魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe- 作:フォールティア
「……存外、呆気のないものね」
地に斃れ伏したディードの姿を見ながら、ティアナは呟く。
東区を焼け野原にした内の一人だと言うのに、その死はティアナの言葉通り、呆気無いものだった。
凄絶でも劇的でも無く。戦場にありふれた、虚しさすら感じる死であった。
聖遺物使いであろうとなかろうと、戦場における死とはつまりそんな物なんだろうと、答えの無い自問自答がティアナの思考を掠める。
「ティアナ・ランスタアァァ!!!!」
東区全てに響く叫びが、ティアナの視線を現実に引き戻す。
声のした方向を見ると、憤怒の表情を浮かべたウェンディとオットーが此方を睨んでいた。
戦闘機人が、仲間の死を悼み、怒っていた。
まるで
そうティアナは理解し、そして──頬を引き攣らせた。
「怒る?アンタ達が?仲間を殺されて?は、ハハ──ハハハハハハ!!」
なんだそれは。
口端から笑いが漏れ出し、止まらない。
あぁ、なんてことだと、思わず天を仰ぐ。
一頻り笑った後、溜息を吐き出して漸くティアナは二人を見た。
「──巫山戯るな」
「「!!」」
殺気が、二人の心臓を貫いた。
膨れ上がった怒りすら叩き潰す、あまりにも冷たく鋭い殺気を溢れさせながら、ティアナはクロスミラージュを強く握り締める。
「仲間を殺されて怒る?そんな権利がアンタ達にあると思っているの?これだけの事をして、これだけの死をばら撒いて、傷つけておきながら、いざ自分達がそうされたら被害者面って?」
ギリッ、と音が鳴るほど歯噛みをしてティアナは二人を睨み返す。
「巫山戯ッけんじゃないわよ!!だったら最初から戦場になんか立つな!!加害者が、被害者面するんじゃない!!」
二人の怒りを正面から蹴り飛ばすような咆哮がウェンディとオットーの息を詰まらせる。
「……ハァ」
そんな様子を見て、ティアナは大きく息を吐き出して熱された頭を冷やしながらも思う。
残酷な事だ、と。
仲間の死を想う。そうできるだけの情緒がありながら、大量破壊兵器として運用される彼女達の事を。
聖遺物は渇望──人の意志によってその力を発揮する。故に必要だったのだろう。心が。
兵器であるならば、ただの武器であるならば、そんな物を付けなかっただろう。
矛盾した兵器、戦闘機人。
或いは別の世界であったなら、こんな風にはならなかったのかも知れない。
やがては笑い合える、そんな結末があったのかも知れない。
だが現実はそうじゃない。そうはなり得ないのだ。
もう──彼女達は奪い過ぎた。
「残酷な事ね」
改めて、声に出す。
それはこの現実に対してか、或いは有り得ざる未来を考えた己自身に対してか。
どの道、既に銃爪は引かれている。どれだけ怒りを吐き出そうが、もしもを考えようが、栓の無いことだ。
訪れる結末は一つだけ。
どちらかの死だけだ。
その事を対面の二人も理解しているのだろう。
憤怒はそのままに口を閉ざし、静かに武器を構えた。
パキ、と。瓦礫の割れる音が戦場に響く。
刹那、激突するは二発の魔弾と光線、そして圧縮された鉄塊。
激突し、相殺し、弾け飛んだそれを皮切りに、戦場は喧騒を取り戻した。
無数の瓦礫と光線が矢継ぎ早に放たれ、ティアナを飲み込まんと怒濤の勢いで殺到する。
剥がれ飛び散るアスファルト。その下から数十年ぶりに顕になった土の地表が空を見る間も無く光線に焼かれ赤熱する。
周囲も己も関係無く、後先を考えない自殺紛いの波状攻撃に、先程まで圧倒していた筈のティアナの攻勢が圧され始める。
四方八方から同時多発的に来る攻撃に、両手も、展開した無数の魔力球もギリギリでの対応を迫られている。
「チッ……!」
