魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe-   作:フォールティア

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/7 Letzte Nacht

 

 

地上本部 機動六課臨時総隊長室

 

「主、シャマルとザフィーラの容態が安定したと教会から連絡が」

 

「ほんとに?……よかったぁ」

 

午後の日差しが差し込む中、冷静な声と裏腹に慌ただしく部屋に入ってきたシグナムの報告に、はやては安堵の息を吐いた。

六課への戦闘機人達による襲撃の際、二人は戦闘機人とガジェットの群れと交戦、重傷を負い教会付属の病院へと移送されていた。

シグナムも内心不安だったのだろう。

はやてと同じ様に胸を撫で下ろしていた。

 

「リンクが弱まった時は焦ったけど、なんとかなったみたいやね」

 

「ええ……ですが」

 

頷きつつもシグナムは僅かに顔を曇らせた。

 

「うん……明日の戦いには出せへんね」

 

「はい……」

 

はやての持つ『夜天の書』。

その守護騎士として存在する彼女達にとって、主──はやての為に戦うのは誇りだった。

しかし、先日の戦いではスカリエッティらに良いようにされ、事実上の敗北。

シャマルとザフィーラは汚名を濯ぐ事も出来ず、後方で眠るしか無い。

その無念、その忸怩たる思いは、同じ騎士として仲間として痛いほど理解できる。

 

「シグナム」

 

沈黙するシグナムの様子に、はやては声をかけた。

 

「はっ」

 

「今、動ける守護騎士はシグナムとヴィータ、リィンだけや」

 

「はい。前線で戦えるのは我々三人だけです」

 

「……シャマルもザフィーラも、六課のみんなを守る為に立派に戦った。私はそれを誇りに思うし、尊敬しとる。だから、今度は私らの番や」

 

「私たちの、ですか」

 

「そう、私らの番。二人の分も戦って、戦い抜く。あっさり負けましたなんて、二人に顔向け出来ひんやろ?」

 

肩を竦めてみせたはやてを見て、シグナムは漸く固まっていた表情を崩した。

これは激励だ。はやてなりの。

 

(全く、らしくなかったな私は)

 

二人が倒れたことに、想像以上に衝撃を受けていたようだ。

ああ全くらしくない。

主の言う通りだ。二人が倒れたというのなら、二人の意志も背負って戦うだけ。

それにすぐ思い至らなかった己の未熟さを恥じる。

 

「恥じる事はないんよ。それだけ、私達を思ってくれとるって事なんやから」

 

「主、心を読まないでください」

 

気恥ずかしくて、クレンのようなツッコミを入れてしまう。

だがおかげで肩の力も抜けた。

……肚は決まった。

 

「ん、もう大丈夫そうやね」

 

「はい。覚悟は決まりました。ありがとうございます、主」

 

感謝の言葉と共に一礼を捧ぐシグナムの顔は、何処か晴々としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

夜の地上本部は、昼と打って変わり静けさに包まれていた。

とはいえ皆が皆寝静まったわけでもなく、疎らに明かりが灯りその中でまだ動いている者たちも居る。

足下にその灯りを見ながら、俺はバルコニーの柵に寄りかかりクラナガンを眺めていた。

 

明日は、文字通りの決戦だ。

 

多くの者が死ぬだろう。何せ相手は神話の怪物にして神になろうとする者と、それを是とした狂った科学者だ。

少ない犠牲、なんて望むべくもない。

今日笑い合った仲間が醜い肉塊になるような戦場になる。

そんな明日を思いながらも、思考は己の内側へと向かう。

 

思い出すのは先日の事。

水銀の蛇──ファリア・メルクリウスと出会った時の会話。

 

 

 

 

 

 

 

『──しかし、なるほど。覇道となるとは』

 

この世界の成り立ち、神座語り、聖遺物、そして神になろうとする怪物の事を話終えたメルクリウスが感心した様に頷いた。

 

『覇道──アンタが言ってた渇望の傾向、だよな』

 

『然り』

 

『何がなるほどなんだよ?』

 

