Fate/Grand Order Cosmos in the ash and blood world   作:ローレンス教区長

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且ノ

※一部、編集しました。


四話

 

We are borne of the blood (我ら血によって人となり)

 

 

 

Made men by the blood(血によって人を超え)

 

 

 

Undone by the blood (血によってまた人を失う)

 

 

 

Our eyes are yet to open (知らぬ者、未だ瞳開かぬ者よ)

 

 

 

Fear the old blood(兼ねて血を恐れたまえ)

 

 

 

 

狩人の手記

 

項、医療教会(ビルゲンワース)の警句より

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「先輩……」

 

 彼女————マシュの部屋は酷く暗かった。

 備え付けの明かりを点けていないのもあるが、彼女の裡にある重鈍な鉛のような感情がより一層、部屋の雰囲気を重暗くしているのに拍車をかけることになっているのだ。

 

「先輩……何処にいるんですか……?」

 

 寝具に腰かけたマシュは腕に付属している小型の通信機を撫でる。

 問いかけに対する答えは虚空に消え、通信機は沈黙に耽るばかりである。

 腰かけたベッドに蹲るように通信機を見つめる彼女の面持ちは痛ましい程に悲哀に歪み、その美しい紫の瞳からは涙が溢れ、次第に小さな嗚咽へと変わって行く。

 彼女の部屋は物が少ない。

 というよりも必要な物しか置いていないという方が、適切である。

 少なくとも————これは偏見だが———— 一般の思春期の女子の部屋に比べると非常に質素、或いは均整の取れた部屋だ。

 私物が皆無という訳では無い。

 例を挙げるならばベッド横にあるライオンのぬいぐるみや貰い物であるボトルシップに、置き時計、あと魔獣(フォウ)の毛ブラシ。

 何故こんな話を————()がしているのかと言うと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 始めまして————私はギャラハッド……の()()だ。

 

 

 故あってほんの少し出てくる羽目になってしまっている。

 直ぐに消える予定なのだが、あの人でなし(マーリン)に野暮用を頼まれてしまったのが運の尽きだ。

 彼奴自身にやらせれば良かったんだが、彼等に()()()()()()()()()()()()手前、ソレをダシにされてはどうにも出来ない。

 そも、何故こんな事になってしまったのかは言うべきではないだろう。

 本来なら彼奴のペットの魔獣(フォウ)に頼んだらしいが、マトモに取り合ってくれないみたいだ。

 ともあれ、彼奴もこの異常事態は予想外だったらしい。

 情けない話だが、今回ばかりは()()()()()

 

 

 何せ————彼女たちがこの世界に来るのは非常にあり得ない事なのだから

 

 

 それについて、話す余裕は……如何にも残されていないらしい。

 

 

 ああ————願わくば杞憂で済めばいいんだが、儘ならないのが世の中だ。

 

 

 それでは、お暇しよう。

 野暮用も済ませたし、何より先程通り余裕は無い。

 私もあの人でなし(マーリン)も。

 

 それに————

 

 

 

 ————変な奴も入って来たみたいだしね

 

 

 

 

 

 

 

「んぅにゅう……?」

 

 間の抜けた声が部屋に響く。気づけば寝ていたらしく顔にはシーツの跡と不恰好な寝癖がついてしまっている。

 カチコチ、と置き時計が秒針を刻む音がやけに耳につく。寝ぼけ眼を擦り、欠伸を噛み殺す様に身体を伸ばす。

 

「……今、何時でしょうか」

 

 ベッドの上隅に置いてある置き時計を手取ると、その時針を見遣る。幸いにもたいして時間は過ぎておらずブリーフィングの予定時間に遅刻する事は無いだろう。

 

「よいしょっとーーーあっ」

 

 ベッドから降りようと身体を動かした拍子に眼鏡を落っことしてしまう。

 カラン、と小気味の良い音を立て床下へと落ちたそれに手を伸ばして取ろうと身を屈ませる。

 

「割れては……なさそうですね、よかった。始末が大変ですし」

 

 

 

 

 

 ————………ィィン…

 

 

 

 

 

「………っ?」

 

 

 

 

 

