Fate/Grand Order Cosmos in the ash and blood world   作:ローレンス教区長

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且<オッホウ! 遂に出番か!この私のマジェスティックな活y「首を出せい」ギャアアアアアアアアッ!

且<ヌゥア! まだだッ!まだ、諦めん!我らの出番はすぐ其処に「狩らなきゃ」ギャアアアアアアアアッ!

且<ああ、これが目覚め、すべて忘れてしまうのか……(シュウウウウ


狩&首 『仕事したわ〜』


五話

 

過去も未来も、そして光すらも

 

 

 ”闇の刻印”は、それが現れた人間から全てを奪うという

 

 

 そしてやがて、失くしたことすらも思い出せなくなった者は

 

 

 ただ魂をむさぼり喰う獣、”亡者”となる

 

 

 遥か北の地、貴壁の先

 

 失われた国、ドラングレイグ

 

 

 

そこには、人の理を呼び戻す

 

 ”ソウル”と呼ばれる力があるという

 

 

 その身に呪いを受けた者は朽ち果てた門を潜り、彼の地へと向かう

 

 まるで、光に惹かれる羽虫のように

 

 

 

 

望もうが望むまいが

 

 

 

 

火の時代黎明記

 

 とある老婆の語り

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「適当な所に腰掛けてくれて構わんぜ、何せ何処も彼処も取っ散らかっているからな。これ以上荒らされても誰も憚るまいよ。」

 

 暗殺者(アサシン)ーーーギルバートはそう言って机の上に腰掛ける。相変わらずその奇抜な出で立ちが目を惹くが、それよりもこの館に意識が向く。

 

「………片付けるべきだったな」

 

 後方より渋い声音が聞こえる。慇懃な騎士、剣士(セイバー)ーーーオスカーはこの散らかり様を見て嘆息を漏らす。散乱する書物に工具、よくわからない瓶や空のフラスコ、埃を被った石像に形容出来ない造形の赤い石ころも転がっている。

 

「構いやしねえよ、男3人のむさ苦しい館だ。片しても、また汚れるのが落ちさ」

 

 同意したくないが、何故か否定も出来ない言い草に苦笑いが浮かんでしまう。

 確かに、こんだけ汚いと逆に掃除するのも億劫になる。

 

「貴公、それでは身もふたもないではないか……すまない、マスターこの荒れ館で我慢してくれ。この阿呆は後で糞団子の刑に処しておく」

 

「ちょっと、それは酷くないか?」

 

 糞団子の刑とは如何なものか。想像を絶するものだろう、うん。

 とはいえ、セイバーにあれよあれよと連れられて『不死街』と告げられた場所より遥か彼方、常夜の土地に踏みんだ俺は、状況整理に追われていた。

 まずは、アレだ。ここが何なのかを明確にする必要がある。先程から空気に飲まれつつあるが、意を決して口を開く。

 

「あ、あの、それで、ここは何なんですか?」

 

「ん? 特異点だが」

 

 さらり、と言いのけるオスカーに面食らってしまう。ベッキリと質問の腰をへし折るオスカーに対しギルバートは南無、と天を仰ぎ、疲れたようにフォローを入れる。

 

「あー……悪いな、そこの騎士様は少々鈍いきらいがあってな悪気は無いんだが……要は、ここがどんな特異点か聞きてえんだろ? ちょうど良い、ここいらで話すとしようじゃねえか」

 

「貴公、鈍いとはなんだ。鈍いとは」

 

 先程の糞団子の刑宣告の意趣返しとばかりにギルバートに鈍感だと言われるオスカー。

 反論するも何事もなげにスルーされてしまうその姿は少しションボリしているように映ってしまう。

 

「さて、前提としてマスター。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、というのは理解しているな?」

 

 こくり、と頷く。

 この世界が俺のよく知る世界では無い、というのはオスカーの見せた光景でハッキリと理解した。尤も、特異点という時点で大なり小なり人智の外を突きつけられるのは覚悟している。

