Fate/Grand Order Cosmos in the ash and blood world   作:ローレンス教区長

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遊戯王にハマり始めたので初投稿です(あけおめ)


七話

そこはロスリック

 火を継いだ、薪の王たちの故郷が、流れ着く場所

 

 巡礼者たちは、皆 北に向かい

 そして、予言の意味を知ることでしょう

 

 

 

火は陰り、王たちに玉座なし 

 

 

 

 継ぎ火が絶えるとき、鐘が響き渡り

 古い薪の王たちが、棺より呼び起されるのです

 

 

 深みの聖者、エルドリッチ様

 

 

 ファランの不死隊、深淵の監視者たる御方々

 

 

 罪の都の孤独なる王、巨人のヨーム様

 

 

 追放者にして錬成の探求者、ルドレス様

 

 

 そして、呪われし憐れなる双王子、ローリアン様ならびにロスリック様

 

 

 ですが、彼の王たちは玉座を捨てるのでしょう

 

 そして、火のなき灰の方々がやってくるのです……

 

 名も無く、薪にもなりそこなった

 呪われた不死の方々

 

 しかし、だからこそ

 

 

 (あの方)残り火(思い出)を求めるのでしょう

 

 

 

火の時代終末記

 

 とある火守女(愛しき彼女)の語り

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 ──夢を、見た

 

 暗く、昏く、漆黒より深い水面(深淵)から引きずり出される感覚に陥いる。それと同時に暗転する。次に映し出された光景は、何処か既視感を得る場所を映し出していた。

 そこは、牢獄。薄暗く、陰鬱とした雰囲気を惜しげもなく晒す咎人の檻。松明に揺られ、最低限の灯りしかない廊下で耳を研ぎ澄ませば、聞こえて来るのは何者かの怨嗟と苦悶の呻きに世を呪う呪詛ばかり……。

 ふと、ひとつの牢の前で視点が固定される。松明が生み出す灯りの影に隠れ、ネズミに食まれた藁束の粗悪な寝床に片膝を立て、蹲る襤褸布纏いの男。表情は窺い知れぬが、決して明るいものではないのは言うまでもないだろう。

 すると、上方で鈍い金属音が響き、一条の光が牢を照らす。それと同時にナニカが牢へ落ちてきた。

 

 

 ──死体

 

 

 そう表現できるソレは酷く痩せ細り、まるで木乃伊の様である。

 落ちてきた死体を見遣った襤褸纏いの男が、落ち窪んだ双眸を上へ向けると視点もそれに連なり、上を向く。そこにいたのは、紫紺色と緋色の上級騎士の甲冑を身に着けた慇懃なる騎士であった。彼は男を一瞥すると、死体を指さしてどこかへ足を進めていった。

 男は騎士の指さした死体を、もう一度見遣る。貧相な身体に巻かれた腰布に錆びた鍵が括り付けられているのを見つけ、ゆっくりとソレを手に取り、立ち上がる。

 

『————』

 

 手中にて鍵を弄り、何かを呟くがノイズが如き雑音に遮られ、聞き取れない。

 男が鍵を使い牢を出ると視点が、男を見下ろすように移動する。男は、壁に備え付けられている松明を手に取り、使った鍵を辛うじて無事であったポケットの一つへ入れる。男はところどころにある部屋を叩き、中にいるであろう囚人たちに声をかける。しかし、返ってくるのは要領を得ない胡乱な返事か、狂気に塗れた呪詛ばかり。

 まともなのは残っていないと諦め、廊下を松明で照らしながら進むと、水路のような場所に辿り着いた。行き止まり、或いは下層への道をゆく羽目になるだろうソレは明らかに進むべきではないものだと告げる。男は、焦燥を胸に辺りを松明で照らした。

 松明の灯りはこの暗がりで、非常に役に立つ。それを如実に示すかのように男は、一つの通路を発見できた。

 天が微笑んだ、とばかりに歓喜した男は、通路をひた走った。

 

 通路の最奥は、上へ続く梯子の道だった。梯子の頭上を見遣れば、松明の灯りが見える。男は、錆びついた梯子を慎重に登って行く。

 最後の段を上り終え、男は正面を向く。視線の先には松明の灯りではない澄んだ光が、湛えられていた。

 

 

 ——外だ

 

 

