魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe- 作:フォールティア
「ミッションの概要を説明する」
薄暗い地上本部ブリーフィングルームの中、投影モニターの前に立つレジアスが切り出すと共にモニターに映像が映し出される。
「ミッションオブジェクティブは聖王のゆりかごと称される戦略兵器の破壊及びジェイル・スカリエッティ一派の撃破となる。聖王のゆりかごの姿形については未だ判明していないが、過去の文献をスクライア司書長が調査したところ、恐らく我々の次元航行艦と類似している可能性が高い。これを踏まえ、敵方の侵攻ルートを予測した物がこれだ」
映像が切り替わり、クラナガン全体を捉えた衛星写真が現れると、海側から赤い凸印が地上本部へ向けられた。
「敵方の戦力は聖遺物と呼ばれる特異な力を持つ戦闘機人が複数名。ガジェットドローン、スカリエッティ、そして……クラナガンに於いて大量錯乱を引き起こした仮称『邪竜』。機動六課の収集した情報から、ガジェットドローン以外は同じく聖遺物を持つ者以外では対処が不可能との結論が出ている。よって我々の取る陣形はこの陣形となる」
地上本部前に青い凸印が複数置かれる。
その形は大きな三角形を描いており、魚の鱗のようにも見える。
「魚鱗陣形を用いつつ、クラナガン市街地内から海岸線へ侵攻する。陣頭は聖遺物を持つ機動六課。ゆりかごへの突破口を作りつつ戦闘機人の対処をしてもらう。その後方に地上、本局の魔導士部隊。八神はやて機動六課総隊長の指揮下に入りガジェットドローンの排除を担当してもらう。最後方に次元航行艦隊。砲撃による援護、フォートレスⅢへの魔力供給を行う。艦隊指揮はクロノ・ハラオウン提督に一任する」
はやて、クロノが立ち上がり敬礼したのを見て、レジアスもまた立ち上がる。
その目に映るのはブリーフィングルーム狭しと集まった多くの者達の視線だった。
視線の重さを感じつつ、全体放送のスイッチを入れレジアスは語る。
「──諸君。管理局本部は壊滅し、クラナガンは廃墟となり、地上本部もまた大きな打撃を受けた。多くの命が奪われ、時空管理局が今日まで積み上げて来た秩序は崩壊し、遂には次元世界全てが破滅させられようとしている。
未だ悲しみの、苦しさの渦中にある者も居るだろう。失った辛さに涙を流したくもなるだろう。
だが、忘れてはならない。我々は、時空管理局局員である事を。
喩え管理局が無くなろうとも、我々が為すべき事、その理念は何一つ。何一つとして変わらない。
それは次元世界の秩序を──其処に住まう命を守る事だ。
此度、我々が戦わなければそれすらも意味を為さなくなる。
大敗を喫し、援軍すら望めぬ我々だが、それでも未だ多くの人々の命運が我々の後ろにあるのだ。
私は、それを守りたい。
諸君。今日ここに集い、戦うと決めた時空管理局局員諸君。その覚悟に心から感謝する。ありがとう。
諸君らこそがこの戦いの趨勢を決める最大の力であり、滅びの未来を変える最後の鍵なのだ。
…………我々は、共に在る。共に杖を執り、共に空を駆け、共に地を疾走ろう。
そして共に──」
一度言葉を切り、大きく息を吸い込む。
そして万感の思いを込め、叫んだ。
「──共に、勝利を!!!!」
『はっ!』
レジアスの激に、ブリーフィングルームのみならず、放送を聴いた全ての者が立ち上がり敬礼する。
戦禍の渦中、滅びが眼前に迫る中。クラナガンに残った者達の意志は今改めて一つとなった。
12月24日。
回帰する世界に、終わりが近づいていた。
変わり果てたクラナガンの廃ビルの一つに降り立ち、街を一望する。
かつての賑やかさは既に無く、今では数多の武装が犇めき合う城塞のような街並みは、否応無く俺達が戦地に居ることを自覚させる。
機動六課スターズ分隊、ライトニング分隊はそれぞれ魚鱗陣形の左右に展開、俺はその中央……つまり陣の中で最も突出した位置に配置された。
まさに矢面、一番槍の形だ。
隔離街のロクデナシが随分と出世したものだと、改めてここまでの環境の変化に苦笑したくもなる。
