全く視点が変わる2話です。
※オリ主&オリキャラ
※捏造設定だらけ
あのドアから、生きて出てきた奴はいない。
それが俺達の現実だった。
この部屋の中には、どこか体が欠けた子供ばかりが集められていた。
手がない奴、足がない奴、ハンシンフズイとかで全く動けない奴、顔が潰れている奴。
とりあえず、五体満足な奴なんか居ない。
年齢も人種も性別も統一されていない子供たちが、同じように、白い、無機質な服を着せられて、首から番号札をかけている。
何をするわけでもない。
毎日毎日、決められた時間に決まったような食事とよく分からない錠剤を与えられ、注射器で血を抜かれ、検査台に縛り付けられ、機械にスキャンされれば日課は終わる。あとは、何もすることが無い。
そして、ある日、番号を呼ばれて部屋から出ていくのだ。
呼ばれた奴が、帰ってきたことはない。
出てくるのは、いつだって、袋に入れられた『何か』だった。
当然、その『何か』が分からない程おめでたい馬鹿はここには居ない。
どうせあの部屋では何かロクでもないことが行われていて、多分入ったら最期で、俺達は今ここでモルモットの如く解剖台に乗せられる順番を待っているのだろう。
ふざけるな、と思った。
俺はこんな場所で、意味も分からず死ぬ気はない。
利用されて、黙って大人しく殺されるなんざ冗談じゃない。
今は監視下に置かれているが、絶対に逃げ道があるハズ。
必ずスキができるハズだ。
その機会を伺って必ず脱出してやる。
「こんな訳の分からない場所で死んでたまるもんか――――か?」
「…………は?」
不意に横から声がした。
「どうだ、図星だろ? 隣座るぞ」
「……」
……随分と尊大な口調な奴だ、と思った。
年齢は同じだろうか、随分と華奢な体格だった。
やはり同じような検査服めいたものを着ており、番号札を下げられている。
違いがあるとしたら、欠けている部分だった。
そいつは、目にはぐるぐると包帯が巻かれていた。
「あぁ……ちょっと親がアラガミ化してな。この通り目が見えない」
「……は?」
今、何か凄いことを聞いたような気がする。
「何てことはない。退役ゴッドイーターで、偏食因子の投与を受けていた母親が、運が悪くてアラガミ化して、目を食われた。父親はその時捕食されて死んだ。だから今は天涯孤独の身の上だったりする。よろしく」
「……」
そいつはさらり、と何でもない様に自分のことを語った。
だが口調とは裏腹に話は中々壮絶だった。
そんな重い過去はコイツにとっては自己紹介の代わりでしかない様だった。
今度はお前の番だ、とばかりに水を向けてきた。
「お前は? どこがない?」
「……足だ」
俺は素直に答えることにした。
どうせ、することもない。
それに、この手の手合いはきっとこちらが答えてくるまで質問攻めにしてくるだろう。
自分が話すことを嫌がれば嫌がるほど、詮索してくるタイプの人間だ。
だったら、さっさと白状して手間を省きたかった。
「両足がない。装甲壁を破って来たアラガミに喰われた」
「装甲壁が? まさか。アレが食い破られたのか?」
そいつはきょとん、として言った。
最初こそ、何を言ってるんだコイツは、と思ったものの、考え直す。
親がゴッドイーターだった、と言っていた。