 男の声だろうか、或いはナニカか。ともあれ、男は一心不乱に駆け出した。

 待ち受けていたのは出口ではなく、この建物の庭園か中庭か、どちらとも表現できる開けた場所。正面に大きな門を構え、もしかするとここが建物の本拠なのかもしれない。

 男は、辺りを見回して手頃に登れそうな壁がないかを探す。足をかけたり、飛び乗ろうと試みたり、を何度も繰り返すが、あまり芳しくない様子だ。

 男は、諦めて正面の大門を見遣る。ため息を吐きながら、扉に手をかけようとしたその時——

 

 

 ——その、壁際にあの騎士がもたれ倒れていた。

 

 

 男は予想だにしていなかったのか数舜固まるが、弾かれたかのように騎士へと詰め寄る。

 

『————!』

 

 ノイズが走るが、言わんとすることは理解できる。騎士はぐったりとしており、傍から見れば死に体と判断できる。

 返答は遅く、酷く胡乱げなものだ。か細く、聞き取れるかすら怪しい。

 

『……おお、君は先ほどの……どうやら、”亡者”じゃあないんだな……』

 

 騎士の弱々しい声が、聞こえる。男は頷くが、騎士に見えているかはわからない。

 

『よかった……』

 

『————!』

 

 呟かれた言葉に男は、騎士を揺さぶる。意識を失いかけている、と思ったのだろう。

 

『————私はもうダメだ』

 

 男が揺さぶっていた手を止め、石像のように固まる。襤褸布の外套により窺い知れぬ表情はきっと悲哀に満ちていると感じる。

 

『……もうすぐ死ぬ。死ねばもう、正気を保てない……』

 

 僅かにだが、騎士の声が震える。両肩を掴む男の腕に力が籠る。

 

『……だから、君に、願いがある……』

 

 男はゆっくりと頷く。それを騎士に知覚されているかは、知りえない。しかし、騎士は言葉を絞り出す。

 

『……同じ"不死"の身だ……観念して、聞いてくれよ……』

 

 再度頷く。その意思は如何なものだろうか……。

 

『……恥ずかしい話だが、願いは、私の使命だ……それを、見ず知らずの君に、託したい……』

 

 騎士は話し始める。自身が何のためにこの場所へと赴いたのかを。

 

『私の家に伝わっている"不死"とは、使命の印である』

 

『……その印、あらわれし者は、北の不死院から……古い王たちの地にいたり……』

 

 

 

 

 

『目覚ましの鐘を鳴らし、不死の使命を知れ』

 

 

 

 

 

 一息に言い終えた騎士は四肢の力を抜く。慌てた男が、支えると、感謝の言葉と共に辞世の句を述べる。

 

『……ありがとう……よく、聞いてくれた……これで、希望をもって、死ねるよ……ありがとう』

 

『…………』

 

 男は悠然と立ち上がり、騎士もそれを察したのか、最後に土産を渡そうと身じろぎする。

 すると、男はおもむろに騎士を掴み、肩を貸すように背負う。騎士は突如襲った浮遊感と男の行動に狼狽した。

 

『き、君、何を……』

 

『————』

 

 ノイズが走る。騎士はその言葉に唖然としたように硬直する。男に背負われた騎士は消え入るようにくぐもった声をあげた。

 

『……そうか……すまない……そうだよな……その通りだ……諦めるべきではない、よな……』

 

 甲冑が音を立て、男に騎士が引きずられていく。その命僅かであろう者を背負い、目の前の扉を開く。単なる気まぐれなのだろうか、或いはこの男の人間性ゆえの行動だろうか、どちらにせよこの騎士は、その運命に儚い、眩しい思い出を手に入れることが、できたのだろう。

 

 堅牢な扉が開き、視界が開けた場所を捉え、正面には出口と思しき扉が鎮座していることを目視する。男は騎士を背負い直して、前へと進む。

 

 

 

 

 

 その瞬間————轟音を立て、何かが降りて来た

 

 

 

 

 

 岩石のような肌に、でっぷりと肥えた腹。面貌はおよそ普通の生き物とはかけ離れ、埒外の生物だと如実に示す。その両腕に似合う武骨な大槌を携え、体躯には不釣り合いな小ぶりの羽を生やした巨大な化物。

 

 男は、弾かれたかのように前へ繰り出そうとする。死中に活を求めるが如く、賭けに出たのだと思わせる。騎士を背負ったままに、一心不乱に出口であろう正面の扉へと駆け出す。

