下手したら別世界線の話か、BFTみたいにそこそこ未来の話もありそうな予感
「それではぁ! べアッガイクエストォ! レディぃぃぃぃ……ゴォォォォォォォォォォッ!!!」
これまでの女性的なアナウンスから一転してナイスミドルの低い男性ボイスに変わったアナウンス用べアッガイ像から放たれるや否や、ウイングガンダムは飛翔した。
「ターゲット確認。……それにしても」
行く先行く先で出くわすリクたちビルドダイバーズ。彼らは身体は子供頭脳は大人な名探偵か何かなんだろうか。あまりにもあんまりなエンカウント率にカタナは溜息を吐きながらモニターに映るガイアガンダムを見下ろした。
――まぁ、こんな所で使わんわな……
マスダイバーが力を発動するのは大体戦闘でだ。
アークエンジェルスにフォース戦で殴り込んだ方がいいのか。しかし、それは中々リスキーな手段であった。特にカタナは単騎で活動しているので、1対多となれば単純に不利というもの。
戦いは数だよとガンダムのオタクたちは言うがきっとその通りだ。それにソロ活動しているフォースは何かと浮き易い。下手に荒せば今後の活動に支障が出かねない。ここで襲いかかる手もあろうが、一応この目でちゃんとマスダイバーであることを確認するまでは下手に手を打ちたくはない。
「さてと……」
武者凱も開発並びに改造資材として有用なのは事実。今日は偵察という形で済ませよう。そう思った矢先――
誰かに、見られている気がした。VRをやっていると五感とはまた別のナニカが冴え渡る時がある。勿論リアルでは機能しないのだけれども、こうしたヴァーチャル・リアリティの世界だと何か異物感めいたものが肌を刺す。
「……エピオン」
地上に参加者の一機であるガンダムエピオンが森林の中でこちらを見上げていた。手には本来エピオンが装備していないバスターライフルを携行している。
もちろん、何もしてこないがこちらを凝視しているのがどうにも気持ちが悪かった。距離が離れても違和感のようなものは拭えなかった。
◆◆◆◆
ダブルオーダイバーとRX-零丸。そしてフライングアーマーに搭乗したガンダムMk-Ⅱは空中を飛びながら地上を右左と見下ろしていた。
このべアッガイランド、思いの外広大かつ山や木々が空からの目を欺いている。これは少しばかりハードになりそうだとゴーシュは唸った。
「どうする? 既にユッキーやコーイチ、モモも別行動で地上に降りたようだが、俺たちも地上に降りるか?」
「迷っている暇は無いわ、行くわよッ」
「――あ、おいッ!」
零丸が速度を上げて先行する。それに置いて行かれたゴーシュとリクの機体は互いに顔を見合わせた。
「欲しいんですかね、あのぬいぐるみ」
「……まぁ欲しいんだろうな。あのくノ一」
無愛想ながらも案外可愛いものが好きらしい。実はこのフェスでプチッガイを隠れて抱きしめていたりしているので可愛いもの好きなのには違いない。
加えて資材にするとのたまったカタナを軽く睨みつけていたので譲れないものがあるのだろう。
「……よし、行くか!」
「あっ、待ってくださいゴーシュさん!」
加速するMk-Ⅱとそれを追うダブルオーダイバー。しばらく森林の上を飛行しているとようやく森林を抜け湖畔にまで辿り着いた。湖の中心部には岩を持ち上げているべアッガイの銅像が中心に配置されている。
まるで先を見越したようなアヤメの動きにゴーシュは口を開いた。
「もしかして知っているのか。答えを」
「実は2年前にも、同じようなイベントミッションがあったの」
「……ソロでフォースを組んでいたのか」
「…………行くわよっ」
カタナのようなソロで構築されたフォースも一応存在していることは知っている。まあ、フォース戦で圧倒的に物量面での不利を強いられるので自分からやるような奴はそうそういないが。