「クレン」
そんな風に物思いに耽っていると、配置の最終確認を終えたはやてが上空から降り立った。
はやては俺と同じ中央の配置で、俺の援護と部隊の指揮を任されている。
本来なら陣の後方、一般魔導士の方に居るべきなんだが……
「お前、本当に付いてくるのか?」
「だって現状一番安全やん、クレンの隣」
リインフォースをそちらに置いて、自身は俺と共に前線に出張ると言うのだ。
まあ、はやての殲滅力はエルトリアで散々知っているから、正直心強いが。
ハラオウン提督達も、はやてを前線指揮に回して殲滅魔法で露払いして貰った方が良いとこれを認めている。
「クレンには『邪竜』の相手っていう大仕事が待っとるんやから、なるべく体力を温存しといて貰わんと」
「……そうだったな」
クラナガンで大量錯乱を引き起こした、メルクリウスの語った『神になり損ねた邪竜』。
そいつこそがこの戦いの最大の敵であり、確実に殺さなければならない相手だ。
倒せなければ文字通り世界が終わる、正しくラスボスと形容出来る存在。
それを倒せと言うのだから、責任重大だ。
「…………」
……そして、倒した後。俺は。
「なあ、はやて」
「うん?」
不意に過ったのは、微かな寂寥感と不安。
そんな衝動に押されて、言葉が口を突いて出た。
「合言葉を決めないか?」
「合言葉?」
「ああ。理由は……解ってんだろ?」
「…………」
俺がどうするのか、どうなるのか。
はやてはもう昨日の会話で殆ど理解している。
だからこそ、今日だって俺の隣に居ようとしてくれているのだから。
俺の提案を聞いたはやては瞼を伏せて、押し黙る。
「…………わかった!決めとこか!」
短い沈黙の後に、努めて明るくはやては頷いてくれた。
震える声を、誤魔化すように。
「合言葉なら、一つ良いのがあるんよ。私とクレンなら解る合言葉が」
「それは?」
「クレンの右手に書いてあるものや」
俺の右手?
右手には十字架の────。
「ああ……成程な」
掌を見て合点が行く。確かにこれなら合言葉として不足は無い。
俺達にはお誂え向き過ぎる気がしないでもないが。
「悪くないな」
「やろ?」
いたずらっぽく笑うはやてに釣られて、口角が上がってしまう。
ああ、これならもう……不安は無い。
『クラナガン沿岸部に高魔力反応有り!!大規模転送です!!』
街の静寂を切り裂くような通信が、クラナガンに配置された全員の耳に入る。
声に従って視界の遥か先、クラナガンの水平線上に現れたのは──
「マジかよ……」
空を埋め尽くす漆黒のガジェットドローンの群れと、
「あれが、聖王の……ゆりかご」
その中に在って、異様を誇る……黄金の
「ああ、ああ……実に、実に実に実に実に!!素晴らしい光景じゃあないか!!」
聖王のゆりかご、その上に立ち海風を全身に浴びながら、スカリエッティは恍惚と顔を歪め、叫んだ。
その背後にはチンクを除いたナンバーズと、リヴィアスが立っている。
「神を造らんと幾星霜……那由多の回帰の果てに、私は!ここまで来た!おお神よ、回帰の蛇よ照覧あれ!!我が行いが悪だと言うなら糾すがいい!!糾さぬならばただ黙して待っていろ!私と!!我が友が!!その渇望を殺してみせよう!」
声高らかに叫ぶのは回帰の蛇への戦線布告。
繰り返される輪廻の破却を宣言する。
最早スカリエッティの眼に理性の光は無く、その眼に残るのは狂気に染まり切った渇望の光だけ。
「さあ、最後の仕上げだ。友よ、我が愛しき娘達よ。これが最期の……そう、『最期』の戦いだ。存分に壊し、殺し、壊され、殺されようじゃないか。そして開こう、
高らかに謳い上げ、スカリエッティは指差す。
標的は其処だと、滅ぼすべきは彼処だと、死ぬべき場所は彼方だと。
時空管理局、次元航行艦5隻、戦闘員643名。総人員数2456名。
スカリエッティ、戦略質量兵器搭載型次元航行1隻、戦闘員11名、ガジェットドローン17万8500体。
「目標、クラナガン──進軍開始」
最後の戦い。
その火蓋が、砲撃と共に切って落とされた。