Listen to my song, again.   作:いつのせキノン

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役目

 

 案の定、ライブ会場での惨劇を生き残ってしまった人への風当たりは強くなってしまった。

 ただまぁ、予想してた通りで狼狽する程のことでもなかったり。

 事前にできうる限りの対策は施して、お父さんやお母さんにもわたしが無事ということはあまり口にしないよう告げた。これで、少なくともお父さんやお母さんの仕事がなくなることはない……と、思いたい。

 記憶を掘り返すまでもなく、お父さんやお母さんは立派な人だ。()()()が好きだったように、わたしもお父さんを嫌いになんてなれる要素がないくらい、良くできた父親だ。

 

 風当たりは強くなったが、わたしが入院しなかったおかげか無駄にヘイトを溜めることはなかったらしい。

 知識と経験の中にあるいじめだとか家に落書きをされたりだとか、そういったことはまだ起こっていない。

 起こってないだけでこれからある可能性がなくもないけど、取り敢えずもうしばらくは大人しくしてれば下火になる……ハズ。なってくれ。

 

 学校では、わたしと未来(みく)から露骨に人が離れた。

 ちょっかいを出しに来た子はいたけれど、そこは伊達ではない経験と知識の使いどころ。然るべきとこに報告させてもらう、と言えば万事解決だ。こうなることを予測してたからこそ、事前に嫌々ながら詰め込んだ知識が役に立った。勉強ってすごい。でも二度とやらない。知恵熱出て寝込むかと思った。

 けどまぁ未来(みく)のおかげというのもある。独りじゃないっていうのは心の支えになるし、頭の方に関しては未来(みく)の方がよっぽどいいので頼りになる。持つべきは親友だね、ってどっかの映画だったかドラマだったかであった気がするけど、まさにその通り。恵まれた環境と親友に感謝だ。

 

 

 

 ……最近、未来(みく)に「……響って、ちょっと腹黒くなってない?」と言われた。

 そして、言い返せなかった。自覚したくないけど、自覚しかけてる。

 普通なら中学生が加害者に対して「然るべきとこに報告させてもらう」とか言わないよね、と。

 

 いやいや、これは正当防衛、正当防衛だから……。むしろ当然の権利でしょう。

 確かに、権力に縋ってる感じはあるから心象は良くないかもしれない。

 

 …………けれど、仕方ないことだと割り切ってしまっている自分がいる。

 

 真っ向から、いじめに意味はないって言い返すことだってできた。

 だけど、それは相手にとって不愉快になるだけの言葉。いじめがエスカレートするのは目に見えてるし、そうなったら未来(みく)や家族まで巻き込んでしまいかねない。

 

 ……家族を引き裂かれてしまう痛みを知ってるから、わたしは行動した。

 わたしは、()()()が経験したあの痛みが何よりも怖い。

 底が見えないくらいに、思い出したくない感情。

 一度経験したからと言って、絶対に耐え切れる自信がわたしには無かった。

 

 未来(みく)には「ごめんね」と謝った。皆が幸せになるためには、これしかないと思ったから。

 未来(みく)は「いいよ」って笑ってくれた。わたしが、一笑懸命だから、守ろうと頑張ってくれてるから、そう言ってくれた。

 とても、嬉しかった。その言葉を聞いて報われる。

 まだ頑張れる。へいき、へっちゃら。未来(みく)が隣にいてくれるなら、全然怖くないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 わたしの新たな生活リズムに、月一で二課へ顔を出すことが加わった。

 二課へ誘われてはいるけど、その話は先延ばしにしてもらった。

 少し早いけど、高校はリディアンに行くことを決心したからだ。ちなみに、未来(みく)も一緒。

 未来(みく)はピアノと、あとは部活で陸上をやってる。すごく脚が速くて体力もあるんだ。

 けど、しばらくタイムが伸び悩んでいて、未来(みく)自身そろそろ辞め時だと思っているみたいだった。

 辞めるかどうかは未来(みく)次第。わたしは、未来(みく)のしたいことをすればいいと思うよ、と言った。

 

 ちなみにわたしはインターアクト部っていう、ほぼ社会貢献活動のためのボランティア部のようなとこに所属してる。

 