 幸い化け物の動きは鈍いようだ。好機とばかりに全身に力を入れる。

 

 

 

 ————ドン

 

 

 

『————!?』

 

 体当たりを受けたような衝撃。そのまま男は小脇に逸れた道へと入りこんでしまう。男は驚愕と同時に理解してしまった。

 

 

『————行け』

 

 

 その言葉に咄嗟に手を伸ばす。しかし、外れる金属音と共に格子が下りてくる。叫びをあげるが、何かが倒壊する轟音に巻き込まれ、消えていく。化け物の振り上げた大槌が、建物のレンガを掠めたのだ。

 衝撃が、建物を揺さぶり土埃を巻き上げる。格子が悲鳴をあげるが、物ともしない堅牢さをみせる。

 

 

『————行ってくれ』

 

 

 土埃の勢いが収まると、騎士の声が透き通るように再度、響く。既に死に体であった彼の騎士、化け物の大槌が叩きつけられ、生まれた衝撃の余波を受けて甲冑の節々に罅傷を作っている。まともに喰らえば、容易く物言わぬ亡骸に変貌するであろう彼は、それでも、立っていた。

 化け物が構えをとる。大ぶりに振り上げた大槌が、騎士を圧殺せんと影を作る。それに応じるかの如く、携えた直剣を化け物へと向ける。

 

 

『————!!』

 

 

 男は叫び慟哭をあげる。格子越しに必死に手を伸ばすが、それに——騎士が応じるはずもない。

 

 

 そして——風切り音と、遅れて爆ぜる爆音が大瀑布の様に土埃を巻き上げ、男を吞み込んでしまう。

 

 

 ◆◆◆

 

 

「知らない天井だ」

 

 目が覚めれば、こんな言葉がこぼれていた。夢或いは追憶というのだろうか、こういった経験には多少覚えがある。多重な契約によるフラッシュバックや過去を覗いてしまうことが多々あった。ハッキリ言って良いものではない。人は———この場合サーヴァントか———誰しも知られたくないものが存在する。ソレを一方的かつ、偶発的に見てしまうのは気分が悪い。

 

「…………」

 

 時間は早朝…………いや、正確にはわからない。文字通り沈まぬ太陽と月が存在し、昼夜の概念が吹き飛ばされたこの世界で、何度目の目覚めを繰り返したのだろうか。

 正しい時間など、知ることもできない現在。PMかAMか判断できるであろう文明の利器たる腕に装着した通信機は、ひび割れと共に沈黙している。

 

「さっきのは、きっと…………」

 

 横を見遣れば、窓辺に肩を預けながら器用に兜の隙間から、鼻提灯を作り眠っている間抜けな騎士が一人。苦笑いを禁じ得ないと思いつつ、視線を彷徨わせる。

 床で歯ぎしりをしながら夢見の悪そうな面を晒すパッチに、この建物内で真面に残っていた寝室を宛がわれたシェヘラザード。扉越しに聞こえる気配は穏やかなものだ。どうやら、結構な心労を溜めていたようだ。

 ふと、一人———ギルバートがいないことに気付く。俺は、かけていた毛布をパッチにかけ、荒れ館を探索する。床が軋むが、別に皆を起こすに至らないだろうと判断し、出入口へと差し掛かる。

 待ち構えているのは、曖昧な空と肌寒さを感じる空気。改めて、この建物の外観に目を向ける。第一印象は、そう、教会だ。寂れた雰囲気とは別に何処か神聖なものを直感した。

 敷石で作られた階段を降り、辺りを見回せば荒れた庭園と、ある種、整えられた墓標の数々。意匠の凝った鉄柵が辛うじて境を作るが、厳しいものを感じる。少し歩いてみれば、鉄柵の連なりが門へとなっているのを発見した。

 

「結構広いんだな、ここ。…………開くかな、コレ」

 

 独り言ちに呟き、鉄柵で作られた門に手を触れる。押すべきか、引くべきか、勝手がわからないが試す価値はあるだろう。

 好奇心をくすぐられ、触れた手に力を入れる。

 

「よう、マスター。早い目覚めだな」

 

 降って湧いたように現れたギルバート。相も変わらぬ不気味な風貌に初見の時は大層、驚かされたが今はもう慣れてしまった。

 

