ガイアがデストロイに変態してからというもの、エピオンの乗り手は勝利を確信したか通常モードのビームソードの切っ先をオルタナティブらに向けてゲラゲラ笑い始めた。
「アヒャヒャヒャヒャヒャァッハァ! 踏み潰してやるよォ、このデストロイでなァ!」
デストロイのサイズは馬鹿でかいバックパック抜きで計算すると身長38.07m。平均19mのモビルスーツの倍はある。……アニメの作画だとそれ以上あるような気はしないでもないがそんなことはどうだっていい。今現実にいるのは倍近くいるバケモノなのだ。もう腹は括っている。
デストロイはその両アームを持ち上げ指先を、見上げるモビルスーツたちに向ける。その指先は砲口となっており、次に何をしてくるか分からない5人ではなかった。
デストロイの情報を事前に知っていたカタナやアヤメ、カナリ、リクは言わずもがな、ゴーシュもまた察知していた。
【5連装スプリットビームガン】 両手で10門も存在するそれは、まさしくビームのカーテンのように空を光に染める。
ビームとビームの隙間をかいくぐるように散開したオルタナティブは、真っ先にデストロイを睨んだ。
あの機体の破壊力はよく知っている。しかしこのまま悠長に攻略していれば本当にベアッガイランドはおろかこのエリアが完全に崩壊してしまうだろう。
事実バグの侵食は更に勢いを増し、空間が歪みべアッガイランドの半分はデータの藻屑と消えている。最早予断を許さない状況だ。
「無事か坊主!」
カドマツからプライベート通信が入った。やはりこの異変を察知したのだろう。焦りが手に取るように分かる。その事実がまた、現状の緊急事態の現実味を強くする。
「えぇなんとか!」
「このエリアが本格的に崩壊を始めている。最悪このエリアの消滅だけで抑えるが……もう時間がないぞ。無理そうなら全員を強制ログアウトさせる!」
そうすればバグの影響にやられてしまうことなく1エリアの消滅だけで済むというものだ。しかし――ステアの叫びを聞いてしまった。知ってしまった。
ここで逃げればおそらく彼女はもう後戻りはできなくなる。あの様子では開き直るなんて器用な真似はきっとできやしない。
「崩壊までどれくらい!」
「11分だ! それまでにあのデカブツの破壊をして止めるしかない。10分でお前たちを強制的にログアウトをかける! ……運営は隔離に人員を割きお前たちに対処をさせる……そう判断した」
つまるところ、丸投げだ。カドマツの苦々し気な声色に同調するようにカタナは舌打ちした。
彼らにも当然人員も限られている。加えてGBNの運営自体人手不足が酷いとBBSなどでも噂されている。規模と人員の比率が合っていない――と。
「ふざけやがってクソッタレェッ……!」
無茶な注文だが、そうでもしなければ大惨事だ。通信を切るや否やカタナは悪態をついた。
それに相手も無敵という訳ではない。デストロイの圧倒的火力は目を見張るものがあるが、接近戦に極めて弱い。事実、原典における敵対機のデスティニーをはじめとする高機動型モビルスーツに接近戦に持ち込まれなすすべもなく無力化されていることからそれは明白だ。
しかし––
「オイオイ、俺を忘れてんのか? 人斬りィ」
「お前はもう邪魔をするなッ!」
エピオンが割り込みオルタナティブのいく先を阻んだ。そう、敵は一人じゃない。だとしてもそれでもカタナは止まらない。どっちにしろ叩く対象であるのには違いないし、順番が多少変わろうが今はもう何の問題も無かった。ステアはこの場にもういない。残るのは元凶とこの世界を乱す物の怪だけだ。
ソードメイスによる一閃をビームソードで受け鍔迫り合いを繰り広げ押し合うが、パワーはエピオンの方が上なのは当然だ。まともに押し合わず、敢えて力を抜いて受け流す。
