Build Divers ASTRAY   作:バレルソン

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大変お待たせしました。
遅ればせながらあけましておめでとうございます!


STAGE15 ギガ・フロート 後篇

 スピードはノーネイムのが上だった。

 事実スケイルジャケットは陸上ではデッドウェイトでしかなく、ジンバージャケットの方が速く動ける。

 加えてノーネイムの反応速度はその辺の改造機とは比較にならない程に速かった。

 

 頭を吹っ飛ばさんと横一文字に振るわれるサーベルに、カタナは咄嗟に機体の身を低くさせて回避。カウンター気味に千子村正を振るうとノーネイムは空高く跳躍した。

 

「何ッ!?」

 

『遅え……ッ!』

 

 空振った白刃に、ノーネイムの姿が映る。頭上を通り抜けオルタナティブの背後に着地し再びビールサーベルを振るう。

 その様はまるで嘲笑っているように見えて、少しばかり苛立ちながら振り向きざまに得物を振るい、鍔迫り合いに持ち込んだ。

 

 

 

『トロいな……GBNの奴らはこんなぬるま湯に浸かっているってのか?』

 

「ほざけ……バックパック、脚部スケイルジャケット——キャスト・オフ」

 

 出力(パワー)は互角。なら機体を軽くすればマトモな勝負に持ち込めるはずだ。そう確信したカタナは無造作に立体映像型のコンソールを操作し機体のデッドウェイトになる部分を排除。

 ずしりと音を立ててアーマーの一部が地面に落ちた。

 

『装甲を棄てたか』

「地上でのマジの勝負を水中装備でやるほどバカじゃない――!」

 

 機体のパワーを一気に上げ、ビームサーベルを押し飛ばす。ビームサーベルが宙を舞い、得物を喪ったノーネイム相手にオルタナティブの緑色のツインアイが鋭く光る。

 

「悪いが――戴くぜッ!」

『オイオイ……得物がコイツだけじゃないぜ?』

 

 男の嘲笑と共にノーネイムのマント型装甲に隠れたライトアームが装甲の外に出る。籠手の付いたアームの先から光の刃が形成される。それは誰がどう見てもビームサーベルと呼ばれるソレだった。

 

 ――仕込み武器ッ!

 

 殺気を事前に察知したカタナは追撃を中断させて、上体を逸らす。すると縦に振り下ろされた一閃がコックピットのすぐそばを掠めた。

 

『チッ――勘は良いみたいだな』

 

 男の苛立たし気な声にカタナは「ヘッ」と悪びれず笑う。突然襲ってきておいて苛々されるとは心外だ。自分を無銘(ノーネイム)と名乗り襲い掛かってきておいて。

 しかしながら動きはその辺のマスダイバーとは比較にならない程のものだった。

 

 この男は一体何がしたい?

 単に戦いたいだけなら何もこんなタイミングで喧嘩を売る必要性はない。陸上で構えていた討伐チームの中にソードマンを私怨で叩き潰そうという思考を持っていた人間が混ざっていたと考えるのが自然なのか。

 

 とはいえ本人にどう問い詰めた所で答えてくれないのは先ほどの言動からして分かり切っている。

 で、あれば戦闘記録をカドマツに突きつけて正体を暴いて貰うだけだ。

 

 

 振るわれる籠手から発せられるビーム刃の軌道を読み、躱しながら反撃の糸口を探す。敵側の動きに隙らしきものは中々出してくれない。スピードも限界値ギリギリまで引き出しており、躱すので精いっぱいだ。

 千子村正で斬撃を防ぎ機体が徐々に後退していく。このままずるずる引き下がれば海にボチャンだ。

 

 片手間に機体のブーストのチャージを始め針の穴に糸を通すように突きを放つ。すると、読み通り無銘は横に機体を逸らし反撃が空ぶった。と、同時にチャージが終わった。

 

「ブーストッ!」

 

『何ッ!?』

 

 そのまま回避した無銘にフルブーストで突っ込み、機体と機体が重々しい金属音を立てて衝突。そのまま押された無銘の機体は倉庫にその背中を強かに叩きつけられた。無論叩き付けた側の衝撃も尋常ではなく振動でオルタナティブのコックピットは前後に派手に揺れ、視界が一瞬チカチカした。

