当時、最新鋭の戦艦と言えば、ゴールド級戦艦であった。その名の通り、金に魔術回路を施し、魔力を流すことで強靭な装甲へと変化するという性質を活用したものだった。
ルーンポリス魔導高等学術研究所
「失礼します、ガーライヒ・ルーズです。アルーマ所長はいらっしゃいますか?」
「入りたまえ」
ドアを開けて現れたのは、一人の研究生だった。眼鏡をかけ、髪は少しくすんだ金髪、身長はミリシアル人の平均よりやや高い。
「君の論文は読ませてもらった。素晴らしい論文だった。確かにミスリルを用いた合金が安定して生産できれば、列強のトップの座を確固たるものにすることができるだろう」
「ありがとうございます」
ガーライヒはそんなことで呼んだのかと訝しく思いながらも、頭を下げる。研究バカなガーライヒにとって、呼び出しなどはありがたくないものだったが、所長からの呼びだしとあっては無視するわけにもいかなかったのだ。
「さて・・・。では、本題に入ろう。その前に、これから話すことを聞いたならやめることは許されない。また、内容を他人に話すことも許されない。いいかな」
「...。わかりました、大丈夫です」
ガーライヒは一瞬ためらったあと、話を聞く覚悟を決めた。自分にこんなことを言うということはおそらく極秘の研究への参加を薦めるものではないかと推測したからだ。
「まあ聡明な君なら何となくわかっているかもしれないが、我々の上位組織である、対魔帝対策省古代兵器分析戦術運用部から君に是非とも参加してほしい研究があるそうだ」
「私にですか?」
自分はめぼしい成果を挙げているわけではない。有名な研究者はまだまだ多くいるし、それこそミスリルの研究者だっている。なぜ自分に・・・?
「まあ、なぜ自分にこの話が来たのか、不思議に思っているかもしれないが、きちんと理由がある」
「理由、ですか?」
「君が造船技師の資格を持っているということだよ」
確かに自分は第一級造船技師の資格を持っている。
「今研究しているのは、ミスリルを用いた戦艦だ。元はラヴァーナル帝国のものだそうだ」
「ラヴァーナル帝国のものですか?」
はるか昔、世界を統べていたと言われるラヴァーナル帝国。今の神聖ミリシアルよりも更に進んだ魔導技術を持っていたといわれる国である。以前から神聖ミリシアル帝国は国を上げてラヴァーナル帝国の技術解析に力をいれており、世界ではラヴァーナル帝国の兵器を備えた列強として認識されている。
「設計図や機関、兵装の解析が来年から本格的に始まる。しかしミスリルという金属はそもそも扱いが難しい上に、研究者が少ない。ついでに言えば研究者が造船技師の資格を持っていることも少ないのだよ」
「なるほど、それで私を推薦していただいたという訳ですね」
「そういうことだ。できるだけ早く来てほしいとのことだ。もう研究室も準備済みだそうだ」
「いきなりですか?私にも準備時間がほしいのですが」
そんなに早く研究室を移るのは残っている研究もあるので難しい。
「いやいや、実際に移るのは今の研究が一段落した後でよいそうだ。まだ発掘が終わっていないようでな」
「わかりました。では今の研究が一段落した後、移るということで良いですか?」
「ウム、では私は報告にいってくる。急に呼び出してすまんかったな」
「いえ、失礼しました」
ミスリル級は本当はすごいんだよ。たぶん。