 燃え盛る街や、竜種の跋扈する世界に神霊ホイホイな世界があるのだ。もう、はっきり言えば慣れた。

 だが、今回ばかりは異常と言わざるを得ない。数多の世界を見て来たが、あの様に昼夜が同時に起きている世界は初めてだ。

 

Very well.(よろしい)では、先ずこの特異点を支配する者がなんなのか……教えよう」

 

 先程とは打って変わり、ギルバートの雰囲気が変化する。威圧感とでもいうのだろうか、全身に鳥肌が走る。

 

「事の発端はマスター、アンタの倒した魔術王の持つ聖杯がこの虚数世界に入って来たのが原因とされている」

 

「え……?」

 

 虚数世界、俺達シャドウ・ボーダーが進み続けていた虚空のような世界だ。

 ギルバートの言い振りでは此処はまだ虚数世界なのだと聞こえる。

 

「疑問を抱くのも無理も無い。察しの通り、此処は本来なら何も無い筈の虚数世界だ。特異点なぞ出来る訳もない。ただ、コレが魔術王の作りし聖杯の恐ろしい所だ。聖杯を基盤に()()()()()()()()誰もせんだろう。理屈では可能な気もしなくも無いが、思い浮かんだところでソレを実施する勇気は目を剥く。なにせ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だからな。真に願望器とは恐ろしいと感じられる」

 

 息を飲む。

 確かに魔術王ーー人王ゲーティアーーの作りし聖杯はギルバートの言う通り七つの特異点、世界を作ってみせた。その理屈を以ってして、まさか虚数世界にこのような世界を創るとは。

 だが、疑問が残る。この世界をゲーティアが創ったとするならば人理焼却の際、何かしらのアクションが存在する筈だ。それに虚数世界に特異点を創っていたのなら、カルデアにいた頃の俺ではきっと手を出せず仕舞いとなり、ゲーティアの勝利に終わっていた。なにせ、虚数の海に明確な座標など映りはしないのだから。

 

「まあ、それが()()()()()()()()()()()()()()()()()。魔術王が意図して送ったのか、それとも魔神の何某かの手によってか、考えたくは無いが……うっかり、落っことしたのかもしれない。過程はどうあれ結果として、特異点という舞台は産まれた。そして問題はその後だ

 

 ギルバートはそこで区切り、小休止を挟む。捲し立てるべく懐より小瓶を取り出し中身を呷る。

 

「舞台が整えば、演劇が始まる。それと同じように魔術王の聖杯は聖杯戦争を始めるため役者を呼んだ。そう、英霊(サーヴァント)だ。其れ等を呼び、特異点は完成となる。だがーーー先程の通り問題が起きたんだ。即ちーーー」

 

 

 呼んだ英霊が洒落にならなかった

 

 

「至極、単純な問題だ。虚数世界に於いての聖杯による英霊召喚。不確かな世界で真っ当な者が来るなど笑止千万。魔術王ないし、その同胞は草場の影より大いに焦っただろう。なにせ、呼び出したのは理解の及ばぬ神霊(バケモノ)なのだから

 

 ぞわり、と身の毛が総立つ。神霊、嘗てウルクの大地を駆けた際、出会ったマジモンの天災の化身。それらがこの世界にて呼び出されているというのか。

 

「呼び出されし、多くの其れ等は次第に徒党を組み、また排斥を繰り返し()()()()()()()()()()()()()()()()。太陽と月の異様……此処まで来ればなんとなく察しがつくだろうマスター?」

 

 弾かれたように、その言葉が身体に響く。

 あの光景こそ、その具現であったのだ。ギルバートは一拍置き、その御名を語る。

 

「ーーー片や白亜の巨壁に築かれし神殿に、日輪を称えるその者。雷霆を操りし、()()()()()()()()()()にして不夜を敷く……その偉大なる御名をーーー」

 

 

