ロクでなし魔術講師と虚ろな魔術少女   作:猫の翼

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投稿が遅れてしまいました……
やはり戦闘描写は難しいですね。頭の中のビジョンを文章にするのは難易度が高い……

今回はオリジナル魔術が登場するので、後書きに説明入れてます。ついでにレナが使うナイフについても説明入れておきますね。


第七話

 ナイフを投擲する。飛来する五本の剣、その隙間を縫うように両手の指の間に挟んだ六本のナイフが駆ける。その軌道は精密かつ精確。

 しかし、弾かれる。五本の剣、その三本が動き、奔らせた剣線がナイフを捌いていく。残る二本はレナの元へ飛来し、振るわれる刃をステップで余裕を持って躱す。

 

(あの剣、恐らく三本が自動で動いてる……)

 

 今はレイクが腕を動かしている。が、先ほどは手は一切動いておらず、また反応していなかったようにも見えた。自動剣の迎撃を確信していたからか、それとも単純に反応が間に合わなかっただけか。

 ナイフを全て弾いた三本の剣が、こちらに向かってくる。新たなナイフを両手に持って、挟むようにして切り付けてきた二本の剣の間を推し通る。残る三本が咄嗟に迎撃態勢に入るが、この程度なら躱しきれる。例えこの剣が達人の技を記憶しているのだとしても、記憶に貶めたことで技は死んでいると言っていいのだから。

 体に受けそうになった攻撃だけをナイフでいなすと、防御が薄くなったレイクに突貫する。

 

「──ッ!?」

 

 レナの揚力の前に離れていた距離は一瞬で縮まり、ナイフがレイクを襲う。が、ナイフはダークコートを切り裂くにとどまった。

 

「貴様──ッ!」

 

 追撃をしようとしたところで、背後から剣がへ迫ってくる。さすがに五本全てを躱して攻撃することはできない。浅く切り裂かれるのは無視して、致命傷になりそうな攻撃をナイフで逸らし、躱していく。

 剣が主の元へ帰っていく、がレナも無事ではない。ローブはずたぼろになって、掠めた刃が肌を切り裂いている。レナはもはや用をなさなくなったローブを脱ぎ捨てて、身軽な格好となる。この学院に来て、初めてローブを脱いだ。所々が切り裂かれ、血が滲んでいる。両腕は包帯で完全に包まれていて、だがその両腕も所々が切られ、流れた血が包帯を紅く染めている。

 見れば、お互いに退いたことによって、再び距離ができていた。レイクは油断なく構えながら、こちらに目を向けていた。

 

「あの剣戟を突破するか……貴様、何者だ?」

 

「レナ=エクセリア。ここの生徒」

 

「ただの生徒ではあるまい。その思い切った行動力、それを実現する力量。かなりの場数を踏んでいる人間の芸当だ」

 

 その言葉に、レナは無言をもって返答とする。そして、ぼそりと。本当に小さく「人間……」と呟いた。

 

「まあいい、仕切り直しと行こう──っ!」

 

 再び五本剣が飛来する。それと同時、レナはナイフを投擲する。ただし、先ほどよりも多く、より精密に。一本を弾けば、弾いた穴をもう一本が抜けるように。腰から抜き出した六本、更に腿から取り出した投擲用のピックが六本。計十二本の刃がレイクの剣と交錯する。

 先ほどと同じように、三本が反応してナイフを弾こうとするが本数が足りない。弾けば空いた穴を別のナイフが抜けていく。自動剣の迎撃を免れたナイフとピックがレイクに殺到する。

 

「ちっ」

 

 だが、レイクはこれを余裕で躱す。その動きは素早く、そして最小限だ。レイクという男は、恐らく凄まじい腕の剣の使い手なのだろう。

 刃を躱し、再び剣を操ろうとして──そして、そこで気づく。レナの姿が、そこにないことに。

 それは剣士故の直感と言うべきか。

 認識するより先に、レイクの体が前へよろめくように動いていた。

 そして、衝撃。

 左肩を切り裂かれる感覚と共に痛みが駆ける。

 

(なに……!?)