「ギルバートもね。いなくなってたから探そうかと思ったんだけど、取り越し苦労で済んで、よかった」

 

「そりゃあ、申し訳ない。なにぶん、眠るのが億劫だったもので。まあ、マジレスするとサーヴァントには睡眠なんて必要ないし、こんな昼夜崩壊した世界で眠るのも馬鹿らしいと思ったんで、ぶらついていた、だけなんだが…………」

 

 言い分に苦笑をこぼしながらも、確かにその通り、だと納得してしまった。サーヴァントたるもの魔力で顕現する存在、それ故の仮初の肉体だ。カルデアでは、まあ、その奇跡にあやかり惰眠を貪る者も多少覚えがあるが、今はどうでもいいだろう。

 

「で、その奥に興味でもあんのかい?」

 

 図星をつかれ、少々の気恥ずかしいを感じる。十代後半とはいえ好奇心に従った子供染みた行動を他人に見られるのはきっと、いくつになっても羞恥を帯びるものだ。

 俺の顔は少し赤くなっていると思う。

 

「はは、好奇心は猫をも殺すってな。まあ、死に要素のない、ただの墓所さ。あのでかい木がある離れ庭って感じだがな」

 

「へえー」

 

 マスク越しで朗らかに笑っているであろうギルバートの指す木。確かにでかい。あの木の生えた場所に続いているのか、と得心がいく。

 ふと、墓所と聞いて思った。ギルバートは、その墓所の主を知っているのだろうか? もしかすると、知人や知り合いが眠っているのだろうか。そうであるなら、この話題は避けるべきと思い、館に戻ろうと切り出そうとするが、ギルバートが思いがけぬ言葉を口にした。

 

「なんなら見ていくか? 別段、何かがある訳でもないし…………鬼ごっこするのには最適な広さだとオレは思うぜ」

 

「おい、最後」

 

「冗談だ。墓で鬼ごっこなんてしたら、祟られちまうよ」

 

 くつくつ、と笑う様はどこまでが冗談なのか、わかりかねる雰囲気を醸す。

 

「どうぞ、入りたまえよマスター殿」

 

 鉄柵を引き──引き戸だったのか──エスコートするギルバート。そのペストマスクさえなければ見栄えも良かったろうに、と思うのは俺だけだろうか。

 

「うわぁ!」

 

 視界に映り込んだその景色に対して思わず感嘆の声をあげてしまった。

 ギルバートの言う通り、とても広い。この空間だけ、別の次元にあるような感覚を覚えた。墓所と聞いてたくさんの墓石が立っているのかと思ったが、その先入観を否定するように清廉な空気に包まれたここは、例えるならそう、聖域の様に感じる。木々のアーチ、真っ白い美しい花々、そして一番、目を引くのは月に湛えられた大樹だ。

 

「おっ、運がいいな今日は普通の月か」

 

 ギルバートの言葉に見惚れていた意識を浮上させられる。確かに何日か前に見た時では暁だったと思うが、今は優しい色をした満月だ。どういうことだろうか? 

 

「さて、な。原理は知らんが何日か毎に色が変わるらしい。基本は薄気味悪い赤月だが、たまに普通の色に戻る。そんなところだ。特に意味もないと思うぜ」

 

 ギルバートに視線を向けると肩を竦めて、説明してくれる。だが、本人も意図や原理を知らないらしい。

 俺は再度、空を見上げる。嘗てオスカーに連れられて、この特異点を一望できる場所で見た月。あの時は酷く恐怖を誘ったが、ここで見る月は何というか、負の感情を催さない。

 広い場所、ということもあり、すこし燥いで木のアーチや、花に目を向けて、そして大樹の下に足を運べば、その根元に小さな墓石だろうか、この庭の花が供えてあるのを見つける。

 

「…………なあ、ギルバート」

 

「あー?」

 

「このお墓って誰の?」

 

 えっちらおっちら、とついてきたギルバート問いをかける。

 

「あー、それ? …………わからん」

 

「へ?」

 

「いや、なんていうか…………そもそも、ここな。仮拠点を探している最中に見つけた場所であって、詳しい事は知らん」

 

 知らん、という言葉に呆けてしまったが、咀嚼してみると合点がいく。確かに東奔西走と各地を転々としている、というギルバートとオスカーの二人。拠点の有用性ならともかく、故知らぬ故人の墓について掘り下げるなど、場違いでもあった。知人の墓、と高を括ったが杞憂で済んでよかった。まあ、それでも律儀に花を供えているあたり、お人好し感が滲んでいる。十中八九、オスカーだろう。