 

『てめっ……滅茶苦茶しやがる……!』

 

 無銘の言う通り無茶をしたものだ。

 機体を後退させ、千子村正を構え直す。瓦礫を掃い立ち上がる無銘目掛けて突きの体勢をするオルタナティブに無銘から『クククッ』と愉し気な笑い声が聴こえて来た。

 

『思ったよりはマシみたいだな。正義の味方ごっこをやってこれただけある』

 

 オルタナティブから機体の加速が乗った刺突が放たれ、咄嗟に無銘は籠手のビーム刃で防ぐ。閃光が奔り暗闇に染まった埠頭を白く染める。

 無銘は力強く刃を振るい、オルタナティブの持つ得物を弾き飛ばした。

 

「しまった!」

 

『貰ったッ!』

 

 白刃が宙を舞う。月光に晒されその光を跳ね返し眩い光を放つ。主な得物を喪ったオルタナティブの敗北、と無銘は確信していた。事実、無銘は既に次の行動に映っておりオルタナティブの装甲はビームで焼き切られるのは自明の理であった。

 

『得物は無くなった。あんのはワイヤーとイーゲルシュテルンだけだろう? 終わりだ!』

 

 勝利を確信した無銘の声――だがカタナの表情は敗北を前にした人間のする顔ではなかった。

 

「おい、何勘違いしてんだ――」

 

『ん?』

 

「得物はならまだある」

 

 一撃。

 無銘がカタナの放った言葉を理解した時には既に一撃が叩き込まれていた。無銘の機体は大きくよろけ、眼前のオルタナティブは右掌を突き出していた。

 

『な……に』

 

()()にな」

 

 拳。

 オルタナティブには、千子村正のロストなど何の問題ではなかった。それは何故か?

 答えは簡単だ。

 

 己が身もまた、得物なのだから。

 

『コイツ……!』

 

 無銘は機体を無理矢理スラスターで体勢を立て直し、マント型のアーマーをパージした。否、これはパージなどではない。分離した数機ものパーツが無銘の周辺を飛び交い、右腕に集約。ロングバレルの形状を成した。

 初見ではあるが、次に何をしてくるかはおのずと分かる。

 

 ――砲撃!

 

「チッ!」

 

 着弾地点が足元で目くらましなのは直ぐに察した。衝撃波と爆煙に見舞われたオルタナティブは一瞬動きが鈍る。次に奴は何をしてくるか。――奴は勝負をかけて来る。

 

 そんな確信があった。こんなタイミングでここまで心躍る相手と死合えたのは幸か不幸か。

 しかしこのようなふざけたタイミングに喧嘩を売りに来たせいで微妙にノリ切れなかったのは不幸と言えよう。近づく殺気を感じたカタナはレバーを前に勢いよく押した。

 

 

 

 

 

 

 

 ガシャン、と黒と白の鉄塊が落ちた。

 それが人の何倍もある機械仕掛けの右腕なのは見て分かる。断面は赤熱しており斬られて間もないようだ。

 そこから少し上に視界を移すとバチバチと紫電があちこちに奔っている。機械仕掛けの腕を断った緑色の刃は異形の巨人の左手に収められており、最初にロストした得物を回収したものだろうか。刃は黒と白の巨人のすぐそばにまで迫った状態で止まっており、じりじりとその装甲を焼いていた。

 

『何を……した』

 

 男が問いかける。

 

「――雷霆掌。いわゆる必殺技だ」

 

 迸る紫電は異形の巨人に当てられた、黒と白の巨人の左掌から発せられていた。

 

「スケイルジャケットの腕部は特定の振動を発することでメーザー砲などをある程度防ぐことが出来る。元々推進機関なモンだからそうそうポンポンと使えたモノじゃないし当然ビームなぞ受けたら機能しなくなるが――ビームに焼き切られるまでには1秒のタイムラグ程度なら発生させられるカラクリだ」

 

『ライトアームを犠牲にその技をこちらに叩き付け、デバフを発生って訳か。ったく()()()()()()技なのが腹が立つぜ、紛い物の世界には紛い物がいるって事かよ。どこまでも安っぽい……!』

