魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe-   作:フォールティア

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/15 West Ward Front

 

クラナガン 西区

交通の要所である東区とは真逆に、住宅地が密集するこの区画は、普段なら閑静かつ長閑な静けさがあり、ミッドチルダに於いても一目置かれる住みやすい場所として有名だ。

しかし、それも今となっては意味をなさない。

何故ならば、もうそんな静けさなどここには無いからだ。

家屋は倒壊し尽くし、炎と煙を撒き散らしながら大地を焼き。

鮮やかに塗装された商業施設は、その外壁を飴細工のように溶かされ、赤熱した鉄筋を垂れ流している。

無事な建物など殆ど無く、地上には炎と鉄の川が流れる。

正に地獄絵図と呼べる惨状と成り果てていた。

 

「ストラーダ!」

 

了解(Jawohl)

 

黒煙に覆われ、夜の様になった西区の空を一筋の閃光が駆ける。

赤髪を靡かせながら、構えたデバイス(ストラーダ)のジェット噴射による強引な空中機動を行うエリオは、自身に向かって放たれる黒い泥の塊を回避しながら、その大元を睨みつける。

 

「ダメだ、近付けない」

 

「余所見とは、感心しませんね」

 

「くっ──!」

 

首元を狙った一撃を寸での所で避けながら後退する。

微かに裂けた皮膚から滲み出た血が首筋を濡らすが、エリオはそれを無視して眼前の敵を見る。

鉄爪に付着した血を舐め取りながら此方を見る、金髪の戦闘機人。

 

「セイン、そっちはどうかしら?」

 

《私直接戦闘苦手って知っててソレ言ってる!?幾ら何でもゼストの相手はキツいってドゥーエ姉!!》

 

通信越しに聞こえる悲鳴めいた非難の声に、ドゥーエと呼ばれた戦闘機人はクスリと笑って通信を切った。

どうやら援護に向かうつもりは無いらしい。

 

「……いいんですか、向かわなくて」

 

「腐っても戦闘機人。ゼストなんて手の内を知っているヤツの相手くらい出来なければ意味無いわ。それに、あんな悲鳴上げている間は余裕よ」

 

エリオの問いをあしらってドゥーエは妖艶に笑む。

その視線はまるで飢えた肉食獣のように獰猛で、妖しい光を持っていた。

 

「それよりもアナタの相手の方が大切よ。希望に満ちた目、衰えない戦意、震えながらも戦うその身体……嬲り甲斐がありすぎてイッちゃいそう……!」

 

「………………………」

 

恍惚とした表情で異様な事を宣うドゥーエに、エリオは心底心理的嫌悪感を感じ、引いた。

これまでの人生に於いて見せたことがない軽蔑の視線を向けたが、気持ちを切り替えてストラーダを構える。

 

戦況は……最悪と言っていいだろう。

戦闘開始早々、ルーテシアの母メガーヌを核とした異形の竜から放たれた泥によって西区は一瞬で火の海と化した。

エリオ、ゼスト、キャロはメガーヌ救助の為に動き出したものの、泥による面制圧と、竜と共に現れた戦闘機人──ドゥーエとセインにより戦力の分断を余儀なくされた。

エリオはドゥーエを。ゼストはセインを。そしてキャロとフリードは新たに召喚した黒竜、ヴォルテールと共に異形の竜と戦っている。

これだけの戦力をして押し込むことは出来ず、寧ろ押されているのはエリオ達であり、ジリジリと体力を削られている。

 

「Oooooo──!!」

 

異形の竜の叫びが耳に響く。

状況を確認したいが、迂闊なことをすればドゥーエの鉄爪が自分の首を飛ばすだろう。

 

(どうしよう……どうすれば……!)

 

焦り出す思考を抑えようとストラーダ構え直すと、カチャリと何かに手が当たった。

左腰に携えた、革帯で巻かれたそれは、開戦前クレンが取り付けてくれた『聖遺物』のホルダーだ。

指に触れた聖遺物は微かな温みを感じさせ、エリオの渇望を待つようにゆっくりと拍動している。

そこでエリオは出撃前に交わしたクレンとの会話を思い出した。

 

『聖遺物の使い方ァ?』

 

『は、はい。いざとなったら使えるようにしておかないと、って思って……』

 

『ぁー……つってもなぁ、俺も気付いたら使える様になってたって感じというか、そういう"チュートリアル"があったわけじゃ無いんだよな。だから使い方を教えるってのは難しい……ただ』

 

『?』

 

『聖遺物に必要なモンなら解る』

 

『必要な物……魂、ですか?』

 

『まあ確かにそれも必要だが、ソイツは車で言うとこのガソリン、燃料だな。必要っちゃ必要だが、動かさない限りは使わねぇ。そうだな……この例えで言うなら、ソレは鍵であり、ハンドルだ。ソレが無きゃ車は動かねぇし、行き先も決められねぇ』

 

『ソレって』

 

『渇望。心の、魂の底から……世界を捻じ曲げて(・・・・・)でも叶えたい願いだ。今の世界、今の自分にこうあれと、こうなるべきだと望むことだ』

 

『こうなるべき……』

 

『なあ、エリオ。お前は──』

 

 

「──何を望んでいる?」

 

口をついて出た呟きに、ドクンと何かが拍動する。

 

「僕の──望みは」

 

 

 

 

 

 

 

 

「瓦礫に隠れ、煙に隠れ……多彩なモノだな、セイン」

 

「バカにしてる?バカにしたよねゼスト!?」

 