 ーーー太陽の光の王グウィン

 

 

「ーーーそして、天高き摩天楼、悍ましき暗澹を湛える魔都に、月輪を抱きし悪辣なる者。()()()()()()()を以って恐慌と常夜を敷く……その憚られし忌名をーーー」

 

 

 ーーー月の魔物

 

 

「………」

 

 沈黙が辺りを支配する。月明かりと静けさに包まれた館の一部屋に於いて、この特異点の支配者を知る。

 身体が震えを訴え、動悸が早くなる。その名を聞くだけで矮小な人の身である事が正確に痛感させられるこの事態。まるで、蟻が像に挑むが如く、愚かしいとすら思えてしまう。

 

「と、まあ、この特異点がとんでもねえ二柱の神霊に支配されているって事だけ念頭に入れとけマスター。多少なりとも()()いるが、()()()()()()()()

 

 何処か引っかかりを感じるが、今は頷いておくに限る。説明の内容は理解したが、少し疑問に思う部分がある。

 

「聖杯はそのどちらかの神霊が持っているんですか?」

 

「ああ、()()()。ぶっちゃけ、聖杯を持っている云々はさっき言った通り()()()()()()()()。どちらかが所持していようが、何も出来ないはずだからな」

 

 いまいち要領を得ない。聖杯を所持しているのならばこの特異点は完結し、碌な事が起きないと約束されているのに。どういうことだってばよ?

 様子を察したギルバートは肩を竦め、説明する。

 

「ああ、その疑問は大いに正しい。確かに碌なことは起きない。だが、それでは足りないんだよ

 

「というと?」

 

 問いかけに対し、ギルバートは両の手を組み、告げる。

 

「いいか、これは、奴らの真の狙いであり、またこの世界が二分に至り形を維持している証左に他ならない」

 

 居住まいを正す。この世界の支配者の願望を知る事ができるのだ。

 

 

 

「奴らは、欲しいのさーーー()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「ほえ……ひ、瞳に火……?」

 

 意味がわからない。というかなんだソレ? アイテムだろうか。それに血って……神様が実は吸血鬼ってオチなのだろうか。謎のワードに集中力を切らしてしまった矢先、空気気味だったオスカーが喋る。

 

「無理も無い。只人、普通の人間には頭のおかしい言葉にしか聞こえぬからな。貴公、そこら辺の説明はどうする気だ?」

 

 問いに、ギルバートは唸りながら、頭を捻る。暫し、おし黙り黙考に耽ると弾かれたように此方を向く。

 

「一層の事、全部見せちまうか」

 

「いや、アウトであろうが」

 

 諌めるツッコミが閃く。

 なに、危ない物なのだろうか?

 

「アンタのだけ見せれば良いだろう? 俺のよりは安全だろうし」

 

「いや、しかしだな……」

 

「発狂でもされてみろ、洒落にならんぜ」

 

「まあ、確かに……仕方なし、か……」

 

 ため息混じりに、渋々了承するオスカーは左腕の籠手を外す。

 見たく無いと言えば嘘であるが、そんなに危険であるならば御免被りたいのも事実。

 断ろうと、声をかける寸前ーー声を失う

 

 

 

 

 

「不本意であるが、致し方なし。であらば、見るが良いーーー我が内なる火を

 

 

 

 

 

 それは、正しくーー()の灯りであった

 

 

 

 

 

 根源、そう表す他あり得ぬ光輝に俺は魅入られる

 

 

 

 

 

 ヒトの辿り着きし、深淵。その最奥

 

 

 

 

 

 一切衆生が取り憑かれ求むる太陽

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火は翳り、(フレイム・フォールン・)王達に(ザ・ローヅ・ゴーン)玉座なし(・ウィズアウト・スローンズ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 厳かな声が響く。左腕に納まりし光輝より出るそれは、常に輝きを湛え、それでいて哀愁に濡れている。古き故郷を思い出すような声音に俺は意図せず手を伸ばしてしまう。