 

「……?」

 

 オルタナティブに蹴り飛ばされた無銘はそう吐き捨てながら、レフトアームのビームサーベルを握り直す。光電球を受けた時点で機体の各システムが機能低下を起こしているにも関わらず戦闘続行可能なのはその性能の高さから来るものなのだろうか。しかしそのビームサーベルの出力はさきほどと比べて弱弱しかった。

 オルタナティブのレフトアームもまたぶらりと垂れ下がっており、紫電を放っており、戦闘開始のように振るうことは難しいように見えた。

 

 

「まだやるか……」

 

『チッ、餅は餅屋ってことか。この世界思ったより重さを感じられねえ』

 

「……負け惜しみか」

 

 先程まで大きくなった熱意は一体どこへやら。カタナの胸の内にある熱気は急激に冷めていった。後腐れのある死合なぞ面白くない。

 冷や水を浴びせられた気分だ。

 

『いい気なものだぜ。こんな見てくれだけはご立派な偽物の世界で、正義の味方ごっこをしてよ……楽しいか?』

 

「その機体……その物言い……GPD世代か」

 

 何となく剣を交わしてこの無銘が何なのかはおぼろげながら見えてきた。「こんな見てくれだけはご立派な偽物の世界」という物言い。

 そしてマニューバから発せられる圧。この感覚はよく覚えている。GPD(かつて)の記憶。

 

『……案外勘がいいじゃねえか。まぁ、そう言う事だ。こんなクソみてぇな世界守る価値あるかって話だ。おっと、時間のようだ。――じゃぁな』

 

 言うだけ言って機体を反転させて飛翔。このギガ・フロートから離れようとしている。オルタナティブの状態は十全とは言えないがスラスターの状態はほぼ万全なので追うことは容易なはずだ。

 千子村正を拾い上げてブースト。同じく地面を押し蹴り空高く飛び上り、逃げる無銘に追いすがる。彼我の距離は徐々に縮まって行く。

 

 このままいけば捕縛も容易だ。

 

 そう、()()()()()()()

 

「――ッ」

 

 世の中そこまで甘くはなかったようだ。暗闇を斬り裂き、鳥のカタチをしたナニカがオルタナティブの前を横切った。

 

 ――あの時のモビルアーマー!

 

 ジェガンを使ったマスダイバーにトドメを刺そうとした矢先に現れたあのモビルアーマーが再びオルタナティブの行く手を阻んだ。

 夜なお陰で目視では捉え辛いそれは、千子村正の一閃を面白いように避けじりじりとオルタナティブの装甲をクローで削って行く。

 

 モビルアーマーの動きに翻弄されている内に逃げる無銘の後ろ姿が小さくなる。その姿に苛立ちが募っていくばかりだ。何なんだこの黒い鳥は。

 マスダイバーを守って今度は得体のしれない懐古厨まがいの援護。

 

 こいつも一体何なんだ。

 ブーストを止め、ギガフロートの地表に徐々に降下しつつも黒い鳥の攻撃を千子村正で受け流していく。火花を散らせながら高度を落としていく。このまま着地するより先にあの黒い鳥を仕留めなければこいつにも逃げられてしまうに違いなかった。

 

 単純なヒットアンドアウェイだ。オルタナティブの装甲を削るように突撃をかけて弾かれても深追いはせずに退避しこちらの反撃を的確にに封じて行く。

 加えて闇に溶けるようなカラーリングのおかげで目視での確認は困難な上、センサーは既にジャミングをかけられて死んでいる。

 と、なれば視覚の次に頼れる語感は何なのか。それは、『聴覚』だ。

 機体に積まれた指向性マイクの出力を熱源を頼りにサーチし、その位置を探る。風を切る翼とスラスターの音。

 

 さほど遠い位置にはいない。撹乱するようにランダムな軌道を繰り返し、ジリジリとその距離を詰めて行くのが分かった。

 

 黒い鳥が隙をついたと言わんばかりに最接近をかけた、次の瞬間。

 オルタナティブのツインアイが鋭く光った。

 

「見えたっ!」

 

