BUILD DIVERS ASTRAY   作:ヌオー来訪者

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 クロスレイズ のDLCでGX3号機が出ると聞いてたまげたので初投稿です。


STAGE31 運命Ⅳ

 思わぬ介入者によって攻撃を妨害されてオルタナティブのようなバケモノは切断されたライトアームの指を見て狂乱した。

 

「SDごときが……!」

 

「そのごときに指を切断されてやらかしまくったヤクザの手みたいにされたのは何処のどいつだ?」

 

 指を失い、半ばドラえもんか駄目なヤクザの手みたいになった元オルタナティブの化け物だったが、その化け物の指の断面から再び何か細く、うねる触手のようなナニカを生やした。

 そしてその一つ一つが絡み合いやがて指に形を作る。最早それは機械というにはあまりにも生物的で悍ましくもあった。この世に在っちゃいけないものだと、ゴーシュの中で本能がそう嘯いている。

 

 

 

 ゼータと騎士ガンダムはそれを目の当たりにしながら、それぞれ得物を構える。あのモンスターをどうしてくれようか、と思索しながら。

 

「そこのゼータのパイロット、聞こえるか」

 

 さぁ、戦いだと意気込んだその次の瞬間水を差す声が騎士ガンダムのコックピットから発せられた。

 

「はい?」

 

「早く逃げろ。こいつは普通じゃない」

 

 そんなのとっくに知っている。

 目の前で自己再生したり、MGクラスにまで巨大化したり兵器の域からあまりにも逸脱しすぎている。まるでステアのガイアがデストロイに変態したあの時に瓜二つな展開にある程度は察している。

 加えて天候状態もバグり始めたか晴れと予報された空がに暗雲が立ち込め、雨がしとど降り注ぎ始めた。

 

「……普通じゃないなら数が多い方が有利でしょう。なにせこのバケモノだ、数で圧倒した方がいい」

 

「やめておけ。データを消し飛ばされて辛い思いをするだけだぞ」

 

「それはあんたも一緒だ。それに俺は気に食わないんだ、こいつが。ただただ、気に食わない」

 

 ソードマンを僭称しようがしなかろうが今この瞬間目の前にいるこの不愉快な男は撃墜したかった。初陣辛酸を舐めさせてきたあのグシオンなるモビルスーツの姿がダブるお陰で尚更逃げることより潰すことを優先したかった。

 自分は正義の味方なんてむず痒い存在なんかじゃない。強いて言えばただ怒るだけの路傍に転がる石だ。

 正義の怒りをぶつけられるほど高尚でもない。

 ふと、ステアを見る。彼女は震える手でゴーシュのジャケットの裾を掴んでいた。

 もういいだろう。彼女はこれ以上関わり合いになる必要はない。

 

「と言うことだ。今から俺は八つ当たりをしに行く。もうこいつから降りろ」

 

「でも──」

 

 ステアはやめろと目で訴える。

 これ以上戦って倒されればお終いだ。データは消滅しこれまでの苦労は水の泡となる。そんなリスクしかないような無意味な戦闘なぞ本来はするべきじゃないのだ。

 

「あたしがこんなことに付き合わせたばっかりにこんなッ──」

 

「ステア」

 

 反駁する彼女に短い一声で制した。

 気圧されたか彼女の声は詰まり、息を呑む。眼前で交戦を始めた騎士ガンダムとバケモノを他所にゴーシュは続けた。

 

「俺はここじゃない何処かをずっと探してきた。俺は、クソのような家族からの逃げ場所を探し続けていた──でも何処に行こうが不愉快な奴はついてきた。生半可な逃げ方ではどうにうもならんのか、それともやっても単に無駄なだけなのか……俺はどこまで逃げれば良いのか、皆目見当もつかん。このまま逃げてしまえば観て見ぬふりだって出来るかもしれない。けれども──今この瞬間、俺は戦いたい。あのニヤケ面を殴らなければ気が済まない」