 相談に乗って、そのあと未来(みく)はピアノの道に進むことを決めたらしい。だから、リディアンへと行くことを決めた。

 わたしは……まぁ打算もある。二課のことや、シンフォギアのこと。記憶から、やっぱりリディアンには行くべきだと思う。

 あとは、やっぱりツヴァイウィングかな。わたしが入学する頃には奏さんは卒業だけど、翼さんとは1年被る。是非ともお近づきになりたいところだ。

 なにせ、ファンである。記憶で何度も語らって、戦友となった身であることは重々承知。

 されど、まず第一にファンである以上は学園生活を共にするというのもまた……いい。今度こそ、記憶にあるテンパってしまったアレをリベンジしたい、と()()()は決意するのであった。

 

 

 

 

 

 とまぁ何だかんだと、少し変わった日常を過ごしている。

 ライブの惨劇から半年が経って冬になったけど、その間に実戦でシンフォギアを纏うようなことは起こらなかった。つまり、フィーネはあのライブ以降行動を起こしていないということになる。

 

 この世界でのフィーネは、やはり了子さんなのか。

 何度か二課へ通ううちにかなりの頻度で顔を合わせたけれど、了子さんはどこからどう見ても普通の了子さんで、やっぱりフィーネとは思えなかった。疑うのは、心が痛い。

 ()()()はまだ、了子さんを信じているみたいだから。

 

 わたしが()()()の記憶を見るとき、それは確かに自分のものとして認知できるんだけど、同時に時系列順に並べられた本棚から任意の記憶を取り出すようにも思えた。つまり、他人の記憶を覗いている感覚だ。

 そして記憶を視れば見るほど、わたしは()()()に染まっていく。わたしが()()()と混じってゆく、そんな気がする。

 

 

 

「――――浮かない顔してんな?」

「はぇ?」

 

 二課の会議室でのブリーフィングが終わってボーッとしてると、横あいから声がかかった。

 自分でも間抜けだなって思う腑抜けた声を出しながら首を巡らせると、薄く笑みを浮かべた奏さんがいた。

 思わず、緊張してくる。奏さんと接するのは記憶や経験になく、その全てが初めての体験。

 何が失礼なのか、喜ばれるのか、手探りにやっていく感覚は緊張感を加速させる。

 

「い、いぇ、すみません……答えのない問題……悩みに、直面してる、といいますか……あはは、自分でもよくわからなくって……」

 

 歯切れ悪く、しどろもどろになりながら返した。

 

「んー、課題とかそういう悩みとは別っぽいな。もしかして、シンフォギアとかそれに関連する?」

「……いえ……たぶん、自分の問題、だと思います……言葉にするのが難しくて……」

「ブリーフィングも上の空っぽかったしね。よし、ここは先輩が話を聞いてあげようじゃあないか」

 

 翼ぁ、と奏さんは資料を片付け終わって出て行こうとしていた翼さんを呼び止めて手招き。翼さんが不思議そうな表情でやって来た。

 

「どうしたの、奏」

「いやなに、1つ後輩の役に立とうじゃないかってね。響が悩んでるから、先達からアドバイスでも」

 

 いいだろ? とニカッと笑っていう奏さん。

 翼さんは一度こっちを見て一瞬考え込み、「まぁ、いいけと……」と近くの席に腰を下ろした。

 いやはや、お手数お掛けします……。

 

「それで、立花の悩みとは?」

「今から聞くとこ。で、響は何に悩んでるんだ? 抽象的でもいいから話してみると案外気が楽になるぞ」

「えっと、いいんですか……? ご迷惑では……」

「気にすんなって。むしろ、そこまで表情に出てるとあたしが気になるんだ。芽は早いうちに摘んどくに限る、だろ?」

 

 まぁ、合理的な話だと思う。

 翼さんは「奏がそう言うなら……」と傍観的なスタイルを貫くらしい。

 

「……それじゃあ、お言葉に甘えさせてください……」

 

 そこからポツリポツリと、わたしの表現できる言葉で、()()()の記憶のところなどはぼかして話し始めた。

 

 

 

 例えばの話。

 

 突然、夢でも見たことがないデジャヴを感じるようになる。

 初めての場所、初めての体験、初めてだらけのこと。わたしはそこでこのデジャヴが何なのかを考える。

 気のせいで片付けるには妙に馴染み過ぎていて。自分の記憶とするにはあまりに突然で受け入れられない。

 では、このデジャヴは何なのか。誰のもので、()()()()()()()()()()()()()

 わたしはそれを知っていて、()()()はそうだと納得させてしまう。

 なにせ、この身体は()()()だ。()()()の記憶が他人のものな訳がない。

 だから、わたしは()()()なのだ。いや、わたしが()()()となるのだ。

 

 じゃあ、わたしはどうなる?