 斬。

 黒い鳥のクローが、オルタナティブのコックピットを裂くより先に白刃が横一文字に半円を描くように閃いた。

 音も無く白刃は黒い鳥の装甲を通り抜け、そのままオルタナティブの真横を通り過ぎる。

 そして——

 

 

 

 爆発四散。

 見間違えようのない光景がオルタナティブの背後で起こった。

 

「……逃げられたか」

 

 既に無銘の姿は影も形も無かった。地上に着地して千子村正を腰の鞘に収めた矢先機体が片膝をついた。

 と、共に各システムも次々とダウンし始めた。

 

「おいおい……エンストかよ」

 

 無茶をし過ぎた弊害だろう。レバーをガチャガチャと動かしても機体はうんともすんとも言わない。

 元々水中戦仕様ではない機体を無理に水中戦仕様にしあまつさえドッグファイト。上陸した所で明らかに素のオルタナティブより性能が上のアストレイと相討ちに近いことをした後に、高速で動くモビルアーマーの攻撃を受けまくれば、いくら鍛え上げた機体でも限界をきたすのは当然だった。

 

『カタナ! どうしたの!? こんな機体をボロボロにして!』

 

 マギーのラヴファントムが動かなくなったオルタナティブを見つけ、機体を接近させてくる。それを横目にカタナはただ茫然と彼の去った跡を見上げていた。

 

『この跡、明らかに戦闘があったわね? まさか――』

 

「あぁ。そのまさかだ。襲われたよ。――得体のしれないアストレイ使いに」

 

『アストレイ? そんな、有志部隊にアストレイを使っていた人なんてここ(ギガ・フロート)にはアナタしか……』

 

 マギーの言葉であの無銘が外部からの横槍だということがはっきりとしてきた。となると、あの河童事件の黒幕の可能性もおぼろげながら浮かぶ。

 あのある時はマスダイバーを援護し、ある時は無銘の離脱を幇助した黒い鳥といい、点と点が線で繋がって行くように感じた。

 

「――あの河童事件、マスダイバーと関係があるかもしれない」

 

『何ですって……!』

 

 マギーの険の混じった声が聴こえる。

 

「勘、だけどさ」

 

 カタナは直近の戦闘記録(コンバットレコード)を確認するべく空中に呼び出したホログラフのコンソールを叩き、再生を試みる。これさえ運営に突きつければ一気に真相にまで辿り着ける。

 そんな確信があった。

 

 戦闘記録の動画の再生ボタンを無造作に押す。

 

【再生】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【再生】

 

【データが破損しています】

 

【再生】

 

【データが破損しています】

 

【再生】

 

【データが破損しています】

 

【再生】

 

【データが破損しています】

 

【再生】

 

【データが破損しています】

 

 

 

「なっ……」

 

 しかし、そんな希望も容易く打ち砕かれた。

 アフターフォローは万全ということか。マスダイバーがゲームシステムに干渉出来るものであることを考えればこれも別に不思議な事ではない。――とはいえ実際にこんな現実に直面すれば気力も削げるというものだ。

 

――これではいたちごっこだ。

 

「……マギーの姐御」

 

 データ修復を頼んでもあまり期待出来そうにはない。どうしようもないものは一度置いておいて、マギーのラヴファントムの方を向き直る。

 

『何?』

 

「河童の方は、どうなった?」

 

『それは――』

 

 マギーの口から語られる河童討伐のいきさつを聴きながらカタナは【データが破損しています】と表示されたコンソールを力なく削除(タスクキル)した。

 

 

◆◆◆

 

 事は数十分前に遡る。

 

 ソードマンによる囮作戦が功を奏し、ギガ・フロート中心部の広場に十数機のモビルスーツに囲まれる形で河童は周囲をきょろきょろと見回していた。

 

 知り合いのよしみ――というと少しばかり口が悪いか。このまま放置するのも座りが悪いので参加したこの河童討伐作戦。

 河童の噂はよく聴いていた。海周辺に現れては、ダイバーたちを食う危険な生物。と。

 

 

