魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe-   作:フォールティア

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/04 Töte und kämpfe

「ちぃっ!」

 

「不意を打ったつもりだが……流石だな」

 

「そいつぁどうも!」

 

スタートの合図とほぼ同時に斬り込んできたシグナムの剣をヴィーザルで防ぐ。

ヴィーザルはやはりシャーリーの言った通りかなり頑強なようで、かなりのスピードで剣を叩き込まれたにも関わらず、びくともしない。

 

「ヴィーザル!」

 

《Abblasen Lüftchen》

 

お返しにとヴィーザルの左右の装甲を開き、そこから覗いた4つの砲口から『そよ風』とは名ばかりの風の弾丸を撃ち出すが、当然のようにシグナムはこれを避け、さらに反撃を繰り出してくる。

ヴィーザルを回り込むように放たれる、横薙ぎの一閃。

だが、

 

「それも読んでんだよなぁ!」

 

「何……っ」

 

即座に俺はヴィーザルの左端から飛び出た円筒型の小型デバイス(・・・・・・・・・・)を掴み、魔力を流してシグナムの剣にぶつける。

 

「魔力剣か……!」

 

「正解、だ!」

 

押し退けるように魔力剣を払い、無理矢理距離を離す。

 

「……まるでビックリ箱のようだな、それは」

 

「違いねぇな、俺もそう思うよ」

 

距離を取ったシグナムの呆れた様子に、俺も頷く。

どうにもヴィーザル(コイツ)の中には今しがた出した魔力剣の他にも色々と機能だったり小型デバイスだったりが積み込んであるらしい。

恐らく、大きすぎる本体の隙をカバーするための物だろう。にしては出力が高い気もするが。

 

「さて、と。次はどうする?」

 

魔力剣をくるくると回しながら、そう言ってシグナムを見やると、何故か剣を鞘に戻した。

 

「近距離戦の次と来たら、中距離だろう?レヴァンティン」

 

《Schlange form》

 

ガシャリ、と鞘に収まった(レヴァンティン)から空薬莢が排出され、再度抜き放たれる。

そのフォルムは大きく変わっていないが、刀身には規則的なラインが出来ていた。

 

「では行くぞ」

 

シグナムがそう告げて、レヴァンティンを振るう。

ただの剣なら当たる筈のない距離。

だが、それを覆すようにレヴァンティンの刀身が伸びた。

 

《Verteidigung》

 

「マジかよ!?」

 

ヴィーザルが自動で発動した防御膜に食らいつくようにレヴァンティンの刃がギャリギャリと火花を散らす。

刀身が伸びる剣とかなんだそれ?アリかよ!?

 

「ふむ、やはり防がれるか。まあ、破ればいいか」

 

「こいつもしかしなくても脳筋か……?」

 

攻撃を防がれてるのにむしろ楽しそうにしてるあたりバトルジャンキーか?

と、そうこうしてる内に防御膜に罅が入り出す。

まずいな……動きたいのは山々だが、シグナムの奴、攻撃を多方向から撃ってきやがる。銀鎖を使おうにも、端から弾かれてしまって意味がない。

ここら辺はやはり経験の差か。

 

こと『殺し合い』という観念で言えば、俺の経験は異常とも言えるだろう。

しかし、シグナム達のような『戦う』という経験が俺にはない。

単なる殺し合いならその果ては必ずどちらかの死が有る。そこには誇りやら敬意何てものはない、獣染みた本能しかない。

だが、戦いにはそれらが有って、戦いの終わりには死以外の結末がある。

詰まるところ、『殺さず、倒す』という経験、戦闘は相手の方が圧倒的に上なのだ。

逆に、今まで殺し合いしかしてこなかった俺はその経験が無い。だからこそ動きにくい。何せ殺してはいけないのだから。

 

殺し合いならばこのまま無理矢理突っ込んでそのまま殴れば…………いや、待てよ?