 

 レナが背後からナイフで切り付けたのだ。完全に不意を突く一撃。意識の外からの攻撃だった。

 ナイフはレイクの咄嗟の行動で切っ先が掠めただけ、しかしその威力は──肩を骨もろともバターのように切り裂いた。

 

「ぐっ……ちぃっ!」

 

 レイクは手を振ると剣をレナに向ける。五本の剣が宙にいるレナに殺到し、その体を切り刻まんとする。だが──

 

「──ッ!!」

 

 レナはそれに構わず、再びナイフをレイクに投げつける。

 

「ぐぅ……!」

 

 既に体勢を崩していたレイクにナイフを躱す手段はない。ナイフは寸分違わず、レイクの脇腹に突き刺さる。しかし、五本の剣による攻撃を無視したレナにもはや生き残る道はない。少女の肉体は切り刻まれ、肉片と化す──はずであった。

 

(な──っ!?)

 

 それは、刹那の出来事であった。

 刃が少女の体に触れる、その直前。その姿が体が掻き消えた。刃は虚しく空を切る。

 そして、それと同時。

 

「ごはっ!?」

 

 掻っ捌くように脇腹のナイフが引き抜かれる。他ならぬ、レナの手によって。

 それは瞬間移動。転移としかとれない動きであった。

 

「──ッ!」

 

 身動きが取れないレイクに、レナは回し蹴りを叩き込む。ボーンゴーレムすらも退けて見せたその威力は、人間一人を吹き飛ばすには充分すぎる威力だった。更に、ナイフをレイクに向けて三度投擲する。

 

「がっ……っ!」

 

 だが、レイクも凄まじかった。その体捌きをもって、空中で体勢を立て直すと、投擲されたナイフを手動剣をもって弾かんとする。そして──

 

 

 

**********************

 

 

 

 少女は、虚ろだった。

 少女には人の『心』がわからなかった。真意はわからず、ただ表面上に浮かんだ感情だけは読み取ることができた。

 それしか、できなかった。

 表面の感情に隠された、その人間の本当の想い。それを、少女は認知できなかった。

 『心』を理解できず、『心』を持たぬ人間は、果たして人間と言えるのか。それは、もはや人間ではない。

 

 『人形』だ。

 

 当たり前だった。なぜなら、少女は人形として造られたのだから。

 

 ………。

 

 そう、私は『人形』。戦闘人形の──

 

 

 

**********************

 

 

 

 ──剣が抉られた。

 揶揄ではない。まさしく、抉られた。投擲されたナイフは剣は間違いなく捉えた。ナイフは弾かれるはずだった。

 だが、剣が抉り取られた。まるで、その部分だけ最初からなかったかの如く、まるでその空間ごと消失したかの如く。ナイフに触れようとした部分が抉り取られたのだ。

 

「はぁ──ッ!」

 

 そして少女が現れる。投擲した、今まさに剣を抉ったナイフを左手に掴み、右のナイフを腰だめに構えながら。

 躱そうとして、レイクは膝をつく。先ほどの傷が響いたのだ。身動きが取れないレイクになす術はない。

 そう、レイク自身には。

 少女の前に、剣が立ちはだかる。レイクの魔導器、自動剣だ。だが、先ほどと同じだ。少女の刃はその剣をも容易く切り裂く。

 一本目。横凪に切り裂かんとするも、左手に持つナイフで真っ二つに。

 二本目。一本目が開けた隙につけ込むが如き、鋭い突き。だが、腰だめから放たれた右手の刃が剣を縦に裂いていく。

 しかし、だがしかし。それは剣に記録された達人のなせる技か。

 

「か、は──ッ!?」

 

 裂かれた刃の片側が、少女の腹に突き刺さる。

 そして、三本目。直接触れれば消滅することを認識したか、少女に突き刺さった刃をより深くその体を貫通させるかのように、打ち込む。

 勢いを殺せず、少女は派手に吹き飛ばされる。地面に叩きつけられ、廊下を滑っていく。

 血が、流れていく。突き刺さった剣を伝って、血が流れる。その傷は、命を奪うには充分過ぎる。このままでは、すぐにでも意識がなくなり、そのまま永遠の眠りにつくことになるだろう。