と、いう事は今ではこんな場所に居るが、本来コイツはもっと裕福で恵まれた環境に居たのだろう。
何故だが俺は、この世間知らずのボンボンに厳しい現実を教えてやろう――そんな気分になっていた。
「お前らの様な特権階級からしたら、信じられないだろうが。一番貧しい外壁地域だとな。装甲壁なんかあってない様なものだぞ? しょっちゅう食い破られている。補修もロクにされないし、アップデートも後回しにされる」
「そんな場所があるのか?」
「スラム街と言う奴だ。……どいつもこいつも貧乏だった。俺の親もだ。アラガミに襲われている俺を、仲間が助け出したのはいいが、もう足はズタズタになっていた」
言って思い出した。
忘れもしない、クソの様な曇天だった。急に寒くなったり暑くなったりするとロクなことがない。
その日、俺は近くのゴミ山を回ってゴミを漁っていた。
なんてことはない、シティと呼ばれる内壁の中から出たゴミが、こうしてスラムの近くに捨てられる。
ゴミの中にはまだ使えるものがある。
使えるものはジャンク屋に売り払えばわずかだが金がもらえる。
俺はそうやって金を貯めていた。その金で大人になったら、内壁に行こうと考えていた。
スラムの中にはそうやって内壁に行ける奴がいる、内壁にさえ行ければ今よりも豊かな人生がある。
だからお前も頑張れよ、などと言う年上の仲間に本当か嘘か分からないことを吹かれて、俺もそれをとりあえず信じ込んでいた。
そうやってゴミを漁っていた時に、警報が鳴り響いた。
気づいた時にはもう遅かった。
名前もよく分からない狼の様なアラガミが、俺の足に食いついていた。
片方の足があっという間に食われて、倒れた。もう片方にも食いつかれた。
抵抗できたのは最初だけだ。あとはただ、意識が飛びそうになるのを堪えているだけで精一杯だった。
叫ぶ力も無くなり、このまま死ぬのかと思ったことは覚えている。
その時になってようやく近くにいた年長の仲間が、神機使いを連れてきた――らしい。
その光景を俺はもう見ていない。血の気の失せた真っ青な顔で、気絶していた……らしい。
「金がないから医者に診せられない。そもそも、医者なんか居ない。居たとしても薬も機材もない。このままじゃ腐って死ぬだろうと言われた。
そしたら、たまたまフェンリルのスカウトが来た。スラムにはよく孤児が出て、そいつらをフェンリルが持っていく。どうやら、足がない子供が欲しかったらしい。
……だから『善意の治療』とやらを受けさせてくれると言われて来た。金と引き換えにな」
要するに、俺は親に売られたのだ。
仕方ない、と思う。
両親は学がない、金もない。たとえあったとしても、あのスラムから一生出ることができない人種だろう。
家にはまだ小さな弟と、赤ん坊の妹が居て、なのに、母親はまた腹を大きくしていた。
子供を育てるには金が要るし、足を亡くした厄介者をちょうどよく一人追い出せる。
……仕方ないんだ、と思った。
悲しくはない。苦しくはない。俺もいつかは出ていくつもりだった――それが、早まった、それだけだ。
そう言い聞かせた。
「そうか……お前も大変だったな」
実の親がアラガミになって、ソレに目を食われたとか言うお前程じゃないと思うが。
と言い返そうと思ったが、やめた。
こんな場所で、不幸の格付けをし合うことに何の意味がある?