「何故だ! この俺が人斬りに弄ばれている⁉︎ 俺はあらゆるゲームをやって来たんだぞ! MMOもFPSもッ!」
「お前の事情なんて知るかッ!!」
勢い余って、エピオンが目の前を素通りしている隙にオルタナティブはソードメイスを振り上げ、そのまま出力全開で振り下ろした。
「馬鹿な……」
地上にまたまた叩き落とされ、地面に磔にされたエピオンの男は空に浮かぶオルタナティブを呆然と見ていた。
衝撃で内装がスタンを起こしたのか、起き上がるその姿は硬く、覚束なかった。正攻法での復帰は不可能と悟ったエピオンは無理矢理スラスターを全開にし離脱を始めるや否や別方向から緑色の閃光がいくつかエピオン目掛けて飛来した。
「
ギロリとエピオンのツインアイが閃光の出元を捉え睨みつける。そこにはムラサメがビームライフルの銃口をエピオンに向けていた。
「あんたは許さない……ステアを……ステアのガイアをこんな風にして……絶対に許さない!」
カナリの怒気の篭った声がステアを収納したムラサメのスピーカーから発せられ、同時にビームが何発も放出される。
外れたビームはエピオンのそばの地面に刺さり、命中したビームは着実に装甲を焦がした。
「こんの小娘が!」
逆上したエピオンがビームソードの発振装置の先端を向ける。
このエピオンのビームソードの射程はまるで何処かの伝説巨人だ。このまま発生されればカナリのムラサメが消し炭にされる未来が見えたカタナは咄嗟に間に割り込み、ソードメイスを盾にした。
「何だとォ!?」
伸びていくビームソードに押されるオルタナティブだが、このままではエリア外に押しやられるのは時間の問題だ。が、無策で飛び込むほどカタナも愚かではない。ソードメイスの刀身を僅かに傾けて無理やり先端からすり抜け、ビームソードの刀身のすぐ横に位置取った。
結果的にビームの伸びる先からムラサメは退避し、そのまま上空に逃げた。
あとはビームを受け止めているオルタナティブだけだ。
「ケハハハッ! このエピオンのソードに無骨なナマクラで止められるかよ!」
「やるかよッ!!」
横薙ぎに押してくるそれをソードメイスで受けるにしても限界があった。
前提条件として出力だけならマスダイバーの方が圧倒的に高い。
挙句左側にビームソードが迫っているお陰で損傷したレフトアームがソードメイスを持ったままさらに悲鳴を上げて紫電を散らす。
機体の位置がジリジリと地面を抉るように動いていく。
限界だ。しかしこちらの手数を奴は見誤っている。こちらには――メテオジャケット・バードがいるのだ。
横殴りにバードジャケットがマシンキャノンをまき散らし、エピオンの装甲に弾が弾ける。火花が派手に散り、咄嗟に防御姿勢に移ろうと機体の動きが揺らいだ瞬間をカタナは見逃さなかった。そう、あのエピオンは致命的なミスをした。マシンキャノンに耐えうる耐久力を持ちながらそちらを過剰に警戒した結果、本来続けなければならないオルタナティブへの圧殺が疎かになり、据えるべき腰と上半身を揺らがせた。故に生まれる一瞬の弱み。
「ここだ――ッ」
ビームソードの刀身の上でソードメイスを滑らせながらオルタナティブはフルブーストで跳ねるビームの飛沫を浴びながら距離を詰める。
ここでビームソードを切り再発振して迎撃するのがベターな選択だが、相手はそれをしなかった。
ビームソードならびにビームサーベルというものはその刀身を任意で発生させることが出来るのが強みだ。必要あれば鍔迫り合いの途中でOFFにして相手の不意をつくという芸当が出来る。0083のアナベル・ガトー操る試作2号機が旧ソロモンのコンペイトウ宙域で試作1号機相手にやったことが分かりやすい例だろう。
それをやらずにデタラメな出力をいたずらに振り回しているだけならば、攻撃を読むことなど容易いというものだ。