 まるで、誘われた蛾のように。それに触れるべく手を伸ばす、すんでの所でーーー

 

 

 ーー異変が起きる

 

 

「うお!? なんだ!?」

 

 消魂(けたたま)しい、地鳴りと共に大地が揺さ振られる。散乱としている部屋が混沌と化すのにこれ以上ない要因だ。机に座していたギルバートは転がるように体勢を崩し、オスカーも甲冑の金属音を響かせ地に手をつく。

 

「あっ……」

 

 暫くして揺れが収まると同時にオスカーの手に収まっていた火が消える。名残惜しげに、伸ばしていた手で虚空を掠めるが、後の祭りと成り果てる。

 机より降り立つギルバートは、一足先に館から出ており、月夜の先ーー日輪の彼方を睨め付けている。それに気づいたオスカーも館の外へと駆け出す。

 俺も惚けた頭を乱暴に振りなんとか意識を覚醒させ、二人の後を追う。

 

()()じゃあ無えな……ってことは大王の領地で何か起きたとしか、考えられねえ」

 

「………」

 

「問題発生ってこと?」

 

「いや、注意に越した事は無えが、如何にもコッチに被害は及びそうもーーーおい、剣士(セイバー)!? 何処行くつもりだ!?」

 

 地鳴りは鳴りを潜め静寂を生む。ギルバートの言う通りならば、先程の地鳴りはこの常夜の土地では無く、不夜の土地に降りかかったモノのようだ。

 問題無しと判断しようとした矢先、沈黙していたオスカーが何処かへと駆け出す。

 

「観に行く」

 

「え、マジかよ!? なんで!?」

 

「嫌な予感がするのだ。大事が起きる、そんな予感だ。ではーーー先に行く、貴公はマスターを頼む」

 

「おい、待てーーークソ、マジで行くつもりだ! 仕方ねえ、話し足りない部分もあるが、一先ずあの脳筋騎士を追っかけるぜ、マスター!」

 

「は、はい!」

 

 制止の言葉を振り切り、とんでもない速度で邁進するオスカーに俺は瞠目しながらもギルバートの身体にしがみつき目視で追う。本来であれば乗り物顔負けの速度で走る英霊を目で追うなど不可能に等しいが、ギルバートが並走さながらの速度で疾走しているお陰かギリギリ追えている。

 しかしながら、振り落とされそうで戦々恐々なのは仕方ないことだろう。

 そして、数分もしない内に初めて出会った場所『不死街』の全貌できる地点へと辿り着いた。

 

「はあはあ……クソ……全力、疾走、とか、するもんじゃ、無えな……ってかあの全身甲冑で暗殺者(アサシン)の俺と、俊敏でタメはるとか、おかしいだろ……」

 

 俺を降ろし肩で息をするギルバートに合掌をし、前で沈黙しているオスカーを見遣る。その眼差しは甲冑により隔てられてはいるが、絶句しているように感じる。

 

「オスカーさん?」

 

「………」

 

 声をかけるも、反応が無い。訝しむ俺は再度声をかけようとする。

 

「あの、オスーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オォォオオオオオオォォオオオーー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーー耳を劈き、大地を揺さ振る益荒男どもの雄叫びが響きわたる。

 

 

 ーー不夜の土地、その遥か後方

 

 

 ーー連なりし、霧纏う御高き山々の影を背に

 

 

 ーー自らの栄えある御旗を掲げ

 

 

 ーー数多の名の在りし英雄どもが轡を並べ神の根城に弓引かんと睨め付ける

 

 

「……おいおい、なんじゃありゃあ……!? 軽く百万は超えてるぜ、これ!」

 

 ギルバートが、狼狽を隠さずに叫ぶ。

 不夜の土地の後方に圧巻と言わざるを得ない程の謎の大軍勢が押し寄せようしている。なにが如何なっているか甚だ理解し難い状況に俺は硬直する。

 そも、何故不夜の土地にこのような大軍が集結しているのか、目的はなんなのか、ありとあらゆる疑問と視覚的情報に脳がオーバーヒートを起こしそうになるも、沈黙を保ってきたオスカーが唐突に口を開いた。

