STAGE18話の続き要素も含んでいるので読み比べながらどうぞ。
「は? 何だ、お前――」
ソードマンは呆気に取られ、目の前にいる蒼いアストレイにソードメイスの切っ先を向けた。おそらくは苦し紛れの威嚇だ。しかし蒼いアストレイ乗りは焦る素振りは一切見せなかった。
「だから言ってるんだ。僕と戦ってくれって」
「――いいぜ、後悔させてやらァッ!」
オルタナティブは地面を蹴り、蒼いアストレイに迫る。
速度は違法強化しているお陰で尋常ではない。対する蒼いアストレイもまた地面を蹴った。
瞬間にゴーシュの眼前から機体が消え失せた。違う――消えたんじゃない。眼にも止まらぬ速度でオルタナティブを刺し貫いたのだ。
「なん……だとッ」
ソードマンの息が詰まるような声がオルタナティブの装甲越しから伝わって来る。
いともたやすくソードメイスを持っていた右肩を突かれたのだ、出鼻をくじかれたに等しい状況で焦らないはずがない。
もちろん、オルタナティブも反撃にでようとその刀身を掴んだ。
「ヘッ、これでこの得物は使えまい」
引き抜こうとすると、オルタナティブの法外な出力がそれを阻み一ミリも刀身は動かなかった。戦術としてはかしこいと言える。見ているゴーシュも自分がソードマンと同じ条件下なら同じことをやっている。――がその見通しは甘かったことを間もなくして思い知ることになる。
ガチャン、と何か金属の留め具が外れたかのような重い音がした。
気付けば蒼いアストレイはオルタナティブに蹴り剥がしていた。これで手に持った得物はロストした、刺突剣は柄だけしか残っておらず、肝心の刀身はオルタナティブの手に納められている。
刀身の無い剣なぞただの
「ハハッ……刀身が抜けるなんてとんだヌケサクな得物だな」
蹴り飛ばされ、吹っ飛んだオルタナティブはなんとかスラスターで慣性を相殺させ現状に勝ち誇る。そして右肩部に刺さった刀身を引き抜こうとした次の瞬間――
「――爆ぜろ」
蒼いアストレイの青年の声がディオキアの街並みに響いた。
まさか――とゴーシュは肩部に刺さったそれにゼータの頭部カメラを向けると、予想通りそれは爆発した。
「バーストサーベル。実体刺突型サーベルとしては並だが、こいつの真価は刀身に隠された爆薬にある。外した数秒後――爆発するんだ」
爆煙が肩から立ち込め、よろりとよろめくオルタナティブ。完全に蒼いアストレイの方が押しているように見えた。
「――威力はあまり期待はできないが。剣戟で暴発しちゃシャレにならないからね」
「ふざけているのか……!」
「ふざけているのはどちらだろうね。女の子をいたぶり悦に浸る――随分と下衆な趣味をお持ちのようだ」
ソードマンを挑発しながら蒼いアストレイは刀身を失ったバーストサーベルの柄を腰に装備されたアーマーにまるでサムライが剣を鞘に納めるように近付けた。
すると、腰のアーマーがスライドし失われたはずのサーベルの刀身が復活していた。
引き抜いたそれの切っ先をオルタナティブに向ける。
「もう一度味わってみるかい?」
「断ると言ったら?」
「望み通り、別のものにするだけさ」
「舐めるなッ!」
再び斬りかかるソードマン。
いつもの彼ならば、きっと変則的な動きをするか相手の想定外の行動を取る。が、今回は違った。直線的であまりにもお粗末な詰め寄り方。
――冷静さを欠いているのか?
基本的に奴は口こそ良くないが、冷静な対応を取る。
同じアストレイ乗りが故に対抗意識でも燃やしているとでもいうのか。それとも――
ソードマンの攻撃をバーストサーベルでいなしていく。完全にソードマンは弄ばれていた。
まるで霞でも斬っているようだ。振るわれた一撃はことごとく受け流されるか、完全に回避されるだけ。スピードも相当だ。
「取ったァ!」
「ムッ!?」
ガィン! と、金属が弾ける音がした。
蒼いアストレイの手元からバーストサーベルが消えていた。――空を見上げると太陽光を反射しながら細身の刃がクルクルと回転しながら宙を舞っている。
――拙い!
ゴーシュは咄嗟にゼータを跳躍させた。そして地上で勝ち誇るオルタナティブを見下ろす。
「当たれよッ!!」
ビームライフルの照準が合わさった瞬間にトリガーを引いた。ビームは連続でオルタナティブの装甲に命中し表面を焦がした。
「コイツ、ビームコーティングを装備しているのかッ!」
弾ける光芒は僅かにジンバージャケットを焦がすだけ。これではオルタナティブの攻撃は止められない。近接戦闘に持ち込みビームサーベルで直接焼き斬るか、グレネードランチャーで直接ダメージを与えるか――だがもう接近と着弾までの時間を考慮すると最早手遅れだ。
「無駄だッ!! 得物は消えた、潰れちまえ!」
無情にも振り下ろされる鉄塊。
ゴーシュは目を見開き、眼前で起ころうとしている暴虐を目の当たりにする――はずだった。
「――それはどうかな」
青年の声が響く。
そして――
ソードメイスの刀身が蒼いアストレイの頭部ギリギリのところで静止した。
そんな馬鹿な、相手の肩を持つつもりじゃないが、もう少しでトドメを刺せるところだっただろう。目を疑うような光景と共に何か――雀や燕の鳴き声が聴こえた。
違う、これは――
蒼いアストレイのライトアームがオルタナティブの腹部に伸びていた。真っ直ぐに――掌からは紫電が奔っている。鳥のような音はこの紫電からだ。
「何を……した」
ソードマンが問いかける。
オルタナティブの動きは少し覚束なく、まるで錆の入ったブリキ人形のように2歩進んで1歩下がるようなバグった挙動で蒼いアストレイを振り払おうと膝蹴りを放った。
が、そんな隙だらけの一撃が届く訳もなく、放ちっぱなしの掌底を更に一押し。膝蹴りが当たるよりも先にオルタナティブの方が先に吹っ飛んだ。力量差というものを嫌と言う程痛感させられる光景にソードマンが吠えた。
「何をしたァァァァァァァァッ!!!」
「――雷迅掌。
STAGE26
蒼の亡霊
◆◆◆◆
ナユタのお墓参りも終えて、古鉄やにそのまま帰る事にした。
戸を無造作に開け「入りな」と目くばせするカナタを横目にアヤは店の暖簾を片手で持ち上げる。こうしてくぐるのも慣れてしまったものだ。億劫さを感じていたしばらく前が嘘のようだ。
少し前の自分がこんな光景を見たらどう思うのやら。安堵するのやら、驚くのやら。
「……あ」
埃混じりの匂いと、薄暗い空間。所狭しと並ぶジャンク品の数々――そんないつもの光景に先客が居た。
ワイシャツの上に白衣、無精髭を生やした男が応接テーブルにて一人お茶を啜っている。きょろきょろと店内を見渡すとお留守番していた筈の店長の姿はない。となれば誰も居ない状況で待ちぼうけを喰らっているということになる。まぁ、お茶は出したようだが。
「お待たせしてすみません今すぐに――」
慌てて、お会計テーブルの裏側に駆けエプロンを身に付けながら客の席の向かいに立つと、男は「あぁ、別に買い取りも売りにも来ちゃいないんだ」と首を横に振った。
そして少し遅れて店内に入ったカナタに男は呆れたような目で声を掛けた。
「坊主、ようやく戻ってきたか。携帯でも忘れたか?」
男の台詞にカナタはおもむろにスマホを取り出すとそこには着信履歴に「カドマツさん」と表示されていた。それも2件分だ。
「あっ」
やべっ、と一瞬カナタがたじろいだように見えた。
歩いていると着信に気付きにくいのはアヤとしても分からんでもないので同情した。
「知り合い?」
白衣を着た無精髭の男、見るからに不摂生してそうなその出で立ちはマッド・サイエンティストの香りがする。
失礼ながらその辺の街で普通に生きていそうなカナタとはまるで無縁そうな男と話すその姿は少し新鮮で、何故か寂しい気がした。
自分がまだ知らない顔をカナタは持っている。
――何を焦ってるんだろうか、わたし。
その焦燥は冷静になってみれば、バカバカしいものなのに。誰だってそうだ、何もかも知っている人間など知られている人間からしたら気持ち悪いだけだ。
誰もが仮面を被って生きている。そんなことは当たり前だ。
GBNとしての顔だって仮面の一つなんだ。カナタだってわたしのやっていることを知らないし、わたしもカナタがどんなダイバーかも知らないのだ。
そんなことは理解している。
だとしても寂しいと思ってしまうのは、どうしようもないことなんだろうか。
妙な気持ちになりながらもカナタの話に耳を傾けた。
「あぁ。カドマツさんだ、さっき話してた兄貴のいたGPDの日本のチーム……スポンサーのオブザーバーでな」
「ナユタさんの?」
「ハイム・ソフトウェアっつーGBNのプログラム関連を請け負った会社の人間だ」
語るカナタにカドマツは何故か目を丸くしていた。一体何かおかしなことを自分はしてしまったのだろうか、とアヤは咄嗟に佇まいを正す。
が、それでもなお態度は変わらないまま。
よく見るとカドマツの視線はカナタの方とアヤの方、両方を交互に見ていた。それはもうまじまじと。
次はゲスな勘繰りでも来るかと少しばかり身構えたが結局は飛んでは来なかった。
「……カドマツだ。今はしがないソフト屋だ」
とだけ……
「フジサワさんもちと座ってな、あんなクソほど遠い墓で疲れたろ。麦茶でいいよな? 茶ァ出して来る」
「うん」
そそくさと裏に早足で向かうカナタを他所にアヤは言われるがままにカドマツの向かいの席に腰掛けた。墓参りに至り帰るまで女子高生に要求する距離が少しばかりハードだったお陰で、思い出したかのように全身から疲れという疲れがドッと吹き出た。
ついて来たことに対しては後悔は無い。けれども疲れと言う事実には嘘はつけない。カナタの姿が見えなくなったのもあって気兼ねなく脱力できた。
そんな中、カドマツは少し考え込むような表情で
「まさか、誰かと一緒に墓参りに行こうなんてな……」
「珍しいんですか? そういうこと」
「あぁ。大体一人で行くんだ、アイツは。手伝おう、と何度か申し出たこともあったが「大丈夫、一人で行けます」ってな。あと基本距離がクソほど遠いしクローズしたままも良くないから婆さんは連れて行かないしな」
恐い、というのは嘘だったのか。
それにしたって古い知人を跳ね除けて一人だけで墓参りに行くなんて相当に堪えているのか。
「その様子だと、カナタの奴あらかた喋ったんだろう? イズミ・ナユタのことも」
「……はい」
「珍しいこともあったもんだな」
そう言ってから湯呑に残ったお茶をひと呷り。空になったそれをことんと置く。置いたタイミングを見計らってアヤは口を開いた。
「ナユタさんってどんな人だったんですか」
カナタをそうさせてしまうだけの人間だったのだろうと推測はつく。けれども、所詮憶測は憶測。知っている人間の口から聞きたかった。
それでも拒否られそうな気がしたが、カドマツは少し考え込んでから答えてくれた。
「あぁ……まぁ面倒見がいいというか、世話焼きな奴だったよ。本人は必死で否定していたが」
「面倒見?」
「あぁ。ガンプラにしか興味が無い連中のフォローをしたり、やりたくても良くわからない人のために
また知っている人間の名前だ。シバはたしかコウイチが誘おうとしたGPD世代の一人。なるほど、そう言う形での繋がりなのか。とちょっと納得した。
「坊主……カナタの奴は元々それほどガンプラに興味があったわけじゃなく、どっちかというとジャンク品弄り専門だったからな。爺さん婆さんが持ち込む壊れたラジオを直したりはしていたが……まぁ、GPDやっていて楽しそうにやっている奴らに当てられたんだろうな」
「お兄さん譲りだったんですね」
「あぁ。相当影響されている部分もあったろうさ。けれども……」
数年前、ナユタは死んだ。
アヤもテレビで見たので知っている、凄惨な無差別テロ事件に巻き込まれて同伴した両親共々その命を落としたんだと。――理不尽かつ無縁な悪意に晒されたその絶望感は名状しがたいものだっただろう。
それからおそらく祖母が引き取って今に至っているのだろう。
「……おん? 何話してんだ?」
ひとしきり話したところで裏からカナタが出て来た。手には木製のお盆と良く冷えた麦茶の入ったグラス。カドマツは「まぁ、世間話だ」と切り返してから空の湯呑と引き換えに新しい麦茶を受け取った。
アヤも同じく麦茶を受け取り、ひと呷りする。
氷でよく冷やされた麦茶が喉を通り、身体の芯まで冷やす。
夏の始まりももう近い。
アヤはぼんやりと窓の外の光景を一瞥する。どんよりとした薄暗い昼の街が視界に広がっていた……
◆◆◆◆
カドマツという男は元々、ソフト屋でありガンプラバトルにあまり縁のない男である。
彼の所属するハイム・ソフトウェアはGBNの開発をやる以前はGPDの日本代表選手の支援も行っていた。とはいえ、GBNの開発が進めば進むほどGPD関連の事業は縮小化していく一方だった。
何せGPDに対する世間的イメージは最悪と言ってもいいほどだった。
ガンプラが壊れる。その性質を悪用し望まない戦闘を強いられ、手塩に掛けたガンプラを破壊される。そう言った動画をSNSに上げたり、倒した相手のガンプラを奪うなどといった迷惑行為が横行していたという事実もあった。
幸いナユタやシバはその手のものを唾棄しており、二人は互いに反目しながらその手の連中を叩きのめし回っていたのはまた別のお話だ。
話を戻そう。
GBNのスポンサー側もGPDをさっさと終了させたい一心だった。イメージの悪いものをずるずると続けるより、新しいもので荒稼ぎした方がいいという上層部の判断のもとで縮小化される選手への支援。
で、カドマツに白羽の矢が立った。
――なんで俺なんだ。
いや冗談抜きで。事実、SDガンダムは好きだしGPDのシミュレーションステージを我流で構築したりこそするが自分でバトルすることはなかった。そもそも前任のオブザーバーが全ての事を運ぶ予定だったのだ。
だが、元々ハイム・ソフトウェアが担ぎ上げようとしたとある選手が想定以上にダメダメで負けたら当たり散らすあまり、前任のオブザーバーが音をあげてしまった。
そして万年人手不足のわが社の事情もあって結局、丁度GBNの担当部分が一段落したカドマツに押し付けられる羽目になったわけである。
最初こそ冗談じゃない、他の奴に変えてくれと抗議もしたが当然叶うこともなく新しい選手として、とある選手を叩きのめしたナユタに目を付けることになった。
一応仕事は果たすつもりで援助にまで漕ぎつけた。ある程度行ってある程度のところでダウンするだろうと最初こそタカを括っていたがナユタという男は想定以上に粘った。というか、町内の連中のほとんどを圧殺していた。
これはまさかのダークホースか。
尋常ではない強さで他の選手を叩きのめす一方で、もう一人同様に圧倒的力を示す男が1人いた。
名前はシバ・ツカサ。ナユタと同じガンダムアストレイを操る者だった。
イズミ・ナユタと言う男は物腰柔らかであったが、シバという男にはやたら敵愾心を燃やしていた。そしてこの大会に参加した理由もお互い世界に上がって大舞台で叩きのめすという約束のためだという。
すべては「俺がアストレイを一番巧く使えるんだ」と世界を中心で叫ぶがために。
そんな事情を聞いてしまった。そして応援する弟のカナタや家族の姿を見てしまったがゆえに、最後まで見届けようとも思った。
そこには個人的な趣味もある。この2名が世界を舞台にぶつかり合う姿が見たい。その時のカドマツは心底そう思っていた。だからこそGBNの開発のことは一度忘れ、全力で戦える環境を整えることに心血を注いだ。
多分、この大会でハイムソフトウェアがGPDに携わるのは最後になるだろうから……
知っての通りそれが叶うより先にナユタは殺されてしまった。
当時カドマツはイズミ夫妻やナユタと一緒に渡米し、大会に出場していた。そしてある程度試合に勝ち残り、一度ホテルに帰ろうとした矢先、テロに巻き込まれたのだという。
何故伝聞系か? それはカドマツには仕事の報告業務も課せられており、イズミ家とは一歩遅れて帰途についたからだ。
一歩遅れたことで難を逃れてしまった。
追いついた先は、道行く人がすれ違うオフィス街だった場所。そこには誰かのすすり泣く声と、物が焼け、小爆発を起こす音。そして無数に転がる命だったもの――その時のカドマツは眼前の現実が信じられずにいた。
地獄を体現したような光景が広がってる。
そして信じられずにイズミ夫妻やナユタに電話をしても連絡はつかず。
辺りを歩き回ればそこには――イズミ夫妻とナユタの死体がまるでゴミのように転がされていた。
それからの出来事は正直カドマツも覚えていない。
トントン拍子で事情聴取を終えて本社から帰宅を命じられた。さっきまで喋っていた人間が死んだ事実をようやっと認識できたのは葬式に参列し、まるで死人のような目で棺を見ていたカナタを見てからだ。
「……助かったんですね」
久々に帰って放たれた第一声がそれだった。
それは厭味や恨み節というにはあまりにも無機質であった。渡米するタイミングでインフルエンザに罹って祖母のもとで過ごしていたので難を逃れた……生き残り。
――坊主の家族は俺が殺したも同然じゃないか。
テキトーな支援をして国内に留めて置けば良かったんだ。そうすれば死なずに済んだのだ。
俺が変な欲を出したからこうなってしまった。
「すまん……」
「なんで謝るんです」
「俺が殺したも同然だ……君の家族を」
「冗談でもそんなことほざかないでください。……殴りますよ」
一番気を使われるべき人間に自分は気を使われている。その事実がただただ大人として情けなかった。
それからというもの、カナタの様子は祖母づてに聞いていた。祖母もまた、責められるべき自分を責めることはなかった。あまりにも優し過ぎる家族だった。
だからこそ、何かしらのカタチで贖罪がしたかった。
だがカナタの様子はあまり芳しくなく、あれだけ好きだったガンプラを虚ろな目で組み続け、GPDもやらず。いつも通っていたガンプラバカの集うプレハブ小屋にも行かなくなっていた。……というよりあのプレハブ小屋のメンバーはあの事件から活動が沈静化してしまっていたのでそもそも行っても誰もいないなんてことがざらだったという。
このままだと本当に後追いでもしてしまうんじゃないかと言う程に憔悴していた。
ガンプラバトル・ネクサスオンラインのβ版。
当初公募制でβテスターを募り、当選者にポータブル型の筐体を販売、提供していた。
GPDの大会なぞ目では無いほどに話題となっており、カナタも家族を失う前に応募こそしていたが落選していた。その事実を知っていたカドマツはハイム・ソフトウェアに懇願し、コネで手に入れた。
事実として企業側としても原因はなんであれ死人をだしてしまったことに対しての負い目もあったのだろう。案外すんなりと通ってしまった。
最初こそ却下されると思っていたものをあっさりと手に入れてしまったことに肩透かしを食らいながらGBNを遊ぶのに必要なポータブル型の筐体をカナタに与えた。
これで少し元気にでもなれればそれはそれでいいと思っていた。
それからというもの、カナタは何かに憑りつかれたようにβテストを遊び始めた。
GPDのノウハウを活かし、テスト用のステージを失敗しては挑戦を繰り返し、最終的には全クリアにまで至っていく。
一心不乱に遊ぶその姿に、最初こそ安心した。――だが今思えば悪手でもあったのかもしれない。
あれから数年後、カナタはソードマンとしてマスダイバーを狩り、結果的に悪党としての誹りを受け続けることになろうとは。その時は思いもしなかった。
だが、今のカドマツにはカナタを止めることは出来なかった。止めようならきっとカナタはあのころの死人のような姿に戻ってしまう。
GBNを遊び、GBNを護ること。それが今のカナタをカナタ足らしめているのだとしたら――
カナタを救う手立ては最早ないのだろう。
だがフジサワ・アヤなる少女が状況に穴を開けるか。それとも――
――他人頼みも大概だなクソッタレ
大人の事情に子供を巻き込ませ、後始末まで子供にやらせようとしている。俺が子供の頃憧れた大人たちの隣にきっと立てていやしないのだ。
けれども、だとしてもここで諦めてカナタが潰れていくのを静観しているようなクソ野郎にもなりたくはない。
――だから、抗ってみよう。俺なりに。
どこまで出来るか分からないけれども。
束縛強めのアヤさん。
ガンブレ3の時のように巧く子供たちをサポート出来ずにボロボロになるカドマツさん。そして……
カドマツについてですが、ガンダムブレイカー3に登場している人物がモデルになっているキャラです。
原作だとハイム・ロボティクスに勤務していましたが本作品においてはハイム・ソフトウェアになっています。
善意でやったことが裏目に出て最悪の展開になるのはよくあること。けれどもそれを無かったことには、嘘になんか出来ないし、最悪の展開に直面しても逃げるか抗うしかないし、どんなにひどい出来事に苛まれて現実逃避しようが明日はやってくる。
それでも生きていくしかない。終わりが来るまでは。
次回Build Divers ASTRAY
STAGE27「運命」