 しかしながらこのような気色悪い生物だとは思いもしなかった。

 中途半端に人のカタチを真似たシルエット。ダークグリーンの皮膚に、頭部には白く海水で痛みに痛みきった髪の毛が胸元まで伸びている。顔には紅い瞳。

 そして口元には白い歯が並んでおり長い舌が照明に照らされている。それだけじゃない。モビルスーツの装甲を着こむように身に纏っている。

 

『……エヴァンゲリオンの出来損ないかよ』

『どこがエヴァだよ何でもかんでもエヴァと照らし合わせてんじゃねえよ』

 

 と、囲んでいたある者がぼやく。こんな反応をはじめとして誰もが知っている素振りはしなかった。詳しいはずのユッキーもまた、同じく。

 

『DG細胞? いや、こんな形状の奴なんて見たことがない。外伝のものでもない。一体こいつは何者なんだ……』

 

「分からない奴なのか?」

 

『こいつは初めて見ます。ガンダムだって漫画小説ゲームと様々なメディアで幅広く展開していて僕の知らないモビルスーツが居たっておかしくないですけど……こんな奴が出てくる作品なんて想像も出来ませんよ……!』

 

 悔し気なユッキーの声を他所にゴーシュはお世辞にもガンダムの知識があるとは言えないのであの河童にはどういうリアクションをすればいいのか分からなかったので無反応を貫くしかなかったが、内心留めている感想を敢えて述べるなら――

――こんな生々しい化け物が居ていいのか?

 

 というところだ。よくよく見ると、身体の節々にカセットを半刺しにしたゲーム画面のようなノイズが現れては消えている所をMk-Ⅱのモニターが捉える。

 被害者の様子からしてバグの産物と捉えるのが自然だろう。とはいえバグだからと言ってこのような生々しい怪物に成り得るものなのかと言われれば怪しい所だ。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!」

 

 ノイズやありとあらゆるSE(効果音)が綯い交ぜになった不愉快な音で吠え、各々がライフルなどの引き金に指をかけ始める。

 いつ誰に飛び掛かるか分からない現状、誰もがピリついていた。

 

『各員、一斉射撃ッ!』

 

 ロンメルの号令が出るや否や一斉に射撃武器の引き金を討伐部隊は引いた。ライフルから吐き出されるビームの耳障りな音、アサルトライフルやサブマシンガンの発砲音や空薬莢が地面に落ちる音。グレネードが破裂する音。

 そんなありとあらゆる音に晒されながら、ゴーシュは自身のガンダムMk-Ⅱにビームライフルを発砲させる。

 

 傍から見ればヤケクソととられるであろう弾幕。誰もが皆、あの河童はすぐに片付けたいという意志――否恐怖を感じた。

 考えても見ろ、下手に接触してデータを消し飛ばされでもしたら堪ったものではない。

 

 爆炎が上がり、河童の姿が隠れてしまう。既に悪手としか言えない初手にロンメルのグリモアレッドベレーは既に次の行動に入っていた。

 

『うわッ!』

 

 爆炎を突っ切り河童は尋常ならざる速度で討伐部隊の味方機――夜間仕様に紺色に染めたジム・スナイパーに飛び掛かった。その様は草食動物に飛び掛かる肉食動物に思えた。

 スナイパーライフルを蹴り壊し、マウントをかけた所で装甲を引きちぎり、頭を引きちぎり、抵抗しようと伸ばされたジムスナイパーの腕を掴み、力が籠められる。

 

 ギシギシと金属が軋む音を立て、次第にスパークを始め金属が音をあげたかぐしゃりと潰れてしまう。この光景に味方は迂闊な横槍は入れられなかった。下手に射撃すれば巻き添えだ。

 とはいえ――このまま放置していればジムスナイパーは限界だ。コックピットハッチを強引こじ開けコックピットが露わになる。このままではダイバーが喰われてお陀仏だ。

 

 反撃を先読みしていたロンメルのグリモアレッドベレーが河童にいち早く接近し、アサルトライフルを発砲する。

 弾数を絞った正確な射撃は全弾河童の装甲の無い部分に命中し、着弾部位には血の代わりにジャンクデータを吐き出した。

 

『これ以上はやらせんよ――!』

 