他にも付け入る弱点がある。エピオンシステム――事実上の未来予測システムを使えていないということだ。
エピオンシステム並びにゼロシステムはリアルタイムで変遷する戦況から最良の戦術を弾きだす。そのために送られてくる大量のデータを捌かなくてはならない。
流石に原典のように発狂したり、制御不能レベルの情報量でないにせよある程度『慣れ』が必要になってくる。その上提示される予測も全て正しいとは限らないので、取捨選択が必要になる。よって扱いきれるダイバーはある程度限られる……ということだ。
使いやすいようにリミットをかけることは出来るが、それではウナギのたれのないウナギのようなものだ。ウナギの脂だけでは物足りない。
オルタナティブはライトアームで、サイドアーマーに帯刀した千子村正を閃かせた。
斬。
逆手持ちで真上に振るわれた一撃はエピオンのレフトアームを軽々と分断した。ヒートロッドの付いたそのアームが本体から離れ、ずしりと音を立てて地面を転がる。
これだけで満足していれば、いずれ吹っ飛ばしたそのレフトアームもUG細胞で復活するのは目に見えている。で、あれば連続で叩き込むだけだ。100回殴って復活するなら101回殴ればいいだけのこと。10秒で回復するなら9.99秒までに破壊すればいい。
「ふざけやがって……最後に
「上等ッ!」
斬り飛ばすや否やオルタナティブは跳躍した。機体と機体の頭頂部が向かい合い、そしてエピオンの背後に着地した。振り向きざまにビームソードを振るって迎撃しようにももう遅い。
ライトアームの肘から先を千子村正で斬りおとし、両腕を失った所でソードメイスを連続で叩き込む。
再生前に何度も何度も攻撃を叩き込み、装甲が再生するより先に金属疲労を起こし、凹みと傷が増えていく。そして原型をとどめなくなったエピオンが膝をついた。
「ここで寝てろォ!」
そして千子村正を地面に突き刺し、両腕で持ったソードメイスをそのまま縦に振り下ろした。
「ばっ……馬鹿な……デタラメに……強え……」
流石にエピオンの強靭な装甲とUG細胞の再生力を持ってしても、ここまでやられれば再生以前の問題だった。完膚無きにまで破壊され、物言わぬ鉄屑と化したそれはポリゴン片となってそのまま消滅した。
――次は!
エピオンの乗り手がこの世界の崩壊の原因ではないのは一目瞭然だった。
倒したという感慨を抱くより先に破壊行動を続けるデストロイにターゲットを変え、千子村正を納刀しメテオジャケットを再びオルタナティブと合体させた。
デストロイの両腕が切り離され、それぞれが意志を持っているかのように飛び回り始めている。さながらロケットパンチだ。……【シュトゥルムファウスト】。嵐の拳骨の名を冠するそのロケットパンチは5本の巨大な指先からビームを薙ぐように放つ。
零丸は茫然と射程外から静観しており、一方でゼータとダブルオーダイバーエースは徹底抗戦の構えで飛び交うビームを避け続けていた。
「上着付きのアストレイ!? カタナさん!?」
戦域に入って来たことに気付いたリクがその名を呼ぶ。
だが会話している間にも四方八方から高出力のビームが飛んでくる。一撃でも貰えば即死確定だ。
ソードメイスの刀身でなんとかしのぎつつ、一度飛び回る巨腕が正面に来るように位置取った。
残り時間は5分。あのエピオンを倒すのに思いの外時間を食ってしまった。猶予はあまり残されていない。
「どうする。こいつにはビームが通用しない。グレネードもどうも効かない。……サイコガンダムよりタチが悪いぞ」
証拠にとゼータがビームライフルを試しに撃つと、命中するより先に飛来してきた腕に阻まれて四散する。……あれは陽電子リフレクターだ。リクはデストロイの特性を既に知っているのかいたって冷静だった。
