魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe-   作:フォールティア

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/11 Das erste Opfer

 

「なんだよ、あれ……」

 

東区で後方支援に当たる魔導士の一人が、眼前の光景に引き攣った苦笑を浮かべた。

周囲の者達も同様に、ガジェットを撃ち落とす手こそ緩めないが、唖然とした様子だった。

それもその筈。彼ら彼女らの前に繰り広げられた光景は、もはや戦場とすら呼べぬ、災禍の坩堝だった故に。

 

赤髪の戦闘機人は瓦礫の津波を乗りこなしあらゆる物を飲み込み。

長髪の戦闘機人の剣閃は一振りの度にビルをバターのように両断し。

短髪の戦闘機人が放つ収斂した太陽光が音もなく地上を焼く。

 

三人。

たった三人によって東区は後の復興すら見込めぬ程に破壊し尽くされた。

巻き上がる炎と煙が否応なしにその事実を自覚させる。

自分達では手も足も出ない。いや、出そうと思考することすら烏滸がましい程の圧倒的な"性能差"。

その戦場の端にでも触れようものなら忽ち塵と化す、人間の領分の外側。

 

「あ──」

 

──その中に、魔導士は踊る銀の光を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ、また外したッ!!」

 

けしかけた瓦礫の波濤が外れたと確信したウェンディが苛立たしげに声を荒げる。

 

「先程以上ですね……まるで未来でも視えているような」

 

遠く蹴り飛ばしたビルが一撃で粉砕されるのを見て、ディードは顔を顰めながらウェンディの横に降り立った。

オットーも表情こそ変わっていないが、不満げな雰囲気を隠しもせず瓦礫の上に立ち、首を振った。

 

「未来視に千里眼もあるんじゃないかな。あれは」

 

そう言うと同時に上空の鏡が光を放つ前に迎撃され、オットーはいよいよ苦笑したくなった。

 

──勝ちの目が見えない。

 

聖遺物を解放して五分。これが三人の共通認識となった。

触れたもの総てを焼き溶かし波と成すウェンディの聖遺物も、

あらゆる物を一刀に伏し、断ち切るディードの聖遺物も、

収斂した太陽光が音もなく一切を焼き払うオットーの聖遺物も。

只人であれば生存など有り得ない攻撃の数々、東区の殆どを更地にして尚、ティアナ・ランスターは未だ死んでいない。

被弾の一つすらせず、淡々とこちらの攻撃を無力化している。

同時攻撃も波状攻撃も意味をなさず、不意打ちしようにも先読みしたようなタイミングで出鼻を挫かれ不発に終わる。

手のひらで転がされるなんて領域ではない。まるで『そうなるよう自分達がプログラミングされたのではないか?』と錯覚しかけ、ディードは頭を振ってその感覚を思考から追い出す。

勝ちの目が見えない。それは確かだが、だからと言ってこのまま引き下がる訳にもいかない。

どうにかして一撃を与えなければ──

 

「手札は出し切った?」

 

聞こえた声に三人は即座に飛び退ると、直前まで立っていた場所に魔力弾が撃ち込まれる。

背中から冷や汗が流れるのを感じながら、ウェンディが盾と同化した水槍を振るうと、めくり上げられたアスファルトと瓦礫の山が文字通り大波となり声の方向へと唸りを上げて殺到する。

有り得ざる陸の大海嘯。呑まれれば最期、肉片も残さずすり潰される最悪の攻撃。

災害とすら呼べるそれはしかし、

 

「これはもう"視た"わ」

 

一回の銃声。一発の弾によってその指向性、その威力を失い、糸が切れたように左右に割れて崩れ、ただの瓦礫へと戻った。

 

「11と2時の方向。これも視た」

 

瓦礫が起こした煙を引き裂いて放たれた迂回する剣閃は二回の銃声と共に砕け散り、敵を両断するという役目を果たさぬまま塵と消える。

続いて四回目の銃声が空に向けて打ち鳴らされると、今まさに光を放たんとした鏡が無理矢理に方向を変えられ、かつてランドマークだった鉄塔を焼き溶かすに終った。

 

「はぁ──全く」

 

溜息が聞こえる。

あれだけの攻撃があったのが嘘のような、この光景さえなければまるで日常の一部のような、そんな戦場(ここ)には到底似つかわしくない声音がいやに響く。

 

「偽典……偽物とは言え聖遺物は聖遺物。一体どんな多彩な攻撃を、と思ったんだけれど。さっきから同じ行動の繰り返しね。芸が無い。教練本以下よ、アンタ達の攻撃は」

 

呆れ混じりに批評を下して、ティアナはもう一度溜息を吐き出した。

 

「私が言えたクチじゃないけど、聖遺物に振り回されすぎよ。力任せも甚だしい。そんなんじゃ私一人殺せないわよ」

 