 執拗かつ正確な攻撃に身に着けたモビルスーツの装甲が意味を成しておらず、耐えかねた河童は大破したジムスナイパーを投げ捨てて、広大なギガ・フロートの地を駆ける。追撃に放たれる味方の射撃を掻い潜る。トカゲもかくやの俊敏さは一撃の着弾も許さない。

 

『大丈夫かね!』

「な、なんとか!」

 

 大破したジムスナイパーの搭乗者の無事を確認したロンメルはホッと胸を撫で下ろす。なんとかダイバー自身のダメージは抑えられたようだ。とはいえモビルスーツの破損は甚大。戦闘不能と同義のそれをロンメルが率いるフォース・第七機甲師団のザクⅠとドムが助け起こしそそくさと戦闘領域の外へと運んでいく。

 

 

 一方で逃げ続ける河童に対し、ユッキーのジムⅢビームマスターが肩部の大型ミサイルランチャーを発射した。このまま直に当てるのは至難の業、であれば爆風によるダメージを狙う。それがユッキーの狙いだった。

 しかし河童の機動力と旋回性能はミサイルの追尾性能を大幅に上回っており、辛うじて一発のミサイルの爆風がその身を押した。

 

『うおおっ!』

 

 爆風に流された先には第七機甲師団のグフが待ち構えて、全速力で走っていた。

 迫るグフがヒートサーベルを片手に斬りかかり、河童は慌ててその振り下ろされた高熱の刃を受け止めた河童の手は徐々に白い煙を上げて行く。ヒートサーベルの熱で焼けているのだ。

 グフを蹴り剥がし、受け止めたままのヒートサーベルを投げ捨てる。

 

 そんな中で、ユニコーンガンダムを二頭身にし忍者風にアレンジしたモビルスーツ・RX零丸とゴーシュのガンダムMk-Ⅱが河童の左右から挟み込む形で迫っていた。

 

 

 前者は忍者刀を逆手持ちにし、後者はビームサーベルを抜き放ち接近をかける。

 射撃武器が当たらないなら接近戦で確実に仕留める方が早いと判断してのことだった。

 

 河童は即座に驚異の俊敏性で空高くジャンプするが、咄嗟にガンダムMk-Ⅱは握っていたビームライフルの銃口を夜空に上げた。

 零丸も通常のMSが出すのは困難な機動力で跳躍した河童の背後に回り込み、手元の得物の白刃を月光に晒す。

 

「そこだッ!」

 

 ビームライフルの引き金を引く。五体満足だし有人だがさながらジオングヘッドを撃ち抜くガンダムの気分だ。――これでも多少は勉強したつもりだ。この程度の知識ならあるというもの。

 下方からビーム、背後からは忍者刀。

 

 四面楚歌たる状態になすすべもなくビームでその身を貫かれ、零丸はその身を3つに増やし、各々手に持った得物を閃かせる。

 

『変位抜刀・アヤメ斬り』

 

 3体の零丸が通り過ぎ、遅れて白刃が閃いた残滓が河童の装甲が、皮膚がズタボロに裂く。

 

「■■■■■ッッ!!!」

 

 肉を焼かれ、裂かれた河童は地面に叩き付けられるように落ち、悲鳴を上げる。そのまま続いて逃亡を始めようとした矢先、天空から高出力のビームが地面に落雷。垂れ流した状態で鞭のようにしならせて河童に追いすがる。

 マギーのラヴファントムが空中から腹部のビーム砲こと・カリドゥス複相ビーム砲を発射し河童の逃げ道を奪いながら、両腰に装備されたクスィフィアス3レールガン2門とバックパックの2連装リニアガン2門を器用に撃つ。その弾丸は河童の逃げ道を奪っているようで――

 

 センサーに注力すると、マギーが誘い込んでいる位置にはいくつもの大型C4爆弾が地面や周囲の倉庫の外壁に張り付けられていた。ロンメルらが事前に用意したトラップフィールドだ。

 

『――今よッ!!』

 

 マギーの合図と共にそれらは――炸裂した。

 次々と奏でられる爆発音と倉庫が崩れ去る音。爆炎が薄暗いこの戦場を紅蓮に染め上げる。そしてクレーンにも仕組まれたC4爆弾も炸裂し、吊り下げられていた長大な鉄骨が追い打ちにと河童のもとへと落下し、耳を覆いたくなるような轟音が河童の中心から発せられた。

