レヴィアタンの啼哭   作:ウンバボ族の強襲

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没ネタの供養です。
オリキャラ主人公です。

※グロ注意


あるコロニーの最期

 

 地獄を見た。

 

 

 私たちのコロニーは、たった1月で崩壊した。

 

 

 

 

 

 

 その日は、何でもないはずだった。

 学校から帰ると、物凄い量の消防車やめったに見ない装甲車が沢山あった。

 

「何か、あったの?」

 

 と心配になってお母さんに聞いた。

 

「北地区の装甲壁が壊れたらしいって」

 

 あぁ、北地区ってあの治安の悪い場所でしょ? 怖いよね。

 アラガミ入ってきたりとかしないよね? 

 したら避難勧告とか出るかな、そしたら何を持っていけばいいんだっけ? 

 確か荷物は少なくしろってネットに書いてあったよね。

 一応何かあってからじゃ遅いだろうから持っていこう。

 ハザードマップをちゃんと見て、避難所の確認もしておこう。

 水は大事だから、数日分と、全然おいしくない緊急食糧と、身分証明書――ないから学生証でいいかな?

 ねぇ、お母さん、アラガミ来ないよね? 大丈夫だよね?

 

 そこまでは、鮮明に覚えている。

 

 その翌日に、避難勧告が出た。

 なのに、私は学校がどうなってるか心配でネットを見た。

 学校のサイトは更新されていない。

 だけど、避難勧告だ。別に休んだって問題ないよね?

 出席日数が心配だった。折角皆勤賞を取っていたんだから、内申点がつくと思っていた。

 用意しておいて良かった、なんて悠長なコトを言いながら防災セットを持ったお母さんと一緒に避難所に向かった。

 避難所は公的施設で、沢山の人が集まっていた。

 顔さえ見たことのない人もいた。

 アラガミなんか嫌だな、とか早くフェンリル来ないかな、とかゴッドイーターが退治するんだって? とか言っていた。

 ある人は怯えていた。

 お母さんより少しだけ年上のその人は、まだ装甲壁が今ほど丈夫じゃなかった時代の生き残りだった。

 だから、アラガミを見たことがあった。

 装甲壁を破って来たと言うアラガミは小型種だった。

 その人の家族は一瞬にして食われたと言っていた。

 お腹の大きかった母親が、その母親を庇った父親が、となりで寝ていたまだ小さな弟が。自分がいま生きているのは家族が喰われている間に逃げだしたからだと半狂乱になって言った。

 

「……昔の話だよね?」

 

 昔の話だ、と思い込もうとした。

 まだ、装甲壁が弱くて、人は今よりずっと数が少なくて。

 今は違う、と思い込もうとした。

 

 

 そこから先の記憶はどこか曖昧だ。

 

 

 2,3日で終わると思っていた避難生活は終わらなかった。

 何時まで経っても帰宅していいという許可は下りなかった。

 皆荷物を少なめにしていたからだろう、持ってきた消耗品や手持ちの食糧はすぐに底をつきた。

 すると行政が用意した食料や水や毛布が配られるようになった。

 非難して1週間が経過したとき、もっと広い場所に移るようにと指示された。

 なんでそんなことするんだろう、と私は思った。

 学校の友人が心配だった。

 みんな、どこで、どうしてるんだろう、と思った。

 消防からの指示で、皆で列を作って移動することになった。

 妙に町が静かだ、と思った。

 だって、そうだ。

 今街には誰も居ない。何も起きていない。

 いつも通るハズの自家用車や運送トラックのかわりに、今まで他所のコロニーの報道か、娯楽映画でしか見たことが無かった、装甲車ばかりが目に入って来た。

 何か嫌だな、と思った。

 

 

 後ろの方から絶叫が聞こえた。

 

「何? え? え? 何??」

 

 叫び声がした。

 何かと思って振り向くと、見えた。

 

 何かが、人の上に覆いかぶさっているのが。

 

「え? 何? え??」

 

 多分、「助けて」か「いかないで」のどっちか、だったと思う。

 とにかくその言葉は音を為していなかった。それはすぐに絶叫へと変わり、人はすぐに肉塊になった。

 

「え? 人……今、人、ひとがっ……」

「早く!! 早く行けってば!!」

 

 とっさに、お母さんが私の手を引いた。

 目に焼き付いて離れない、なんて言って呆けている私の足を進ませたのは、以外にも音だった。

 

「やめろ! 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だぁ! だれか、だれか助け……うわあああああああ!」