 眼鏡を掴み身体を起こそうとした矢先ーー耳鳴りがする。何処か、鐘のように聞こえる耳鳴りが。

 

 

 

 

 

 ————…………イィン………

 

 

 

 

 

 身体を強張らせるもゆっくりと起こし自室を見遣る。

 瞳に映るのは明かりを点けて無いながらも変わらぬ自室だ。

 

 

 

 

 

 ————………ィィイン………

 

 

 

 

 

 まただ。耳鳴りが、する。

 しかも、次第に大きくなっている気がする。

 

 

 

 

 

 ————……イィィイン………

 

 

 

 

 

「————あぐぅあ………!?」

 

 

 

 

 

 ————リイィィィン

 

 

 

 

 

 聞こえた、はっきりと

 その瞬間に鋭利な痛みが脳髄に走りベッドから転げ落ちる。

 

 

 

 

 

 ————リイィィィィン

 

 

 

 

 

痛い、痛い、痛い————痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 

 

 

 

 ————イタイ!!

 

 

 

 

 

 なんだ、ナンダ、何だ————これは!?

 

 

 

 

 

 頭が、割れる!!(汝、啓蒙を求めよ)

 

 

 

 

 

 助け、て、誰カ、頭がワレル、せ、んぱい、SえnPai————

 

 

 

 

 

 ————リイイイイイィィィィン

 

 

 

 

 

 ————響わたる鐘の音によって薄れ行く意識の最中、私は、啓蒙()

 

 

 

 

 

 ————血濡れの処刑人が手を此方に伸ばしているのを

 

 

 

 

 

 嗚呼、誰か、助けてください……

 

 

 

 

 

 ————先、輩

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『偽・万能の人(ミニ・ウォモ・ウニヴェルサーレ)』!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瑠璃色の閃光と金属が炸裂する音を皮切りに轟音がひしめき合う。

 炸裂により生じた粉塵を纏い、シャドウ・ボーダーから逃れるように飛び出す影が一つ。

 ()()————血濡れの処刑人ブラドーは気絶しているであろうマシュを抱え、後退りしながら風穴の開いたシャドウ・ボーダーを睨め付ける。

 

 

 

「いやはや、してやられたよ。既に侵入者が居たなんて予想外だった……」

 

 

 

 冷静な男性の声。カツン、と穴から金属音が上がる。未だ僅かばかり立ち込める煙の中から顔を見せたのは精悍な顔立ちの痩せぎすな男だ。

 先程聞こえた爆発を起こした少女の声と違う事を確認したブラドーは胸中で溜息をつく。

 

 新手————いやもう一人いたのか、と。

 

 穴より降り立った男はブラドーを一瞥すると、軽く目を細める。

 

「……彼女をどこへ連れて行くつもりだ」

 

「…………」

 

 ブラドーは沈黙を選択し、ゆっくりと抱えていたマシュに不気味な戦鎚を向ける。その行為が何を示すのかは想像に難くない。

 男の眉が釣り上がる。しかし、次第に鋭利なモノへと変化する。

 

「厭らしい事をする。拐かすくせに、その実、()()()()()()()()()()()()()()ようだ。この場で————()()()()()()()()()()()()

 

 ブラドーの徴と無遠慮に伸ばされた髭に隠された口が笑みに歪む。

 マシュに得物を向けながら、一歩一歩確実に退くために歩みを進めるブラドーに対し目の前の男は手を出さず静観を決め込んでいる。思いの外、この娘を盾にする策は功を奏したらしいと喜ぶが、流石にこのまま見逃す訳も無いだろうと自嘲する。何せ目の前の男は一瞬たりとも自分から目を離さないのだから。

 

「………」

 

 ジリ、と砂利を踏みしめる。ブラドーは逃走の算段を整えるべく奸計を案じる。

 実際は何故こんな事を引き受けてしまったのかと若干、後悔している。煩わしい荷物運びなど早々に終わらせて自室に篭り、鐘を鳴らしていたいのが本音だ。

 一層のこと、この娘の脚や腕を一本捥ぎ取り、目の前の男に投げつけて、面食らったところを見計らい、逃げる。というのも良いのでは無いかと思えてくる。

 依頼内容はこの娘を()()()()()()()()()()()()()()()というものだ。

 