 

「ふーん」

 

 墓石を尻目に踵を返そうと振り返り、館に戻ろうかとした時、ギルバートがおもむろに口を開く。

 

「なあ、マスター」

 

 呼び止められ、踏鞴を踏む。視線を合わせると、マスクに隠れている双眸が、真っ直ぐにこちらを覗いている。ほんの少しの沈黙が下りた。

 業を煮やしたわけでもないが、なにも返さぬのもアレだと思い、返答の句を告げるべきか、と口を開く。がその前にギルバートが口火を切る。

 

 

「夢でもみたのか?」

 

 

 ぎくり、と身体が強張る。図星を突かれ、固まってしまった様にギルバートは苦笑いの声音と共にトップハット越しの頭を掻く。

 

「カマかけのつもりだったんだが…………ものの見事に当たっちまうと、妙な気分になるな。これは」

 

「…………ごめん」

 

「なーに、謝ってんだよ。コイツはオスカーのミスさ」

 

 そう言って、ため息混じりに肩をすくめる様は、酷く呆れた感じを鮮明に表現する。ふと、ここで疑問がよぎる。何故、ギルバートはオスカーのことだと察知できたのだろうか? 

 そういった機微に鋭いのか、或いは別のナニカがあるのか。

 

「なんで、オスカーの事ってわかったの?」

 

「…………少々ばかり、覚えがあるだけさ。契約サーヴァントの過去を覗く条件は多岐に渡り存在するが、その大前提は密接な繋がりだとオレは考えている。故にコッチが注意していればある程度の融通が利くのさ。俺のを覗かれたならばわかるし。知り合いの嬢ちゃんはまだしも、パッチに関しては契約もしていない。順当にめぐって、オスカーだろうと思っただけだ。…………まあ、あの騎士様はニブチンだからな、とりあえず、ほっとけ」

 

 ギルバートの言葉に苦笑いを返しながら、あの夢で見たものを反芻する。

 牢獄に気狂い、でかい化け物。それに立ち向かう騎士に助けようと手を伸ばした襤褸をまとった男。

 

 そして、あの予言。

 

 目覚ましの鐘に不死の使命、それがなんであるかは皆目見当もつかない。ただ、あれがオスカーの大事なものなのは理解できた。

 

 襤褸をまとった男。きっと、あれがオスカーなのだろう

 

 であるならば、あの騎士はオスカーの…………

 

「じゃあ、先に戻ってるぜ」

 

 ギルバートの声で、我に返った。

 

「あっ…………ま」

 

 軽やかな足取りで、出口に向かうギルバート。咄嗟に呼び止めようとしたが、遅かった。

 

「…………戻るか」

 

 独り言ちに呟く。見えなくなったギルバートを尻目に墓石を一瞥する。流石にこのまま去るのも無作法だ、と思い膝立ちになって合掌する。供花も既に供えてあるので、合掌のみで済ます羽目になるが、このくらいは許容してくれるだろう。

 

「…………どうか、安らかに」

 

 嘗て、契約していた真夏の聖女(喧嘩上等ヤンキー)竜殺しの聖人(カメラマンの人)が教えてくれた聖句を胸中で呟き祈りを向ける。やや和洋折衷なスタイルだが、死人に口なしだ。

 

「さて、みんな起きたかな?」

 

 膝についた泥を払い落とし、各々、寝ていた仲間が起きたかどうか思考する。まあ、きっとギルバートが叩き起こしてそうな気がするので、これも取り越し苦労に終わるだろう。ふと、フライパンとフライ返しを手に、微睡む羊たちに強制目覚ましを敢行するギルバートがよぎる。軽く吹き出しながら、変な電波だと頭の片隅に追いやる。流石に、パッチやオスカーになら兎も角、シェヘラザードを叩き起こすようなことはしないだろう。

 整えられた、とは言い難い若干の獣道を歩き、出口を目指す。後ろを振り向けば風に煽られ、白い花弁が月に向けて巻かれる様は実に神秘的かつ幻想的な風景が見送る。この場所が特異点であり、墓所でなければ、マシュと共に訪れたいと思うほどに素晴らしい庭園だ。

 

「また、来れるといいな」

 

