魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe-   作:フォールティア

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/21 Wohin gehen

 

「東及び西地区より伝達!戦闘機人の撃破に成功!」

 

通信士の興奮した声が響くと、艦隊旗艦《クラウディアⅡ》のブリッジに歓声が上がる。

それを聞きながら、レジアスは諌めようとはしなかった。

艦長であるクロノも、停滞したこの状況に齎された吉報は士気向上に繋がると判断して、口を挟むことは無かった。

 

そう、停滞しているのである。

 

戦闘開始から既に三十分が経過している。

だというのに、未だ中央戦線はゆりかごへの道を切り拓けていない。

むしろ人的資源の差からジリジリと押されてしまっている。

 

「やはり、減っておらんか」

 

「えぇ、いま解析班から上がってきた情報によると、どうやらゆりかごがガジェットを生産して逐次投入している、と」

 

艦長席の小型モニターに映ったデータを見やり、レジアスは顎髭を撫でた。

 

「厄介だな……ガジェットは密集することでAMFの濃度を上げる事が出来る以上、下手な攻撃は通らん」

 

「その為に初動で数を減らしたというのに、今では元の数に戻ってしまっている」

 

クロノはブリッジ下方に浮かぶ、戦場を俯瞰した投影モニターを睨んだ。

ティアナ達機動六課フォワード陣が戦闘機人を抑えてくれたおかげで囲い込まれてしまうという最悪の状況は避けられたが、その分、前線への合流がかなり遅れてしまった。

それに加え、あちらはガジェット……機械に対してこちらは人だ。

これだけの時間戦い続ければ疲弊や負傷者が出るのは当然だった。

現に相当数の死傷者がすでに出てしまっている。

戦力差を鑑みればとっくに撤退指示を出して然るべきだが、文字通り世界の命運が掛かっている今ではそれも出来ない。

 

「スクライア司書長の分析はまだかかるか?」

 

「未だ連絡が無いあたり、そうでしょうね」

 

ユーノは現在、クラナガン襲撃後になのはが気付いた、土地に刻まれた鉤十字(ハーケンクロイツ)について調べている。

偶然とも考えられたが、何か引っ掛かる所があったのかユーノは地上本部に持ち込んだ膨大な量の書物を引っくり返して調査に当たっている。

 

「皆既日蝕までの時間は?」

 

「予定ではあと二十分程かと」

 

「……ふむ」

 

考え込むように再び顎髭を撫で、レジアスは戦場を見る。

不意に黙り込んだレジアスにクロノが振り向いて顔を見てくるが、それにすら気付いていない。

艦隊、人員、時間、戦力。それら全てを思考の坩堝に叩き込み、混ぜ合わせ、解を求める。

ほんの少しの思惟の後、レジアスは口を開いた。

 

「──パラディオンを呼んでくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ディード、オットー、ノーヴェ、ならびにドゥーエ、セインの撃墜……死亡を確認しました」

 

「まぁ、そうなるだろうね」

 

聖王のゆりかご内、オペレーションルームで投影モニターを見つめるウーノからの報告を聞いて、スカリエッティは頷いた。

そこに娘と呼べる者たちが死んだ事に対する悲嘆や落胆は無い。

むしろ、死んで当然とでも言わんばかりに無感動であり、ただ事実を認めている。

表情一つ変えず、味方の死を弔いすら無く一言で流したスカリエッティに、キーボードを叩いていたウーノの指が止まる。

 

「ウーノ」

 

何かを言いかけた口はしかし、スカリエッティの一言に押し殺される。

普段と変わらない軽薄な声だが、有無を言わせない圧力があった。

 

「……はい」

 

「彼女達は、聖遺物を使ったかい?」

 

「全員、使用した後に死亡しました」

 

臓腑を鷲掴みにされるような感覚に、ウーノは辛うじて返答する。

その答えに先程とは打って変わってスカリエッティは口端を吊り上げ、満足げに頷いてみせた。

 

「素晴らしい。彼女達は為すべきを為してくれた」

 

「ですが、左右からの挟撃は失敗に終わりました。ナンバーズも約半数を失い、戦力差は縮まっています」

 

「ああ、それなら問題ない。むしろ大歓迎だ」

 

思わず、ウーノは振り返りスカリエッティを見つめた。

大歓迎とは一体どういう事なのかと、問い詰めるような視線にスカリエッティは貼り付けた様な笑みのまま肩を竦めた。

 

「私たちは最期の戦争をしている。殺し合いだ。人死にが出て当然じゃあないか?そして人が死ぬ、聖遺物使いが死ねば多くの魂がクラナガンの大地に満たされる……それは私が刻んだ『門』へと流れ、鍵の助けになってくれるのさ」

 

「つまり……想定内、と?」

 