俺の聖遺物、その創造位階は世界を己の摂理に書き換える覇道の型である。とはメルクリウスの言だ。

だがメルクリウスにとってそれは意外な事態だったらしい。

と言っても驚いた様子は無く、相変わらずの貼り付けたような顔だが。

 

『違和感を、感じてはいないかね?』

 

そして唐突にそんな事を言ってきた。

 

『違和感?』

 

『復讐、恩讐、応報。それは果たさぬ限り燃え続ける業火であり、果たした後に燃え尽きる衝動だ。それを以て覇道に──創造の先に向うその意味がわかるかね?』

 

『…………それは』

 

メルクリウスのその問いに、俺は即答することが出来なかった。

……エルトリアの戦いの後から、確かに違和感のようなモノはあった。

俺の渇望、それは『全てが報われればいい』という願い。

復讐は果たされ、恩讐は満たされ、応報は成される世界。

故に俺の創造はあの様なカタチになった。

そう、全てが報われる。報われてしまう。

その渇望が、もしもその先へ至ってしまったら……。

 

『ああ、そういう事か』

 

そこまで考えて、俺は理解した。

同時に、納得もした。

どうして俺がこの渇望を持たされて生まれた(つくられた)のか。

一つ頷いて、メルクリウスを見る。

 

『アンタ、嫌われモンだろ』

 

『褒め言葉として受け取ろう、落胤よ』

 

嫌味にも涼しい顔で答えるメルクリウスに、俺は肩を竦めて背を向けた。

 

『なあ、メルクリウス』

 

『何かね?』

 

『アイツらは、ちゃんと黄昏(・・)に行けるのか?』

 

『…………無論だとも、彼女は総てを抱きしめる(・・・・・・・・)のだから』

 

 

 

 

 

 

 

 

「──クレン?」

 

「っ」

 

急な呼び声に、意識が引き戻される。

振り返るとバルコニーの入り口に立つ八神が心配気な表情で俺を見ていた。

 

「八神か……どうかしたのか?」

 

「それはこっちの台詞や。何回呼んでも返事せんから一発引っ叩こうかと思ったわ、夜天の書の角で」

 

「地味に痛いのやめろ」

 

言いながら八神はつかつかと此方に歩いてきて俺の隣に立つと、俺と同じ様に柵に寄りかかった。

 

「何考え込んでたん?」

 

「ん、まあ……明日の事をな」

 

流石に素直に話す事は出来ず、ありきたりな言葉で誤魔化すと、八神がジト目で俺の顔を覗き込んできた。

 

「……ま、そうゆうことにしといたる」

 

どうやら許されたようだ。

乗り出していた身体を戻した八神と、夜の街を並んで眺める。

かつてあった不夜城のような街並みは消え、ポツポツと灯る明かり以外は夜の闇に沈んだクラナガンの様子は、どこか空虚に映る。

 

「明日、全部決まるんやね」

 

「……そうだな」

 

勝つも負けるも、全てが決まる。

頷いた俺に、八神は暫く黙ったあと意を決したように口を開いた。

 

「ねえ、クレン」

 

「なんだ?」

 

「もし、クレンが神様になったらどうするの?」

 

「─────」

 

核心を突いたその言葉に、息が詰まった。

それはまるで、この戦いの行く末がどうなるか分かっているような一言だった。

八神は相変わらずクラナガンに視線を向けたままだが、下手な誤魔化しは許さないと、そう雰囲気に出ていた。

 

「……どうして解った」

 

「ただの情報の組み合わせや。聖遺物使いは聖遺物使いにしか倒せない事。セフィロトの四世界──アッシャー、イェツラー、ブリアー、アツィルト。そして神になり損ねた敵。これだけあれば何となく解るもんよ」

 

「…………」

 

「相手は神、あるいは神に近しい存在。それと戦うなら同じく神の位階に至らなきゃならない。そして必然、一つしか無い『座』を奪い合う事になる」

 

昨日のメルクリウスとの会話とこれまでの情報の積み重ねによる、確信めいた語り口に、俺は口を挟む事が出来なかった。

 

「敵は狂気による破滅を。なら、クレンは?この戦いの果てで勝った時、クレンは──」

 

何を望むの?