 

「……ありえん」

 

 それは否定の心情であった。

 

「なにがだ!?」

 

 悲鳴染みた返しにオスカーは気にかけず口を開く。

 

「カーサス、イルシール、ソルロンド、カタリナ、ヴィンハイム、ロンドール、ゼナ、フォローザ、アストラまで……何故、何故、彼の国々の強者たちが今になってグウィン王に楯突くのだ!

 

「っ! ……アンタの知己の国か」

 

 狼狽していたのも束の間、オスカーの剣幕に気圧され冷静さを瞬時に取り戻すギルバート。聞き及ばぬ異郷の国々の名を聞くに察し、オスカーに所縁あると判断する。

 

「……如何にも」

 

 短く告げるオスカーの声音はくぐもり、震えている。

 

ok(よし).だったら、話は早い。このまま、成り行きを見るぞ」

 

「……」

 

 俺もそれが、最善だと把握した。

 この全容を一望できる地点での静観が唯一にして安全な選択肢だからだ。

 そも、謎の特異点。敵の首魁の名を聞いただけの状態では対策を考えるどころかこの特異点の状況すら測れない。ましてや、謎の大軍勢がこの特異点を支配する首魁の一角に戦を仕掛けようとしているなど、俺らが何をしようが、意味も無い。

 

 しかしながら、疑問はある。

 

 何故、彼等は戦を仕掛けようとするのか。

 

 オスカーの剣幕を鑑みれば、その理由が腑に落ちないのがひしひしと伝わる。何故、今なのか。それに尽きるだろう。

 

「! おい、動いたぞ」

 

「!」

 

 正しい解答などいざ知らず。空気を引き裂くように凡そ百万以上の軍勢が動き出す。

 すわ、進軍かと思いきや隊列が三分割されるように分かれて行く。角笛の旋律と太鼓のリズムよって緻密に行動する軍勢に怪訝さを感じ行く末を見遣る。

 三隊列になった軍勢が左右に展開するように境界を作る。中央が等分に開いた状態になり、まるでなにかを迎え入れるように陣取る。

 軍旗を全て両極端に携え、太鼓の音と盾を打ち付ける鼓舞の様子が目に映る。

 

 

 

 

 

 そしてーーー其れ等がやって来た

 

 

 

 

 

 勇猛なる益荒男を引き連れ、霧深き山々より出でたる新たなる()()()()()

 

 

 

 

 

 片や、輪廻の円環を掲げ終末の刻を破却せんとする()()()の御旗

 

 

 

 

 

 即ちーーーロスリック

 

 

 

 

 

 片や、紅き双竜の竜紋を徴し貴き人の理を表す偉大なる御旗

 

 

 

 

 

 即ちーーードラングレイグ

 

 

 

 

 

 そして、巨人の骸より創りし御座より見下ろす彼の者

 

 

 

 

 

 総大将と思しき、風体に二翼の忠臣を置く姿、威風堂々たるや陰り無し

 

 

 

 

 

 その者ーーー遥か貴壁の王

 

 

 

 

 

 嘗て失われし(ソウル)の業を修め、巨人殺しを成し得た英雄

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー不死王ヴァンクラッド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴァン、クラッド王……!」

 

 籠手を握り潰さん勢いで拳を握るオスカー。

 その兜に隠れた面貌がどれほどの苦渋に染まっているか、推し量ることすら憚れる程如実に伝播する。

 

「奴さんの総大将と見た……剣士(セイバー)、突っ込むなよ。今はマスターもいる。アンタがあの三つ編み髭の爺さんにどんな因縁持っているかは知らねえし、此処で手出しするのも厳禁だ。静観に徹するのが最善だ……堪えてくれ、頼む」

