Listen to my song, again.   作:いつのせキノン

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相談

 

 小日向未来にとって、立花響とは太陽である。

 立花響にとって、小日向未来とは陽だまりである。

 お互いにとって、立花響は、小日向未来は、なくてはならない存在である。

 二人の仲は、それはもう何者も邪魔できないくらいに睦まじいものだ。

 

 だから、お互いが何を思っているのかは、何となく察することができる。

 

 例えば、今の響は――――、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「相談? いいよ」

 

 学校の帰り。隣を歩く未来(みく)は、「相談したい」というわたしの言葉に笑顔で答えてくれた。

 

「響、ずっと何か言いたそうにしてたから、待ってたの。やっと言ってくれたね」

 

 未来(みく)にはずっと見透かされてた。未来(みく)から言わなかったのは気を使ってくれてたんだ。敵わないなぁ……。

 

「バレてたんだ……ごめんね」

「うぅん。もう許す。だって、ちゃんと言ってくれるんだし。でも次からはもっと早く言ってくれると嬉しいな」

 

 帰り道の公園によって、年季の入ったブランコに腰を降ろす。ギィ、と錆びた鉄が擦れる音がやけに耳に残った。

 

「……突然なんだけど、さ。未来(みく)は、これから先の未来に起こる可能性があることを知ったら、どう思う?」

「未来予知ができたら、ってこと? うーん……全然想像できないけど……、嬉しくもあるし、悲しいのもあるかも」

「嬉しい、だけじゃなくて?」

「うん。もちろん、未来が見えることは良いこともあると思うよ。雨が降りそう、とか、明日授業で当てられるのかな、とか……。でも、同じくらい、悲しいこともある」

「……それは……?」

「響のこと」

「わたし、のこと……?」

 

 思わず、未来(みく)の方を見た。

 未来(みく)もわたしの方を見て目が合う。

 

「……最近、響はすごく、……焦ってる、って言うのかな。何かを警戒してるみたいで、生き急ぐ人を見てるみたい。警戒心の強い猫を眺める気分だよ」

 

 ……そんなに態度に出てただろうか。確かにぼんやりとこの先のことをどう対処していくべきか考えてはいたけど……。

 

「きっと、すごく悩んでるんだよね」

「まぁ……うん。堂々巡り」

「だと思った。同じことを考えてると、ずーっと右手でペンを回すもん」

「えっ、そうなのっ?」

 

 自分でも気付かなかった癖に、未来(みく)は「そうだよ」と小さく笑いながら肯定した。

 流石にそれは記憶にもなかったので本当に驚きだったり。

 

「……わたしにはね、すごく危なっかしく映るんだよ。何か、わからないけど、危険なことをするんじゃないかって……そんな未来が見えたら、悲しいじゃない」

 

 そう言って悲しげに顔を伏せた未来(みく)

 

 そうだった。

 未来(みく)はいつも、どんな時も、わたしを心配してくれていた。()()()も知っているし、身に沁みて覚えている。

 ここまで献身的に面倒を見て、思ってくれる親友なんているだろうか。

 いる訳がない。未来(みく)みたいな優しくて暖かい人は二人といないんだ。

 

「もし、響が危ない目に遭う未来を見ちゃったら……わたしは、悲しいよ。すっごく嫌で、胸が苦しくなる。助け出したいって、思う」

未来(みく)……」

 

 わたしはまた未来(みく)に心配されていたんだ。

 情けない。情けななぁ、わたし。

 ()()()も思わず溜息だ。散々守る守ると言っておきながらこの体たらくである。

 結局のところ、わたしはいつだって未来(みく)に心配をかけてかけてかけまくって、それでヘラヘラと帰ってくるお調子者。そりゃあ愛想尽かしたくなるような人だ。

 それでも助け出したいって言ってくれる。わたしが守りたい大切な人は、()()()そう言ってくれるみたい。

 

 だとするならば。

 わたしはもっと未来(みく)に伝えなくちゃいけない。

 出し惜しみをして、いらぬ隠し事をして、そして失敗して、後悔して……離れ離れになるつらさがわかるから。

 

「……未来(みく)。わたしが悩んでるのってさ、それだけじゃないんだ。そういう未来が何となくぼんやりわかってて……けれど、それが見えるのは、わたしじゃなくて、何か別の、誰かが乗り移ってる、みたいな……わたしが呪われてて、何かに取り憑かれたのかなって」

「あんまり穏やかじゃないね」

「そう、だよね。うん……」

「……それじゃあ、響は昔のことを忘れちゃったりしたの?」

 

 その言葉に、思わず「えっ?」と顔を上げて聞き返す。

 

「…………うぅん、忘れては……ない、と、思う」

「なら、大丈夫じゃないかな。響は何も変わってないよ。()()()()()()()()()

「っ…………、」

 

 戸惑っている。

 未来(みく)の言葉が、ストンとわたしの中におさまった、気がした。

 

