魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe- 作:フォールティア
「専用デバイスぅ?」
「うん、専用デバイス」
俺のトンデモ肉体パフォーマンス露見から3日、最近よく絡んでくるヴァイスとグリフィスの二人と朝飯を食っていると(ここの食堂の飯はマジで美味い、マジで)、高町がそんなことを言ってきた。
「……普通、嘱託のやつにそこまでするか?」
「だって君普通じゃないし」
「…………」
野郎、ストレートに人が気にしてる事を……!
「まあ、こいつぶっ飛んでんのは確かだわな」
「るっせぇぞヴァイス、またデコピンしてやろうか?」
「おいおい、冗談だっ……ってぇ!?」
とか言いながら笑うヴァイスの右手にすばやくかつ力加減をしたデコピンを打ち込んでやってから高町に向き直る。
「あー、そりゃ俺の
「そんな感じかな。今のままだと実際に任務に出すにも支障が出るし、対外的にも持っておいた方がいいからね」
「ふーん……」
確かに、デバイス無しBJ無し、そんでもって聖遺物丸出しで戦っちゃ他の所にいらねぇ火種を蒔くことになるか。
それは確かに八神からしても歓迎したくない事態だろうな。
こっちとしても、あるに越したことはないので、ありがたく頂戴するとしよう。
「ま、そういうことなら。で、今日は俺はどうすればいい?」
「今日はデバイスとのフィッティングかな、シグナムさんが練習相手になるって言ってた」
「あれ?デバイスってもう出来てるんですか?」
予定を聞いていると、隣で茶を飲んでいたグリフィスが高町にそう訊ねた。
確かにおかしいな……専用デバイスってそんな簡単に出来るモンじゃない筈。
ようやく痛みから復帰したヴァイスもそこが引っ掛かっているらしく、疑問の目を高町に向けていた。
「んー、それは見てのお楽しみってことで。時間は何時も通りだから、よろしくね」
「あ、ああ」
……なんかはぐらかされた気がするが、まあいいか。
そそくさと去っていった高町の背を見送って、俺達は食事を再開……
「やっべぇ、そろそろ時間じゃねぇか!」
「では、僕はお先に失礼します」
「グリフィスてめ、って速っ」
「んじゃ俺も。あー忙しい忙しい」
「お前もかよ!?」
ゆっくり飯食ってたお前が悪い。
「さて、こうして直接話すのは3日ぶりか」
「そうだな」
「ふ、そう警戒するな。別に取って食ったりはしないさ」
時間と場所を移して、只今シミュレーター演習場。
並び立つビルの樹海で俺は桃色の髪を後ろに纏めた(ポニーテール?だったか)女─シグナム─と相対していた。
既に相手はBJを展開しているが、こっちはそれすらない全くの無手だ。
「さて、今日はお前のデバイスのフィッティングに付き合うことになっている訳だが……シャーリー」
「はい!」
シグナムの傍らに居た、シャーリーと呼ばれた眼鏡女子がアタッシュケースを持って俺の前にやってきた。
「シャーリーとはもう会っていたか?」
「ああ、この前根掘り葉掘り聞かれたよ……」
「いやぁ、あんな肉体パフォーマンス見せつけられたらつい~」
つい、の領域軽く越えてたぞ……。
四時間も質問責めとか最早拷問だからな?
本名、シャリオ・フィニーノ。機動六課の自称『メカニックデザイナー』。
自称の通り、デバイスの設計から調節、その他機械関係のエキスパート……らしい。
「それで?その中身が俺のデバイスってことになるのか?」
「その予定、ってとこですね。クレン君の身体能力に
仰々しい謳い文句と共に、シャーリーがアタッシュケースを開けると、中には四辺に銀の装飾が施された真っ黒なキューブが納められていた。
「これが……」
手に持ってみるとズシリとくる重さがあり、そして……俺の十字架ほどでは無いが、何か執念のようなものを感じる。
「試しに展開してみてください。一応形状は調節してあるので多分違和感は少ないと思います」
「……分かった」
シャーリーが下がったのを確認して、俺はキューブを心臓の辺りまで持ち上げ、告げた。
「──セットアップ」
《Setup》
瞬間、視界が光に包まれたかと思うと、デバイスの展開はあっという間に完了していた。
「ふむ、それがお前の……」
関心したようなシグナムの声に、俺は自分の姿を眺める。
黒いコートに簡素なインナーアーマーとグローブ。そして目を惹く金属質のブーツ。
何より特徴的なのは……
「……十字架?」
右手に持った巨大な十字架だ。
十字架と呼ぶにはあまりに無骨なそれは俺の身長よりも大きく、重い。
聖遺物の十字架とはまた違う、無機質なデザイン。
十字架の中央に持ち手があり、その表には赤いデバイスコアが。そこを起点として上下左右に
重量もかなりあるようで、突き立った衝撃で道路のセメントに小さく罅が入っていた。
「かつて管理局のデバイス開発課の研究者数名が作り上げ、ただの一人も使いこなせる人が居なかった最重量かつ最硬にして、単独での
「ヴィーザル、か」
日光すら呑み込む、艶のない黒色のそれを見上げ、名を呼ぶ。
《
重々しい、まるで巌のような声がデバイスから返ってきた。
これはどういう事かとシャーリーを見ると、嬉々として説明を始めた。