 ()()()になってしまったら、これまでのわたしは、消えてしまうのか。

 

 ふと、考えたことがある。

 

 そして、わたしは酷く寒気を覚えた。指先が冷たくかじかんだ。

 

 確かにわたしはここにいるのに、気付けば()()()しかいなくなっているのかもしれない。

 けれど、わたしはそれに違和感を抱かないし、抱くはずもない。

 ()()()はわたしだ。だったら、何も間違ってない。

 

 

 

「――――予想以上に哲学的だな」

 

 奏さんは一通りわたしの話を聞いてそう言った。

 

「響は、不安を感じてるんじゃないか?」

「不安……はい、そう、だと思います」

「そうだな。じゃああたしの個人的な見解を述べるとすれば、響が感じる不安、反対に正当性。どっちも正しいモノなんじゃないかな」

 

 矛盾。それを奏さんは肯定する。

 

「自分が自分でなくなる。そのことに違和感を抱けないことに違和感がある。これでいいのか、後悔しないのか。響が感じる不安はそんなところなんじゃないかって、あたしは思う」

 

 自分が自分でなくなる。その言葉を反芻してぼんやり考えた。

 

 あの頭痛が来たとき。既にわたしはわたしでなくなったのかもしれない。

 

「聞いといてアレだけど、そっから先は響の問題だな。二重人格かそうじゃないかなんてわかんないし、本人が自覚するってのも妙な話だ。響自身、自分が二面性であるなんて微塵も思わないだろ。だったら、響は響さ。何を経験しようと、感じようと、それらに対峙して飲み込んでくのは響だからな」

 

 

 

 

 

 二課から出た後は送りの車に乗せてもらう。

 

「…………………………………………」

 

 奏さんの言葉をぼんやりと思い出す。

 わたしは、わたし。全てはわたしが生きていくこと。

 

「……今度、未来(みく)にもちょっと相談してみようかな……」

 

 明後日からはまた学校。冬休みも近い。

 休みに入る前に、未来(みく)にも言っておきたかった。きっと未来(みく)なら、話を聞いてくれるかな、なんて。ワガママな考えをする。そうだと、いいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奏は、立花のことを気にかけるのね」

 

 会議室を後にする道すがら、隣を歩く翼からの言葉に奏は不思議そうに首を傾げた。

 

「どうしたんだよ、翼。やぶから棒に」

 

 本当に急な話だな、と奏は小さく呟いた。

 

 立花響とは月一回顔を合わせる程度だが、知り合ってから既に半年以上が経過している。

 巻き込んでしまった結果とはいえ、特異な融合症例であり、かつ、同じシンフォギア装者でもある。月一の戦闘訓練でも度々共に動き回っているのだから、ただの顔見知りともいえない間柄だ。

 

「……その、相談に乗ってあげたりとか、色々してるし……」

 

 普段は凛とした佇まいをしており、ゆえにファンが多い翼なのだが、今の彼女はどこかオドオドしていて乙女のようだった。少しうつむき加減に、お腹の前で組んだ手の中で指をつんつんとさせている。

 

 もしやこれは、と。奏はニタニタとおもちゃを見つけたような人の悪い笑みを浮かべ始める。

 

「……翼、もしかして構ってもらえなくて嫉妬してる?」

 

 と、言った途端、翼はバッと勢いよく顔を上げて隣の奏を凝視。パクパクと口を金魚のように動かして、だんだんと顔も真っ赤になっていく。

 

「ちっ、ちがっ、そんなことはなくって……っ!!」

「えぇ〜ほんとにござるかぁ? 翼ってばいつもあたしにベッタリだしさぁ〜」

「ぁ、う……っ」

 

 うりうり〜、と肘を当ててやると、図星らしく「ぁぅぁぅ……」と鳴くばかり。

 ファンの前では絶対に見せない、翼と奏の仲だからこそ見せてくれる表情だ。相棒の実に乙女ちっくな反応に、奏は大満足だと笑い、頭を撫でてやった。

 

「可愛いなぁ、翼は。……大丈夫だよ、翼はあたしの相棒だからな。響にかまけて放置なんてしないさ」

 

 なだめるように、姉のように、優しい声音でサラサラとした髪を優しく撫でてあげる。こうすると翼が落ち着くことをよく知っていた。

 

 ここで言っておくべきか。

 奏は一瞬考えて、ちょうどいいと口を開いた。

 

「……あたしさ、ずっと思ってることがあるんだ。言ってもいいか?」

「……奏の言う事なら、受け止める。それが、相棒の役目だから」

 

 翼はしっかりと頷いてくれる。ありがとう、と奏は礼を告げる。

 

