Listen to my song, again. 作:いつのせキノン
完全聖遺物デュランダルの移送計画が実行段階へと移される。
突然だけど、師匠から話があった。
なんでも、二課が保管しているデュランダルが狙われていると推測され、保管場所を移すらしい。
ネフシュタンの鎧の反応が出て来たのと同時刻、二課本部にも外部からハッキングがあったとのことだ。
これをもって政府は正体不明の組織がネフシュタンの鎧と同じ完全聖遺物を狙っているものと断定したので、場所を移すのが常套だろう、とか。
とは言うけど、今回わたしはお留守番。というか、いつも通り学校に通うことになりそうだ。
移送の護衛は奏さんと翼さんが担当する。
「……無事終わるといいけど……、」
時刻は夜10時を過ぎたところ。
作戦決行は早朝。あと7時間もすれば始まるハズ。
「……ってわたしが悩んでても意味ないんだよね……」
ほんとに、その通り。何かが通じるはずもなく、ここでわたしが考えたところで何もならない。精々、うまくいくことを願うくらいか。
「……寝よう……」
流石に、眠くなってきた。踏ん切りをつければ、案外寝れるモンだなぁ、というのは小さな発見だったのかもしれない。
黒い感情が押し寄せてくる。
壊せ、殺せ、破壊しろ。
自分で自分でなくなってゆく感覚。
氷のように冷たい波が、手の先から全身へと染み渡り、どんどんと意識が遠のいてゆく。
手の中には
じわりじわりとやってくるソレに身を任せてしまえば……。
悪寒が背中を駆け上がり脳天を突き抜ける。
竦み上がる身体はいつしか黒い泥の上に倒れ込み、ごぼりと沈み込む。
いくらもがいても浮上できず、ずぶずぶと底なし沼へと引きずり込まれてしまう。
寒い。
そこは、とても寒かった。
何も、温かくない。
日陰のように冷たくて、じめじめして、気持ち悪い。
怖い。とても、とても。
「――――――――――――――――ッ!!!!!!!!」
冷や汗に目が覚めて、咄嗟に枕もとの時計を掴んで目を凝らした。
薄暗い部屋、時計は4時58分を指し示している。
「わたしのバカ、何でこんな大変なことを……!!」
まだ半覚醒状態の身体でベッドから飛び起き、とりあえず適当なジャージに袖を通して部屋を飛び出した。
なるべく音を立てないよう気を付けて……靴を履き替え、メモ帳に走り書き。それを玄関に投げつけるように置いて、日が昇ったばかりの外へと飛び出した。
本当に、バカだった。デュランダルの移送計画中に何が起こったか、
「――――Balwisyall Nescell gungnir tron――――」
聖詠を唱え、ガングニールを纏う。とにかく、走るしかない。
「デュランダル起動……、どうにかしないと……ッ!!」
また屋根の上を駆けることになるし、今は朝方。五月蝿くなるのは許してほしいなって。
◆
眼下を見下ろして、遠目に見える無人のバイパスを駆けて行く車列を見やった。
大型バイクが一台、先頭。後続に黒のセダン四台に囲まれて黄色のコンパクトカーが走る。
「……わざわざ目立つように走るたぁ……死にたがりか?」
ご苦労なことに、大規模な交通規制を敷いて目立つこと目立つこと。狙ってくれと言わんばかりだ。
「ま、遠慮なくやるのは変わらねぇ」
送電塔から飛び降りて、バイパスへ。落下の勢いに乗じてネフシュタンの鎧の鞭を叩き付ける。
狙うは架橋接合部、一撃でもって橋を分断。同時に内部を通る水道管やらガス管やら、諸々を鞭が両断し、コンクリートを突き破って噴き上がった。
連鎖して、衝撃と自重で橋が足場から崩壊。
道路が割れて車列が乱れ、バイクだけが先攻してきた。
「はぁぁッ!!」
案の定、青いのがシンフォギアを纏ってバイクから飛び上がり、斬り付けて来た。
正眼、上段、八相、ありとあらゆる角度から刀が斬り込んでくる。それを鞭で返し、いなし、反撃。
「――――フゥッ!!」