 呼応するように独白は風に巻かれ、消えてゆく。鉄柵に触れた腕に力を籠める。

 耳を澄ませば、パッチの悲鳴染みた声が聞こえる。俺は、今日も賑やかになりそうだ、と苦笑を零し僅かな抵抗と共に開く鉄柵を越え、荒れ館へと歩みを進めた。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「さて、各々、支度はできたな?」

 

 朝? の身支度と食事を終わらせ、ギルバートが音頭を取る。気を引き締めて頷く様を一瞥し、満足げに口を開く。

 

Very well(よろしい). 諸君、いよいよ大王の領地に向かう事となる。オスカー『奇跡』を出せ」

 

「『家路』」

 

 ギルバートに促され、オスカーが『奇跡』を発動する。太陽の刺繍が施された護符(タリスマン)を掲げると、淡い光輝が舞い上がる。蛍日のように周囲を包み、形を成してゆく。何度見ても、感嘆を禁じ得ない光景だ。

 隣を見遣れば、シェヘラザードが魅入るように『奇跡』を凝視している。俺も初めて見た時はこんな感じだったのだろうか、と思うと吹き出しそうになってしまう。

 

「ハッ相変わらず煌びやかなこった。で、ここが『センの古城』だ」

 

 皮肉っぽく返しながらパッチは森に覆われているだろう砦の如く聳え立つ城塞を指さした。

 

「『大渓谷』はアンタらがルートを知ってるっつうから良いとして『不死街』を越え『黒い森の庭』に踏み込むことになるな」

 

 寂れた街をなぞりながら、説明してゆくパッチ。割とサマになっている、と思いながら『奇跡』を見遣る。

 不死街、あの山羊頭がいた場所だ。

 黒い森の庭、見る限り鬱蒼とした森林のようだ。所々に開けた場所や人工物の意匠も点在するが、それを飲み込むように木々が茂っている。

 

「地理に関しては旦那とオレが引率する形で、連れていく。まず目下の課題として『黒い森の庭』を越える手立てが必要となる。……まあ、別に何かブツがいるわけじゃねえが、これだけは覚えておけっつうのがある」

 

 一度、言葉を切るパッチ。ヘラヘラと軽薄そうな笑みを湛えた面貌を引き締め、槍のような眼光を放っている。

 

「絶対にはぐれるな。もし、はぐれて自分よりでかいのと鉢合わせたら死んだふりか全速力で走って逃げろ。いいな?」

 

「は、はい!」

 

 有無を言わせぬその雰囲気に気圧されつつも、なんとか応える。

 

「とまあ、こと生き残るのに定評のある先輩からのありがてえ助言だ。精々噛みしめておきな」

 

 軽薄な笑みを浮かべ、パッチによるお話はお開きとなり、細かい準備を行い館を後にするのだった。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「ここ何処だよ……クソ」

 

 案の定フラグ回収していた。

 あれだろうか、俺は方向音痴の呪いでも受けてしまっているのだろうか。この特異点に来てから、やたらとはぐれたり迷ったりするのだが、何か要因があるのだろうか? 

 

「そこんトコロ、どうよ?」

 

 俺は隣で蠢いている、樹木の化け物に問うてみた。

 化け物は急に問いを投げられた所為か、そもそも話しかけて来るとは思ってなかったのか、面食らったように甲高い鳴き声を上げ、愕然と硬直している。

 

「ああ~そう思います? ですよねー。はい、ガンド」

 

 哀れ、樹木の化け物———エントっぽいの———は回答を答える前に鬼畜マスターの最強礼装の餌食となってしまった。南無。

 

 道中、はぐれる前にオスカーやギルバートがボコボコにしていたのを目にしてしまった故か、エントっぽいのは慣れた。途中、キノコ人もいたが美味しそうと思ってしまった俺は悪くない。シェヘラザードは滅茶苦茶、怯えていたが山羊頭の奴を見た後だと、どうも迫力に欠ける。

 図太くなったもんだ、と胸中で苦笑しながら辺り見回す。

 辺りは一面の木々。日光を通さない鬱蒼とした森の中に瓦礫や人工物の遺物があり、苔の苗床になっている。幻想的ではあるが、不気味さや暗然さを孕み、ともすれば中世の魔女が潜む森を思わせる。

 

「『黒い森の庭』か……的を射ている表現だよな」

 