途切れた言葉の先を理解して、俺は。

 

「全てが報われる世界を」

 

一言、そう答えた。

 

「…………そっ、か」

 

絞り出すような八神の声に、胸のあたりが苦しくなる。

聡いコイツの事だ。多分もう、俺が何をしようとしているのか分かったんだろう。

長い沈黙が、バルコニーに流れる。

 

「…………」

 

「…………」

 

あんな会話の後だと言うのに、不思議と居心地は悪くなかった。

見上げれば満天の星空が頭上に広がっている。

 

「……私は」

 

不意に、八神が口を開いた。

 

「私は、クレンに居なくなって欲しくない」

 

「え……」

 

「傍に居るとなんか安心するし、なんも言わんくても応えてくれるし、可愛い言うて褒めてくれるし」

 

「おい」

 

なんか最後変なの混ざってたぞ。

というかいきなりなんなんだ!?

 

「強いのにすぐボロボロなって死にかけるし、勝手に居なくなるしなろうとしてるし、人のこと不安にさせるトーヘンボク」

 

褒めたと思ったら急にディスられたんだが。

矢継ぎ早に次々と言いたいだけ言い切った八神が、息を一つ吐き出す。

 

「だから、だからホントは……行ってほしくないんよ」

 

そして、小さく呟いて俺の袖を握った。

 

「八神……」

 

「私の隣に居て欲しい、笑っていて欲しい。ずっと、ずっと思ってたし今でも思ってる。クレンは、どう?」

 

普段の八神とは違う、シンプルな言葉が胸を叩く。

総隊長として毅然と振る舞ってきた八神が、ただの少女『八神はやて』として俺に語り掛ける。

無理矢理ではない優しい問い掛け。けれど俺は、この問いにはちゃんと応えないといけないと、そう思った。

 

「俺は……俺だってそうしたいさ」

 

これまでの八神との記憶を思い出す。

隔離街からの引き抜きなんて無茶に始まり、お互いにバカをやったりやられたり、エルトリアでは辛い思いばかりさせた。

思えば、八神には心配掛けさせてばっかりだ。

そして、大事な時に隣に居てくれたのも、やっぱり八神だ。

大丈夫だと、安心させるようなあの笑顔を思い出す。

 

「あぁ」

 

そこまで考えて、気付く。

いや全くもって今更な話だ。

或いは気付かないフリでもしていたのだろう。

それでも、気付いて納得してしまえばこんなにもあっさりと認められる。

だからだろうか、

 

「俺は、アンタに惚れてたんだな」

 

口が滑った。

覆水盆に返らず。吐いた言葉は戻せない。

言葉が続かないまま思わず八神を見ると視線がかち合った。

 

「────ずるいなぁ」

 

俺の顔を見た八神が、そう言ってはにかんだ。

 

「な、なにがだ」

 

「私が、先に言いたかったんよ」

 

「────」

 

朱の差した頬のまま、いたずらっぽく笑う八神に何も言い返せなかった。

今、なんて言った?

八神は固まった俺に肩を寄せると、顔を覗き込んで言った。

 

「私も、君に惚れてたんよ、クレン」

 

────これは、参った。

心臓が早鐘を打つ。一体今俺はどんな顔をしているんだろうなんて、下手な誤魔化しめいた思考が走る。

なんてこった。これまでの人生で一度もなかった、言語化できない感覚に頭がバグりそうだ。

煩悶とする俺を見てクスクスと笑ってから、八神は俺の頬に触れた。

 

「ねえ、クレン。明日、君は行っちゃうんやろ」

 

「あ、あぁ」

 

「うん、それについては頑張って納得する。だから……今夜は、傍に居させて?」

 

「おまっ───っはぁ、ズルいだろ、それ」

 

そんなの、断れるわけないだろ。

 

 

 

 

月明かりの照らす可惜夜。

俺とはやては月を眺めながら共に眠り、朝を迎えた。

 

 

 

 

 

最後の朝が、やってくる。

 

 

 

 

 





次回、決戦開幕。
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