 

 遠見鏡で覗き込んでいたギルバートが、オスカーへ言葉をかける。心なしか肩に置いた手に力が篭って見えるのは見間違いではないだろう。ギルバートが同じ状況ならば逆だったかもしれないのだから。

 

「………」

 

 頭を垂れ、沈黙するオスカー。哀愁と悲哀、そして静かなる憤怒を感じさせる。

 それは、果たして先鋒にかそれとも、何も出来ない自身へか。

 

 

 そして、沈黙は遂に破られた。

 

 

 大本命が出陣を終えると同時に、角笛の音色が変わる。

 今まさに弓引かんと睨め付ける軍勢に対し、未だ謐けさと共に動かぬ不夜の神殿は、不気味に見えるばかりである。

 

 

 

突撃せよ

 

 

 

 王の命令が軍勢へと伝播し、それに連なるように咆哮が響きわたり凡そ百万以上の英傑が不夜の神殿へ進軍を開始する。タクトを振るうように賽は投げられ、音沙汰のない神殿へと埒外の蹂躙が始まらんとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーその、刹那に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー神狼の咆哮が戦慄いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魂魄が悲鳴をあげる

 

 

 

 

 

 喉が渇き、焼け付く感覚が全身に疾る

 

 

 

 

 

 身体が、心が、一刻も早く逃げろと警鐘を鳴らす

 

 

 

 

 

 アレには、絶対に勝てない

 

 

 

 

 

 ヴァンクラッド王の軍勢は、その遠吠え一つで戦意を砕かれた

 

 

 

 

 

 砂塵が舞い、神狼が戦場へと降り立つ事を知らしめた

 

 

 

 

 

 ーーーその出で立ち、巨躯にして華奢

 

 

 

 

 

 ーーー跨る神狼に引けずの優美さを持ち

 

 

 

 

 

 ーーー身の丈を越し得る大剣を揮う膂力を有す

 

 

 

 

 

 ーーー嘗て、彼の時代に生き謳われし伝説

 

 

 

 

 

 ーーー遍く魑魅魍魎、悪鬼羅刹を斬り伏せ

 

 

 

 

 

 ーーー化物に攫われし姫君を救うべく深淵すら踏破した

 

 

 

 

 

 ーーー騎士の中の騎士

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深淵歩きアルトリウス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悠然と神狼より降りる様に、益荒男たちは雑兵の如く狼狽える。

 

 

 

 

 

 背に携えし、大剣を抜き放ちーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー軽い、一振りで有象無象を吹き飛ばした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

 目を、疑う。幾らなんでも物理の概念が仕事していない。

 丘や山を消すところなら見聞したが、軽い一振りでほぼ全軍壊滅は馬鹿げている。

 

 

 

 

 

 軽く振るわれた筈なのに、途轍も無い衝撃が戦場に駆け巡る。まるで暴風雨に晒されているように舞い上がる砂埃と礫に襲われ身動きを禁じられてしまう。

 戦場から程遠い此処ですらもこれ程の暴威を見舞わされているのだ。本陣は筆舌に尽くしがたい始末だろう。

 

 

 

 

 

 その最中にて、彼の騎士は駆け出した

 

 

 

 

 

 軽やかな足取りは高らかに、淀み曇りなど有りはせず

 

 

 

 

 

 その鋒を敵の将へと居抜き向けん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー弐刄

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特大剣を携える黒騎士がその剣ごと両断される

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー参刄

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大鎚を持つ騎士が立ち塞がるが歯牙にも掛けず

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー肆刄

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、いとも容易く、ヴァンクラッド王の首が落とされた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 狼騎士は颯爽と踵を返し、残党は脱兎の如く散り散り消えて行った

 

 

 

 

 

 その光景を見せつけられ、オスカーは崩れ落ちた

 

 

 

 

 

 這い蹲るその背は余りにも悲哀に満ち

 

 