 

 つまりは別に五体満足で無くても良いということだ。

 

 

 多少は傷物になっても構わないという保険が生まれた訳だ。

 それに、この小間使いや丁稚がやるような仕事を無償で引き受けたのだ。これぐらいは看過して欲しいものだと肩を竦める。個人的には殺さないだけ良心的だと宣ってやりたい。

 

「逃げる算段を考えているようだが生憎それをさせる程、愚かしくは————無いつもりだ!」

 

「————!」

 

 静観をしていた男が動いた。此方が動かない事に痺れを切らしたのか、はたまた、彼方も算段があってのことか、どちらにせよ動かざるを得ないのは確かである。

 ブラドーはすぐさま後方へ、飛び退く。男が徒手空拳を放つ。マシュに向けていた戦鎚で合わせ弾いていなければ僅差で避ける事は出来なかっただろう。それに弾いた瞬間に感じた嫌な重さを伴う男の拳にブラドーは背に薄ら寒い物を感じる。

 

 

 もし、油断して食らっていたら吹き飛んでいた、と。

 

 

 弾いて生じた衝撃を起点に、身を翻す。その間際に風切りの音が耳に届く。

 一転、二転と威力を殺しながら地を滑るブラドーは突貫してくると直感し、反射的に戦鎚を薙ぎ払う。しかし、その直感と反し戦鎚は空を切る事となる。男が予想よりも遅く動いていたからだ。

 

「今だ、やれダヴィンチ!」

 

「そーれ!」

 

 少女————ダヴィンチというのか————の可憐な声音と共にブラドーの足元より魔法陣が浮かび上がる。ブラドーは気を目の前の男に取られすぎた事に舌打ちし、魔法陣へと意識を移す。こういった造詣に深い訳では無いが、見た所、即席の捕縛用ゴーレムの錬金だ。

 術式は簡素なソレだが、対魔力の低いブラドーには覿面であり、粘土の様に絡み確実に身体を蝕んで行く。

 猪口才と振り上げた戦鎚で砕き一蹴しようとした矢先、ダヴィンチが懐に侵入するのを捉えてしまった。

 

「レオナルドパーンチ! 芸術を知りたまえ!」

 

「ぐっ……!」

 

 しまったと自責の念と共に振り上げた戦鎚をダヴィンチへ向けるが最早、後の祭りである。脇腹を捉えた物々しい義手が可愛いらしい掛け声と共に深く突き刺さる。

 苦痛と衝撃で体勢を大きく崩す。吹き飛ばなかったのは皮肉にも相手の仕掛けたゴーレムがストッパーになったからだ。

 不味い、とばかりに戦鎚を構え直すブラドー。しかし、仕切り直しはこの状況では不可能に近い。このまま、荷を捨て逃亡を図るのも辛苦を伴うだろう。

 初っ端から下策を弄していれば状況も変化したのだろうが今更それをするために意識を割く訳にも行かない。

 決めあぐね、躊躇していると、男が跳躍した事に意識を持って行かれる。

 

「すまないが、ミスター。これで決めさせて貰おう————ダヴィンチ、受け身とミス、キリエライトの保護を頼む」

 

「まーかせて! およそ私は万能だ。確実にこなして見せましょう。————君も覚悟したまえ……大切な友人を拐かそうとするその罪、きつ〜い一撃を以って贖うといい!」

 

 空高く跳躍した男の腰あたりから機械の駆動音と共に数多の硝子レンズのような物が飛び出る。ブラドーは警鐘が全身に響くのを感じる。

 構えていた戦鎚をダヴィンチの華奢な身体に振るい鈍い音を立てるも、その細い身体の何処にそんな力があるのか、と思う程の拘束力を以って身動ぎすら許されない。

 

 レンズが光を蓄え始め本格的に身の危険を感じるが、一足遅かった

 

 

「ぅ、ぐ————やれ、ホームズ!」

 

 

 ダヴィンチが痛みを堪えながらも、叫ぶ。

 

 

 レンズが光を帯び、此方を捉え、そして————

 

 

 ————臨界点を超え、光が諸共を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 「『初歩的なことだ、友よ(エレメンタリー・マイ・ディア)』」