「近距離兵装で討つしかないです。例えばGNソードとかエクスカリバーとか。それでならバリアごと――」
「……知らない武器だ。ゼータには積んでいない。……お呼びじゃないということか」
フェイズシフト装甲や、ナノラミネートアーマーなどこの世界には幾つもの防御アビリティが存在する。それらは特定の武器からダメージを減衰させたりはたまた完全シャットアウトさせてしまう。今回デストロイが持っているのはトランスフェイズシフト装甲と陽電子リフレクター。
このGBNにおいて前者は実体武器全般を減衰、またはダメージゼロに抑えてしまう。
後者はビームによる射撃武器をシャットアウトさせてしまう。
一見すれば無敵に見える本機だが弱点もある。
防御アビリティ効果を無視出来る特殊武器と、高濃縮されたビーム兵器――つまりビームサーベルだ。
「ゴーシュ、あの腕を落とせるか」
「……随分無茶な注文だな。ビームのバリアを持っているんだぞ。それにこちとらナンタラソードもエクスカリバーとやらも持っちゃいない」
「だが――防げない箇所がある。俺たちにも共通して言えることだが機構上どうしても脆くなる箇所がある。お前の狙撃なら確実に出来るハズだ」
「……成程。そういうことか」
たったそれだけで把握したのかゴーシュ淡々とデストロイの腕に視線を向けた。そして――
ゼータが再びオルタナティブを一瞥した。
「ん? どうした」
「いや、なんでもない」
一瞬の沈黙から暴れ狂うデストロイの腕に向かってゼータを戦闘機形態――ウェイブライダーへと変形させて、ビームライフルを腕目掛けて撃ち、ヘイトを自らに向けさせ始めた。
そして残されたオルタナティブとダブルオーダイバーエースの2機は向かい合った。
「カタナさん。オレ――」
「それ以上言うな。何が正解だったのかとか、ンなもん結果論の後出しじゃんけんだ。――フェアじゃねェし、アレを見せられた以上……な」
結果的にリクがステアの説得に入りその間にデストロイに変態する時間を与えてしまった。とはいえ、このまま問答無用でステアを落とせば、ステアは心を閉ざす。
大局的に見ればカタナのやったことは正解だろうが、結果アークエンジェルスが泣く羽目になる。
人間理屈だけで生きられるなら苦労はしないのだ。
「あなたのやっていることは間違いです」「はいそうですね私が間違ってしました」とそう機械的に納得するのなら元から彼女がマスダイバーになんてなりはしない。
更なる歪んだ力を渇望し、結果的に元の木阿弥になれば徒労に終わるのだ。何もかもが。
「もう時間が無い。お前のGNソードでならトランスフェイズシフト装甲を貫通出来る。俺の千子村正も同様に。そして強力な衝撃にも弱い――まだ勝機は残っている」
「やりましょう、カタナさん。オレたちでこのバグを――」
「ブッ壊すのか」
ダブルオーダイバーエースは両肩部のGNダイバーソードを抜刀し、オルタナティブは下段の構えでソードメイスを持った。
すると、こちらの敵意を察知したかデストロイは胸部の大口径ビーム砲から光を放った。1580mm複列位相エネルギー砲【スーパースキュラ】
あれの直撃を受ければ最後。コックピット周りは跡形もなく消し飛ぶこと間違い無しだ。しかも胸部に3門もあるので左右の回避は厳禁、上昇して回避するや否やデストロイの『口』にあたる部分から高エネルギー反応。200mmエネルギー砲【ツォーンmk2】の発射準備に入っている。
大盤振る舞いもいいところだ。デタラメな出力で撃たれたそれはオルタナティブに向けられていた。こちらもスーパースキュラほどでないにせよ、下手なモビルスーツは消し飛ぶシロモノだ。かわしきれない。機体を左右上下に移動しても致命傷は免れない。ゆえに……カタナは
「カタナさんっ!」