「想定内だとも。その為に偽典聖遺物などという、魂を大量に保管しそれなり(・・・・)の力しかない紛い物を造ったのだから」

 

明け透けに言い放たれた言葉に、ウーノは恐怖した。

自分達の存在が……否、管理局含め、クラナガンに存在する全ての命がスカリエッティにとってはただの消耗品でしか無い事実に。

ウーノにとってそれは余りにも悍ましく感じられた。

最も信を置いて然るべき、親とも呼べる存在が、今は酷く遠くに思える。

 

「ガジェットの生産は追い付いているんだろう?」

 

「…………はい、初動で減らされた分は埋められたかと」

 

「それは重畳。となれば後は──」

 

座っている椅子の肘掛けをコツコツと指先で叩くと、投影モニターに小さなウインドウが開く。

 

「進捗はどうかな?クアットロ」

 

『順調も順調、大順調ですよぉ!あとは微調整さえすませれば何時でもイケますとも!YEAH!!』

 

モニター越しにテンションの高さを隠しもせず笑うクアットロが映り、ウーノは小さく溜息を吐き出した。

 

廃都市でクレンの砲撃魔法──魔法と呼ぶべきか定かでは無いが──を受けてからと言うもの、彼女はそれはもう酷く"壊れた"。

帰還して暫くは問題無かったのだが、トラウマが蘇ったのか段々とメンタルがおかしくなり今に至る。

神算鬼謀は何処へやら、今では人を煽ることを止めた立派な引き篭もりである。

どうしてこうなった。

 

とは言え、おかしいのはメンタル的な部分のみであり、その頭脳明晰さは変わっていない。

故にスカリエッティも何も言わず、仕事を任せているのだが。

 

「それは良かった。引き続き頼むよ、クアットロ」

 

『お任せ下SAI!!』

 

ハイテンションに敬礼をして、クアットロが通信から消える。

ウーノは色々とツッコみたい気持ちを今一度大きな溜息を吐き出すことで昇華した。

 

「……本当に大丈夫なんですか」

 

「問題は無いよ。仕事はちゃんとしてくれる」

 

相変わらずフラットな態度のまま返答するスカリエッティに猜疑の視線を送りかけるが、瞼を閉じてシャットアウトする。

これ以上気を抜く必要は無いだろう。

 

「現状を考えると、我々はあと二十分程度時間を稼げれば勝利となりますが……」

 

「仕掛けてくるさ」

 

背凭れに身体を預け、スカリエッティは確定事項だと言う。

 

「必ず、彼らは此処……ゆりかごにやってくる」

 

引き裂けるような、笑みを浮かべながら。

 

「そろそろ気付く筈さ。私たちが何をしようとしているのか……ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「100年前の資料持ってきました!」

 

「北方ミッドチルダ語読めるやつ居ないか?綴りが独特過ぎる!」

 

「地球出身者、居たらこっち来てくれ!ドイツ語読める奴なら隣行ってくれ!」

 

地上本部資料室。外が力の戦場であるならば、今の此処はさしずめ知の戦場と呼ぶに相応しい。

無限書庫から持ち込まれた膨大過ぎる本や記憶媒体の山に、雑多に書き込まれたメモや計算式が宙を舞っては忙しなく歩き回る知識人達の雑踏に踏まれていく。

戦闘開始以前より、なのはの齎した鉤十字の情報からスカリエッティが何を成そうとしているのかを突き止める為、彼らは頭脳を集結させ、思考を回している。

 

「ユーノ司書長、六と十一番資料持ってきました!」

 

「ありがとう、そこに置いといて」

 

その部屋の中心にて、ユーノはドサリと置かれた紙束に、礼もそこそこに手を伸ばす。

普段の穏やかさとは打って変わり、少しばかり荒くページを捲っては仇の如く文章を睨み脳に叩き込む。

 

鉤十字──。

ユーノ自身、地球の日本という国を拠点にしていた事もあり、それが何を示すかというのは当に調べている。

しかしそれも当時の図書館やインターネット上での情報でしか無く、宗教的なシンボルであったり、ある国の国旗に使われた……と言った程度の物だ。

だが、とりわけユーノが気になったのは"ルーン文字"を二つ重ねたモノとされるオカルティスト由来の言説だ。

 

(1文字ではなく、2文字を重ねて一つとするなら、それは必ず魔法──いや、魔術的な"式"があるはずだ)

 

様々な魔法、魔術と呼ばれる物を見てきたからこそ、ユーノはそこにある可能性を考えた。

鉤十字をシンボルとしてではなく、魔術式と捉えた場合、そこには何があるのか。

投影モニターを呼び出し、改めてクラナガン襲撃後の地図を観る。

被害の大きかった箇所を線で繋ぎ、鉤十字を浮かび上がらせる。

 

(9箇所……特に中心地は最も多くの死者が出た)

 

そこは鉤十字の中心であり、2文字で構成されたと仮定した場合、唯一重なっている点である。

 

(中心地から文字の端に掛けて死者数は減っている。中心地が爆心地で、そこから波及した?)