イラついた声に混じって放たれた光弾を弾いて、ゼストはデバイスである槍を振るい、振り降ろされた拳を受け止める。

如何に直接戦闘に向かないとは言え、それでも聖遺物使い、戦闘機人の一撃だ。

それを両手ならまだしも片手で振るった槍に止められ、セインは汗で纏まりだした水色の髪を揺らしながら後退する。

 

「……其処を退け、セイン。お前に構っている暇は無い」

 

「私だってそうしたいよ。アンタの相手なんてやりたくない。ただそうするとドゥーエ姉に殺されるから仕方なく足止めしてんの」

 

「戦闘向きの調整、聖遺物でもあるまいに……難儀な物だな」

 

ゼストの同情するような視線に、セインは同意だと言いたげに肩を竦めた。

実際問題、セインは斥候、潜入に重きをおいて作られた戦闘機人であり、間違ってもこんな正面切っての殺し合いを想定した調整はされていない。

持っている偽典聖遺物すら、初見殺しの暗殺向き。

今この状況……まして手の内を知られているゼストには使うだけ無駄なのだ。

どう見ても勝ちの目は無い。なのでこうして足止めに終始している。

それもこれもドゥーエという、ナンバーズに於いても最悪の人格破綻者に引き摺り出されたからなのだが。

 

「ドゥーエか……哀れな女だ」

 

「…………そうだね」

 

ドゥーエ──ウーノに次ぎ、二番目に開発された戦闘機人であり、ナンバーズの中で偽典聖遺物の影響を最も強く受けた存在だ。

彼女もまた、セインと同様に主な仕様は潜入、スパイのような直接戦闘に向いた調整では無かったが、頭数の無い最初期型だったが故に、チンクのような特化型程では無いにしてもある程度の戦闘が可能なスペックを担保されている。

かつての彼女の性格は、身内には優しく──それこそ、ゼストやルーテシアにすら穏やかに接する──敵には冷酷に当たると言った、仕事人気質な部分があったが、今は違う。

度重なるスパイ活動と偽典聖遺物の多用により、魂が偽典聖遺物に侵食され、人格が歪み内に秘めた残虐性を増幅された結果、あのような『他者が絶望し、悲鳴を上げる様を見て性的快楽を得る』ような破綻者へと堕ちてしまった。

 

「まあ哀れでも何でも、姉は姉だからね。妹としては逆らえないのです」

 

死にたくないしねー。と続けて、セインは溜息を吐く。

大体の話、セインは別にスカリエッティの目的にさして興味は無い。なんならばどうでも良いとすら思っている。

前線なんて真っ平ごめんだし、そもそも戦う気力なんて物も他の姉妹達ほど持っていない。

殺し合いとか野蛮だし、ジャンケンで決めれば?とすら思っている。

それでもこうして戦場に立っているのは、偏に死にたくないからだ。

逆らえばドゥーエに殺される。それも目も当てられない方法で。

それは嫌だ。でもゼストと全力でやり合うのもごめんである。絶対死ぬ。

なのでこうして程々に戦っているのだ。

 

「はぁ……セイン」

 

でも時間かけ過ぎると本気出されるなー、どうしよかなー。等とセインが考えていると、ゼストから声がかかる。

 

「何?」

 

「要するに、ドゥーエが斃れれば問題ないんだな?」

 

言うに事欠いて何を言うのだろうかこの武人は。

 

「ドゥーエ姉を斃す?誰が」

 

「無論、エリオだ」

 

即答である。

 

「聖遺物の解放だってまだしてない子供が、ドゥーエ姉に勝てるワケ」

 

「勝てる。聖遺物の解放とて、彼ならばやるだろうよ」

 

セインには分からなかった。何故、つい先程あったばかりの少年に、この男がここまで信を置くのかを。

 

「今から、お前に一撃を与える。それなりの怪我にはなるだろうが、死にはしない。それで言い訳は立つだろう」

 

「え、は?ちょ、何を」

 

「その後は逃げるなり好きにしろ。攻撃すれば、その限りでは無いがな」

 

「アンタ、まさか──」

 

捲し立てるようなゼストの言葉に、セインが目を見開く。

視界にはもう、振り降ろされた槍が見えていた。

袈裟に斬られた傷口から血が噴き出し、身体から力が抜けるような感覚がセインを襲う。

一撃。たった一撃でセインは戦闘能力を喪失した。

浮遊していた身体が崩れるように落下を始める。

 

「あーもー……強引過ぎんでしょ」

 

脱力感の中、苦笑を浮かべながらゼストへと文句を言い残し──"ビルの中に消えた"。

それを見届けたゼストは小さく息を吐き出すと、視線を動かしエリオが戦っている方角を見つめた。

 

「何故ドゥーエを彼が倒せると確信しているのか、不思議か?」

 

「まあな。あのチビスケじゃどう考えても無理だろ?」

 

今まで黙ってバリアジャケットの胸ポケットに収まっていたアギトが顔を覗かせ、心底分からないと言いたげにゼストの顔を見上げた。

相も変わらずの仏頂面だが、

 

「そうだな。強いて言うのならば──勘だ」

 

しかし微かに笑みを浮かべた。確信めいた言葉と共に。

 

 

 

 

 

そして、その言葉を証明するかのような煌めきが、星のように輝いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




明けましておめでとうございます(今更)

新年早々インでフルなエンザに掛かりました。
皆様も流行り病にはお気を付けて。

本年もよろしくお願いします!
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