 

 

 

「まだ――生きているのか!」

 

 しかし、あれだけの爆発を受けて、圧倒的質量による一撃を加えてもなお河童は消滅していなかった。ジャンクデータを洪水のように傷口から溢れださせながらも鉄骨や瓦礫を掃う。脇腹には一本の鉄骨が突き刺さっており人間の常識で考えるなら致命傷もいいところだ。それでもなお海に逃げようと必死にその身を引き摺らせる。

 

「なら――ッ!」

 

 ゴーシュは舌打ちしながら、ガンダムMk-Ⅱのレフトアームに装着されたシールドの起動スイッチを入れる。今のMk-Ⅱは一味違う。

 ジムⅢビームマスターとグリモアレッドベレー、そしてラヴファントムが後方に並び立ち各々射撃武器を構える。同じく有志部隊のモビルスーツ群が駆けつけ射撃武器のセッティングをし、一斉射撃準備に入る。

 

『ゴーシュさん! 援護します!』

『イっちゃいなさい!』

 

 ユッキーとマギーの声。頼もしい援護だ。それを背にゴーシュはコックピット内で小さく呟いた。

 

 

 

 

 

「シールドブースター――点火っ」

 

 それは後付けの装備だった。

 元々ガンダムMk-Ⅱを素組みで制作したということと、元々時間も環境も不足しているゴーシュにもっとも適したものは機体を補強する強化パーツだった。

 下手な可変モビルスーツ以上の加速で突撃するMk-Ⅱ。

 

 とはいえ旋回性能は劣悪で直線的な機動しか出来ないのがタマにキズか。だが河童の逃亡を防げるなら今この瞬間最大の切り札と言っても過言ではないのだ。

 加速の乗ったビームサーベルを袈裟懸けに振るった。

 

「墜ちろよぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」

 

 

 肩から腰にまで深々とビームで裂かれた跡。そして、身体の節々にはビームや実弾で射貫かれた跡が残っていた。シールドブースター先端の向きを強引に上に向けMk-Ⅱは上昇。

 追い打ちに次々叩き込まれる弾丸に河童の身体から吐き出されるジャンクデータの量が増えていくのをゴーシュは空高くから見ていた。

 

――死んだか。

 

 脚を射貫かれ、崩れ落ちるそれを。

 幾つものモビルスーツの射撃に晒され、データが崩壊していく。吐き出せるジャンクデータが尽き、外側の皮膚が、着込んだ装甲が――消えていく。

 

 まるで生物を殺しているように錯覚した。どちらかと言えばこれは害虫や害獣駆除に等しいことだというのに、その生々しい苦悶と最期の断末魔が――ゴーシュには忘れられなかった。

 それは形容するなら――少女の悲鳴に聴こえたのだから。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 先のノイズ混じりの叫びとは妙にクリアに聴こえた――ような気がした。

 

 

 

 シールドブースターで無理矢理かけた負荷は大きなものだった。Mk-Ⅱの腕関節は先ほどの無理な加速と方向転換でスパークしている。電装系が逝かれたか。

 バックパックのスラスターを使ってゆっくりと着地した時には左腕はぶらりと垂れ下がっていた。素組みではこれが限界らしい。

 

『やったわね、ゴーシュ! ユッキー!』

 

 キャピキャピと女子めいた動きで労うマギーに苦笑いしながら、河童の消えた跡をちらりと見る。そこには既に生物が居た痕跡はなく、先ほどの衝撃で上がった炎だけだった。

 

「河童はやったのか? 死んだのか?」

 

 現実味のない光景にゴーシュは思わず呟くと、ロンメルが応えた。

 

『あぁ。先ほど完全消滅を確認した。この戦い――我々の勝利だ』

 

「――そう、ですか」

 

 肩の力を抜いた瞬間、全身が重く思えた。

 ゴーシュ操るMk-Ⅱはコックピットにカスタマイズを施しておらず立ったままの操縦となる。それもあってか力なく尻餅をつき、折った膝に腕を置いた。

 今は何も考えたくは無かった。あの河童なる存在についても、家のことも、Mk-Ⅱのことも、何もかも。

 