しかし、アヤメは妙に間を置いてから答えになっていない返事で返し、銅像の台に取り付けられた『V』と刻まれたパネルにターゲットロックした。するとパネルからホログラフィック映像が生成された。
映像には赤いべアッガイが嬉しそうに両手を上げていた。
『ボーナスヒントですっ! アニメ機動戦士ガンダム第15話「ククルス・ドアンの島」でガンダムが投げ飛ばしたモビルスーツ、その頭のカタチをした場所にお宝がありますよ!』
ククルス・ドアン。初めて聞く名前にゴーシュは困惑した。
あれ、もしかして劇場版でオミットされたのか。テレビ版限定のキャラクターなのか。焦るゴーシュ、知ってそうなリクもすぐには答えが出ず「えっと……」と考えている中で即答で答えを出した者が1人――アヤメだった。
「ザクⅡよ。作中でアムロ=レイはもう戦いをしなくても良いと、ククルス=ドアンのザクを海に投げ込むの」
そんなエピソードがあったのか。テレビ版も見なければと感心していると既にアヤメの零丸がそのザクの頭がある方へ飛び去っていた。もう既にゴールは目前。
アヤメの情報アドが既に勝負を決していた。
◆◆◆
その一方カタナのウイングガンダムは――
「お、おのれ……」
よろりと草木をかき分けながら歩を進めていた。宝箱を見つけると、ヒントを教えてくれるのは承知の上でいくつもの宝箱を見つけ、開いてきた。
しかし開けるとビックリ、実はハズレ! などという凄惨なオチが2連続。3度目の正直かと思ったら出て来たヒント用宝箱の中からやたら難解なクイズを提示されるなど足止めを喰らってきた。
ストライクガンダムの型式番号は序の口、FGに登場するコアファイターの開発企業名を答えろだの、シグー・ディープアームズが採用していないビーム兵器制御方式を答えろだの、ガンプラ女子の心がメッタメタに折れること必至な問題の雨嵐。
このべアッガイクエストの難易度を考えたヤツは一体誰なんだと呪詛を全身から噴出させながら湖畔に辿り着いた。
そこにはアークエンジェルスの2機が先を越されたダブルオーダイバーたちを追っている姿があった。
「――まさか」
既にビルドダイバーズのメンバーに答えを知っている人間が混ざっていたということなのか。でなければヒントの位置を知っているアークエンジェルスの先を越すのは不可解だ。
機体の速度を上げ、彼女らを追った。
「――ッ」
その先に待つのが、思いもよらぬ修羅場だということも露も知らずに。
一言で言い表すなら『一触即発』という言葉が相応しいだろう。
地面に叩き付けられて倒れたMA形態のガイアガンダムと傍に寄るムラサメの姿がウイングのモニターに映っていた。
「いい加減にして!! 非戦闘型のイベントミッションで攻撃なんてマナー違反でしょう?」
アヤメの叱責にカナリが「ごめんなさいっ!」と謝罪し、ステアのガイアを「ステア! あんた何してんの!?」と問い詰めていた。
大まかな流れとしてはゴールを前にしたリクたちビルドダイバーズをステアのガイアが攻撃。妨害を行ったためにアヤメの零丸が反撃に出た――ということだ。
事実としてこうしたイベントミッションで攻撃による妨害はルール違反ではないので横取りするために妨害行為を行うプレイヤーもそこそこ存在している――が、基本的にはマナー違反であると暗黙の了解が成されており、そうすることで戦闘が苦手なダイバーもある程度平等な条件で立てるようになっている、という訳だ。
ただ、今回の場合は戦闘が苦手なダイバーが得意なダイバーに攻撃を仕掛けてあっさり返り討ちに遭っているという構図だが。
「それでもッ! あたしはフォースの役に立ちたい……ッ! どんなことをしてもッ!」
崩れた姿勢をもとに戻しながら立ち上がるガイア。しかし、そのガイアを中心に空間が僅かに歪み、紫色の靄を関節部分から僅かに噴き出させていた。
――コイツ! 起動する気かッ!