「……なんで未来(みく)ってわたしよりわたしのことわかってるんだろ……」

「それは……ずーっと一緒だったから、かな? 響のことなら全部知ってるって言えちゃうかもね?」

 

 なんて、未来(みく)は冗談だとクスクス笑っていた。わたしにはどうも冗談に聞こえないあたりがちょっとしたミステリーだ。

 笑顔の未来(みく)を見て、思わずわたしも釣られて笑った。個人的に重い相談であったはずなのに、こうもアッサリ片付けられるとは思わなかった。拍子抜けして、肩の力が緩んだのかもしれない。

 

 ……重荷が取れたような気分がして、少しスッキリした。

 

 ひとしきり笑い合って、久々に晴れやかな気持ちになれた気がする。

 

「ありがとね、未来(みく)。色々解決したと思う」

「そう? なら良かった。今の響、吹っ切れた感じがするよ」

「そ、そう?」

 

 どこを見て判断されたのか……。ぺたぺたと無意識に頬を触ってみるが、自分じゃわからない。

 

「顔に書いてあった……?」

「さぁ、どうでしょう」

 

 はぐらかしてくれる……。

 ……まあ、いいか。

 

 未来(みく)に伝えたいことは、伝えられたかな。

 

 ちょっとばかり爽やかな気持ちになれて、帰ろっか、と未来(みく)に声をかけた。

 そうだね、と返ってきて、自然と肩を並べて。

 

 

 

 

 

 ――――そこで悪寒が背筋を駆け上がった。

 

 

 

 咄嗟に未来(みく)を背に庇って……直後、わたし達だけがいる公園にノイズが現れた。

 入口ごとに大きな個体、わたし達を囲うようにぐるりと一周、小型ノイズがわんさか……数を数える気にはなれない。

 

「なんでここに……!?」

 

 完全に想定外。()()()も流石にこれは予想してなかった。

 

 いや、けれど。

 ()()()が思うに、既にソロモンの杖を起動させられていたとしても何ら可笑しくはない時期だと結論付ける。記憶の中の白い彼女は、この年には日本に戻って来ていたはず。

 

「響、これ……」

 

 肩越しに聞こえてくる未来(みく)の震えた声。

 

「――――じっとしてて。絶対に、動かないで……ッ!!」

 

 背中で頷く気配を感じ取りながら、聖詠を唄い、ガングニールを纏って構える。

 

 ……けど、この状況はマズい。何がって、後ろに未来(みく)がいる。守りながら戦うのは、近接戦闘が主なわたしには少々……いやかなりキツい。この場を離れたとき未来(みく)を襲われたら対処が難しい。

 逃げようにも退路はなし。ご丁寧に上空にも飛行するタイプのノイズが配置されて逃げ場を潰している。

 遠く、ノイズ発生を知らせるサイレンが鳴り響いているのがわかる。翼さんと奏さんが駆けつけるまでどれくらいか……それまで一人で耐えきらなきゃいけない。

 

 どうにかできないか、ない頭を出来る限り捻っているけど、策は出てこない。

 そうこうしている間に、周りのノイズたちが一斉に襲い掛かってきた。

 

 ああ、迷ってられない……ッ!!

 

 胸に浮かぶ歌を唄い、とにかく近くにいるのを片っ端から殴って蹴って投げ飛ばして。

 

 殴れ。殴れ。殴れ。

 

 足りない。

 

 蹴って。

 

 足りない。

 

 手と足が足りない!!

 

 歌は止められない。歌が止まれば、フォニックゲインは低下する。すなわちパフォーマンスは下がる。

 全身の躍動、さらには歌、呼吸は歌の合間の息継ぎのみ。

 圧倒的酸素不足。喉の奥が苦しい。息がしたい。

 視界が狭まる。

 もっと早く。速く。

 加速する。

 拳が唸る。

 もっと強く、強く、強く。

 歌はまだ続く。

 体はまだ動く。

 殴れ、蹴り上げろ、吠えろ。

 歌い上げろ。

 視界が明滅している。

 それでもまだ体が動くならば。

 

 音が一瞬遠ざかる。

 

 咄嗟に振り向いて脚を振り抜いた。

 しゃがみ込んでいた未来(みく)の頭上を越えて、ノイズをまとめて蹴り払った。

 

「――――ッカ、ハァ……ッ!!」

 

 一瞬だけ、包囲網が崩れる。か細い息を吐き出して、全力で酸素を吸い込む。

 

未来(みく)、口閉じててッ!!」

 

 すぐさま未来(みく)を横抱きに抱え込んで、一番壁の薄いところへ全力でタックルをかます。

 吹き飛んだノイズたちを尻目に駆け出して、公園を離脱。出入口を避けて茂みから飛び出した。

 

 包囲は抜けた。後はとにかく追い付かれないように駆ける。

 

 立地的に丘の上、眼下には街並みが見えて、海沿いの方から遠目に大型ヘリが飛んでいるのを目視。陸路には何やら大がかりな部隊がこちらの方向へ走ってきているのが見えた。

 