この先に待っているのはどうせ解剖台か、ガス室なんだろう。
だとしたら、こんな場所で過去の古傷を舐め合ったところで惨めさが増すだけだ――と思った。
「ところで、良いニュースと、悪いニュースがある。どっちから聞きたい?」
「……こんな場所でニュースか?」
「聞かなければ何も答えない」
そう言うと、そいつはテコでも動かんと言うかのように居座った。
多分、俺が何か言うまで動くつもりはないだろう。
思わずため息が漏れた。
どうも俺は、こいつと居ると調子が狂うらしい。
「……じゃあ、良いニュースからにしろ」
「分かった」
そいつは上機嫌そうに笑った。
「助かるぞ。お前も、俺も」
「……何?」
「お前はまた自分の足で立てるし、歩けるし、走れる様になるだろう。俺の場合は多分目だから。俺の目はまた見えるようになるだろう」
「お前……知ってるのか? あの向こう側で何をやってるのか」
「じゃあ次は悪い方だ」
人の話を聞きやしない。
「人間じゃなくなる」
「……は?」
「まぁ、見た目は人間だが、多少アラガミと混ざることになる。だから、もう全うな人の体だとは思わない方がいい」
「……」
「簡単に言うとゴッドイーターになるようなものだ。だが腕輪はないぞ。この場合は必要ないからな」
俺は母親の影響で生まれたころから偏食因子を持っているから今更なんだがな、などとソイツは自分のことなのに、どこか他人事の様に言い放った。
「ちょっと待て……俺達は、あそこでゴッドイーターの適合検査を受けるのか?」
「適合検査じゃない。もう少し荒っぽいやつだ」
「適合検査って……あの失敗したら死ぬ奴だろう!?」
「へぇ、スラムじゃそう言われているのか。……まぁ、当たってはいるな。確かにアレは失敗すると神機に食われて見るも無残、語るも無残な死に方をすると言う。
が、今時の検査で失敗するやつなんかそうそう居ない。適合検査をやる前に遺伝子検査をして、ちゃんとシンクロ率を確かめてからだ。だから失敗する確率は低いぞ」
「……じゃあ、俺達はゴッドイーターになるのか……?」
「神機を使ってアラガミを倒す……という訳にもいかないだろうがな」
「は?」
さっきからコイツの言っていることは支離滅裂で滅茶苦茶だ。
何を言っても、雲を掴む様にふわふわした返答しか返ってこない。
だから俺は少しだけ苛立っていた。
「おい、いい加減にしろ!! ハッキリしたことを言え!」
そいつは、笑った。――――様な気がした。
目元は見えなかったが、口元が笑っていたから、多分笑ったんだろう。
「そうカリカリするな。……が、人の怒鳴り声なんか久しぶりに聞いたなぁ」
「怒らせたのはお前だ!」
「はいはい。まぁ、とは言っても俺も全部分かってる訳じゃないんだがな」
「構わん。知ってることを全部話せ」
「了解」
やはり、どこか掴みどころがない奴だ。
やりずらい、と思った。
会話の主導権を握られっぱなしな気がする。
……まぁ、俺が知っている情報は何もないのだから、仕方ないような気もするが。
「今、新しい実験が行われている。それは、人体に直接アーティフィシャルコアをぶち込むという手法だ。コアは知っているな? 神機に使われているアレだ。アレを直接人体に入れる――簡単に言うと、神機をそのまま人間に埋め込む、というわけだ」
「……」
ゴッドイーターの使う武器、神機の仕組みってそんな風になっていたのか、とそこで初めて知った。
そうか、俺は神機にされるらしい。
何故だが、このときの俺の脳内配線はそうなっていた。
「だが、ソレは『大人』や既に『ゴッドイーター』になっている者には無理だ。だから俺達の様な子どもが選ばれた。成長過程の子供ならば、完成品の大人よりもオラクル細胞への適合率が高い。
ついでにオラクル細胞を体に入れるにあたり、腕か足か腹かどこかを切断しなきゃならない。だが、それは面倒だ。だったら、初めから欠けていればいい。ついでに身寄りがないのが丁度いい。
……それで、選ばれたのが俺達、というわけだ。まぁ、言ってしまえば人体実験の被検体、だな」
「…………そうか」
「あまり驚かないな。憤慨もしないのか?」
「何となくそんな気はしていた」
「成程」
画一化された服装、番号札、やたら飲まされる錠剤に、妙に念入りな検査。
ここまで揃っていて何だか分からない程俺は鈍くはない。
おぼろげにあった疑念を、言語化された――その程度のことしか感じなかった。
「で、成功率はどれくらいあるんだ?」
「そんなところまでは流石になぁ……まぁ、良くて5割、悪ければ3割程度じゃないか?」
「あぁ、なんだ」
「失望したか?」
「いや、思ったよりも可能性はあった」
「……最悪3割だぞ?」
そいつは聞き返してきた。
変な奴だ。自分で言った数字なのに、自信が持てないらしい。
「だからどうした。俺がその3割に入れば何の問題もない」
「……」
「何で黙る!?」
「呆れたヤツだ」
馬鹿にしてるのかコイツ。
「自分の豪運を信じて疑っていないようだな」
「当然だ。俺が本当に運が悪かったら、足を食われたときに死んでいた」
「……あぁ、それもそうか」
言葉とは裏腹に、口調は「その発想はなかった」とでも言いたげだった。
うるさい黙れ、知ったことか。
俺は本気でそう思っていた。
俺は本当に、あの時死ぬかと思った。
足を食われながら、誰にも見られず、ここで一人ぼっちで死んでいくのだと本気で考えた。
それを生き抜いたのだ。
なら、自分の強運を想って何が悪い?