ウイングのスラスターを全開にして両サイドの間に割って入り即座にバスターライフルの銃口を向け引き金を引く――しかし全てがもう遅かった。
放たれた荷電粒子は並のモビルスーツなら消し飛ぶものだ。今回は巻き添えも考慮して低出力モードだが、それでも直撃を貰えば無事では済まないシロモノだ。
ガイアは直撃を貰い、咄嗟に防御に入ったムラサメが爆風に流される。
「ウイングガンダム――何なのこの人ッ!?」
突然現れてバスターライフルを撃つなんてまともな人間のやることじゃない。そう言いたげにカナリは毒づきながら咄嗟にステアのいた位置を機体の姿勢制御をしながら確認した。立ち上る爆煙で姿が見えない。機体が無事かどうかすらも分からない。
ウイングはバスターライフルの銃口は降ろさず構えたままだ。
リクが問いかける。
「どうして……撃ったんですか」
「こいつはマスダイバーだ」
「えっ」
爆煙が――晴れる。
そこにはMS形態のガイアガンダムがビームサーベルを構えて立っていた。しかもおまけに機体から禍々しいオーラを放っていた。
本来ならばHGガイアガンダムは差し替え変形だ。となれば単純に完全変形が出来るように改造するか、『変形』スキルをスロットにセットさせておかなければならない。これまでのステアのガイアの行動から見るにそう言ったものもなく最初からずっとMA形態で変形が出来ない状態だったと思われる。
となれば、チートで強制的に後付けをしたということなのか。
「なん……で……どうしてお姉さんがマスダイバーにッ」
ショックを受けているリクを他所に、ガイアガンダムがスラスターで一気にウイングの真正面にまで詰め寄った。スピードも尋常では無いほどにある。
振るわれたビームサーベルを後退することで回避し、再びバスターライフルの発砲準備に入った。
「ステア! あんたどうしてッ!」
「足手纏いになりたくないの……! あたし……弱いからフォースの皆に迷惑ばかりかけて……この前もあたしのせいでフォースランク落としちゃって……! このままじゃいつか皆に見放されちゃう……ッ!」
溜め込んだものが爆発したかのようにステアはまくし立てる。過去のことは詳細まで知る訳も無いが相当堪えるような出来事があったようだ。
けれどもこのままこいつを放置しておくのは危険だ。事実としてこのディメンションに揺らぎが生じていた。あの河童のような歪みをまた生み出してしまう。それにステア自身に降りかかる誹りを思えばなおのこと。
「あたしは強くなるッ! ブレイクデカールを使ってでもッ!」
「――ターゲット・ロックオン!」
照準が完全に定まって引き金を引こうとした矢先だった。横殴りにダブルオーダイバーがウイングに飛び掛かった。
「何ッ!?」
ガツン、と鉄と鉄がぶつかり合う鈍い音が鳴り響く。発砲されたバスターライフルはガイアから派手に逸れ、近辺にあった山を抉り飛ばした。
「何故邪魔を!!」
苛立ったカタナは叫んだ。しかしリクは引き下がらない。押し倒されたウイングは即座にダブルオーダイバーを蹴り剥がして、バーニアを駆使してダウン状態から即座に復帰した。
「このまま撃っても何も!」
「アレを放置しろって言うのか?」
「言ってませんよ! でも今ここで撃墜したってお姉さんの辛い思いが吹き飛ぶことなんてないッ!!」
「カウンセリングなら後にしてくれッ! 時間が無いッ!」
「後って、いつだって言うんですかッ! 出遭ったばかりの俺たちがこうして話が出来るのは今この瞬間しかないでしょッ! ここで問答無用で倒してしまったらそれっきりでしょう! そんな状態でどうしろって言うんですか!」
お互い引き下がらずダブルオーダイバーエースとウイングが睨み合う。そんな中でゴーシュのMk-Ⅱがステアのガイアの傍に見知らぬモビルスーツがいることに気付いていたのかそちらの方を向いていた。
そして男の低い声がそのモビルスーツから放たれた。
「そうだ。ブレイクデカールはそのためにある。強くなるためにな。初心者を救うためのツールが迫害されるのは間違っているんだよ」
――その減らず口を叩くのは誰だッ!!