銀色に変わった髪を掻き上げ、ティアナは挑発するような目線を三人に送る。

『冗談じゃない』と言いたくなる衝動をディードは堪え、音が鳴るほどに歯噛みした。

並の魔導士なら何人居ようが殺し切るのに十秒も要さない攻撃の一切合切を、たったの一発で無に帰しておいてこうも言われれば苛立ちもする。

その様子を見ながら、ティアナは自らの視界に映る"糸"を直視する。

 

銀の弾丸を頭に撃ち込んでから──創造位階へと到達したティアナの視界には銀色の糸が視えていた。

それは敵と、敵の攻撃へと繋がっている。先程からティアナが撃っている弾はただその糸に沿って銃爪を引いただけの、狙いを付けるなんて言葉から程遠い銃撃だ。

しかし、そんな銃を使うものに有るまじき行為が、戦闘機人達の行動を封殺している。

 

──未来予測、そして撃てば確実に対象の致命的な《点》を撃ち抜き絶命させる、必中の弾丸。

何処に居ようとも必ず見つけ、必ず殺す。

如何なる力を以て圧倒しようとも、決して絶えず、その喉元に喰らいつく、人狼殺しの銀の弾丸(シルバーバレット)

怪異殺しのそれは転じて、苦境、苦難を葬る一撃という意味を持つ。

ならば、今のティアナは。

聖遺物を取り込み、創造位階へと至った今のティアナは、正しくその概念そのものと呼べるだろう。

 

故にこそ──

 

「なんッで死なないんスかアンタは!!」

 

「死ぬ気、無いからよ」

 

彼女に敗北は無い。

殺到する瓦礫の波すら越え、叫ぶウェンディの右腕を一発の魔力弾が撃ち抜いた。

本来ならかすり傷にすらならぬ筈の一撃。

だが。

 

「な────え、は?」

 

だらり、とウェンディの右腕が力無く垂れ下がる。

脳からの信号が届いていない様にピクリとも動かない。

事の異様さに気づいたオットーとディードの顔から血の気が引いた。

たった一発。弾が当たっただけでウェンディの右腕が『死んだ』。

直感的に理解したのだ。もう二度と、ウェンディの右腕はその役目を果たせないと。

 

『一度でも当たれば、その部位は死ぬ』

 

その事実に、三人は脳髄に氷柱を差し込まれるような感覚に襲われた。

戦闘機人、偽典聖遺物。人を超越した力。

狩る側であった筈の自分達が、狩られる側になっているという自覚。

絶望という死神が、三人の肩を叩いている。

 

「さて──それじゃあ、私のターンね」

 

「──巫山戯るな!」

 

「ディード待て!!」

 

引き留めるオットーを無視して、弾かれるようにディードが飛び出し、双剣を振るう。

一息に十二。只人であれば膾切りになる斬撃波が襲いくるが、ティアナは顔色一つ変えず銃爪を引いた。

 

「視えてる」

 

二発の弾丸が斬撃の重なる交錯点を撃ち抜き、無に返す。

 

「死ね、ティアナ・ランスター!!」

 

「チッ……!」

 

これまでの無感情さとは程遠い咆哮と共にディードが剣を振り下ろす。

斬撃波の迎撃に双銃は使われ、此方に銃口を向けるには一瞬の遅れが生まれる。

その隙こそ、ディードの望んだ勝機である。

 

(獲った──!!)

 

振り下ろされた斬撃がティアナの両肩を斬り落とす。

両目を見開いたティアナの身体が膝を突く。

勝負を決する一撃が決まった確信が、ディードの荒れた意識を落ち着かせた。

これで終わりだ。そう安堵して後ろを振り替えり、ウェンディとオットーを見ると、駆け出しながら何かを叫んでいた。

 

「逃げろ、ディード!!」

 

「え?」

 

カチャリ。

顳に、ナニカを押し付けられた。

 

「残念──不正解よ」

 

忌々しい声が、左から聞こえる。

 

「なん、で?」

 

カチカチと歯がなる口から、震えた声が漏れる。

弱々しい問いかけに、『死神』が笑う。

 

「知らないのかしら?私は双銃使いであり──幻影魔法の使い手よ」

 

銃爪に、指が掛けられる。

 

「やめ──」

 

「さよなら」

 

ぱんっ、と。

気の抜けるほど軽い音と共に魔力弾がディードの頭を撃ち抜いた。

ぶつ切りになっていく思考と視界の中、自分が斬ったティアナが靄のように消えていくのが見えた。

 

(あ、ぁ……わた、し──ごめ──)

 

後悔と、2人への謝罪を声にならないまま呟いて。

 

ディードは機能を停止した。

 

 

 

 

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