魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe- 作:フォールティア
「動力炉まで温存しておけよ、ヴィータ」
「んなことはわかってる……っての!!」
シグナムからの忠告を耳にしながら、ヴィータは邪魔くさ気にガジェットⅡ型を壁へと叩きつけた。
角柱のような形へと変形したグラーフアイゼンを元に戻しながら、二人は止まることなく飛び続ける。
突入したはやて達は早々にガジェットによる迎撃を受けつつも予定通り三手に別れ、それぞれの目的地へと全速力で向かっている。
なのははヴィヴィオの居る艦前方へ、はやてとクレン、フェイトは上方へと。
そしてヴィータとシグナムは、
「だぁークッソ迷路かよここは!!」
「無駄に広いな、ゆりかごというよりベビーベッドじゃないか?」
「マジメかアンタは!?」
後方、動力炉へと。
とはいえゆりかご自体、全長数kmに及ぶ巨大艦船。
艦の中ほどから侵入した今ですら、最後方までかなりの距離がある。
加えてこのガジェットによる迎撃もあり、進行速度は自然と落ちてしまう。
さらに言えば道も複雑で、事前にユーノから動力炉の位置を知らされていなかったら確実に迷っていた。
唯一マシだと思えるのは道幅が広く、戦闘するに申し分ないくらいな物だ。
「シグナム、あとどんくらいだ?」
「あと一キロ程だな。ガジェットもあらかた片付けた、飛ばすぞ」
「あいよ」
三枚におろされ機能を停止したガジェットを尻目に、シグナムとヴィータは更に速度を上げ進行する。
得体の知れない臓物のようにさえ感じる、曲りくねった通路を進み続け、そして固く閉ざされた巨大な扉をヴィータのグラーフアイゼンが砕き開いたその先に、それはあった。
「これは……」
「そりゃこんだけでけぇ艦だ、動力炉もそれなりにあんだろうとは思ったがよ……」
幾つもの支柱によって支えられた、正八面体のクリスタル。
緋色に輝くこれこそが聖王のゆりかごの動力炉であり、聖王──ヴィヴィオの魔力を貪欲に喰らいながらゆりかごを駆動させている心臓だ。
その全長、凡そ二十メートル。
最下部に立つヴィータ達が見上げても頂点が見えないことからも、その巨大さが伺える。
円筒状に展開されている半透明の防護フィールドが光を反射して輝いている。
「壊しがいがありそうだな、ヴィータ」
「だな。このデカさ、ぶっ壊したら最高に気持ちいいだろ」
言いながら動力炉に向かい飛翔するヴィータに対し、シグナムは背を向け後方を睨んだ。
気づいたヴィータは立ち止まり、呼び掛けた。
「おい、どうしたんだよ」
「すまんがヴィータ、動力炉の破壊はお前に任せる」
「それってどういう──」
ヴィータの言葉を待たず、シグナムがレヴァンティンを振るう。
その切っ先が断ち切ったのは、一発の光弾だった。
「そう易々と行かせんとは思ったが、なるほど……高町達に向かわせても無意味と悟ったか」
「クソっ、ガジェットの群れかよ!」
二人の視界に、通ってきた通路を埋め尽くさんばかりのガジェットがこちらに向かってくる様子が映る。
シグナムの予想通り、聖遺物を持つなのは達には弾除けにすらならないガジェットの総力を動力炉の防衛に回したようだ。
なのは達と違い、シグナムもヴィータも聖遺物を持たない。二人にとってAMFを持つガジェットの群れというのはそれだけ脅威となる。
ならばこちらにぶつけてくるのは自明だろう。
ヴィータは悪態を付きながらもガジェットへと向かおうとするが、シグナムがそれを手で制した。
「シグナム?」
「私がコイツらを止める。お前は動力炉を破壊しろ」
「なっ……無茶言うな!あんな数、シグナム一人じゃ」
「時間が無いんだ」
淡々と事実を述べたシグナムに、捲し立てようとしていた口を閉じる。
そう、残された時間は少ない。既に日蝕は始まってしまっている。日蝕が完成してしまえばここに至るまでに手を貸してくれた全てが無駄になる。
それだけは許してはいけないのだ。
ガジェット程度にかかずらっている暇は無い。
それを理解しているからこそ、ヴィータは二の句がつげなかった。
「頼んだぞ、ヴィータ」
「……っ、死ぬんじゃねーぞ!」
背中を押され、ヴィータは歯を食いしばりながらも動力炉へと再び飛翔した。
振り向くことなくそれを確かめ、シグナムは眼前に聳えるガジェットの群れを睨みながら笑った。
「ああ、承知した──!」
「妨害が少ない……私達じゃなくて、聖遺物を持ってないヴィータちゃん達にガジェットを向かわせたのかな」
【
途中の分岐からはやて達と別れ、なのはは一人、艦の前方……ヴィヴィオが居る場所へと飛翔していた。
その眼前には
(これだけ索敵魔法を飛ばし続けても負荷を感じない……これも聖遺物の影響?)
周辺の状況把握を続けながら、身体の感覚を確かめる。
過去の事故によりなのはのリンカーコアは致命的な損傷を受け、かつてのような出力は望めない。
筈なのだが、聖遺物を受け取って以来、そういった不調を感じなくなったのだ。
ありがたい事ではあるのだが、なのはとしては奇妙な感覚を感じずにはいられない。
頭を振り、脱線しかけた思考を引き戻すと、再び索敵魔法を飛ばす。今度は更に遠く、深くへと。
飛ばした魔力球が姿を消すのを見届け、なのはが更に速度を上げようとした、次の瞬間。
【
レイジングハートの警告が響き、なのはは即座に降下による回避を選択した。
急速な加減速によるGを感じさせない魔力制御による直滑降で通路の床スレスレへと降りると、直後その頭上を砲撃魔法らしき閃光が通路内の構造物を薙ぎ払いながら後方へと消えた。
「今の攻撃……最初にヴィヴィオを助けた時に見たのと同じ」
【
魔力パターンを解析したレイジングハートの進言に、なのは頷いて前方を睨む。
索敵魔法の映像には、長大な砲を構えた茶髪の戦闘機人が映し出されていた。
「さっきまで索敵魔法に反応は無かった。となると、あのもう一人も居る」
滑空を止め、通路に降り立つ。
「私の妨害は、戦闘機人ってことなんだね」
その事実に驚く様子もなく、なのははただ泰然と立ちながら抑えていた魔力を開放する。
管理局に於いて並ぶもの無しとさえ言われた膨大な魔力が吹き上がり、風を起こす。
「拘束術式、1番から3番を開放。ブラスター及びフォートレス、展開。ストライクカノン連結。レイジングハート」
【
なのはのオーダーを受け、装備された武装の数々に光が灯る。
レイジングハートもまた、分割された長砲・ストライクカノンを己に纏うと、さながら騎槍の如き姿となり、展開された装甲から余剰となった魔力が霧となって吹き出る。
魔人と称された戦闘機人を前にしてなお、高町なのはの顔に焦りは無い。
むしろ相対している戦闘機人──ディエチの方こそが、冷や汗を流した。
【
戦闘形態へと移行したレイジングハートの声に、なのははコクリと頷き、相棒を構えた。
「時間が無い────速攻で片を付ける」
霧を払い、今、砲王が動き出す。