──相手の対応力以上の物量による圧殺。
これこそが、ウェンディとオットーが選択した怨敵を殺す方法。
しかし当然、生半可なものではティアナに封殺されて終わりだ。
ならばどうするか。
聖遺物と言えど所詮は偽物。それが持つ意味を理解せず、ただ『兵器』としてしか使えない。
答えは至極単純だ。文字通り、命を賭ければ良い。
そう。ティアナ・ランスターという化物を殺す結末の為に、二人はその先の一切を捨てた。
ここで自分達が死ぬことを認めた、捨て身の特攻。
「ガッ、ア──!!」
「まだ……まだだ……!!」
ストックの魂も、己自身すら
例えティアナが既に死んでいたとしても、止めるつもりは無いし、止められない。
東区諸共、一切合切を壊し尽くすまで、この
「────フゥ」
その殺意の奔流の只中に晒されながら、ティアナは深く息を吐く。
周囲は既に瓦礫と光線に埋め尽くされ、空すら見えない程の包囲網。
それらがティアナに到達するまで後2メートルも無い位置で、生成された魔力球による秒間数千発を超える弾幕に何とか抑えられている。
しかしそれも時間の問題だ。計算するまでもなく、向こうの命が尽きる前にこちらに攻撃が到達する。
幾ら本物の聖遺物とは言え、これだけの大質量。
動きを止められるのは確実だろうし、死なないという確証も無い。
──等と。今までなら考えただろう。
だが、違う。今は違う。
ティアナにそんな"不安定な未来"は視えていない。
目に映る銀糸はただ真っすぐ、包囲網の先を指し示す。
見えるのは二つの人影。
脳髄の銀弾が、己の魂が叫ぶ。
『撃ち砕け』
ただその一言を。
故に。
「クロスミラージュ」
《
全霊を以てその意志を執行する。
カートリッジがリロードされ、足下、そして両手に構えたクロスミラージュの銃口に魔法陣が展開される。
余剰となった魔力が銀の燐光と共に空を舞い、緩やかな風を起こす様は、この殺意の嵐の只中にあって、決して侵されない神域のような様相を顕していた。
「ディード、オットー、ウェンディ。忘れないわアンタ達の事」
聞こえずとも声に出す。弔いにも似た感情を乗せた言葉を。
「感傷だけど、違う形で出会いたかった」
甲高い音を鳴らしながら銃口に魔力が集い、圧縮されていく。
異変に気付いた二人が更に攻勢を強めながら駆け出すが、魔力球の弾幕がそれを押し留める。
苛烈な応酬の最中、圧縮が完了した。
そして……小さな光が、銃口に灯る。
あまりにも細やかで、儚げな銀の輝き。
ティアナの指が、銃爪にかかる。
「「ティアナ……ランスタ──!!!!」」
「──スターライト・ブリンガー」
カチリ。
銃爪が引かれ、放たれた銀の星灯は嵐を超え──二人を貫いた。
それまでが嘘だったかのように、光線は消え、瓦礫の波は地に落ちて、ただ沈黙だけが東区に残った。
地に伏したウェンディとオットーに、息は無い。
茫然と見開かれた瞳に光は無く、ぽっかりと開いた胸の
あるべき筈の心臓はもう、消えていた。
断末魔も、遺言も無い。
二人は……死んでいた。
「弱くなかったわ、アンタ達」
クロスミラージュを下ろし、ティアナは傍らのディードの亡骸を抱えると、二人へと歩き出す。
「けどね」
二人の隣にディードを下ろし、うつ伏せに倒れた二人を仰向けにすると、その見開かれた瞼を手で閉ざす。
手を重ね合わせ、弔いを済ませるとティアナは立ち上がった。
「──負けらんないのよ。私達も」
そう言い残し、ティアナは再び歩き出す。
振り返ることは無い。しかし、己の胸にしかと刻み込んで。
──ティアナ・ランスター二等陸士。
クラナガン東区にて。
戦闘機人三名、ディード、オットー、ウェンディ……撃破。
東区に立つ煙。
それは、正に反撃の狼煙であった。
流行り病にやられておりました。
皆さんもどうかお気を付けて。