「それに、どうせこのまま脱出できたとしても、両足がなければ、俺などすぐに死ぬ。飢えて死ぬか、アラガミにでも食われて死ぬか。そのどちらかが俺の末路だろう。だったら3割だろうが1割だろうが乗ってやるさ。それで死ねばそれまでだ」
「あぁ、そうだな。そっちの方が現実的だ」
「どうせ一度拾った命だ。もう一度くらい、拾ったっていいだろう」
「……」
「だから、お前も、そうしろ」
「は?」
そいつはぽかん、と口を開けた。
あぁ、呆けているな、と思った。
案外感情の機微に疎いらしい。
「3割だか5割だかは分からんし、知らん。だけど、俺はこんな場所で死ぬ気はない。適合だろうがなんだろうが、足がまた生えるのなら安いものだ。だから、お前も死ぬな。まだ見てないものが山ほどあるんだろう?
絶対目がまた見えるようになるから――――だから、死ぬんじゃない」
何故か、そう思った。
根拠はない。だが、話していて漠然と感じたのだ。
コイツはきっと、放っておくと死ぬだろうな、と。
自発的に死ぬのではなく、多分どこまでも受け身で。
何となく、コイツから生きる意志のようなものが、あまり感じられなかった。
だから、自分のことなのに他人事のように語る。
きっと、コイツも傷を負っているのだ。
だって、そうだ。
親が化け物になって、自分を食おうとした? そんな修羅場をたまたま生還したのだ。
地獄でなかったハズがない。
そしてこいつは、まだ、その地獄から脱却できていない。
だから、コイツに今ここでこう言わなければ、勝手にコイツは死んでしまうんじゃないか――なんて思った。
俺は、コイツに死んでほしくなかった。
「……お前はお節介なやつだな」
初めて、そいつの感情が出たような気がした。
それは心底安堵したかのような――そんな声に、聴こえた。
「お前には言われたくない」
「……それもそうか」
「あぁ、そうだ」
それから少しだけそいつは黙って、また口を開いた。
「なぁ、どんなアラガミを入れられたい?」
「はぁ?」
「どうせ入れられるんだ。だったら願望位言ったって良いハズだ」
「……」
そこで口ごもった。
俺は、そこまでアラガミに詳しくない。
見たことがあるのは、俺を食ったあの妙な犬のようなアラガミだけだ。
アレだけは嫌だが、他のアラガミなんか知らなかった。
「俺は、サリエルがいいな」
「サリエル?」
「あぁ、アレはな、上半身に女の姿があって、空を飛んでいて、黒い蝶みたいで。綺麗だ」
「……」
アラガミは人類の敵のハズだ。
それを綺麗だ、と言えるコイツの神経はやはりおかしいんだろう。
と、俺は思った。
「お前はルフス・カリギュラがいい」
「ルフス・カリギュラ?」
「あぁ、竜の様なアラガミだぞ。しかも、滅茶苦茶強いし、赤い。そして、何処まででも飛んでいける」
正直どうでもいい、と思った。
アラガミなんか俺は大嫌いだ。
だが、アラガミを綺麗だとか強いとか評しているコイツの口調は、嫌いじゃなかった。
それに、何処までも飛んでいける――その言葉は魅力的だった。
「……悪くないな」