苛立ちが爆発しそうな所をなんとか抑えながら、カタナは声の主の姿を目にした。
「……エピオンだと」
あのイベントミッション開始時にこちらを凝視していたバスターライフルを持ったガンダムエピオンがそこにいた。なるほど、最初からマークされていたということらしい。
あのエピオンが黒幕からの差し金だとすれば状況は色々と変わって来る。……が、ここでどう収拾を付ければいいのか分からない問題をカタナは目の当たりにしていた。
しかし――
Mk-Ⅱがウイングとダブルオーダイバーエースの前に立ち、ビームライフルをそのエピオンに向けた。そしてリクとカタナの機体を横目で一瞥してから言葉を紡いだ。
「あの赤いガンダムはエピオンって言うのか。……お前ら二人とも冷静になれ、ここで同士討ちした所で本当にどうしようもあるまい。違うか? カタナもマスダイバーを倒しに来たというのであれば戦うべき相手を間違えている。リクもだ、ここで仮にカタナの羽付きと戦って同士討ちをして勝ったとしてもあのマスダイバーを――ステアを止められるのか」
それはどうしようもなく、正論だった。
まるでシュウゴに諭されているような気分で居心地が非常に悪く、カタナは大きく溜息を吐いた。
「苛立っていた。すまんかった」
とはいえ、反発しようという気にはなれなかった。ここでリクと殴り合えば自分の目的が達せられないのは知っている。で、あれば誰とやり合うべきなのか――カタナはエピオンにその視線の矛先を変えた。
「……で、何者だ。エピオンのパイロット」
「何者? 俺は善意の協力者という奴だ。……ステア、あのウイングの乗り手はソードマンだ、ヤツはこのイベントミッションでお前を突然攻撃してきた。つまるところヤツはこのイベントミッションで油断している所を叩き落として楽しんでいるんだよ。だが、ここでヤツを叩きのめせばお前はヒーローだ。お宝も手に入りいいことづくめという奴だ」
まるで悪魔のささやきだ、とゴーシュに頭を冷やされたカタナは思った。
あのエピオンのパイロットの言う通りそこからの
ネットゲームの悪意というのは自分たちが思っているよりずっと根深いものなのだ。即倒してしまえばステアがマスダイバーであることを知る人間はある程度最小限に納まるはず――。
「何をガタガタと。邪魔をするというのなら巻き添えを食うぞ、エピオンのパイロット」
弾数の少ないバスターライフルを構えながら威嚇するものの、エピオンは物怖じしている様子は無かった。加えて既にソードマンであることがバレているというのであれば今機体に付けている擬装ホログラフィックも意味がない。機体の電力消費量も馬鹿にはならないのでコンソールを操作して解除した。
ウイングガンダムの装甲が瞬時に書き換わる。――いや、擬装が解けたというべきだろう。現れたのはガンダムアストレイ・オルタナティブ《メテオジャケット》。
ウイング型スラスターが装備された追加装甲が特徴的な新
「おおう怖い怖い……流石は噂のソードマンだ。この怖いヤツを倒すぞステア」
「……うん!」
ガンダムMk-Ⅱ、ダブルオーダイバーエース、アストレイオルタナティブ《メテオジャケット》が並び立つ。
対するはガイアガンダム、ガンダムエピオン。2機ともマスダイバー特有の禍々しいオーラを発していた。
STAGE20 夜の始まり
ステア「嫌だぁ……あたし……負けたくないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
完全に悪い大人にそそのかされる女の子が出来上がってしまった。そしてエピオンにバスターライフルとか言う実にエレガントじゃない所業。
ちなみにプロット書いている時はリクがシンの立ち位置で、ソードマンがキラ状態の泥沼バトル案も一瞬だけ考えたのですが、そこまで至るにはゴーシュをどうにかしないといけなかったのもありますし、そもそもステア置いてけぼりやんけって思って没りました。
そもそも元ネタだと互いにシンもキラもまともな面識がある状態じゃない一方で、リクもカタナもそこそこ面識があってどうしても同じ構図にはなり得ないですし……
結局カタナがやろうとしたことはGBNを救ってもステアを救うことにはならないし、リクがやろうとしたことはGBNを救うにはあまりにも無茶かつ悠長で。
某機動警察漫画で「みんなでしあわせになろうよ」とどこぞの隊長が怪しい笑みで言っていましたが果たしてみんなでしあわせになるオチがつくのか。ステア視点の話とかソードマンに対する印象とかの話になる予定。
次回、Build Divers ASTRAY
STAGE21 その名は『ゼータ』