 

 

 

 

 

 静かに告げられる真名『初歩的なことだ、友よ(エレメンタリー・マイ・ディア)

 男————ホームズの嘗て友へ向けた台詞にして起源を宝具へ昇華させたもの。

 彼の起源『解明』とは即ち解き明かす事に他ならない。この宝具は解析不能や理解不能な存在に対し、必ず真実に辿り着くための手掛かりや道筋を『発生』させる。

 この宝具の最も恐ろしい点は、あらゆる事を解き明かせるということ。些細な事から綿密な事柄、やりようによっては深淵さえも丸裸に出来るのだ。

 そして、もう一つ。この宝具によって如何なる不可能をも可能に出来るという点だ。あまりにも突拍子のないモノだが、彼の宝具がどれ程恐ろしいか一端ながらも理解できるだろう。

 だが、これだけのモノには相応のデメリットや制約があるのが世の常だ。この宝具で謎に対して道筋を発生させたとしてもそれを見つけ、物にするためには『発見』するための要素が必要になる。自身で探すか、マスターに探させる、という行動が不可欠なのだ。そのため初見に撃てば相手のちょっとした情報、ひいては怯み(デバフ)を与え味方に(バフ)を与えるぐらいに収まる。

 されどこの数瞬の隙こそ二人にとって、とても重要な要素なのだ。

 

「むぐぉ……!」

 

 強烈な閃光に呻き怯むブラドー。したりとばかりにマシュを拘束していた腕を解き回収し共に渾身の一撃を与え撃退————

 

 

 

 

 

 ————するのが二人の理想だった。

 

 

 

 

 

 ブラドーの顔貌が笑みに染まる

 

 

 

 

 

 ブラドーは戦鎚を深々と腹部に突き刺し、引きずり出す

 

 

 

 

 

 現れたのは身の毛のよだつ醜悪な戦鎚だった()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『狂気なりや瀉血の御技(サラッソス・ヴァーン・ズィン)』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赫黒く、蠢動を繰り返し、見る者の正気を奪うソレを地に叩きつけ、刹那に名状しがたい金切声に似た絶叫と不気味な紅い閃光が響き渡る。咄嗟に構えるも時すでに遅く、両者はブラドーの巻き起こした奔流に飲み込まれた。

 

「うぐぁああああ!?」

 

 途轍も無い耳鳴りと頭痛に見舞われ、絹を裂くような叫び声があがる。

 声の主は最も近くにいたダヴィンチに他ならない。

 解放した宝具『狂気なりや瀉血の御技(サラッソス・ヴァーン・ズィン)』で鬱陶しい術を引っぺがす。

 次にブラドーはしがみついていたダヴィンチが怯んだ隙を見計らい、蹴り飛ばす。その華奢な体躯を如実に表すかのように少女の身体は、蹴鞠の如く弧を描き飛んで行く。本来なら万能の天才を自称するダヴィンチだが、敵の宝具を至近距離で食らってしまっては如何にする事も出来ないし、スペアの身体なのだから尚更だろう。

 

 

 だが————

 

 

 バリツ!!

 

 

 ————例外は何処にでもいるものだ。

 

 

「————!?」

 

 

 ————何故、動ける!?

 

 

 ブラドーは突撃して来た男————先ほどホームズと呼ばれていたな————に対し目を剥く。

 至近距離の直撃とは行かずとも当たってはいたはずのホームズが何故、反撃に転じる事ができたのか。その現実に狼狽しかけるも、反射に近い形で異形の戦鎚を揮う。

 

「……!」

 

 音を超える霊長最強たるサーヴァント————霊基が脆弱だったとしても————の飛び蹴りを片腕で揮う戦鎚で受け止めるのは無茶が過ぎた。同じサーヴァントでも腕と脚とでの膂力の差は覆す事は厳しく衝撃が全身を強襲する。破壊音と同時に土煙が舞う。

 堪らんとばかりにブラドーは衝撃を利用し後方へと飛び退く。幸か不幸かはともあれ、逃れるチャンスをダメージと引き換えに得たブラドーは両者のいた地点より数メートル離れた地点に足を下ろす。