 その庭が誰のものかはさておき、と霊基のケースを握りこんで逃避しておく。魔女ならまだしもト〇ロを百億倍くらい怖くしたのが出てきたら洒落にならない。シ〇ガミ様みたいなアルカイックスマイルの生物もご遠慮願いたい。まあ、エントやキノコ人が出ている時点である程度は諦めているのだが……。

 小高い瓦礫や石礫を迂回しながら所々で確認できた光る草花を目印にしながらそれを辿っていく。オスカー曰く、この森の光源には極力、注意を払えとの事だが状況がアレ故に辿るほかないだろう。あちらも俺がはぐれることは想定外なイベントだったはずだ。

 ひょいひょい、と光る草花————輝花とでも呼ぼうか————を踏まぬよう歩きながら進んでゆく。本当はオスカーたちを見失った場所にとどまっておけば良かったんだろうが、気づいたらボッチになっていたので如何ともし難い。暇だからボヤきながら進んでいこうか。ちょいと————多大に————リスキーだが皆が見つけてくれるかもしれない。ワンチャン、カルデア勢も。

 

「いやーマジつらいわー。先輩つらいわー、マシュ助け————」

 

 ————ズルッ

 

ヘアっ!? 

 

 輝花の光で影になっていたと思しき石片に足を取られ、かかと滑りの要領で奇声と共にしりもちをついてしまう。

 

「なんだよマジで!? 出鼻くじかれすぎじゃね、俺!?」

 

 ボヤいて即座に足踏み外すとか、若干恐怖を感じてしまうやが。ガチ呪われてしまったのだろうか? 

 恐怖をごまかすため、叫びながら転んだ要因たる石片を見遣る。すると、あることに気が付く。

 

「……石像?」

 

 石片と勘違いしていた()()は苔むし、長い年月を経たであろう、騎士を形どった石像であった。俺は、しりもちをついた拍子に付着した泥を払い落とし、しげしげとその像を観察する。

 なるほど、石片と決めつけるには早計だったわけだ。それはそうと中々に立派な像ではないか。新品だった当時はさぞや、素晴らしい物だったに違いない。美術的な観察眼など持ち合わせていないが、素人目に見てもわかるナニカが感じられる。そうまるで————

 

 

「————動き出しそうなくらい」

 

 

 ————グラッ……

 

 

「…………」

 

 

 あかん

 

 

 ————ズズズ……

 

 

 これは……

 

 

 ————ギギ……ガシャン

 

 

 

 

 

フラグだったああああぁぁああ!?

 

 

 

 

 

 土の擦れる音と金属の不協和音が響き終わり、俺の絶叫が辺りに木魂する。自殺行為だが目の前に特大の死亡フラグがあるのだ。叫んだって罰は当たらないだろう。

 俺は幽鬼が如く起き上がる石像を背に、脱兎の勢いで逃走を図る。幸いに相手は石造りの像だ。俊敏性ではきっと俺に軍配が上がる。

 

「あっぶね!?」

 

 頭上をなにかが掠める。咄嗟に避けれたのは偶然に近い。頭を掠めたものが俺の進行先で轟音を引き起こし、軽く大地を揺らした。

 余波で抉られた地面が苔と土を舞い上がらせ、土埃を舞わせる。すんでのところで体勢を変えた俺は思わず踏鞴を踏む。

 

 

 飛んできたのは————埋まっていた特大剣であった。

 

 

 ふざけるな、と胸中で罵る。踏鞴を踏んだ勢いで後方を見遣れば、体勢を変えた石像が目に映る。コンマ数秒とはいかないが、あの石像は地面から引き出した自身の得物を俺に向けてぶん投げてきたのだ。足では追いつかないと判断し、リーチと膂力にものを言わせた投擲をあの石像は繰り出してきた。

 

(どうする!? 幸いに相手は鈍間、フィジカルとリーチで圧殺してくるのに間違いはない。問題は対抗手段が皆無なこと! ガンドで麻痺らせて遠くに逃げるか? それとも————待てよ?)

 

 そこで————はたと気が付いた。令呪だ。

 

(そうだ、令呪だ! オスカーとギルバートを呼べば楽勝だ。なんで気づかなかったんだ!)