当然、直撃。ビームをもろに浴びている光景がリクの視界で繰り広げられていた。が――
その実ソードメイスを盾に防いでいた。強度を極限まで上げたその得物はビームをせき止め切っていたがコックピット内ではアラートが喧しく鳴っていた。
【レフトアームステータス:異常】
【機体温度上昇中】
「ガタガタうるせぇ……こんなもんじゃないだろ……オルタナティブ……!」
警告メッセージを跳ね除け、カタナはコンソールに手を伸ばす。最早猶予はない、加えてこのデストロイの火力を鑑みれば最早間に合う気がしない。時計をちらりと見ると既に残った時間は3分だった。それがカタナを焦らせ、画面を叩く指の動きを早めた。
「各部リミッター解除――オーバードライブ」
【
淡々としたメッセージとは裏腹にオルタナティブの装甲には変化が起きていた。
頭部のV字のブレードアンテナからビームが放出され、フレーム部分が紅に輝き、グリーンに光っていたハズのツインアイが紅色に書き換わる。そしてレフトアームが限界を迎え、ショート。ぶらりと垂れ下がり鉄屑と化すと同時にビームも収まった。
そして、残ったライトアームでソードメイスを持ちそのままウイングバインダーからこれまで以上の青白い火を噴かせた。
ツインアイの紅い残光を放ちながら高速で突撃し、そのまま再射しようとしていたデストロイの口にソードメイスを突き刺した。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ! しゃらァッ!!!」
そして力任せに掻っ捌いた。血と肉片代わりに機械片が飛び散る。
一方でダブルオーダイバーエースは下から、GNダイバーソードでデストロイの足回りを切り刻む。その切れ味はデストロイの足回りにダメージを与えるには充分過ぎるものだった。そして一頻りダメージを与えた所でリクはオルタナティブの変化に気付いた。
「トランザム……? いや、違う――これは一体」
「奥の手だ」
と、カタナは短く答えた。
STAGE23 Limit Over
デストロイの頭部を破壊したオルタナティブはソードメイスを背中にマウントしてから千子村正を引き抜き、スーパースキュラに射角を合せないように距離を取り、同じく距離を取り得物を構え直したダブルオーダイバーエースと隣りに浮遊していた。
そして――
両者共に胸部のコックピット目掛けて突貫をかける。迎撃しようと射角を調整しながらスーパースキュラの発射装置から光が出るがもう遅い。
トランスフェイズシフト装甲を貫通し叩き込まれた千子村正、そしてGNダイバーソード。更に追い打ちをかけるようにダブルオーダイバーエースは両腰にマウントしていたスーパーGNソードⅡを突き刺した。
――残り時間、10秒。
「壊れろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
千子村正の刃を上に返し、機体を上昇させる。
その刃はデストロイの装甲を大きく裂き、逆にダブルオーダイバーエースはスーパーGNソードⅡを地上目掛けて裂く。
更に遠方から一筋のビームが何発もデストロイの装甲を焼いた。
「――ゼータ!?」
既にあの巨大な腕を撃墜したゼータがビームライフルで狙撃をかけ、2機が作った傷口を狙い撃ちにして再生を防いでいる。その執拗かつ的確な狙撃はデストロイの抵抗を完全に封じ込めていた。
あの短時間でかつビーム兵器だけであのロケットパンチを叩き落としたのか。機動力と狙撃能力が合わさった結果いともたやすく撃墜を決めてしまうその力にカタナは舌を巻いた。
――マジかよ……
機体の脳とも言えるコックピットは既に潰されている。そしてそれを支える機体も大きく破損しており最早存在を保持することは難しい状態だ。
