸ばし、語りかける。
『やあ、君。醜い君よ。私が君を神様にしてあげよう』
那由多の回帰の果て。
──その日、狂気は見出された。