 

 契約サーヴァントの転移及び召喚。初歩的且つ重要なことを今のいままで、忘れていた。山羊頭の一件で使用するのを渋った事を皮切りに、無意識下で使用を避けていたのだろう。

 ともすれば、マシュが呼べる————いや、この場合は合流も兼ねてオスカー達だ。

 

「令呪を以て命じる。来い剣———」

 

 

 

 その瞬間————風切り音と腕に鋭い痛みが走った

 

 

 

「なっ……!?」

 

 

 

 驚愕と目を疑う光景だ。網膜に焼き付いて見えるのは、己の手の甲を貫く緑の針

 

 

 

 風切り音の方角を見遣れば、逸れる数時間前に見慣れていたと嘯いたエントがいる

 

 

 

「あいつ……!?」

 

 

 

 身体に感じる違和感。痛みを感じる手の甲を起点に血管が黒紫に染まってゆく。

 

 

 

 ————毒だ……! 

 

 

 

 脳より導き出された解答が今の現状を如実に表す。

 油断していた。マシュとの契約による毒への耐性。その効果による恩恵に、どこか過信していたのかもしれない。

 

 だって、そうだ————いつ何時、この加護を超える物が現れるなんて、簡単に想像できたはずだ。

 

 呼吸と動悸が激しくなる。血管を這うように巡る毒は痺れるような痛みと熱湯に晒したような熱さを伴い、思考を鈍らせる。明らかに尋常の毒ではなく猛毒の類だと痛感させられる。オスカー達が瞬殺していたせいもあり具体的な行動など理解できていないのが仇となった。まさか毒針を飛ばしてくるとは。

 

「マズ……ッ!」

 

 逡巡すら許されぬこの状況。エントに意識を割こうとすれば、重厚な足音を響かせて件の石像騎士がにじり寄ってくる。

 嫌な汗をかく身体に鞭を打ち、もう一度令呪を起動する。

 

「令呪を以て命ずる来いオスカー……!!」

 

 令呪が輝き魔力が霧散すると、空気が揺れ始める。何度も見たサーヴァントが現れる兆候だ。

 

 

 

 ————その刹那、全身に激痛が走る

 

 

 

————ッッッ!?!?

 

 

 

 声にならない悲鳴が出てしまう。訳が分からない、理解できぬ事態に恐慌する。

 

(なに、が、どうなって……!?)

 

 ようやく、そこで理解できた。令呪が一角、欠けていることに。

 

「冗談、だろ……!」

 

 つまりは不発となったのだ、令呪での緊急召喚が。

 おもわず、口に出してしまうほどに愕然とする状況。何故、不発に陥ったのか、思い至る節はこの毒針だ。というよりこれしかないだろう。憶測だが魔力に作用する毒————もしくは魔術回路への不全を引き起こす毒か。どちらにせよ禄でもないのは確かだ。

 

 

 

 ————徐々に近づいてくる死の兆し

 

 

 

 激痛と麻痺により動作が緩慢となって、四肢を繰ることが困難となる。毒を喰らった身体に鞭を打った結果が、死亡フラグの強化とはお世辞にも笑えない。俺は気力を振り絞り、這うように地面を進む。

 毒を盛ったエントは如何やら、仕事は終わったとばかりに颯爽と逃げたらしい。石像の巻き添えを恐れたのか、興味を失ったのか、どちらにせよ追加攻撃を受けるという予想は杞憂に終わってくれた。しかしながらメインたる石像が健在なのだから、状況が最悪なのに変わりない。

 自身の這いずる速度より、石像の歩み寄る速度のほうが早いらしい。

 

 

 

 俺の低くなった頭上を暗い人型が覆った。

 

 

 

 ————これまでか……!

 

 

 

 山羊頭の時のように都合のいい増援は望めない。頼み綱であった令呪も不発、毒で退路を断たれ挙句石像はもう目と鼻の先で、攻撃準備を整えている。

 

 

 

 

 

 そして————容赦なく拳が振り上げられ

 

 

 

 

「————」

 

 

 

 

 

 柘榴と化す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ————はずだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴公————」

 

 

 

 

 

煌びやかに金銀の残像が閃く

 

 

 

 

 

「見知らぬ若人がここで、何をしている?」

 

 

 

 

 

 訝し気に聞こえる澄んだ女性の声

 

 

 

 

 

 石像を細切れに帰し、金銀の刃を携えこちらを見据えるのは

 

 

 

 

 

 ————白磁の仮面を身につけた女性だった

 

 

 

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