『ゴーシュさん』

 

「あ?」

 

 ユッキーに声を掛けられて、気の抜けた炭酸のような生返事が口というより喉から出る。

 今はそっとしておいてほしい。けれども、流石に友人の声を邪険に掃うのも気が引けるので耳を傾けた。

 

『アヤメさん、何処に行っちゃったんでしょう?』

 

「……確かに」

 

 気付けばアヤメ操る零丸の姿は何処にもなかった。それにまだリクたちが戻って来ていないのだ。サラの無事もまだ耳にしていない。

 まだ事件は終わっていないが、これ以上考える体力もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

「武装装甲八鳥を落とすなんて……」

 

 ソードマン操るオルタナティブが、ノーネイムの離脱の援護のためにけしかけた零丸の支援機、武装装甲八鳥が一閃で破壊された事実は既にアヤメの目と耳が捉えていた。

 【SIGNAL LOST】と表示されたセンサーを横目に、必殺技の代償と無茶な機動で機能停止したオルタナティブの姿とその傍に立つラヴファントムの姿を遠くの倉庫の上から見る。

 

 武装装甲八鳥の機動力は下手なモビルスーツが追い切れないほどのもののはずだというのに、一刀両断で切り伏せてしまった。

 

「なんなのあの男は――」

 

 マスダイバーとの度重なる戦いが彼を異常に強くしてしまったのか。あの男操るアストレイ同士の戦闘は動きこそ少なかったが、互いに何度も破壊し足りない程の圧を放っていた。

 

『余計な真似をしてくれたものだな』

 

 いつもの【SOUNDONLY】の表示と共に通信が入る。あの男からだ。

 

「貴方が後れを取るからよ」

 

『――餅は餅屋だった。それだけだ』

 

 意味不明な発言に一瞬アヤメは首を傾げかけたが、要するにGBNの空気感を熟知していたソードマンが有利だったということをあの男は言いたいのだろうか。要するに負け惜しみである。とはいえ、ほぼ互角と言えるその戦いはどちらが勝ってもおかしくはなかったのは事実。

 あの男の言う通りGBNの空気感を理解した瞬間、この勝負はひっくり返ることだろう。

 

 アヤメは知っている。あの男のガンプラ作製技術を。

 GBNのダイバーにガンプラを貸し与えるレンタルをやっており、レンタル品を実際に見てみたところその完成度は目を見張るものがあった。

 負け惜しみが許されるだけの力を――この男は持っている。

 

『今日は色々あったが今後方針には変わりはない。ブレイクデカールをばら撒き、(クライアント)の護衛を行う。それだけだ』

 

 言うだけ言って一方的に切られた。あの男なのでいつものことだ。どちらにせよ、ソードマンは明確に倒さなければならない敵だと、今この瞬間はっきりとした。武装装甲八鳥の仇というと陳腐だが、ファイターとしての怒りか闘志か。その両方が湧きたっているのは確かだ。

 

――次はこうはいかない。……ソードマン

 

 最後に一瞥したのち、ふと海を見る。

 リクやモモがサラを助けに海に潜ったはずだ。サラは――無事なのだろうか。

 

 

 あの得体のしれない怪物に見知った顔が襲われたという悍ましさと、自分のやっていることと何かしらの繋がりがあるのではないかという予感がアヤメの胸の奥を締め付けた。

 やめろ。

 考えるな。

 その先は――地獄だ。

 

 自分の内のナニカがそう叫ぶ。

 

「不愉快だわ……」

 

 と吐き捨てる。今やっていることが許されなかろうが、かつてあったものを取り戻すにはそうするしかないのだと。そのためには悪にもなる――と。あの日誓ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちらリク! サラは――河童に襲われたダイバーは無事です! これよりギガ・フロートに連れて帰ります!』

 

 それでもなお、知った顔が無事でいることを喜ぶのは罪ではないはずだ。リクの声で肩の重さが少し和らいだ気がした。




次回、『過去の残滓』

事後報告やら、GPDやら色々。些かノスタルジックな回になりそうです。

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