Listen to my song, again. 作:いつのせキノン
アリーナに、静寂が訪れた。
ノイズはわたしと翼さんで殲滅。
シンフォギアがもうボロボロな奏さんも
「……良かった」
大切な人を守れた。まずは安堵する。
けれど、守れなかった人たちもいる。
そこら中に落ちている煤の山を眺めて、わたしは口をつぐんだ。
「お、まえ……シンフォギアを……、」
ふと後ろから声がして振り向けば、奏さんがわたしを見て驚いた表情をしていた。その傍らにへたり込む
無理もないよね、と思う。シンフォギアは適合者しか纏えず、本来ならわたしはただの一般人でしかないから。
それに、ガングニールはまだ奏さんが纏っている。混乱するのは普通だ。
だから、名乗る。
「……初めまして、天羽奏さん。わたしは、立花響です。聖遺物ガングニールとの、融合症例第一号……」
胸に手を当てる。空いた穴はすっかり無くなって、僅かな傷が見えるだけ。あの重傷も治っていた。
「奏っ!!」
「あ、あぁ、翼……、」
翼が走ってくる。真っ先に奏さんの元へ駆け寄り、「大丈夫っ!?」と支えた。
「いや大丈夫だ。立てるよ、翼。それよりも……、」
「っ」
奏さんと翼さんがわたしの方を見てくる。
その目には困惑が色濃くて、また翼さんは警戒と敵意が混じっていた。
…………少し、つらい。
「……立花響って言ったっけ。あたしは天羽奏だ。よろしく。それと、ありがとな」
「へっ?」
けれど。
奏さんは、すぐに人の良い笑顔を浮かべて手を差し出してくれた。それが握手を求めてるものだと気付くまでかなり時間がかかった。
「? 何を驚いてるんだ。助けてくれたんだし、礼くらい言うのがマナーってものだろ」
そう言って、奏さんはわたしの手を取ってくれた。嬉しそうに強く握ってくれて、少し痛い。
けど、悪くない。そう思う。
「奏、その人は……知り合い、じゃない、のよね……?」
奏さんの後ろから、翼さんが恐る恐る覗き込むように出てきた。
……なんだろう、
なるほど、奏さんと一緒の翼さんは、こんな一面も持ってたんだ。そう理解して、よくわからないけど得した気分になった。
「たった今知り合いになったけどな」
「初めまして、風鳴翼さん。立花響って言います」
「え? あ、えぇ、初めまして……、」
歯切れが悪いけど、翼さんから敵意は無くなったように見える。きっと奏さんが対応してくれたから、だと思う。
さて、2人には取り敢えず挨拶をしたところで、と。
「
「……響……、」
座ったままの響の前にしゃがみ込んだ。
うん、怪我はないみたいだね。良かった良かった。
手を差し伸べて立たせるけど、まだ状況について行けてないのか上の空で困惑している。
「もう大丈夫だよ、
「っ……、」
だから、わたしはそっと
一瞬だけ、ビクッと震えた
「こわかった……こわかったよ……」
「うん、うん……」
耳元で震えた声がする。
優しく背中を撫でて、大丈夫だよ、怖くないよ、そう語りかける。
わたしがついてるから、守ってあげるから。
騒動は一応の終息という形に。
自衛隊員たちがアリーナへと駆け込んできて瓦礫や煤の撤去を始めた。
わたしと
わたしの身の上話とかは基地に戻ってからということにした。やっぱり色々と大人の人たちがいてくれた方が都合がいいのだ。
そうやって、誰が何を話す訳でもなく静かな時間が流れて。やがて数人の黒服たちが近付いてくる。どこか見覚えあるなぁ、と思えば、やはり特異災害対策機動部二課の人たちだった。どうやら迎えらしい。
装甲車に乗せられ本部へ向かうこととなった。無理を言って
移動時間もそうかからず、到着したのは私立リディアン音楽院高等科の校舎の裏口。やっぱりこの地下に二課があるみたいで記憶どおりだった。
昇降機に乗って強い慣性を感じながら地下へ降りていく。
窓から見える幾何学模様のような、よくわからない文字や絵が描かれた壁。やっぱり、記憶と合致する。
ということはフィーネが月を破壊し『バラルの呪詛』を解こうとしていることもわかる。そのためにノイズを使い、多くの犠牲者を出すことになるのも……。
止めなくちゃいけない。
それが例え叶えたい夢であっても、他の誰かの命を奪ってまでするのは絶対に間違ってるから。
けれど、どうすればいいんだろう、と思う。
わたしの記憶には『ルナアタック』として事件のあらすじがわかる。
けれどそれはあくまで当時の