 

「確か、俺の身体って滅茶苦茶強くなってたよな」

 

そうだ、ならこれ位の攻撃なら耐えられるはずだ。

 

「はっ、そんじゃやってみっか……!」

 

腹を決め、ヴィーザルを盾にして障壁魔法を展開。

銀鎖を巻き戻して両手でグリップを握り締める。

両足に力を込め……弾く。

 

「──ッ!」

 

生み出された加速は常人の反応速度を優に越え、音すら置き去りにする。

俺を止めようと唸る蛇腹剣はすべからく弾かれ、よしんば障壁を抜けても身体には傷一つ付かない(・・・・・・・)

成る程確かに人外だ。

 

衝撃。

 

「……今のは、中々堪えたな」

 

なら、これを涼しい顔して防いだシグナム(コイツ)も相当なイカレだろう。

いつ戻したのか、最初の剣の状態のレヴァンティンとその鞘を十字に構え、俺の突撃を止めていた。

 

「おいおい、今の結構ダメージ期待してたんだが……」

 

「何、衝撃をいなすのは得意なだけさ」

 

「だったら……!」

 

《festhalten》

 

いなす行動を取らせなきゃいい。

発動した拘束魔法が黒い鎖となってシグナムの身体に巻き付き、地面に固定される。

俺は距離を再度取り、ヴィーザルをカノンフォームに変更して、構える。

 

「こいつはどうだ?」

 

魔法陣が砲口に展開され、魔力が収束を始める。

全力、と行きたい所だが、大怪我させては問題になるのは確実なので込める魔力を調整する。

当然ヴィーザルにリミッターは掛かっているだろうが、まあ保険だ。

 

「フッ、確かにこれでは防ぐものも防げんな」

 

と、身体を固定されているにも関わらず、シグナムはそう言って笑いやがった。

コイツ……まだ余裕が有りやがるな。

認識を改め、最大限に警戒をしながら、俺は魔法を放つ。

 

《Schwarzer Ritter Speer》

 

「ぶち抜け──!」

 

闇を凝固させたような漆黒の騎槍が、一直線に空を裂いてシグナムへ突き抜ける。

 

着弾、爆発。

 

派手な煙が上がり、視界を覆う。

それなりに魔力を込めた一撃だ。直撃すれば相当なダメージは見込めるが、相手は相当な手練れ。

故に──

 

「疾─ッ!」

 

「そうなるよな!」

 

──当たっていない前提で考えるのは、当たり前だろう。

再度取り出した魔力剣が、レヴァンティンとぶつかり合う。

甲高い音を鳴らしながら火花が散る。

 

「今度はどういう手品だ?」

 

「何、防げないなら反らせば良いだけだろう?手首まで拘束しなかったお前のミスだ」

 

「……隔離街(アッチ)の連中も大概だったが、アンタの方がブッ飛んでるよ」

 

「褒め言葉として受け取っておこう」

 

軽口を言い合いながら何度も切り結ぶ。

 

「フッ、久々に熱くなってきたな」

 

「冗談抜かせよ、こちとら必死だっての」

 

もうフィッティングがどうとかはお構いなしにビル群を駆け抜けながら魔法を撃ち、その度にシグナムはそれらを防ぎ、反らす。

逆にシグナムの剣擊を俺は防ぎ、耐え、打ち返す。

こちらは身体スペックでシグナムを越えているが、シグナムはそれを技術でカバーしている。

単調な殺ししかしてこなかった俺とは根底にある経験に天と地ほども差があるのは当然か。

 

「お前に足りていないもの、それは経験だ」

 

袈裟に振るわれるレヴァンティンをヴィーザルで防ぐ。

 

「人を守る。己を守る。殺しとは違う、『戦い』の経験が圧倒的に不足している」

 

返す刀で横薙ぎ。障壁で防ぎつつ銀鎖と魔力剣による同時反撃。

 

「あんな所に居たのだから、ある意味当然だろう。しかし──」

 

切り結ぶ。

 

「もうそれは通用しない」

 

睨み合う。

ここに来て始めて俺はシグナムの眼をハッキリと見た。

強い意志のこもった、力強い眼だ。

 

「お前にはこれから、誰かを、或いは己の命を守る戦い方を学んでもらわなければならない。殺しなぞもっての他だ、そんな事をやらせるものか(・・・・・・・・・・・・)

 

「……ッ」

 

コイツ、もしかして俺の渇きを──。

 

「不本意だろうが、ここに来た以上お前にはそうしてもらう。それが私から言えることだ」

 

主もそれを望んでいるだろうからな。

そう付け足すとシグナムは力を抜いてレヴァンティンを鞘に納めた。

 

「この辺で良いだろう。そろそろシュミレーターも悲鳴を上げそうだしな」

 

【とっくに悲鳴上がってますよもう~!】

 

