ロクでなし魔術講師と虚ろな魔術少女   作:猫の翼

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初めまして、猫の翼です。
ロクでなし魔法講師と禁忌教典を読んで、ぱっと思いついたアイデアなので、見切り発車もいいところです。ご都合主義になるかもですが、読んで貰えると幸いです。


第一章 虚ろな少女と魔術学院
第一話


 

「~~♪~~~♪」

 

 鼻歌を歌いながら、鍋の中身をぐるぐるとかき混ぜるエプロン姿の少女が一人。鍋の中では白いシチューがコトコトと煮えていた。出来がよかったのか、上機嫌だ。

 

「ん、これでよし……」

 

 味見をして満足げに頷くと、火を止めて皿に盛り付ける。三人分用意して、食卓に並べる。食卓には既に若い男と妙齢の美女が腰掛けている。そこに少女が加わることで、いつもの食事風景が出来上がった。

 

「いただきます」

 

 言うが早いか男──グレン=レーダスは料理を貪り始める。その食いっぷりは見事なもので、料理を作る側の人間からすれば嬉しいものだろう。店で気前のいい店主なら、ただでおかわりを提供するであろう程の食いっぷりだ。

 一方の美女──セリカ=アルフォネアは料理に口をつけず、グレンを見ている。料理から一旦口を離したグレンは、口の中身を嚥下すると。セリカを見て言い放った。

 

「食わないなら、俺が貰うぞ」

 

 セリカの前に置かれた皿を身を乗り出してひょいと持ち上げ、自分の前に持っていくグレン。もはや清々しいまでのふてぶてしさだ。

 

「いやぁ、でもやっぱ、つくづく思うんだよ。働いたら負けだなって」

 

 何を思ったか唐突にそんなことを口走るグレン。思考が完全にダメ人間のそれである。

 

「お前が居なきゃ、俺は死んでた。お前が居てくれて本当によかったよ」

 

「ふ、そうか。死ねよ、穀潰し」

 

「あっはっは! セリカは厳しいなぁ! ……あ、おかわり」

 

 グレンの発言に、セリカは毒を吐いて答える。が、グレンはそれを笑い飛ばし、早くも食べ終わった一つ目の皿を少女へ突き出す。

 

「はい、今持ってきますね」

 

 それに微笑んで答える少女の名はレナ=エクセリアという。脱色したような薄い金の髪に、複雑な色の瞳を持つ可憐な少女だ。レナは、このセリカの屋敷に住むグレンと同じ居候。とある事件が原因でセリカに引き取られたのだ。グレンと違う点と言えば、家事をしっかりこなし、昼間はバイトをしてお金を稼ぎ、しっかりと家にお金を入れているところか。

 レナはグレンの皿を持って鍋まで移動する。嫌な顔一つしないのは、怒りの裏返しとかそう言ったものではなく、微笑ましいとかそういった風に考えているからだ。

 

「相変わらずレナの作るメシは美味いな。セリカのはちょっと塩味がきつい、俺はもっと薄味が好きだね」

 

「働きもしない居候の上に、ダメ出しとは恐れ入る」

 

 セリカもニコニコとしばらく笑っていたが──

 

「≪まあ・とにかく・爆ぜろ≫」

 

 ルーン語で奇妙な呪文を唱える。瞬間、紅蓮の衝撃が食卓を包み、とんでもない爆音が響いた。セリカが起動した魔術の爆風が食堂の備品を残骸へと変え、グレンは容赦なく吹き飛ばされる。

 

「ば、馬鹿野郎! お前、俺を殺す気か!?」

 

「殺す? 違うな。ゴミをかたす行為は掃除と言うんだぞ? グレン」

 

 そうやって、グレンはわめくがセリカはまったくもって動じない。こうなると、レナは蚊帳の外なので、大人しく遠くから傍観する。

 

「まったく、レナを見習え。まだ本来なら学校に通っている歳だというのに、昼間はバイトをしてお金を稼ぎ、空いてる時間は家事をして勉強もしているんだぞ?」

 

「ああ、お陰で俺は何もしないですんでる。ありがとな!」

 

 レナに向かってサムズアップするグレン。実にいい笑顔である。これにはセリカも呆れるしかない。

 

「はぁ……なぁ、グレン。いい加減仕事を探さないか? お前が前の仕事を辞めてから早一年、毎日食って寝てを繰り返すだけ。昔のよしみで面倒を見てやってる私に、少しは申し訳ないとか思わないのか?」

 

