魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe-   作:フォールティア

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「「オラァ!!!!」」

 

ズガンッ!!

 

大型車同士が衝突したような爆音が、青空の下に炸裂する。

音と共にアスファルトが陥没し、弾け飛び、捨て置かれた車が宙を舞う。

爆撃もかくやと呼べるような破壊の嵐。

その只中にあって、発生源である二人──スバルとノーヴェは拳をぶつけ合っていた。

 

「もっとだ……もっと来いよ、スバルぅ!!」

 

「そっちこそ、まだへばんないでよノーヴェ!!」

 

共に浮かべるは歓喜の笑み。

伯仲する実力を一切加減無くぶつけられる相手という、無二の存在に二人の闘争心は際限なく上がり続ける。

 

聖遺物を展開して十余分。

空と梔子色の軌跡を描きながら縦横無尽に激突する二人だが、聖遺物を使っても尚、互いに擦り傷や軽いアザ程度の損傷にしか至っていない。

 

……ノーヴェの聖遺物、その創造位階である悪災為す血染め邪竜(Blutbefleckter Grendel)

その力は《貪食》。

北欧の伝承に語られる呪われし巨人、或いは邪竜と呼ばれた者の飢餓と飽食の力である。

瓦礫であれ、魔法であれ、聖遺物の力であれ何であれ。ノーヴェが認識し、触れたものを削り喰らう。

喩えそれが見えざる空気、空間そのものであろうとも。

 

「トロくなってんぞスバル!そんなんじゃ喰われちまうぜ!?」

 

「だったらもう少し強く噛みなよ、甘噛みじゃ擽ったいだけだからさぁ!!」

 

元来ならば防御すら不可能な筈のその力を真っ向から受け止めながら、スバルは挑発的な科白を吐く。

何故、スバルの肉体は削られることなく存在しているのか。

それは当然、彼女の聖遺物に由来する。

王勇武闘・至高躯体(König des Mutes Beowulf)

スバルの保有する灰の爪剣(Grau Næġling)、そしてギンガに託されたリボルバーナックルに内包されていた聖遺物、不敗の壊剣(Unbesiegbar Hrunting)

この二つが揃ったことでスバルが至った創造位階。

その力は《粉砕》。

触れるもの一切を破壊し、粉砕し、破滅させる肉体を得る。

それは貪食の顎すら相殺し得る至高の肉体であり、スバルの渇望──自身を、他者を守りたい。その障害を取り除きたいという願いの発露である。

 

もはや身体と同化していると言っていいほど変質したリボルバーナックルとブリッツキャリバーが唸り、ノーヴェの拳と相殺する。

誰かを守りたい。そう願った彼女の力はしかし、誰にも触れることを赦されない。

それでもいいと、スバルは断じた。

それでも、あの時の──瓦礫に押し潰された私を助けてくれた、憧れ(高町なのは)のように、誰かの希望になれるのら。

 

「私は、それでもいい」

 

スバルとノーヴェの蹴りが激突し、幹線道路の橋桁が衝撃波によって砕け散り、崩壊する。

一撃撃ち合う度に周辺の地形が変わり、余波で近辺のビルは倒壊し、粉塵を巻き上げる。

 

「ハハッ、最高だ、最高だよスバル!なんてこったよ、楽しくて仕方ねぇ!!」

 

「癪だけど同感だよノーヴェ、もっと来なよ!」

 

放たれるのは無詠唱のディバイン・バスター。

超至近距離での砲撃魔法という、自爆紛いの蛮行をノーヴェは笑いながら蹴りを放ち削り喰らう。

 

「言われなくても!」

 

「チッ」

 

お返しとばかりに放たれる砲弾のような魔力球を右拳で粉砕し、互いに距離を取って着地する。

二人の顔には疲労こそ見えるが、その闘気に翳りはなく、むしろ増していた。

これだけの破壊、これだけの戦いをして漸く、二人は準備運動(・・・・)を終えたのだ。

……そう、ここまでは戯れ。ただの殴り合いだ。

 

「肚ァ決まったかよ、スバル」

 

「…………」

 

静かに、スバルは腰を落とし、構える。

その無言の応答に、ノーヴェもまた構えることで応えた。

ここから始まるのは文字通り、血で血を洗う殺し合い。

語るのは口では無く己が拳と脚だけだ。

 

「あぁ──」

 

それでも、ノーヴェは言わずにはいられなかった。

 

「悪くなかったぜ、お前との『闘い』は」

 

「……私もだよ、ノーヴェ」

 

それが、二人の最後の会話だった。

 

「「──ッ!!」」

 