 

続いて地図に等高線を重ねてみる。

 

(いや違う……逆だ。中心地は緩やかだけど窪地だ。だとすると、端から中心地へと何かを集めようとしている?)

 

近代魔法世界ではとっくに廃れてしまった物だが、こういった窪地、谷と言うのは俗に言う吹き溜まり──旧代魔法や魔術的に言えば魔力や霊が集まりやすいと言われている。

 

では、何を集めるのか?

それは簡単だ。人の魂だろう。

聖遺物であれ、偽典聖遺物であれ、魂を使っている。

カリムの予言にすら魂に関わるワードがある以上、集めているのはそれだ。

 

ならば次の問題は……。

 

「集めた魂で何をするのか?」

 

魂だけあったとしても、聖遺物のようにそれを貯蓄ないし出力出来るものが無ければ意味が無い。

偽典聖遺物ですらあれだけの莫大な力を発揮出来る魂というリソースを、スカリエッティがみすみす無駄にするとも思えない。

と、そこで何かが引っ掛かった。

 

「莫大な、力……」

 

一箇所に集まった強大な力、それが開放されるという事が何を意味するのか。

ユーノがかつて経験したある事件を思い出そうとした所、

 

「あの、ユーノ司書長」

 

不意に、ユーノと同じ様に地図を見ていた一人の司書がポツリと呟いた。

 

「うん?」

 

「なんだかこれ、鍵穴に見えません?」

 

自信無さげな、ただの感想めいた一言。

だが、それを聞いた瞬間、ユーノの顔から血の気が引いた。

 

「まさか、嘘だろう?」

 

それは一体誰に向かって言ったのか。

ガチリと何かが噛み合う感覚に、ユーノは額を抑えた。

これまで思考してきたワードの数々が一気に脳を駆け巡る。

 

今回を含めて9回に及ぶ邪竜の出現と大量殺戮、9箇所の重点被害箇所、魂、鍵穴、聖遺物。

 

「……誰か、スカリエッティが過去出現した次元世界の現在位置(・・・・)を出せるかい?」

 

いつの間にか静かになっていた職員達がユーノの一声に迅速に動き出す。

管理局……ひいては次元世界全ての中でも選りすぐりの学者

達が一斉に星間図、惑星軌道の計算式や本局から持ち出されていた機密情報などを駆使し、解を出す。

五分足らずの最速演算により、投影モニターに答えが映し出される。

 

「なんて、事だ……」

 

浮かび上がる星間図に、その場に居た全員の顔から色が消えた。

 

──ミッドチルダを中心地とした、次元世界規模の鉤十字がそこにはあった。

 

それはさながら、巨大な『門』のようにさえ見えた。

 

「スカリエッティは──彼は、次元世界を……世界の壁を砕こうとしているんだ」

 

次元世界へと大量殺戮によって魂を刻み、溜め込ませ、それらを今日この日に所定の位置に来るようにする。

鉤十字が魔術式だと仮定するならば、これはもはや世界規模……いや宇宙規模の魔法式と呼べるだろう。

そして魂という莫大なエネルギーが式の起動により一斉に励起したならば……

 

「次元世界というテクスチャは砕け散り、虚数空間が(・・・・・)現実を侵食する(・・・・・・・)……」

 

そこで、ユーノは先程思い出しかけた事件が脳裏を過った。

 

「──プレシア・テスタロッサ事件」

 

プレシア・テスタロッサ事件……フェイトの実母に当たるプレシア・テスタロッサが引き起こした事件であり、娘アリシアを蘇らせる為に異世界、アルハザードへと向おうとジュエルシードと呼ばれるロストロギアを集め、管理局と事を構えた。

その最後はジュエルシードごと拠点である次元航行機《時の庭園》を暴走させ、虚数空間へと沈んでいった。

 

あの時、半ば願望機と称される程の魔力リソースの複数同時励起による暴走で引き起こされた次元震により、内側から時の庭園は崩壊し、次元の壁は砕けた。

そしてプレシア・テスタロッサが目指したアルハザードと呼ばれる魔導の究極たる世界。

 

そこまで考えて、ユーノは答えへと至る。

信じ難い答えへと。

 

「大規模な魔法式を使いこれまで各世界に貯めた魂をミッドチルダに収束、励起させることで次元規模の次元震を引き起こし、世界の壁を破壊する……そして、」

 

ゴクリ、と生唾を飲み込み、ユーノは清聴する皆へと答えを告げた。

 

 

 

「スカリエッティは──アルハザードへと行こうとしている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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