 そして、激しい痛みが繋ぎ止める意識は周囲の揺らめきを認知した。現れたのは、六体のボーンゴーレム。見れば、遠くでレイクが傷を手で押さえながら何か呪文を唱えていた。つまり、これはレイクが召喚した使い魔だ。ナイフは地面に叩きつけられた時に手放してしまった。武器はなく、死に至る傷を負っている。万事休すだ。

 それでも、少女はよろよろと立ち上がる。それだけでも、大したものだろう。

 だが、立ち上がったところで、少女に武器はない。ナイフは全て使い切り、手に握る武器は何もない。

 だが、忘れてはならない。少女は魔術を使えるのだと。だらりと腕をたらし、少女は呟くように詠唱を始める。

 

「≪流れ(いずる)は我が鮮血・灼熱が如き痛みは呪いとなりて・──」

 

 ボーンゴーレムが動き出す、目標は目の前の小さき命だ。

 

「≪躰に剣を突き立て我は嗤う・──」

 

 ゴーレムが迫る。詠唱は止まらない。

 

「≪狂おしき衝動は刃を以てここに顕現す・──」

 

 致命の刃が、振りかぶられる。

 

「≪内なる虚無・剣の虚構と成りて≫──ッ!」

 

 計六本の刃が振り下ろされると同時、呪文が完成し魔術が起動する。

 全六節、それにより紡がれた魔術は──

 ──ボーンゴーレムの動きを止めた。いや、違う。その全身を、刃で貫いた。少女のたらされた腕、そこから生えた何枚もの刃が六体のボーンゴーレムを貫いていた。

 はらり、と。

 切り刻まれた包帯が床に落ちる。それを合図にしたかのように、少女が両腕を振り、真っ直ぐに立つ。ボーンゴーレムが残骸となって崩れ落ちた。

 少女の両腕には、傷が刻まれていた。一つや二つではない。数え切れない傷が幾重にも刻み込まれていた。間違いなく、鋭い刃物で切り裂いたであろう傷、刃はそこから生えていた。

 固有魔術(オリジナル)猛る騎士の咆吼(ハウル・オブ・ペイン)】。刻まれた傷痕を触媒として、彼女の魔術特性(パーソナリティ)である虚無を刃の形として振るう。虚無とは、それ即ち決して満たされぬ巨大な箱のようなもの。その虚無が刃となったのならば、切り裂いた空間を虚無が駆けるのと同義。つまり、どんなものであれ、それが物質であろうとなかろうと、ありとあらゆるものを切断する。それがこの固有魔術の力だった。

 少女はレイクを瞳に写す。光を灯さず、ただ入るものを反射するだけの瞳。それはまさしく人形のものだった。

 

 

 

**********************

 

 

 

 【Project:Perfect Doll】。天の知恵研究会が行った、儀式が一つ。その目的は、まだ生まれる前の子供に魔術的措置を施して、強化された人間を作り出す。そして、洗脳によって死を恐れず、命令に忠実な戦闘人形を作り出すこと。

 だが、魔術的措置に耐えられる者は少なく、また耐えられたとしても狙った通りの力が発揮さなかったり、何かしらの欠陥を抱えたりと、成功することはなかった。

 そう、一人を除いて。

 一人の少女は、魔術的措置を耐え抜き、狙った通りの力を持って生まれた。欠陥もなく、それは完全な成功例だった。

 魔術特性を弄くられ、魔術への適性が引き上げられたその少女は、洗脳によって完全な人形と化した。

 少女は命令されるがままに戦った。儀式によって与えられた力は、幼い少女に恐ろしいまでの力の行使を可能にした。

 命令されれば、何をされても抵抗しなかった。全身を剣で切り裂かれようと、慰みものにされようと、命令ならばそれに従った。

 そしてあるとき、少女のいた施設が襲撃を受けた。時間を稼げ、と命令された少女は森の中で襲撃してきた魔術師と戦った。だが、相手は魔術を封殺する不可解な魔術を使用し、奇襲。その体術を以て少女を沈黙させた。