ローラーブレードが唸りを上げ、眼前の敵へと疾走する。

一瞬で音速域へ到達した二人の距離は秒も経たずゼロとなり、撃ち放つ拳が激突する。

幾度目か分からぬ衝撃音が大地を叩き、二人を中心としたクレーターが生まれた。

常人なら立つことすら許されない破壊の渦中で、二人は止まることなく拳を、脚を、魔法を振るう。

その速度は視認すら困難な程に素早く、そして重い。

一撃がぶつかる度に更に加速する応酬は、嵐と形容するに相応しいだろう。

誰も近付けず、誰も触れられない、ただ二人だけの殺劇舞踏。

 

「オォぉぉぉ!!」

 

「アァァァァ!!」

 

咆哮が互いの耳朶を揺らし、闘志を更に噴き上げさせる。

互いの渇望、その力。

一発でも直撃すればその瞬間勝敗は決する。そういう力だ。

しかしこれだけの力を引き出してなお、拮抗を崩せていない。

だが、どんなも物事にも終わりがあるように、この伯仲にもまた終わりが待っていた。

数百回目の撃ち合い。それは起こった。

 

「ぐっ──」

 

「がッ」

 

肉が抉れ、爆ぜる感覚に、二人は唸りながら痛みの元に視線を向ける。

スバルの左肩が抉れ、金属で出来たフレームを顕にしているのに対し、ノーヴェは右脇腹が小さく爆ぜたかのような肉の華を咲かせ、覗き見える金属の肋骨が粉状に砕け、傷口に鈍色の跡を残していた。

お互い、寸前で直撃を回避したため、ダメージは最小限に抑えられている。

致命傷とは呼べぬ傷。しかし、均衡を崩すには充分過ぎた。

 

(──やるしか、無ェ!)

 

コンマ数秒の思考。先に動いたのはノーヴェだった。

致命傷とは呼べないとは言ったが、ダメージは確実に自分が上。

下手に守りに回れば貧するのは目に見えている。

ならばやるべきは速戦即決と考え、胴廻し蹴りを放つ。

空気が食い千切られる歪な音と共に、常人ならば上半身と下半身が両断される一閃がスバルへと殺到する。

距離、タイミング、速度。

思考速度に勝り、全てが噛み合ったノーヴェのそれはスバルへと向かい──空を切った。

 

(なんっ────)

 

有り得ない事象に思考が一瞬固まる。

眼前に居たはずのスバルの姿が見えない。

消えた?何処に……?

スローモーションになった視界を動かしても、見えるのは灰と赤錆色の瓦礫だけ……否。違う。

スバルが立っていた場所。その足下にそれはあった。

微かな傾斜を上へと向けた青い魔力の『道』。

 

「レールアクション──」

 

「クソがっ!」

 

上を向けばノーヴェへと真っすぐ伸びたウイングロードから、拳を構え、魔力爆発による超加速で直滑降するスバルが迫っていた。

悪態を吐きながら、ノーヴェは左拳に魔力を込め、砲撃魔法を撃ち出す。そして、

 

「グランニューレ!!!!」

 

裂帛の咆哮、天からの一撃が地上へと振り降ろされた。

衝突する互いの魔法が爆発を起こし、半径300m圏内のあらゆる物を吹き飛ばし、塵に帰す。

隕石の衝突のような、正に人外の御技によって幹線道路近辺は荒地と成り果てた。

 

「ハァ、ハ……ァ」

 

視界を妨げる黒煙の中、ノーヴェは蹌踉めきながら立ち上がる。

その左半身の有様を一言で言うならば、凄惨。この一言に尽きた。

左腕は消滅し、肩口からは千々に乱れたケーブルや骨格が覗き、腹部から脚に掛けては着ていた戦闘衣ごと肉が抉れ、爆発によって焼け付いて辛うじて出血が止まっているといった具合である。

激痛で悲鳴を上げるか、気を失うかしていてもおかしくは無い状態にあって、ノーヴェは不思議と落ち着いていた。

無事である右拳を確認するように開いて、握る。

ローラーブレードはもう使えない。そもそも左半身がこの様では、まともな戦闘機動など出来ようもない。

しかしまだ……まだこの拳は死んでいない。この闘志は死んでいない。

荒い呼吸のまま周囲を見渡し、ノーヴェは口端を上げた。

 

「ッ……ハァ」

 

宿敵(スバル)が、そこに立っていた。

相打ちめいたノーヴェの砲撃魔法を受け、右腕はだらりと垂れ下がり、裂けた額から流れる血が右目を赤く染め、軋みを上げる右脚は肉が裂け、断線したケーブルがスパークを起こしていた。

だが、立っている。生きている。

金に輝く瞳でノーヴェを睨み、左拳を握り締め、両の脚で立っている。

 

「「…………」」

 

共に満身創痍。共に、未だ闘志消えず。

ならば、成すべきは唯一つ。

拳に最後の魔力を限界まで込め、一歩を踏み出す。

 

「「…………」」

 