「……あたしさ。響を巻き込んじまったって思うんだ。あのライブの時、逃げ遅れた響や小日向を守らなきゃって思って……けど、あたしがLiNKERを使わなかったから、ガングニールが砕けて、響は装者になった……」

 

 ノイズから一般人を守るのは装者の役目だ。だから、あの時奏は響たちを捨て置くことなんてできなかった。見捨てていたら、二人はもうこの世にいなかったのだろう。

 

「……そして、助けてくれた。守ってみせるって……すごく、眩しい背中だった……」

 

 あれは生粋の善人なのだろう。心の底から守ってみせると言い切ってるからこそ、あの時の響の言葉は何よりも力強かった。

 

「……あたしはさ、翼。響のために責任を取らなきゃならないんだ。巻き込んで、助けてもらって……あたしは響にまだ何もしてやれてないんだ」

 

 立花響は強く敏い子である。この半年で、まだ幼い響を見てきた奏は思った。

 彼女は奏に「ありがとうございます」と言ったのだ。守ってやれず、怪我を負わせ、逆に守られたというのに。

 

『奏さんが、生きるのを諦めるなって言ってくれたから、わたしは皆を守れるんです』

 

 かつて、響は奏にそう言った。

 

「……言葉だけじゃダメだ。響の先輩として、あの子のためにできることを、やってあげなくちゃいけない。先達の役目ってのはそういうものだと、あたしは思うんだ」

 

 

 

 

 

 翼はぼんやりと奏の顔を見上げた。

 同時に、悟った。

 

 嗚呼、奏は、とても苦しいんだ、と。

 

 何年も背中を追いかけ、背中を合わせ、肩を並べてきたことか。彼女の背負うものの重さに、翼は気付くことができた。

 

 立花響。

 半年前のライブでの惨劇に巻き込まれ、胸に食い込んだ聖遺物の欠片によってシンフォギア装者となった女の子。

 

 翼にとって立花響という存在は、ただの知り合いやファンという遠い存在でも、仲間と言うほどに近い存在でもなかった。

 簡単に言えば、顔見知り以上友達未満という微妙な距離。

 特殊な生まれで生きてきた翼に友達と呼べる存在は皆無。奏は親友以上恋人未満で相棒と、友達カテゴリーに入れるには少し違う。

 

 ようは他人と上手に接する方法がわからない翼は、彼女との距離をはかりかねていた。

 

 それもあって翼は、なぜ奏が真摯に響に接するのだろうと考えていた。

 

 けれど、奏の言葉を聞いて翼は自分自身に少なからずショックを受けていた。

 立花響は巻き込まれたにも関わらず、奏を助けていたのだ。重傷を負って生死の狭間を漂ったというのに。

 もし仮に、あの時響がシンフォギアを纏っていなかったら、奏か翼のどちらかが、もしくは二人が、もうこの世に存在しなくなっていただろう。

 

 だからこその自身への失望。私は、立花響が奏を助けてくれた、自分を助けてもらった礼すら言えていないのだと。

 

 奏と同じガングニールを纏って、心のどこかで警戒していたのだ。

 この人が、奏のいるところを奪ってしまうかもしれない。奏の存在意義を無くしてしまうのかもしれない。

 つまり、天羽奏という存在の否定、死。

 

 翼は無意識に、それを恐れていた。

 

 脳裏に響の顔が浮かんだ。

 立花響という少女は、誰にも臆することなく接することができる子だ。心優しく、翼や奏に屈託のない笑みを向けてきてくれる女の子だ。

 半年間顔を合わせてきて、翼は今更それに気付いた自身を恥じた。

 

「……奏」

「? どうした?」

 

 だから、風鳴翼は告げる。相棒だからこそ、ツヴァイウィングの片翼、二人で一対の翼だからこそ、言わねばならない。

 

「私にも、背負わせてほしい。あのライブの日、私は……私たちは、立花に助けられた。だから、あの子に返さなくちゃいけない。あの子のために、私のできることを、やりたい」

 

 強く、奏の瞳を見つめて伝える。

 同時にこれは自身への戒め、宣言、誓いである。

 防人として、彼女を守ると、剣として約束する。

 

「……そっか。じゃあ、一緒に頼むよ、翼。可愛い後輩のために」

「うん……今度、もう一度、立花とはしっかり話をしないとね」

「そーだな。あたしの後ろに隠れて警戒してた誰かさんは、もっとシャンとしないとな?」

「っ、ぁ、もうっ……奏はいじわるだ……」

 

 

 

 

 

 

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