既に歴史は分岐を始めてる。
けれど、まだ大筋が変わった訳ではない。
でも、と思う。
一番わたしが心配しているのは、わたしと
ライブでの事件は間違いなく起こり、わたしたちは生き残った。
それなら、きっと世論は
わたしは…………まぁ、大丈夫じゃないけど、記憶と経験によれば何とかなってる。
しかし
今回、
家族が、壊れてしまう。
壊れる保証はないが、逆に壊れない保証もない。
家族がバラバラになってしまうことのつらさは、誰よりもわかる。わたし自身のものじゃないけど、
だから、
わたしの家族も、
一応のバイタルチェックや応急処置などを済ませ、司令室まで通される。
待っていたのは案の定風鳴弦十郎さん――師匠だ。わたしの師匠、とはまた違うんだけど。
背丈が大きくて、ガッシリした筋骨隆々の肉体。本当に日本人なのかと思うくらい鍛えられてて、初見ではビビるに違いない。現にわたしの隣で
……了子さんは、見当たらない。
「ようこそ、特異災害対策機動部二課へ。新たな装者を歓迎しよう」
そう言って師匠は力強く笑ってくれた。厳ついのに人懐っこさを感じる、優しさが裏付けられた笑みだ。
「聞きたいことは山積みだが、まずは我々二課のことについてから話すとしよう。それと、一般人への対応についてもな」
一般人、というのは
これも全て、
苦い記憶が自分のことのように思い出せてしまって、思わずに顔に出そうになるのを努めて我慢する。
これから話す内容は国家機密に関わることであり、それを秘匿する義務を負うことを契約書にサインして説明が始まった。
その内容は
とある聖遺物の暴走、それに伴う作為的なノイズの発生による被害。二課の存在意義と保有する力――シンフォギアについて。
記憶と相違がないか確認しながら話を聞いて、時折隣に座っている
まぁ、そりゃそうだろうなぁ、と。
説明を聞き終えて、
話は一区切りとなり、次はわたしの話となる。
なぜわたしがシンフォギアを纏えるのか、なぜわたしがシンフォギアについて知識を持っているのか。
あらかじめ
ただし、その大部分をぼかして伝える。
シンフォギアを纏えるのは、今も心臓に刺さっているガングニールの破片によるもの。奏さんに絶唱を止めるように告げたのは、その時既に胸のガングニールから知識が流れ込んできた、ということにしておく。
流石に自分でも、なんで突然見たこともない聞いたこともない未来の知識などが流れ込んできたかはわからないし、説明のしようがなかった。
それまでに頭痛があったことも伏せておく。多分、この
わたしが特別という言い訳は、ガングニールの欠片でシンフォギアを纏えるというところから十分通用する。これからはどんどん活用させてもらう所存だったり。
あと、戦闘中の武術については「飯食って、映画見て、寝る!!」って言っておいた。全ての
奏さんと翼さん、あと
最後は、わたしの処遇について。二課からすればやはり、シンフォギア装者はノイズへの対抗策として喉から手が出るくらいには欲しいみたいで、力を貸してほしいと言われた。
けれど、わたしはまだ中学生で、この近くに住んでるわけでもない。
記憶によれば、リディアンに通っている2年後であれば全然問題はなかったのかもしれないけど、今はまだ地元にいた方がいいのかもしれない。
……あ、そっか。既にここでわたしが二課に接触してる以上、何かしら変わってるのかもしれない。もしかしたらルナアタックが早まる可能性も……。
だとしても、わたしは考えるのが苦手だ。身体を動かす方が性に合ってるし、多分対抗策なんて思い浮かばない。一応、考えてはみるけど……自虐だけど望み薄だ。
取り敢えず、保留にさせて下さい、と伝えた。これからどうするのか、ちゃんとお父さんやお母さんと話し合いたいし、
解放されたのは夜になってから。家へは車を出してくれるとのことでお言葉に甘えることにした。
と言うか、近場の公共交通機関が軒並み運転を見合わせていて帰れなかった。送ってくれるのならそれに越したことはない。
しかし周辺地域も道が混雑していて、やはりアリーナでの事件がかなり大きな混乱となっていることがわかる。
行きよりも長い時間車に揺られ、気付けば
休み明けに学校で、と
…………これから、地獄のような日々が始まるのかもしれない、と。
すぐには来ないだろう。
けれど、あと2年。中学校を卒業するまでに何も起きないとは、とても考えきれなかった。