シグナムが笑うのと、シャーリーから悲鳴まじりの通信が入ったのは同時だった。

 

「お前もそろそろ手加減を続けるのが限界だろう?」

 

「……はぁ、そこも読んでやがったか」

 

ヴィーザルを担ぎ直し、溜息を吐く。

シグナムの言う通り、俺も熱が入り過ぎて手加減が効かなくなっていたのは確かだ。

このまま戦い続ければ全力になりかねない。

それは俺も望んじゃいない。

 

ビル群の景色が徐々に消え、白い基盤を露にしていく。

全体が消えたということは高町らの方も訓練が終わったらしい。

 

【うわぁ、もう何ヵ所か処理追い付かなくてエラー吐いちゃってるし……二人ともやりすぎですよ!最後の方なんかフィッティング通り越してただの模擬戦だったじゃないですかヤダー!】

 

「データもそれなりに取れたろう?」

 

【うぐぐ……そ、それはそうですけど!】

 

【お前らやりすぎだろ……こっちまで戦闘音響いてたぞ】

 

【にゃはは……シャーリー、あとで修理手伝うよ】

 

と、訓練を終えた高町とヴィータ、だったか。が通信に参加した。

画面越しには大分しごかれたのか、埃まみれのナカジマ達と涼しい顔のテスタロッサが見えた。

 

「そちらも終わりか?」

 

【おう、午前の分は終わりだな。こっちは今から飯行くけど、そっちはどうする?】

 

「だそうだが、フォールティアはどうする?」

 

「俺に聞くのかよ……あー、後から行くからパス。少しやることあるしな」

 

誘われるのはありがたい事ではあるが、込み合う時間帯は避けたいので辞退する。

当然といえば当然だが、俺はまだここの連中に警戒されているわけだし。

ヴァイスやグリフィスも、俺が早く溶け込めるように話しかけて来ているんだろうが、まあ隔離街出身な時点でこうなるのは解っていた。

俺としても余計な軋轢を生むのは避けたいので、あまり人が多い場所には近寄りたくないのが実情だ。

 

それに、やること……というか気になることがあるのは本当だ。

ヴィーザルを待機形態に戻し、BJも解除して俺はシグナムに背を向ける。

 

「相手してくれてサンキューな。次は圧しきってやる」

 

「フッ……ああ、楽しみに待っておこう」

 

自分でも柄にもないと思える捨て台詞を吐いて、俺は一足先にシュミレーターから離れた。

シグナムに言われた、『戦い』の意味を反芻しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ほう、では暫くは私が主体となると?」

 

薄暗い洞窟の奥の奥。

黄色がかった照明に照らされた白衣を纏った男は、壁に投影された画面にそう問うた。

 

【そうなるね。"彼"はどうやら僕らに競争してほしいみたいだしね】

 

黒く塗り潰された画面から落ち着いた、それでいて妙な不安感を与える声が響く。

 

「競争、とはまた随分と。私は構わないが、そちらはどうなのかな?マクスウェル」

 

【僕も構わないさ。そういう遊び心は大事だ。それに、条件としてはこちらの方が簡単だ。すでにゴールは目の前だ】

 

「ほう、やはり先輩(・・)とあって手が早い。すでに勝利宣言とは」

 

不気味な金の目を細めて男は笑う。

 

【何、手順の差だよ。自力でやるか、道具を使うか、というだけのね。所詮は僅差さ】

 

言葉は謙遜を。しかしそこはやはり男と同類故か、一種の傲慢さが垣間見えた。

 

【そういうそちらはどうなんだい?"鍵"探しは順調かな?】

 

「はは、ご存知でしょう?貴方も苦労した彼女たちが相手だ、当初より遅延が生じてしまっていますよ」

 

そう言ってもう一つ画面が投影される。

そこに映し出されたのは機動六課の面々だ。

 

【懐かしい顔触れだね……。いやはや全く、時が経ってまたもや彼女たちが障害となるとは】

 

「"彼"のお気に入りもここにいる以上、厄介さは以前の比では無いでしょう。お互いに、ね」

 

【違いない。しかし同時にチャンスでもある】

 

「然り。苦境となるのは確かだ、だが、だからこそ面白い」

 

暗い空間の中、二人の不気味な笑い声が響く。

……それはさながらこれから始まる劇を笑うように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【そうとも。やりようは幾らでもある…………そう、最後に笑えれば良いのさ】

 

 

 

 

 

 


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