互いにこれが最後の一撃だと理解している。

打ち合えば其処で、何方かが死ぬ。

そうと理解しながらも二人の足は止まらず、彼我の距離を縮める。

そして、最後の一歩を踏みしめた。

 

「ぶち抜け──」

 

「スターライト──」

 

剛拳が唸りを上げ、魔力を解放する。

 

「砕けろぉぉぉぉお!!」

 

「バンッカァァァァァア!!」

 

地上に現れた二つの魁星がぶつかり、喰らい合う。

絶叫の如き咆哮と魔力の奔流が火花を散らし牙を剥く。

悲鳴を上げる肉体を無視して、二人は拳を、己の意地を押し込んだ。

 

「「行けぇぇぇぇぇ!!!!」」

 

閃光が弾け、世界が瞬きの間白く染まり、視界を眩ませる。

光が収まっていく中、ノーヴェは。

 

「あぁ……クソ、悔しいなぁ」

 

──小さく呟いて、笑った。

ドサリ、と何かが落ちる音と共に光が消え、視界が戻る。

燐光となって舞う魔力の中、立っていたのは……

 

「私、の……勝ちだ」

 

スバルだった。

地に斃れたノーヴェに下半身は無く、右拳も砕け散っていた。

その顔は何処か満足げにも、悔しそうにも見える笑みを浮かべていた。

本当に、自分との戦いが楽しかったと言いたげに。

勝手な解釈だと、本人なら言うだろうか?

それでもスバルはそう感じた。だからこそ、顔を上げて。

 

「ありがとう、本当に楽しかったよ。ノーヴェ」

 

心からの感謝を捧げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「往ったか、ノーヴェ」

 

遠く、戦いの決着を見つめ、瓦礫に凭れながらチンクは微笑んだ。

 

「いい闘いだったわ。強いのね、貴女の妹」

 

「あぁ。自慢の妹だよ」

 

同じ様に隣に座るギンガに答え、チンクは空を見上げる。

 

「私達は……戦闘機人は、結局の所は兵器だ。聖遺物の為に渇望を無理矢理に埋め込まれた、出来損ないのな」

 

「……」

 

「ドクターの願いの為に戦う。ソレが製造理由で、存在理由だった。その為に殺し、奪ってきた…………私達は、生まれからして間違っている。凡そ人など名乗ってはいけないんだ。けれど……それでも、もしもを考えてしまうんだ」

 

「もしも?」

 

「ああ」

 

ギンガの視線を受け止めて、チンクは一つ頷く。

 

聖遺物(こんなもの)も、戦闘機人も無い世界で、姉妹達と一緒に穏やかに過ごせる……そんなもしもをな」

 

視線を下ろし、チンクは自分の掌を見つめる。

この手はとうに血に塗れて、多くの命、そして多くの穏やかな日常を奪い去ってきた。

今更な話だ。こんな願い、望むべくもない。

 

「良いんじゃない、そのもしも」

 

だから、その願いが肯定された事に、チンクは息が詰まりそうになった。

 

「え……」

 

「聖遺物も、戦闘機人も無い世界か……地球みたいな所かしら」

 

「良いのか……?私がそんな事を願っても」

 

呆然と、ギンガを見つめてチンクは思わず問い掛けてしまうが、当の彼女は迷わず首肯した。

 

「当たり前でしょ。貴女の犯した過ちに罪はあっても、貴女の願いに罪は無いわよ」

 

願いに罪は無い。

その言葉を受け止めて、チンクは思わず声を漏らした。

 

「は、はは……そうか。そう、だったな」

 

「?」

 

「だったら……本当にそんな世界が、そんなもしもがあったなら。私は……私達は、ギンガや他の者達と友になりたい」

 

「チンク……」

 

細やかな、しかし何処か切実な願いを口にして、チンクは瞼を閉じる。

 

「まさか、こんな時になって肯定されるなんて思って無かったな……ふふ、あぁ、悪くない気分だ」

 

「……往くのね」

 

「あぁ。ありがとう、ギンガ。貴女に出会えて、よかった」

 

そんな言葉を最期に残して、眠りについたチンクの傍らでギンガはもう一度空を見上げた。

何処までも、何処までも青い空が、広がっていた。

 

「──今度会うときは、友として会いましょう。チンク」

 

そう言って、ギンガもまた目を閉じた。

そして。

 

「後は任せたわよ、スバル」

 

魂の残り火は、空へと融けて……消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

──スバル・ナカジマ二等陸士

クラナガン東区外縁部幹線道路にて戦闘機人ノーヴェと交戦。

これを撃破。

 

同刻。

脱走した戦闘機人チンク、同区画にて死亡。

 

──ギンガ・ナカジマ陸曹

同区画にて、殉職。

 

 

 

 

 

こうして、クラナガン東区での戦いは終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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