「嫌だね、俺は仕事はしない。それに、俺とお前の仲じゃないか。水くさいことはなしだぜ?」

 

「≪其は摂理の円環へと帰還せよ・五素は五素に・象と理を……」

 

 さすがにキレたのか何やら据わった目でとんでもない魔術の詠唱を始めるセリカ。それは確か【イクスティンクション・レイ】の詠唱ではなかったか。

 ビビったグレンが黒こげの壁を背にして裏返った声で悲鳴を上げる。その姿を見てセリカは、やれやれといった具合に起動しかけていた魔術を解除した。

 

「はぁ……まあ、いい。仕事は私が斡旋してやる。アルザーノ帝国魔術学院での非常勤講師だ」

 

「魔術学院の非常勤講師?」

 

「急な人事でな。加えて、私たち教授陣は近々開催される帝国総合魔術学会の準備で生徒に構っている余裕はない。というわけで、一ヶ月間、給与も特別に正式な講師並に出るように計らおう。お前の働き次第では、正式な講師に格上げも考えてやる。どうだ? 悪くない話だろ?」

 

「……無理だな」

 

 今までのふざけた調子はどこへやら。グレンは神妙な顔でそれを断った。言うまでもなく、破格の条件だ。ここまで優遇された措置を受けられる職場など他にはないと言える。

 

「無理? なぜだ?」

 

「俺には誰かを教える資格なんてないのさ」

 

 どこか、寂しさを感じさせる様子で窓の外を見るグレン。

 

「そりゃ、資格ないよな。だって、お前、教師免許持ってないし」

 

「やめてよね、人がせっかく渋く決めてるのに現実を突きつけるの」

 

 セリカの冷静な突っ込みに子供のように口を尖らせるグレン。

 

「ま、資格うんぬんに関しては安心しろ。学園内での私の地位と権限でどうとでもなる。お前が実績を出せば、裏技で免許発行するのも難しくない」

 

 なにかとんでもない事を聞いた気がする。職権乱用はよくない。ダメ、絶対。

 

「ちなみに、お前に拒否権はない」

 

「嫌だと言ったら?」

 

「≪其は摂理の円環へと帰還せよ・五素は五素に・象と理を紡ぐ縁は乖離せよ≫」

 

 セリカが早口で呪文を唱えた刹那、グレンの横を光の奔流が通り抜ける。光が通った場所は、滑らかな抉られた痕が残るのみ。物理ではあり得ない、魔術による破壊、【イクスティンクション・レイ】の破壊痕である。

 

「こうなる」

 

 口をぱくぱくと金魚のように動かして硬直するグレンにセリカは澄ました顔でそう告げる。

 

「どうだ? やるか、やらないか」

 

「謹んでお受けさせていただきますぅぅぅぅ

!?」

 

 命の危機を感じてか、敬語になりつつ講師になることを承諾するグレン。さすがにここで断れるほど図太くなかったらしい。

 

「そうか、それは何よりだ……ああ、そうだ、レナ。お前もアルザーノ帝国魔術学院に編入しないか?」

 

「ふぇ?」

 

 突然白羽の矢が立ったレナは目を白黒させる。

 

「いやな、お前も本来は学校に通っている歳だろう? むしろ、今までがおかしかったわけだ。どうせだ、編入も私がどうにかできるわけだし、通ってみないか?」

 

「え、えと……私はセリカさんに魔術のことは教えて貰いましたし、今更、学校に通っても……」

 

「まあそう言うな。勉強するだけが学校ではないしな」

 

「そうなのですか……?」

 

「ああ、だから通ってみないか? 別に強制はしないが」

 

「俺との扱いの差に抗議する」

 

「黙れ、グレン。分解されたいか?」

 

 据わった目つきで睨み付ける。蒼白な顔を横にをブンブンと振るグレン。

 

「で、どうだ?」

 

「そう、ですね……それなら、通ってみたいです。学校と言うものに、興味はありますし」

 

「決まりだな。ああ、バイトはしなくていいぞ。学校に通うんだから、時間もないだろうし」

 

「でも、居候ですし、その位は……」

 

「グレンのようになれとは言わないけどな? もう少し遠慮をなくせ。私は金には困ってないし」

 

「わかりました……ありがとう御座います、セリカさん」

 

 かくして、私はアルザーノ帝国魔術学院に編入、グレンさんは非常勤講師として働くことになりました。一ヶ月限定の非常勤講師。グレンさんがちゃんと働くのか疑問な所ですが。




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