 たかが数メートル、されど、数メートル。残心を忘却せずにすぐさま視線を向ける。そして、その()()に驚き、瞠目する。

 

「ほう……よもや()()()()()()で我が秘蔵の一撃を()()()()とは恐れ入る。貴公……ホームズと言ったか、久方ぶりに愉快なモノを見れた事に感謝しよう。クハハ————つまらない荷物運びになると思ったのだが、予想外だよ」

 

「お褒めに預かり光栄だ、ミスター」

 

 くつくつ、と嗤うブラドーに皮肉を返すホームズ。

 

「っ、うぐぅ……ハッ————彼奴は!?」

 

 気怠げな呻きをあげるも、即座に意識を取り戻すダヴィンチ。節々が痛むが弱音など吐ける訳でも無く、状況の理解に努める。その様は歴史に名を残すに至る英雄然とした物の片鱗を感じさせる。

 

「起きたかダヴィンチ。彼なら、ほら、彼処にいる」

 

「不味い、さっさと捕まえないとマシュが、ホームズ動けるか————ホームズ?」

 

 気絶していた己へ叱責したい所だが、今は侵入者兼人攫いの男を捕獲ないし排斥するのが先決であり、ホームズも起きているこの状況ならまだ奪還のチャンスがある。ダヴィンチはホームズが顎で示す先にいた男を捉え、走り出そうとする。

 

 

 が————そこで、違和感を感じる

 

 

 何故————ホームズは追わずに場所だけを示した? それに何故男も逃走せず此方に視線を向けているのか?

 

 

「フン、少女よ、よく見ると良い。貴公の相棒は既に————()()()だぞ」

 

 

 絶句する。一瞬、何を言われたのか理解が及ばなかったが、ホームズの方を見て理解してしまった。

 

 

「ホームズ! お前まさか……!?」

 

 

 その台詞を皮切りにホームズの身体から血が噴き出た

 

 

 それでも尚倒れ臥さないのは強靭な精神力による賜物か、それとも意地か。どちらにせよ看過できるものに能わない。

 

 

「クハハハハ! まさか()()で宝具の効果を誤魔化すとは、可能でも即座に実行するなど実に思い切りの良い事だ」

 

 

 男の嘲笑が響く。苛立つダヴィンチは義手を男に向けるが、目の端に倒れ込むのを捉えてしまい慌てて駆け寄りに向かう。

 

「ホームズ!」

 

 倒れ込んだホームズの右手には紅いアンプルと箱に入った粉薬が収まっていた。どんな物なのかは言わずもがなだろう。

 

「讃えたまえよ貴公、彼の決断力と思い切りの良さを。————では長らく邪魔をした。お暇をするとしよう」

 

「————!? 逃す訳には————痛ぁっ!?」

 

 このまま逃すなど以ての外だ。ダヴィンチはホームズを傍らに置いたまま踵を返す男に義手を再度向けるが、激痛が身体に走る。

 何故、今なのかと戸惑うが、忌々しくも男が言い忘れていたとばかりに告げる。

 

「嗚呼、そうだ。言い忘れていたが私の宝具は()()()()だ。数日もすれば消えるが、その間、無茶をすれば祟り目にあうだろう。それと————貴公らの奮闘に免じてこの娘を()()()()()()()()()()()安心して取り逃がすと良い……」

 

「クソ、待て————!」

 

 刹那、乾いた音が辺りに響く。それを最後に男は姿を消した。

 

 

「して、やられたか……」

 

 

 名残惜しくもその台詞は風に巻かれる。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「とは言え————仕込みは済んだか、ホームズ?