向こうから、短く細い息。一瞬、影がブレた。
「――っ、づぅ……ッ!?」
刹那、脇腹に鋭い痛みが走った。
瞬間、意識よりも大きく鞭を横に振るい後退。払う動きで距離をあけた。
右手で触れれば鎧が切り裂かれ血が。深くはないが、痛みが残る。
「っ、鎧ごとかよ……」
「鎧があれば斬れぬとでも思ったか。ナマクラと侮るなよ」
「ッ、うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえッッ!!」
【NIRVANA GEDON】
エネルギーを収束し、叩き付けるように投じる。
「狙いが甘いッ!!」
「知ってらァッ!!」
案の定、大きく動いて躱される。チャージが必要で大振り、当然だ。
鞭の間合いの内側に踏み込まれそうになれば、自身に巻き付ける形で鞭を振る。横一閃の攻撃にはたまらず向こうも跳んで回避か後退、もしくは素直に受け流す他なし。
右方向、回り込んで刀が迫る。
横、一瞬遅れて縦の一閃、鞭で迎撃し、逃げ道を絶つ。
情報で聞いてたが、刀さばきが尋常じゃない。しなる鞭をいなすのは生半可な技術じゃ不可能だってのに、それを易々としてみせる。
「だったらァ……ッ!!」
「ッ!?」
肩口前方だけだった鞭を更に背中側から引き延ばし、全部で四本。
「さばけるモンならさばいてみなッ!!」
単純計算で二倍、偏差を織り交ぜ、隙を与えない。
何度も何度も、振るっては弾かれ、いなされ、流され……けれど、奴をそこに縫い留める。
「動きが止まったな!!」
「しま――――っ!?」
止まったところで脚を絡めとり、斬られる前に刀を弾き飛ばす。
思い切り脚を引っ張り、体勢を崩したところに一撃、真上から叩き付けた。
「次はッ、当てるッ!!」
【NIRVANA GEDON】
「くッ、かくなる上は……ッ!!」
「遅いッ!! だらああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」
何かをされる前に、動けない内に。
大きく振りかぶって、溜め込んだエネルギーを全力で振り下ろした。
――直後、轟音。バイパスが大きく揺れた。煙が舞い上がり、コンクリートが割れて真下へ落ちて行く。
「……ハッ、あっけねぇ」
完全に直撃した。手ごたえもあった。
さっきまでアイツがいた場所は穴が開いて、下を流れる川が見える。今も水面が激しく波打っていた。
落ちた。これでいい。
あとは、デュランダルを。あれさえ回収できればいいんだ。持って帰れば、あたしは、まだ、あの人の元で……、
「――――油断したな」
「ッ、どこに――――か、はッ!?」
刹那、背中から衝撃。視覚外、突然の痛みに身体が強張った。
「っ、ぐっ!?」
「詰めが甘かったな。そう易々と私が倒れると思うな」
地面に押し倒され、肺が圧迫されてむせる。一瞬、市会が明滅して、身体が弛緩。
腕も背中側できつく拘束され、完全に身動きが取れない。
「クソッ、いつの間に……ッ!? 確かに当たったはず……!!」
「ああ、当てられた。
首を巡らせれば、そいつは半ばから折れた刀を持っていた。
「そんなほっそい剣如きでか!?」
「否。私の剣は変幻自在。知っているものと見ていたが……」
見れば、剣は一瞬で大きさを変えて大剣ほどに。
つまりだ、こいつは剣をデカくして防いだ、と。
あんだけエネルギー込めた一撃で、剣一枚ごときを貫けなかったってか……ッ!!
「流石に完全には防ぎきれはしなかったが、衝撃のおかげで脱することはできた。後は気配を消し、音を消し、忍んだだけのこと」
「剣士が忍者みてぇなこと言いやがって……」
「優れた師がいる。守るためならば、剣であろうと忍ぶことも厭わん――――さて、時間か」
そう言った、直後だった。車のエンジン音が聞こえて、あたしの背後を通過していった音がした。
音からしてコンパクトカーの方、間違いなくデュランダルが乗ってる方だ……ッ!!