 

 ゴーシュにとって本当に充実する瞬間は、今この瞬間においてはここで戦うことに他ならない。だが、ステアにとってそれは違うのだ。そんなことくらい、ゴーシュとて重々承知の上。

 

 

 多分、だ。ステアがアークエンジェルスを出奔したのは「そうしたい」のではなく「そうしなければならない」と思っている。

 強くなりたいとか、かつての仲間と縁を切りたいとか、そんなんじゃない。

 誰かに迷惑をかけてはならない。縁を切らなくちゃいけない。その自分自身にかけた後ろ向きな呪いそのものが今この瞬間動かしている。

 

「ステア、訊こう。GBNは、好きか?」

 

「うん」

 

 ならよかった。ゴーシュは小さく微笑んだ。

 

「そうか──なら、君はGBNで何をしたい?」

 

「──えっ」

 

 答えは──すぐに出なかった。どう答えたらいいのか分からないステアはフリーズしている。当然だろう、そうじゃなければこうやって彷徨なんてしなければ自分に依存しかかったりはしないんだ。

 そしてその答えは誰かに押し付けられるものじゃない。ゆっくり考えればいい、だから今この瞬間このコックピットは場として相応しくはない。

 

 ステアをコックピットから排除し、ゼータのアームの上に載せる。

 そして少し離れた場所にアームを地上に下ろした。「降りろ」と無言で促し、ステアは渋々その要求にしたがってすとん、と地上に脚を付けた。

 

「やってみるか……ゼータッ!」

 

 機体を再び起こし、暴れ狂う化け物に照準を合わせる。増援の騎士ガンダムは化け物の猛攻をその小柄な体躯でひらりひらりと避けて見せている。

 とはいえ決定打になるような反撃には至れていない。それは攻撃する隙が出来ないからだ。

 

 だったら隙を作ってしまえば良いのだ。ゼータは機体のスラスターを利用して一度のジャンプでバケモノの有効射程に入り込みビームライフルを発砲した。

 

「ゼータかッ!? 邪魔をッ!!」

 

「墜ちろよぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

 巨大化したのは敵のミスだ。なにせ自らのウィークポイントを拡げたに等しいのだから──

 

 アストレイの強みというものは装甲を最低限に抑え、フレームを剥き出しにすることで機動性と人間的な動きを可能としている。オルタナティブのジャケットもその性質を殺さないように計算された構造だ。

 あのジャケットシステムそのものは確かにアストレイとしてはデッドウェイトスレスレの異物であるには間違いない。

 

 以前、ゼータの作成にあたってシャフリヤールからオルタナティブに対する評論を聞いたことがある。

 

『ソードマンの機体かい? アレは真似るものじゃないよ。搭乗者の相当な癖を自己認識した上で完成した危ういガンプラだ。無論、これも一種の愛から来る出来栄えだが、バランス、スピード、バーニアの位置、操縦者の癖。その一つが欠損でもすればたちまち機体はバランスを崩してしまう。強い機体を作るなら自身の癖を理解することが第一。……そもそもの話になるけれども()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であることが究極なんだ。自分自身に少しでも嘘をついて作れば作り手のマシーンがバランスを崩してしまい出せるはずのポテンシャルも無駄になってしまう。あの機体は見た目以上に極端なチューニングが成されている。何百、何千もの戦いを重ねてようやく手に入れられる、そんな世界だ』

 

 別人が下手に使った所でその真価は発揮されない典型であるのと同時に、仕様外のチートによる強化や巨大化でその奇跡的なバランスは崩壊してしまっている。故にただの異形のバケモノでしかないのだ。

 全弾ライトレッグのフレームに命中し、一部が焼け抉れる。

 

 が、その抉れた部位は目に見える速度で回復していた。なるほど、マシンポテンシャルとパイロットポテンシャルの齟齬を無理やりチートでカバーしていると言うことか。

 