巨躯はぐらりと緩慢に膝をつき、次に漆黒の装甲は爆発、炎上した。
病原体は破壊した。もうこれで終わったんだ。
気付けば既に残り時間は突破している。
しかし、間に合ったのには間違いない。事実、目に見える勢いで進んでいた世界の崩壊は止まっている。カドマツの声が通信機のスピーカー越しに聴こえるものの、緊張の糸が切れてしまったお陰で異国の言葉のように聴こえる。カタナは放心状態でコックピットシートに凭れ、オルタナティブも――
【オーバーヒート、オーバーヒート、オーバーヒート、各部機能停止、緊急冷却モードに移行します】
アラート音をかき鳴らしながら機能停止の旨を伝えるや否や、アラートはパタリと止み、メインシステムの機能を停止させ――墜ちた。
◆◆◆
『余計なことをしてくれたな』
通信を投げた途端に《あの男》の責め立てるような言葉がアヤメの耳朶を打った。だがしかし、そんなことは些末な問題だ。ブレイクデカールがあのような力を持っていたということを一つも聞かされていなかった事の方がアヤメにとっては一番の問題だった。
ガイアガンダムからデストロイへの変態、崩壊するべアッガイランド。どれをとっても常軌を逸したものだ。
アヤメは零丸のコックピットから見える半壊したべアッガイランドを一瞥してから続けた。
「そんなことはどうだっていいわ。あの力、これまでになかったハズよね」
『あぁ、アレか……ブレイクデカールの強化が進んで少しばかりテストをしたのさ。結局あの傭兵のエピオンとはくらべものにならねェ程の力を発揮してくれた』
そうか、あれもあの男の思惑通りだったのか。
が、アヤメの中で少しばかり腑に落ちるものと腑に落ちないものが半々に生まれた。これが思惑通りだというのならこのGBNを崩壊寸前にまで追い込むのも狙いのうちに入っている……そういうことか。
「貴方の狙いは何なの」
『お前が知る必要は無い。
あしらわれた。おそらくこれ以上詮索しても同じ答えだ。
「ならあの判断も――パイロットを外に出した判断もクライアントを護ることにあたるわね」
「チッ……言ってろ」
捨て台詞と共に一方的に通信を切られ、アヤメはため息交じりにコックピットの壁に凭れた。
ブレイクデカールがただのチートツールじゃないことは薄々気付いていた。そこから目を背け続けた結果がこれだ。とはいえど、ここで止まれば一体何のためにあの男と
黙ってこのまま前に進み続けろ、疑問は挟むな。
膝をきつく抱え、掴んだ自分の腕に指が深く食い込んだ。
「イズミ君」
イズミ君なら、イズミ君だったらどうするんだろう? こんなわたしを怒るのかな。
縋るようにアヤメの脳裏に、気だるげにマガジンを読む青年の姿が浮かぶ。けれどもアヤメの――否、アヤの中のカナタが自分が求めているような答えを出してはくれなかった。
アヤさんもストレスで病んできたし、カタナも大人の事情に振り回され始めて参りました。
殺伐とするGBNと、当然ろくでもない現実世界。
本当は殺伐とした今から、皆は逃げたかったからGBNに行ったのに今やどっこいの状態です。
いや――もう最初からGBNとリアルの境目なんてなかったのかも知れません……
オルタナティブの真の力ですが、弱点は見ての通り機体の熱量上昇で稼働時間が極端に短くなる点につきます。どこの壊れた刃か革命機だか。
機体の熱暴走と安全性を引き換えに、機体の限界以上の力を発揮するという諸刃の剣。
よってそうそう使うことはありません。機能停止後冷却モードに入るので長時間身動き取れなくなった所で反撃も出来ませんし……
今回はメテオジャケット装備でリミット解除を発動したので、
正式名称は「ガンダムアストレイ・オルタナティブ・メテオジャケット・オーバードライブ」
うん、長いや(直球)
次回STAGE24『此処じゃない何処かへ』