「おいていかないで!! 助けて!!」

「早く行け!! 俺はいいから早く行けって!! うあ……ぎゃああああああああああああ!!」

「神様……神様……神様……!」

「夢だ、これは夢だ……全部嘘だ……嘘なんだ……!」

 

 音は止まらなかった。

 何かが吼える音、追いかけてくる音が響いた。

 

 その時私は生まれて初めて、死ぬかもしれない、と本気で思った。

 

 

 それが怖くて、ただ怖くて、死にたくない一心で走った。

 

 

 

 

 辿りついた避難所は確かに広かった。

 だけど、人はどこか減っているように見えた。

 思わず、耳を塞いだ。

 何人減っているのか、なんて知りたくもなかった。

 

 

『×××コロニーの皆さん、落ち着いて聞いてください』

『×月×日×時、北地区の装甲壁が決壊、そこから大型、中型種が多数侵入。大型種中型種の討伐は成功したものの多数のゴッドイーターが負傷。その結果小型種アラガミ全145体の侵入を許すことになり、内訳はオウガテイル45体、ザイゴード30……』

『東地区側に向かったアラガミへ避難誘導は間に合わず、×日、集計結果の予測によると死者300、行方不明者1360名にもおよび……』

『現在、フェンリルが全力で迎撃しておりますので、みなさんにも協力願います』

 

 

 市長からの、非常事態宣言以外の何でもなかった。

 私は、ここで初めて何があったのかが分かったのだった。

 

 それでも、私はやっぱり、分かってなかった。

 

 きっと、何とかなると思っていた。

 ずっと大人しくしていれば、じっと我慢していれば。

 いつか、誰かが、何とかしてくれるんじゃないか……って思っていた。

 

 配給される食事の量が減った。

 足りない。どう見ても、足りない。

 子供だって足りないのだ、大人が足りる訳がないと思った。

 お母さんが「私の分も。ゾーヤが食べていいから」と言った。

 食欲がない、なんて大嘘をついて。

 

 薬はすぐに枯渇した。

 避難所の中で、病人は次々に倒れていった。

 何人も死んだ。

 死んだ遺体はどこかへ持っていかれた。

 墓地なんかじゃないだろう。

 死体の処理は、あんまり考えたくなかった。

 

 

 食料をめぐり合って、若い男の間で諍いが起こった。

 皆、とにかく、お腹がすいていた。

 誰かが食料を盗んだと騒ぎが起きた。

 犯人はすぐに見つかった。早すぎる程に。

 「違う、俺じゃない。俺じゃないんだ!!信じてくれ!」

 そう言う『犯人』はすぐに避難所の外に追い出された。

 そして、帰ってこなかった。

 

 あぁ、地獄なんだな、ここ。

 

 ……とその時はっきりと自覚した。

 

 

 

 

 沢山いろんなことがあった。

 ある日は少し年上の女の人が泣いていた。

 強姦されたと泣いていた。

 でもそっちの犯人は分からなかった。

 翌日、彼女は共同の便所で首を吊っていた。

 

 別の日は子供が死んだ。

 まだ赤子だった。

 誰か粉ミルクを持っていませんか、とその数日前から母親らしき女性は何人にも訪ね歩いていた。

 赤ん坊の死因は栄養失調だった。

 死んだ我が子を抱えた女性は、呆然として座っていた。

 誰かが見かねて「もう死んでるんだから、早く捨てろ」と言った。

 その女性は、子供を抱えたまま『外』に出て行ってしまった。

 ……その先は考えたくない。

 

 

 おかしいな、と思った。

 我慢していれば、耐えてさえいれば、こうゆう場合、誰かが何とかしてくれるんじゃないの? と。

 警察とか、消防とか、フェンリルとか、ゴッドイーターが。

 ……なのに、事態は全然良くならない。

 もう走れない。もう立てない。空腹で死にそうだ。

 もう無理だ。今逃げろって言われ立って、逃げられない。

 

 誰か、誰でもいいから、誰か。

 私たちを助けて。

 

 

 

 

 

 

 

 ゴォン、と何かが打ち付けるような音が響いた。

 

 あぁ、嘘でしょ? 

 

 周囲の人が騒ぎ出す。

 ガチャガチャと言う音がする。

 アナウンスが響く。

 

『緊急警報! 緊急警報!! 誰も、そこから動かないで!!』

 

 

 

 ねぇ、冗談でしょ?