 

 

「ああ、完璧……とは言い難いが起動には成功した。彼の宝具にも多少の細工はできたが、数瞬では瑣末なモノになってしまった。ないよりはマシだがまあ、後は彼女がマスターと合流出来るかにかかっている」

 

 

 眼を瞑り倒れ臥すも、淡々と言いのける。側から見れば血濡れ男を美少女が膝枕している絵面になるが、不思議と何にも感じない。

 

「全く、今回はお前の持っていた薬に救われたが、彼奴の宝具……気色悪いったらありゃしない。何なんだアレ、美への冒涜だね。正しく」

 

 可愛らしく憤慨するが、ダヴィンチはその実とても恐ろしく感じている。

 

「それはそうだ。アレは非常に私達にとって()()()()()。特に()()()滅法覿面だ。尤もそれによって救われもしたんだが」

 

「どういう意味だ? ……おっと」

 

 ホームズは身体を起こす。流石にこの状態で説明するのは居心地が悪いのか、それとも動けるまで多少なりとも回復出来たのかはわからない。

 言った意味が如何なものかは知り得ないが、大凡禄でもないのは予想できるだろう。

 

「初歩的且つ単純な話だ。アレはマトモな性質(タチ)の人間や思考が常識的な者に多大な影響を及ぼす効果を持っている、という事だ」

 

「何だ、それは。狂人の所業じゃないか」

 

「至極、的を得ている表現だ」

 

 言うや否や、早々に立ち上がるホームズにダヴィンチは訝しげな視線と言葉を向ける。

 

「……もう、いいのか?」

 

「ああ。早急にやらねばならない案件も増えたようだからな。それに、そろそろ戻らないと新所長殿が痺れを切らす頃合だろう?」

 

 軽口を言う様に空元気を垣間見る。相当に無理をしているのは火を見るよりも明らかだが、如何にする事も出来ない。

 足取りはやはり覚束ないが、途中で倒れ臥すと言うことも無くシャドウ・ボーダーへと帰還するホームズを尻目にダヴィンチは目頭を抑え、空を仰ぐ。

 

「……ほんと、次から次へと問題ばかり……勘弁願いたいな、もう」

 

 そう言い捨てダヴィンチも帰路へ着く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「————やあ、貴公があの騎士殿が連れてきたマスターか。色々、聞きたい事はあるだろうが、まずは自己紹介だ」

 

 烏羽のインバネスに紅い逆さ吊りのルーンを携えたペンダント。そして最も眼を惹くのはトップハットに不気味なペストマスクにこの表しようもない、そう————月の香り

 慇懃な騎士とは違うが何処か気品と儚げさを帯びたその風貌に面食らい同時に————

 

「初めまして、人類最後のマスター。私は狩人……こほん、暗殺者(アサシン)のサーヴァント」

 

 

 

「真名を……そうだな……」

 

 

 

「まあ……気軽に()()()()()、とでも呼んでくれ。よろしくな、マスター」

 

 

 

 ————同時に……とんでもなく胡散臭いような、何処か抜けているような、そんな物を感じた。

 




ギルバート(仮)「あれ? 出番これだけ?」

オスカーさん「南無」

ブラドー「お届け物でーす」



感想批評、カモン(高啓蒙)

いやー、久しぶりに書くと疲れますねw
戦闘むずいんじゃ……
ダヴィンチちゃんとホームズの口調とか、ギャラハットとかもう発狂してしまうくらいムズイ
アドバイスください(血涙)

今回は少々短めですが、キリが良いのでここまでで。

評価、誤字報告にコメントありがとうございますm(_ _)m

これらを励みに精進して参りますので今後ともよろしくお願いします

あ、活動報告にアンケートやってるんで気が向きましたら覗いてみてくださいw


狂気なりや瀉血の御技(サラッソス・ヴァーン・ズィン)
ランク:B+
種別:対人宝具
レンジ:1〜10
最大捕捉:

血濡れの処刑人ブラドーの持つ宝具。
自身の身体へと突き刺し、はらわたの、心の底に溜まった血を吸い、悍ましい本性を露わにする呪いの一撃。
嘗て、ブラドーが人の中に巣食う醜悪な血を出す為に見出したモノ。
それこそが唯一の方法だと彼は信じていた。

早い話が両手持ちにした時のアレ。
敵含め自分を発狂させる恐ろしい武器。
本作では「真人間ほど効き、狂人に近ければ近いほど影響が少ない」
という仕様です。
並みの英霊に撃てば発狂不可避ですが、ダヴィンチちゃんとホームズは無事。
理由は、まあ、なんとなくわかるよね?
ホームズに至っては、完全に相性の悪さで発狂。しかし、手持ちのお薬(意味深)で事無きを得た。
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