 

 

 

 ギルバートは沈黙を貫き

 

 

 

 

 

 小さく哀哭をあげるオスカーに、俺は無力にも動けなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………はっ」

 

 意識が覚醒する。

 朧げに混濁する頭が、再起動をせんと身体を震わせる。

 

「ーーーぐぅ」

 

 代謝を確認すると同時に鈍痛が頭に疾り、目の前がノイズの様に歪曲する。

 

「こ、こは、何処でしょうか……?」

 

 漸く以って、自分の置かれている状況に意識が行く。マシュ・キリエライトは、暗がりに居る己の付近に目を向けてみる。

 案の定、真っ暗で何も見えたものでは無いが、少なくとも屋外では無い様だと判断する。

 

「んっーーーあっ……」

 

 身体を動かす。どうやら椅子に座っていた様だ。立ち上がると同時に何かが懐より落下する。

 カラン、と小気味の良い音を立て足元へ転がった。

 

「これは、あの時の」

 

 鈍い鉛色と淡い藍色の色彩を放つ鱗。ボーダー付近の探索により手に入れた物。ポケットに入れっぱなしだったのか、忘れていた。

 

「ともあれ、なんで、こんな所に居るんでしょうか……?」

 

 再度、懐のポケットへしまい込むと辺りを見回す。暗いのは不変であるが、流石に目が慣れると言うものだ。

 マシュは、椅子から身を乗り出し、拓けた場所を探そうとする。辺りはどうやら、それなりに広域で、多人数が座れるように数多の座席が用意されている。階段状に形成されており視点が中央に集中するような構造で、回廊が一直線に続いている

 

 さながら、大学の講義室だ。

 

 乗り出した身を引き、回廊へ出ようとするマシュ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オッホウ! 素晴らしいッ!こんな悪夢に美少女とはッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ーーー!?!?」

 

 

 

 

 

 刹那に響く途轍も無い声量にマシュは全身を強張らせ、音源の方向を向く

 

 

 

 

 

 方向転換と同時に、スポットライトが点灯する。

 

 

 

 

 

アッハハハ!お嬢さん(フロイライン)! どうやらお困りのようだッ!」

 

 

 

 

 

 其処には教壇の上に腰掛ける珍妙なナニカが居た。

 

 

 

 

 

「始めまして、お嬢さん(フロイライン)。自己紹介は必要かなぁ?」

 

 

 

 

 

 不気味に戯けるさまに萎縮するも曖昧に頷く。

 

 

 

 

 

 「ンンン〜Majestic (素晴らしい)な反応だアッ!!」

 

 

 

 

 

 くねくね、気色の悪い動作と共に壇上に立ち上がり慇懃に礼をする。頭の鉄柵の様な付属品を物ともせずに。

 

 

 

 

 

「ワタシは! この()()のスゥパァーアドバイザー兼案内役のミコラーシュ!」

 

 

 

 

 

 徐々に顔を上げ九十度辺りで笑みを浮かべるミコラーシュなる人物

 

 

 

 

 

「そして、ようこそ、並びに残念()()()()お嬢さん(フロイライン)

 

 

 

 

 

 愉悦と憐憫の入り混じった視線を向けられる。

 

 

 

 

 

「此処なるは啓蒙地獄、只人はひとたまりもないだろう」

 

 

 

 

 

でぇもッ! ご安心を! このスゥパァーアドバイザー兼案内役のミコラーシュが、あなた様のBad end フラグを回避に導いて差し上げましょう!! そう、このーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メンシスの悪夢からッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拝啓、先輩、ダヴィンチちゃん、ホームズさん、カルデア職員各位様

 

 

 

 

 

 わたしはどうやら、とんでも無い事に巻き込まれてしまったようです(涙目)

 




感想批評カモン(高啓蒙)

やりきった。

今作で最も出したかった奴出せて満足

マシュのぶらり悪夢巡りw
マシュの命運や如何にw

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