 その少女の髪は魔術的措置の強い影響か、脱色したかのような、かすれた薄い金色をしていた。

 

 

 

**********************

 

 

 

 腹の傷からは血が流れ続け、剣を伝ってぽたりぽたりと地面に垂れていく。だか、少女はそれに構うことなく、レイクを見つめる。

 

「目標を補足。攻撃範囲内と断定、攻撃行動に移ります」

 

 そう、呟いて。少女は地を蹴った。一瞬で加速し、凄まじい速度でレイクに肉薄する。

 レイクは咄嗟に大きく後ろへ下がり、自動剣が少女を迎え撃つ。だが、少女の腕から生える刃は虚無の刃。左手が無造作に振るわれ、剣は次の瞬間には無惨にも切り裂かれた。

 

「だが──ッ!」

 

 そうなることはレイクにもわかっている。残った最後の一本。手動剣をその隙に背後に回し、突き立てる。背中は完全に無防備で、剣が──

 ──やはり、切り刻まれる。

 背中から衣服を突き破り剣山のように刃が現れ、刀を切り刻んだ。

 全ての武器を使い切ったレイクに、もはや抵抗する手段は残っておらず──

 ──その胸に、レナの刃が突き刺さった。

 

「見事だ……」

 

 レイクは、自らを仕留めた者へ静かに賞賛を送った。だが、その無機質な瞳にはただ血を吐く自分だけが写っている。

 

「……ふん、意思のない目だ」

 

「……」

 

 少女は何も答えない。

 

「そうか……なるほどな。その髪、その瞳、まさしく『人形』だ」

 

 そして、何かを納得したかのように呟く。

 

「帝国宮廷魔導師団には連れ去られた『人形』がいる。淡い金色の髪に、光を灯さぬ無機質な瞳。天の知恵研究会の儀式より生まれし、戦闘人形。被験体番号193番、識別名『アクター』」

 

「…………」

 

 少女は無言でレイクの胸から刃を引き抜いた。レイクは崩れるように地面に倒れた。息はしていない、死に絶えていた。

 

「……けほ……」

 

 そして、忘れていたかのように、少女は血を吐いた。そしてそのまま、まるで糸が切られた操り人形のように、崩れ落ちた。

 




レナの固有魔術
【猛る騎士の咆吼(ハウル・オブ・ペイン)】
 全身に刻まれた傷痕を触媒として、レナの魔術特性である『虚無』を刃として振るう。切った空間を虚無に置換するため、ありとあらゆるものを切断する絶対の刃。
詠唱は「≪流れ出は我が鮮血・灼熱が如き痛みは呪いとなりて・躰に剣を突き立て我は嗤う・狂おしき衝動は刃を以てここに顕現す・内なる虚無・剣の虚構と成りて≫」

レナのナイフ
こちらはレナの魔導器。柄に複雑な魔術式が何重にも刻み込まれていて、彼女自身の血を触媒とすることでとある二種類の魔術を発動できる。
一つ目の効果はナイフの刃の周囲を虚無として扱うと言うもの。今話でレイクの剣や肩を容易く切り裂いたのはそのため。【猛る騎士の咆吼】をナイフの刃に付与しているようなもの。
二つ目の効果は瞬間移動の発動及びアンカー。今話でレナが見せた瞬間移動は、一度自らの体を虚無へと移動させて再び違う座標に体を現すというもの。ただし、先述の通り、虚無とは決して満たされぬ巨大な箱のようなものであり、一度体をそこに飛ばせば再び現実に戻れる保障は使用者のレナにもない。そこで、このナイフが現実に帰還するアンカーとしての役割を果たしている。つまり、ナイフがある場所への擬似的な瞬間移動。

こんな所ですかね。レナの身体能力については、魔術的な措置で強化されていたということです。

長ったらしい後書きになってしまいましたが、読んで下さい!
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