けど、道路は寸断したはず、だってのに何で……ッ!?
「――――なッ、剣で橋を……!?」
見れば、破壊した橋の間に渡されている大きな剣が一本。
つまり、あたしが見失った一瞬を狙って橋を架けやがった……!!
「クソッ、どけっ!!」
「断る。大人しくしていてくれ。話ならば本部に戻ってじっくり聞こう」
「知るか!! あたしは、あたしがやらなきゃならねぇんだ!! ここで出来なきゃ、あたしは……ッ!!」
そうだ、
「――――
◆
ズン、と。腹を底から揺さぶる音がして、後部座席から後ろを振り返った。
「何だ、明らか翼の攻撃じゃないぞ……?」
「となれば、明らかにあのネフシュタンの鎧の子のものじゃないかしら」
「あんな派手なのがか……っ?」
抱えたトランクを強く握りしめて、後方に立ち昇る煙の向こうを睨みつけた。
煙は崩壊していく橋が上げるソレで、不自然な揺れが車を揺らしている。
その、直後。
「――――Killter Ichaival tron――――」
「ッ、まずいッ!! 博士――――ッ!!」
煙を突き破って、小型ミサイルの群れが飛来する。
視界横いっぱい、直撃コース。それを直感的に判断して、後部座席から身を乗り出して、博士を抱え込んだ。
「――――Croitzal ronzell Gungnir zizzl――――」
聖詠を唱えて、刹那に衝撃が車を丸ごと跳ね上げる。すかさず、フロントガラスをガングニールで砕いて飛び出した。
スローモーションの世界、眼下には爆風に飲まれて粉砕されていく車の様子が。危なかった、間一髪だ。
反転した視界を戻すように空中で一回転して着地、腕の中の博士とデュランダルが無事なのを確認した。
「中々にハリウッドだったわねぇ」
「……ちょっと心配したアタシがバカだった……、」
けれど、博士は相変わらずケロッとした表情だ。この人の慌てた表情ってのをとんと見なくなって久しい。本当に肝が据わってる人だ。
まぁしかし無事ならばよし。博士を降ろして背中に庇い、土煙と相対する。
やがて、コツ、コツ、と足音が響いてきた。
煙を掻き分けてやってきたのは……赤。見てくれは、それこそシンフォギアだ。
「……まさか、また新しい装者か……?」
ネフシュタンの鎧を着ていた、同じ少女だ。腰部から今なお余熱が揺らめいて、恐らくアレからマイクロミサイル群を撃ったと推測できる。両手にはガトリングが計4門、察するにリコイルが多大なことから固定砲台ってところか。長いこと前線に立ってると嫌でもこんな知識がついちまう。
「隠し玉たぁ……上等ッ!! 博士、早いとこ向こう岸へ」
「ん、任せたわ。あとできるだけデータが収集できるようにお願いね?」
「余裕があったら、やってみますよ」
相も変わらず、余念がない博士だ。こんな時にまでマイペースに研究の事とは……全く、恐れ入る。
博士が遠ざかっていく気配を背で感じながらガングニールを構える。応じて、向こうも両手のガトリングガンを構えた。
距離は開いており、レンジで言えば向こうが有利。ガングニールのレンジに持ち込めれば良いが、そうさせるとは思えない。いかに短時間で、弾幕を張られないうちに肉薄できるかが鍵になる。
(遮蔽物がないのが痛手か……)
視界の中に射線を切れるモノは何もない。
こっちも向こうも動きはなし。何かの拍子で動くだろうけど、こちらが不利である以上迂闊な行動は控えたいところだ。
絶唱を唄う暇もありゃしない……被弾覚悟の特攻が一番か?
ピシッ、と。コンクリートにヒビの入る音がした。橋が崩れようとしている。
視界の奥、ヒビはどんどんと広がっていって……やがて、橋の一部が大きく欠け落ちた。
遥か下、水面にコンクリートの塊が叩き付けられた音がした。
それが合図。互いに、同時に動き出した。