 

 

 

「うそだよね……?」

 

 

 

 分厚いハズの壁が、壊れた。

 そこを突き破って出てきたのは――アラガミ、だった。

 そうだ、この壁よりずっと固いし、分厚かった装甲壁まで破ったんだ。

 ここが、安全なわけが――そんなわけが、なかったんだ。

 

 みんながパニックになって走りだした。

 動けなかった人は、皆アラガミの餌になった。

 体が勝手に動いた。

 どこにそんな体力があったんだろう。人の波に押し流されるよりも早く、私の足は動いた。

 どこでもいい、走らなきゃ。

 走って、逃げなきゃ。

 

 逃げなきゃアイツらに食われる。

 

 もう、手には何もなかった。

 

 液晶端末の画面とにらめっこしながら、必死に集めた水も、携帯食料も、身分証代わりの学生証も。

 何もかも放り投げて走っていた。

 ……一体どこで、こんなになっちゃったんだろう?

 ……どうしていれば、正解だったんだろう?

 

 ちゃんとしていた。ベストをつくしていた。

 大人のいう事聞いて、我慢して、辛抱して、大人しくして、逃げて、逃げて、耐えたのに。

 危機意識が足りてなかった? じゃあ、だったら教えてよ、一体どこに逃げれば良かったんだろう?

 まさか、壁の外、とか言わないよね……?

 

 走りながら、無意味な自問を繰り返した。

 ああ、もう、一体、どこで、詰んでいたんだろう。

 

 ひょっとして、あの日、装甲壁が破れた日に、もう……?

 

 

 

 

「ゾーヤぁ!!」

 

 

 

 ふと、右手が軽くなった。

 

 

 

「お母さん!!!!」

 

「ゾーヤ!! 逃げて!! 来ないで!! 逃げなさい!!!!」

 

「お母さん!! お母さん!!!!」

 

 

 気が付くと、私の手を握っていたお母さんは居なくて。

 十数メートルくらい向こう側に倒れていて。

 その後ろに、口を真っ赤にしたアラガミが、迫っていて。

 

 ……やらなきゃ。

 

 お母さんに向かって手を伸ばさなきゃ。

 

 

 

「ゾーヤ! 逃げて!! いいから逃げて!! 早く!!」

 

「お、かあ……さん……」

 

 

 母は逃げろと絶叫している。

 足が、竦んだ。

 助けなきゃ……。

 ……あぁ、でも……。

 

 

「……うっ……うぁあああああああああああああああああっ!!」

 

 

 

 聞きたくない。

 聞きたくないから、叫んだ。

 この叫び声で、耳も、現実も、潰れればいい。

 そう思った。

 

 聞きたくない。

 お母さんの最期の声も、音も、見たくない。聞きたくない。

 

 嫌だ、嫌だ、と思って走った。

 

 とにかく走った。

 

 もう嫌だ、こんなの。

 うんざりだった。

 苦しいのも、怖いのも、もう嫌だった。

 誰かが死ぬのを見るのも、自分が死ぬかもしれない恐怖におびえるのも、ただただ、怖かった。

 怖くて、怖くて。

 ……もう。

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 

 ばきゃり、とそんな音がした。

 見ると、手が、変な方向に折れていた。

 

 

 

「うそ……? え……?」

 

 

 

 あつい、と思った。

 真っ赤な、血が、溢れて、溢れて、その場所から、どんどん力が抜けていく――そんな感覚。

 

 

 

「嘘……嘘だ……こんな……こんなの……こんなの……!!」

 

 

 

 見えたのは、大きな牙。

 目の前にいるのは、犬にも獣にも似た、そんなアラガミ。

 それが、私の周りを囲んでいて。

 逃げ場がもう、どこにもなくて。

 がくり、と膝をつく。

 膝をつく、という表現は嘘だ。

 

 ……だってもう、膝なんかない。

 私の足は、何故か、目の前のアラガミの口にあって。

 

 

 

「嫌……だ……こんな……こんな、さいご……嫌だ……嫌……!」

 

 母の名を呼んだ。

 助けて、助けてお母さん、と叫んだ。

 助けて、お母さん、と、さっき死んだばかりの母を呼んだ。

 

 思考と視界が真っ赤に染め上がっていく。

 

 腕が折れた、手が潰れた。足首がもげて、太ももが裂けた。

 血がドバドバ面白い様に出て、それが鉄臭くて、ぐちゃぐちゃしてて、生ぬるかった。

 痛い、痛い、苦しいと、熱い。

 誰か、誰か。

 誰か助けて、死にたくない。もう嫌だ、楽にしてほしい。

 痛いのは嫌だ、苦しいのは嫌だ、寒い、熱い。

 もう楽になりたい。

 死にたくない。

 なんだかとても眠い。

 目を閉じるのが怖い。

 