「自己再生か……ッ!」

 

 騎士ガンダムは眼前に置かれた状況に対し、見知った光景だと言わんばかりに追撃の一撃として背中のマントの留め具の上でマウントされた電磁スピアを引き抜き、再生していく部位を突き刺した。

 

「この──目障りなッ!」

 

 乱暴にライトレッグを振るい、騎士ガンダムを振りほどく。

 

「ただの趣味のような機体でぇーッ!」

 

 バケモノは吠えながら機体を前進、ソードメイスを振り下ろす。

 スケールが大きくなった鉄塊以上に鉄塊と化したその得物は轟音と共に土煙が派手に舞った。衝撃波は少し離れたゼータにも行きわたり、背後の木々は派手に揺れ、一撃の破壊力を雄弁に物語っていた。

 あれを貰えばSDだろうがリアルだろうが平等にスクラップ一直線だ。

 

 終わった──と誰もが思った。

 

 だが……

 土煙が晴れると、振り下ろされた鉄塊の上に騎士ガンダムが悠然と立っていた。その姿に傷一つもない。

 

「ピンシャカと、カトンボみたいによ……!」

 

 毒づくソードマンに対し、ゴーシュは即座にビームライフルでフレームを狙撃した。

 このゼータは通常のソレより狙撃手向けにカスタマイズがされている。いずれ撃ち続ければ破壊も出来るはずだ。

 

 その時のゴーシュはそう思っていた。

 

 しかし命中してもビームは弾かれるだけであった。水がプラスチックの板の上で弾けるが如く飛散。僅かにフレームを焦がすだけで終わった。この強度はビームコーティングやラミネート装甲程度では生易しい。

 

「ナノラミネートアーマーだとッ!?」

 

 騎士ガンダムが驚愕のあまり声を上げる。まるで取ってつけたようなアビリティの起動は知識のないゴーシュをも驚かせた。ビームは弾かれ、これまで曲がりなりにもダメージソースになっていた射撃が無意味と化してしまったのだから当然、落胆もある。

 

 

 

 落胆しただけでは何の意味もない。

 ビームを完全に無効化された以上実体武器を使うしかない。ゴーシュは咄嗟にビームライフルを連射を続けながらゼータの頭部バルカンのトリガーを引いた。

 

 が、

 

「フェイズシフト装甲ッ!」

 

 ソードマンから対実体兵器を軽減、ないしは無効化する装甲アビリティの名前が発せられた直後、着弾したその弾丸は化け物のフレームや装甲にめり込むより先に弾き飛ばされた。

 

「無傷……だとッ!?」

 

 バルカンとはいえ命中したのは50発。いずれも直撃だ。その辺のモビルスーツなら当たりどころが良くても小破、悪ければ大破だってあり得るだけの戦車並みの弾を叩き込まれておいてまったくもって無傷。

 どうやったらこの化け物に勝てるんだ。

 騎士ガンダムはスピアで抵抗したが、奴は受けた一撃を何もかも弾き飛ばす。

 

 どうする、どうすればいい。

 手持ちの武器はまるで役に立たないビームライフルとバルカン。射程(レンジ)不足のビームサーベル。

 切り札となり得るハイパーメガランチャーはまだ未完成。

 

「……くっ」

 

 フェイズシフト装甲+ナノラミネートアーマー。

 これは本来無理のある組み合わせの耐性アビリティだ。

 

 ガンダムWの世界のガンダニュウム合金

 ガンダムSEEDの世界のフェイズシフト装甲系列をはじめとする対実体兵器装甲

 ガンダム00の世界におけるGNドライヴ+Eカーボン

 ガンダム鉄血におけるナノラミネートアーマー&エイハブリアクターをはじめとする対ビーム装甲。

 

 多重装甲ならまだしも同一箇所でこの4種のアビリティ群を共存させることはゲームシステム上、困難だ。

 何せ他のