BUILD DIVERS ASTRAY   作:ヌオー来訪者

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リライズがついにタガが外れたので初投稿です。

お前重いんだよ!(展開)


STAGE28 運命Ⅱ

「シュウゴさん。これは一体何なんですか?」

 

 いずれこうなるとは思っていた。ここまで早いとは思わなかったが。

 眼前の机上に晒されたのはスマホに表示された写真。いつものガンプラ屋に立ち寄る様子が映し出されていた。

 そしてそれを乱雑に叩きつける母は大変ご立腹のようで、シュウゴはまるで他人事のように虚無的な表情でそれを見ていた。

 

 

「最近お友達から貴方の様子がおかしいと教えてくれて、お写真までとってくれて……何故よりにもよってこんなものを……!」

 

 ヒステリー気味の声がリビングによく響く。

 お友達というのはおそらくクサカベのことだ。別に友達になった覚えはないがあちらからしたら友達のつもりなのだろう。

 盗撮した挙句他人に勝手に見せるようなやつを友達と呼ぶのも真っ平御免だが。

 

「こんな町の治安を悪くしたようなものを……」

 

 少し前ガンプラバトルが問題になった時期があったとは小耳に挟んだことはある。おそらくはそのことを言っている。あの頃よりは多少マシになったとは聞くが理解する気が無い人間からしたら全く関係のない話だ。

 

「噂される私の身にもなりなさい……ッ!」

 

 沈静化というより問題のステージが現実から仮想現実に変わっただけだが、少なくとも現実世界では最早無いに等しいと言われていようが無駄なことだ。この女は理解できないものには異常なまでにアレルギーを持っている。どんなに言葉を尽くしたって徒労に終わる。

 歯をくいしばるような物言いはシュウゴへの苛立ちというものをありありと感じさせた。

 

「私の身、か……」

 

 ふと口から溢れ出る。

 自分がGBNをやっていようがこの女の性分が変わることなんてない。そして、乾いた音が室内に響いた。

 片頰にじわりと熱を帯びていく。平手で殴ったんだ。

 

「口答えはやめなさい……! 成績の低下を招き、貴方の為を思って言ってるのよ! 私何か間違ったこと言ってるかしら⁉︎」

 

 欺瞞だ。何が思いやりだ。何が貴方の為だ。何が母親だ。

 シュウゴは濁った目で喚き散らす母親のようなナニカを見ていた。

 

 

 ◆◆◆◆

 

 シノハラ・シュウゴという少年は元々裕福な母親と、婿入りした少し変わった技術者の父親の間に生まれた。

 

 母親は勤勉で、学生時代常に首席を保ち続けたと本人は鼻高々に語り、事実として現在でも住宅街で子供を持つ母親の取りまとめを行なっていたり、まぁリーダーの気質はあったのだろう。

 その昔新規開拓された住宅街だったため、母親はその古株で新しく住む人にシンセツにしているという話はよく聞いている。

 

 常に他者への参考となるよう、振る舞っていたし周囲のウケも元から良かった。

 ここまで見れば素晴らしい人物にしか見えないし周囲の認識もそうだった。

 

 対する父親は、仕事熱心であり自身の興味のあること以外は無頓着な。悪く言って仕舞えば仕事人間だった。

 正直、彼の顔を見てもピンと来ない程には幼少期での印象は薄い。そんな人だ。

 

 

 どうして結婚したのか多少歳をとった今でもわからない。

 父はいないに等しい中、女手一つでシュウゴは育て上げられた。

 そこでのしかかった負担というものは想像を絶するものであっただろう。たった一人で子供を育てるということは口にして仕舞えば容易いが現実は違う。

 

 故に母には感謝すべきなのだろう。

 だが、それが出来ない理由があった。

 

 物心がついた時にはもう手には玩具ではなく鉛筆を持っていた。小学生の頃まではそれが普通だと思っていたし、学校が終われば算盤塾、学習塾、スイミングスクール、英語塾、カラテ、ピアノ。

 ありとあらゆるものが組み立てられ、原則としてその年齢に合う遊びなど許されはしなかった。

 

 当初こそ、それが当たり前だと思っていた。

 そんな中で学校での休憩時間が唯一の娯楽だった。その時間こそがなにもかも忘れて遊びに没頭出来た。

 

 塾とかそういうもの抜きで何も考えず好きに出来ることがどれだけ快適だったか。点数が絡むとまず1点でもミスれば数時間説教からの飯抜きや外で寝食する羽目になることを思えばまぁ、気にしないでいい事実はシュウゴの肩の荷を軽くさせるにはもってこいだった。けれども、友達とドッジボールをしたとある午後。悲劇は起こった。

 運が悪かったか、習い事の疲れで反応が鈍っていたのだろう。投げたボールが頭にぶつかりその衝撃で派手にコケた。

 今でも覚えている。不意に頭の側面から疾る強烈な衝撃と、地面に膝を擦ったあの痛み。

 

 シュウゴはこの程度で別に気にしてはいなかった。なにせ歩いて転んだ事は何度もある。それに投げた側も悪気は無かったのだと、直後自分を心配する投げた少女の姿。

 

 大丈夫!? とひどく慌てていたのはよく憶えている。

 ここで保健室で消毒止血。それでお仕舞いだと思っていた。が、その見積もりは甘かったことをこの身をもって思い知らされることになる。

 

 で、──家に帰った途端酷く怒られた。怒られた内容はこうだ、何故学問に不要なことをしたのか、何故何の足しにもならないようなことをするのか。その行為は未来に繋がる何かがあるのか。数時間詰められた後、家から叩き出され飯抜きで一夜を過ごした。

 そのぶつけた少女の姿はあれからその学校には姿を見せなかった。

 そして数ヶ月後。先生は言ったのだ。

「みんなに悲しい報せがある。◼︎◼︎ちゃんが両親の事情で転校した」と。

 単にタイミングが悪すぎたのだろう、と切り捨てるほどシュウゴも愚かではなかった。

 なにせ帰り道少女の家は一軒家でまだ新しいものだった。だというのにそれがあっという間に引き払われていて近くの大人たちのひそひそ話が耳に入った。

 

「◼︎◼︎さんとこまだ家のローンが残ってたっていうのに引き払ったんですって……」

「引っ越し先てもこれからもずっと払ってくのでしょ? もう家は買えないでしょうねえ」

 

 家を買うには莫大な資金が必要だ。年頃の子供らしからぬ(さか)しさを持つシュウゴは母親が何かしたに違いない、そんな気がしていた。

 

 

 ある日を境にシュウゴは体調を崩してしまった。小学5年生の頃だったか。

 そもそも普通の子供が耐えられるようなスケジュールではなかったがゆえ、そして一般的には虐待と類推されるものに幼い体が悲鳴をあげていたのだ。加えて中学受験というものも控えていたというダブルパンチだ。ダウンするのも時間の問題だった。けれどもここで止まってしまえば自分がどうなるかという漠然とした不安もあった。

 

 所詮賢しかろうと小学生が親から逃げることなど到底無理な話なのだ。……理不尽だろうが耐え凌ぐことを強いられる。

 高熱が収まらないし、全身から奔る悪寒も止まらない。けれどもそうやって苦しんでいると母親の冷たい目線が刺さるのだ。

 私は大変なのにお前はそうやって風邪で寝込めるんだからいい気なものだ、と。その時の母親は普段以上に苛々していた。その要因は自分の他にもあった。

 

 叔父が来ていた。

 母の兄にあたるらしい。常々母は彼を毛嫌いしており、元々この家を継ぐのは彼だったらしい。

 一階から口論している声が聴こえたお陰でその関係性に説得力を持たせた。

 

 

「姉さん。あんたなんでこうなるまで放って置いたんだよ! えぇ!?」

「シノハラ家の跡取りを放棄した貴方の言う事っ!」

「それとこれとは話が別だろうが。人としてやって良い事かよ⁉︎ 違うだろッ! ガキがやって然るべき遊びもさせずあいつをどうしたいんだ!」

「ひとの苦労を知らずにいけしゃあしゃあと……貴方は!」

 

 聞いていて居たたまれなくなりそうな会話を聞いていると、ふとした拍子に「もういい」と叔父が切り上げパタリと止んだ。

 

 

 それからというもの、シュウゴは一度叔父に一度病院に通いながらしばらく世話になった。

 半ば無理やり連れ出される形だったので最初こそ困惑していた。とは言えど叔父の家に行ってからあっという間に快復してしまった。

 

 加えて叔父やその奥さんである叔母に良くしてもらえたのもあったのだろう。

 そして自分はこれまで普通のところにいなかったのだという事実を再確認させられた。

 自分の周囲はきっとこんな風に家族と過ごしているんだって。

 

 短い間だったが、仕事もあっただろうに自分の遊び相手になってくれた叔父や叔母にはシュウゴは感謝した。少なくともあの殺伐とした家に居ずに済んだし、強制もされなかった。かかるストレスが薄らいだところ、間もなくして結局家に連れ戻された。

 推測ではあるけれども、恐らく弁護士か裁判かなにかをちらつかされたのだろう。加えて叔父や叔母はそこまで裕福ではなかったのでまぁまず抵抗は無駄だ。叔母の「ごめんなさい」と泣きながら謝るその姿は忘れちゃいない。

 実の母に対する反感を秘めながら実家に戻る。

 恐らくあの後叔父や叔母の世話になっても実母の手は伸びるのだ。

 

 ああ、そうだ。

 結局逃げられないのだ。

 実家に帰ると流石にこれまでやってきた習い事はほとんどドクターストップ(不思議なことに医者には逆らえないらしい)込みで辞めさせられ、学習塾だけとなったこれでようやくある程度勉強する側のレベル程度には落とせたのだろう。

 しかし母は依然として同性異性いずれの交流を良しとしなかった。

 

 それからというもの偏差値高めの中学に上がり、そこでイズミ・カナタという男に出会った。

 そいつは母から言わせれば病原菌のような存在だったのだろう、周りの人間にダル絡みし、ガンプラの話をする。

 この男一人のお陰でどれだけガンプラビルダーを誕生させたか分かりゃしない。病気が感染するように人から人に移っていく様を実際に目の当たりにしてしまった。

 

 それに認めたくないし、癪ではあるがそのカナタの餌食になった一人なのだから始末に負えない。

 

 しかもあの男は自分の些細な言動だけで叔父から与えられたゲームをやっていたことに気付きチクチク弄ってくるものだから悪質だ。

 

 

 で、結局GBNを始めてしまったのだがこれで再確認が出来た。今から逃げるにはGBNじゃ足りないと。

 逃げるは恥だが役に立つとは言うが、逃げられない奴はどうすればいい? 

 答えは簡単だ。根元を無理やり断ち切るか、もう繋がりが引きちぎれるほどにずっと遠くに行くしかない。

 GBNも叔父も逃げる先にはなり得ない。そして当然あの世もだ。

 

 まだ遠くへ。もっと遠くへ。

 それが出来ないなら諦めろ。それか、足元の幸福を見つけ、掬い上げるしかないのだ。

 

 

 シュウゴには後者という選択肢はもう、とうに喪われていた。

 ステアは……どうなんだろうか。

 

 

 足元の幸福を掬い上げられるのか。

 それとも、おれの様に遠くへ行こうとするのか。

 

 

 願わくば……

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

STAGE28 運命

 

 

 

 ソードマンの偽物。

 まぁ今まで現れなかったのが不思議なくらいである。

 元からヘイト対象であり何しても不思議じゃないという刷り込みが事前にされている現状、格好のネタだ。

 

 だが奴の情報は現状ほぼ皆無。ディオキアに現れ街を荒らしたということと、蒼いアストレイがそれを撃退したと言うことだけ。

 マスダイバーの性質上追跡は不可能だ。

 なれば、口コミをもとに他のマスダイバーを普通に狩っていくしかないだろう。

 

 

 こういう時は情報屋に頼るのが一番だ。情報のあしらい方も心得ている。カタナはディメンションの都市部の商店街に配置された喫茶店の自動ドアのスイッチを軽く叩いた。

 

「あらぁ、ご無沙汰」

 

「ごぶさたっす姐御」

 

 店内のカウンターで台を拭きながら手を振る男……じゃなくておネエさんが一人。

 フォース、アダムの林檎のリーダーのマギーだ。カタナは彼女(?)に促されるがままに拭かれた後の席についた。

 

「最近マスダイバーについて噂話とか聞いてないか?」

 

「突然ねぇ。ま、こんな事もあろうかとたーんまりメモってきたわよぉ」

 

 流石はGBN屈指の情報通だ。情報でちょっと困った時はマギーを頼るのが一番だ。あんなルートからこんなルートやそんなルートまで情報を仕入れちゃうのがマギーの凄いところである。勿論長生きしたいのならばそのあんなルートやこんなルートやそんなルートの詳細は聞かないことだ。

 

「さーっすが姐御! 頼りになるゥ!」

 

「いやぁ〜んもっと褒めてえ!」

 

 ガタイのいい優男がくねくねしながら身悶え、強請るのに対しカタナはノリノリで続けた。

 

「凄いぜ! 流石俺たちの兄貴ッッッ!」

 

「今なんか言った?」

 

「イエナニモ!」

 

 先程のオネエさん風はどこ吹く風、殺意に溢れた狂戦士(バーサーカー)めいた目で睨まれてので即撤回した。

 と、おふざけはこの辺として。

 マギーの抜け目の無さにカタナはガッツポーズする。が、報告事項は思いの外多かった。ずらりと並ぶ被害報告に思わず口元が引きつりそうだ。

 

 ひぃ、ふぅ、みぃ……数えるのも馬鹿らしくなってくる。

 

「なんか妙に多いっすね……」

 

 マギーを頼るのは久々だが、古い日の情報を抜きにしても多い。

 マスダイバーハンターが現れた時期をピックアップしても流れは変わっている様子はない。つまるところ、マスダイバーの増加速度はこれまでの比ではないほど上がっていると同義だ。

 連中の目的も大詰めなんだろうか。次にデストロイ級のマスダイバーが現れれば今度は巧くGBNを護れるかどうかは怪しい――そんな不安がカタナの肌を刺した。

 

「皆不安がってるわね。GBNがどうにかなってしまうって。事実ベアッガイランドが崩壊したって噂が広まってなおのこと……」

 

 結果的にソードマンに矛先が向いているということか。たしかに『分かりやすい悪』としては彼らの作ったソードマン像は優秀だ。

 勿論、仮に自分がいなくなってしまっても不安は依然として残ったまま。露骨な話だが、不安から目をそらす為の都合のいいサンドバッグなだけだ。

 別にそれを撲滅させるつもりは毛頭もなかった。やっても無駄だとリアルの歴史が証明している。

 

「アナタがベアッガイランドを崩壊させたって噂すら出始めてるわ」

 

「すげぇなソードマン。万能超人みてぇ」

 

 肥大化していく概念にゲラゲラ笑いながらリストを見通す。そんな中でもマギーは真剣一色で目はまったくカタナの冗談に笑っていなかった。

 

「ディオキアにアナタが現れたって話があるの。昨日のお昼頃……くらいかしらね」

 

 カタナは目を見開いた。――初耳だ。

 そもそもディオキアに訪れた事は1度くらいしかない。あるのはミーア型NPDのライブを観に行ったぐらいの思い出くらいだ。特段特別なイベントが行われないようなエリアなので名前すら久々に聞くような、そんな場所だ。

 

「……その時はログインしてないぞ、俺ァ」

 

「でしょうね。フレンドのログイン履歴にはアナタは出ていなかった……事実アナタがログアウトしてる時間帯に被害が出てるから間違いなく偽物でしょうね」

 

「……偽者にしちゃァお粗末だな」

 

 もっと巧くやれよ。と苦笑いしながら、PDAのマップを開きディオキアの部分にマーカーを打ち込んだ。そもそもフレンドを組んでいるのが協力者のビルドダイバーズと、カドマツ、クジョウ・キョウヤ、マギーくらいなのだから誰も知り得ないのだが。

 その事実から鑑みるに偽ソードマンは彼らとは無関係なのがはっきりしたので同時に安心感も覚えた。

 

「そしてその偽ソードマン、ネネコを狙っているんだそうよ」

 

「あ、知ってる。最近人気高めてる娘か……なおのこと接点あんまねェぞ……動画観てるけど」

 

 ネネコそのものはある程度GBNをお回っているので知っている。大体中級クラスのエリアで色んな先輩ダイバーの助言を受けながら攻略を進めているアイドルGtuberだ。

 動画はちょこちょこ見ている。意外と初心者ならではの着眼点とか感想が見られるのが特徴なので見てて楽しいのだ。

 

「分かりやすいの狙ったなぁ……Twitterとかで大荒れなんじゃないのか?」

 

「ご名答……これを見て」

 

 マギーがPDAでPC画面を表示させてネネコのツイートを見てカタナは渇いた笑いを浮かべた。

 

「うわーやってんなァ……」

 

 表示されたのは動画付きでソードマンに襲撃された旨のツイートだった。一方的に弄ぶように蹂躙するその様とネネコの悲痛な悲鳴が同情心を掻き立てる。

 あまりにもな戦闘に一瞬苛立ちを覚えるほどに――。

 

 マギーはリプライ欄を見るより先に画面を閉じ、口を開いた。

 

「当面は下手に動かない方がいいわ。このままだと袋叩きよ……最悪リアルの生活にだって」

 

 マギーの言う通り活動は止めた方がいいのかもしれない。今ここで動いても邪魔が入る確率が高い。だがしかし、このまま動かずに指をくわえて待っているのと、動いて邪魔を喰らいまくり粘着されてしまうのと。さぁ、どちらが良いか。

 

「……ガタガタ言われるのには慣れ切っている。それに――あの時ギガ・フロートでやりあった無銘ヤローには興味がある。何も知らんままフェードアウトする訳にもいかない」

 

 そして、ファンタズマの件も然り。

 リアルの事情が絡んでいるのでマギーには話していないが、兄の名前を騙るそれに無関心であれるかと言われれば当然NOだ。

 

「……止めても無駄、ということね」

 

「えぇ。俺は止まるつもりありませんよ、確かに少し前なら止まる選択肢はあったかもしれない。けれども、あまりにも増えすぎた。譲れないものが増えすぎた」

 

 だから戦い続けるしかない。

 あの無銘もファンタズマも、GBNを楽しむ者、楽しめなくなっていく者。色んなものを見過ぎてしまった。それに根本的なナニカがやり過ごすことをためらっている。あのインテリ野郎(シュウゴ)ももしかしたらこのGBNをやっているのかも知れない。リクたちやシュウゴから奪わせる訳にはいかない。壊させる訳にはいかない。

 そして何よりも。やめてしまえばお前はお前じゃなくなると、俺の中の俺が囁いている。

 

「それに、視てしまった。壊したくないのに壊させられてしまう子の姿を」

 

 ゲームはゲーム。

 そう切り捨てられるのであればどれだけ良かったか。このゲームはそこまで高尚なものでもないし、そうなってもならないものだ。生きているのがちょっとでも楽しいと思えるようになれるのであればそれでいい。

 そう願ってようが現実がそうホイホイと願いを叶えてくれる訳がない。

 

 現に自分自身がそうだし、ステアもそうだ。

 他人の意識が介在し、自身の意識が反映されてしまう以上最早それは閉じた世界ではない。現実と紐づいた別の世界(リアル)でしかないのだ。

 

「馬鹿みたいだが……もう引っ込みつかないんだろうさ」

 

「アナタ……」

 

 マギーはその時、どう思ったのか。いかれていると思ったのだろうか。

 カタナには知る由もないし、知ったところでどうしようというんだろうか。そのまま席を立ち、お会計を済ませて店を出る。

 

 ドアを開けるといつも通りの大通りで、立ち並ぶ建物に見下ろされながらも道行く人々がすれ違って行く。マギーの視線を背にカタナは雑踏に呑まれてその身を委ねるように――姿を消した。

 




次回、STAGE29 運命Ⅲ




「ソードマン、貴方にはここで終わって貰うわ」

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