 煮え立った頭で考えた、支離滅裂な思考は、ふと暗転した。

 

 あぁ、これが死だ……と本能で悟った。

 これでもう、目を開けなくていいんだ、と思った。

 怖くて、怖くて、堪らない。

 

 

 

 

 私の真っ黒に染まった視界のなかで、ふと、何かが横切ったような気がした。

 赤い何かが、見えた。

 人だ、と思った。

 すぱすぱと面白いかのようにアラガミを何かで斬って伏せていく。

 その人が斬ったアラガミが黒い霧になって消えていく。

 

 

「おい、聴こえるな?」

 

 

 どこか、遠い。

 霧の向こう側から反響してくる様な声が聴こえてきた。

 

 

「どこもかしこも死体ばかりでうんざりだ。ようやく生きているのが見つかった」

 

 

 本当に、心底うんざりしているような声だった。

 

 

「生きたいか?」

 

「……」

 

 とっさに声が出なかった。

 叫び過ぎて喉が潰れてしまったのか、喉の奥が熱くて、血の味がした。

 でも、答えられなかったのは、喉の傷のせいじゃない。

 

 

「お前には選択肢がある。今のお前は瀕死だ。だが、救う手段がない訳じゃない。

 ……俺は、今ここで、お前に止めを刺してやることもできる。どうする? 死にたいのなら楽にしてやる。

 生きたいなら、助けてやる」

 

 

 その人はもう一度聞くぞ、と言った。

 

 

 

「生きたいか?」

 

 

 

 痛みは消えない。熱も、寒さも、苦しさも、何もかもが消えていない。

 でも、確かに段々と鈍感になってはいるようで。

 それが凄い怖いと思った。

 

 でも、同時に考えた。

 

 私はこの先、どうやって生きていけばいい?

 この地獄を見た後で、今日という地獄を背負って、どうやって、生きていけばいい……?

 

 

「……しにたくない」

 

 

 私の口が、勝手にそう答えていた。

 

 

「死にたくない……。死にたく、ない……でも――――でも、けど、もう」

 

 

 顔が熱いな、と思った。

 顔じゃなくて、目が。

 血じゃない水が、目から溢れていた。

 

 

 

 

 

 

「生きていたくない」

 

 

 

 

 

 だって、そうだ。

 

 この先この地獄を抱えてどうやって生きていけばいい?

 

 それにもうどうせ私は助からないだろう。

 この人は助かると言ったけど、きっと、それは多分嘘か何かだろう。

 

 だって、そうじゃなきゃ駄目だ。

 

 誰も、助からなかった。

 家族を亡くしたと嘆いていた人も、食料欲しさに盗みに走った青年も、普通に生きていれば幸せだったはずの女性も、赤子の母親も、私の母も。

 誰も助からなかったんだから。

 私だけが、助かっていいはずがない。

 私だけが助かるなんて、そんなことは、あっちゃいけない。

 

 死にたくない、死ぬのは怖い。

 今だって怖い。怖くて怖くて、堪らない。

 だけど、もう、生きていられない。

 だからもう、終わらせてほしい――――そんなつもりで言った。

 

 

 

「そうか」

 

 

 

 その人は、何かを納得したような声で、そっとつぶやいた。

 

 

 

 

 

「なら、適任だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 










==以下補足説明==




オリ設定てんこ盛りだった黒歴史をリメイクして供養します。







 

・ゾーヤ・ミハイロヴナ・クトゥーゾワ


 15歳。コロニーに住んでいた旧ロシア系の少女。
 普通の学生なお嬢さん。父親がおらず、母親と二人暮らしだった。
 母親を失い天涯孤独の身の上となる。
 更に、オウガテイルにムシャられ四肢の大半を失った。
 
 この後『延命処置』として、
 『アラガミのコアを直接人体にぶち込むという』という施術を受ける。

 この後、戸籍上アレッサンドロの養子になり、手術のせいで赤毛赤目になる。




・アレッサンドロ・クトゥーゾフ

 
 多分20代後半。
 赤毛赤目の男。
 体内にカリギュラ仕込んでる。メチャクチャ強い。

 特殊部隊『グレイプニル』の隊員。
 相棒を失っており、そのせいで心が荒み、自暴自棄に陥っている。











黒歴史の供養に付き合っていただきありがとうございました。

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