 一度足を止めて未来(みく)をその場に降ろす。

 

未来(みく)、こっからはとにかく真っ直ぐ走って!!」

「響はどうするの!?」

「足止め!!」

「あの数を……ッ!?」

「大丈夫、今更あんなの、数じゃないッ!!」

 

 既に後方には大型ノイズの影が二つ。追い付かれる。

 

「もうすぐ翼さんと奏さんも来る!! 部隊も来てるし、そこなら安全だから!!」

「っ……、わかった……。響、絶対戻って来てね!?」

「約束する、絶対ッ!!」

 

 逡巡する未来(みく)だけど、力強く頷いてくれた。

 

 言葉を胸にしまって、後方に振り向く。目と鼻の先、接触までもう間もなく。

 

「……来い……ッ!!」

 

 わたしも全力で、真っ向から突っ込む。

 緑色の大型ノイズが腕を振りかぶって叩き付け、それを殴り返す。全くもって、痛くも痒くもない。逆にノイズの腕を肩の根本から吹き飛ばした。

 

「もっとォッ!!」

 

 空いた土手っ腹に駆け込み、撃鉄を起こした左腕の拳を叩き込む。轟音と同時に風穴が穿たれ、その向こう、ノイズの大群を目視。

 

「っ!?」

 

 直後、ノイズたちが細く捻じれ弾丸となって突っ込んできた。

 咄嗟に身体を捻って拳と脚で叩き落とし、弾き、けれど一つが懐へ。

 

「が、ふっ!?」

 

 腹に激突。

 痛い……けどっ!!

 

「まだまだァッ!!」

 

 シンフォギアだからこそ触れても問題ない故にできる芸当。そのノイズを抱え込み、力で持って両手で締め上げ、潰し千切る。

 

 刹那、地面に落ちる影。視線を覆うほどの大型ノイズが迫っていた。

 振り上げられる腕を見て、回避は不能。

 

 だったら、受け耐えるのみ。

 

 振り下ろされる剛腕を、両腕を交差して受け止める。

 圧倒的な重量が真上から衝撃でもってのしかかってくる。ソレを歯を食いしばって耐えて。

 

「どっっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいッ!!」

 

 全身で弾き返す。

 反動で大型ノイズがたたらを踏む、隙をついて肉薄、細い脚目掛けて拳を振り抜く。

 一撃で膝から下が消し飛んだ。倒れ込んでくる巨体へ向けて、アッパー。巨体が炭素へ返ってゆく様を見届ける。

 

 だけど、次が来る。

 

 大型は全て片付けた。後は小型ノイズのみ。奴らがまとめて飛び掛かって来る。

 退いてはいられない。腰のブースターを全力で噴射し、右腕の撃鉄を起こし、一直線に突撃。群れのど真ん中へ向けて、全力の一撃。

 

「ぶっ飛べぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!!」

 

 音を置き去りに。衝撃を置き去りに。影すらも置き去りに。

 確かな手応えと共に、背後でノイズが消滅していくのを感じ取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノイズは消え去って、人っ子一人いやしない。

 ヘリのローター音が頭上までやってきて、すぐにシンフォギアを纏った奏さんと翼さんが降りてきた。

 お疲れ様です、と声をかけて、奏さんが「お疲れさん」と、翼さんは「ご苦労」と返してくれる。

 

「いやはや、戦闘スキルはやけに高いとは思ってたけど、あたしらの出番がないとはね」

 

 ……そう言えば、気付けば全部ノイズは処理し終わってる。撃ち漏らしがなければいいんだけど……。

 

「あっ、そうだ。未来(みく)は見ませんでしたか!?」

「小日向なら一課の部隊の方が保護したと報告がある。案ずることはない」

「そ、そうですか……良かった……」

 

 翼さんの言葉に安堵する。先回りされてたらどうしようかと思ったけど、本当に、良かった。

 

「響、丁度放課後の下校途中だったんだって?」

「あ、はい。ちょっと公園で未来(みく)と話し込んでたらノイズが現れて……」

「そりゃあ災難としか言えないなぁ。いやでも、一人でよく無事だったよ」

「あはは、ありがとうございます」

 

 ぽんぽんと、奏さんが頭を撫でてくれる。憧れの人にこうしてもらえるのは、素直に嬉しい。

 ……っていうかファンとしてはメッチャ幸運なのでは? うん、そうに違いない。

 

 この後はノイズ出現場所付近の警戒と、被害状況の確認がある。奏さんと翼さんがそのまま行くみたいで、わたしは未来(みく)の方へ行って良いと言われて、その言葉に甘えることにした。

 

 

 

 ひとまず、今日の事態は終息となった。

 ただし、気が抜けない状況だとわかったのは幸か不幸か。

 記憶に(よぎ)る白い少女の影が脳裏をチラついた。

 

 

 

「…………変なことにならないといいなぁ……、」

 

 

 

 

 

 

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