「元々はストレージデバイスだったんですけど、高度な火気管制が必要ってこともあって自律的にそれが出来るインテリジェントタイプに切り替えたんです!改造に協力してくれたカレトヴルッフ社の方たちには感謝しないとですね!さっきも言った通り元々はタワーシールド型だった形状を十字架型に、各種武装は据え置きなのでご安心を。外装変形機能をオミットして上下左右に武装を積んで、持ち手に回転機構を付けたので状況に応じて上下左右を切り替えて使うようになったんです!癖は強いですけどこれだけでかなりの簡略化ですよ!すごいですよね!!」
「あ、ああ、すごい、な?」
あまりの早口に9割がた話が理解出来なかった……。
ただまあコイツがかなり扱いづらい代物だってのは分かった。
後は実際に使ってみてからだな。向こうもそれがお望みらしい。
「シャーリー、そろそろ良いか?」
「積層外殻装甲のスライド機能が──あ、ごめんなさい!大丈夫です!」
シグナムの言外のプレッシャーにシャーリーは慌てて話を終わらせるとそそくさと下がっていった。
「さて、シャーリーには離れた場所からモニタリングしてもらうとして。準備はいいか?」
「……ああ、いつでも」
「最初は慣らしだ。デバイスにリミッターも掛かっている。適当に動いてみろ」
「分かった」
シグナムに言われた通り、いきなり実戦は流石に無理なので、ヴィーザルの感覚を掴む為に色々と動かしてみる。
「馴染むな……」
しばらく動かした後、素直にそんな言葉が出た。
聖遺物が同じ形だからか、はたまたこの並外れた身体能力故なのかはわからないが、かなり使いやすい。
これなら、あまり慣れていない魔法の行使も出来るかもしれないな。
「なあシグナム」
「なんだ?」
「一つ魔法を使ってみたいんだが、構わないか?」
「構わないが……そもそも使えたのか?」
「使えたっちゃ使えたんだが、俺のはちと特殊でな」
シグナムの問いに答えながら、ヴィーザルの持ち手を回転させ、脇に抱えるようにして構える。
丁度、十字架の下の部分に砲口があり、それが発射口になっている。
そのまま背後を振り返り、適当なビルに照準を合わせる。
《Kanonenform》
「──天駆けよ、我が
自然と口をついて出た呪文がキーとなり、今までろくに使って来なかったリンカーコアが俄にざわめき立つ。
魔力が体内を駆け巡り、外界への干渉を始める。
式を組み上げ、そのイメージをヴィーザルとリンクさせる。
即座にヴィーザルの砲口にミッドともベルカとも似ない独特の魔法陣が浮かび上がる。
それを土台に俺からヴィーザルに流れた魔力が収束を始め、拳大の魔力球を作る。
……よし、いける。
《Schwarzer Ritter Speer》
「シュート」
ヴィーザルの掛け声に合わせ、トリガーを引いた。
──轟ッ!!
瞬間、魔力球は黒い一本の槍と成り、暴力的な威力を持って標的のビルを撃ち抜き、そのまま他のビルを三つほど破壊して消滅した。
「……よし」
「いや、よしじゃないが」
若干スッキリした感じに晴れやかな気持ちになっているとシグナムにそうツッコまれた。
「言ったろ?特殊だって」
「特殊にも程があるだろう……何なんだ、あの魔法陣は?ベルカともミッドとも違う、あの妙な式の構成は」
「さぁな、俺にもよくわからん」
シグナムの詰問に肩を竦めて誤魔化す。
誤魔化す、と言っても俺自身よくわからないのは事実だ。
『シスター』の所で魔法について学んでいた時からこの魔法陣と式だったし、試しにベルカ式とミッド式を使おうとしても魔法陣の構築すら出来なかったのだから。
「……全く、とことんイレギュラーだな、お前は。しかし、何故ヴィーザルはそれに対応できたんだ?」
【多分、ヴィーザル側でクレン君の術式の組み立て方を解析したからですね】
続くシグナムの疑問に答えたのはこちらをモニタリングしているシャーリーだった。
【ヴィーザルに使われたインテリジェントタイプのデバイスコアは、元々それに組み込まれる予定だったストレージタイプのハイエンド型コアを弄ったものなので、かなりハイスペックなんです。だからクレン君の魔法式の組み立てを解析して対応出来るようになったのかも】
「よくわかんねぇが、つまりコイツはかなり凄いヤツだと」
【その通り!】
《
「最高だ」
コイツの性能もそうだが、コイツを調節したシャーリーにも、引き取ってきた八神にも感謝しないとな。
……それだけ期待を掛けられてるって事か。
隔離街では殆ど無かった、こそばゆいような妙な感覚に笑ってしまう。
「ははっ」
「どうした?」
「いや、何でもない……さ、慣らしは十分だ。本番といこうか、シグナム」
俺がそう告げると、シグナムは一瞬考える素振りをしてから、腰に佩いていたデバイスを構えた。
「……いいだろう。悪いが手加減は出来ん、構わないな」
「ああ、むしろそうじゃなきゃ困る」
対する俺も久々の魔力を使った戦闘に期待を込めて、ヴィーザルを盾のように前に出し、左腕から銀鎖を垂らす構えを取った。
「行くぞ、ヴィーザル。ついてこいよ」
《
【ではカウントは私が、いきますよー】
前にも見た、信号を模したスターターが投影され、カウントを始める。
『表』に出て来て始めての対人戦だ。力加減、間違えねぇようにしねえとな。
「ああ、そうだ。それともう一つ」
カウントが残り五秒を切った所でシグナムがぽつりと呟いた。
【4】
「何だ?」
【3】
「そちらも、加減はいらん」
【2】
「は?」
【1】
「──でなければ、つまらんからな」
【スタート!!】
カウントが切れる。
「──ッ!?」
瞬間、轟音がビル群に鳴り響いた。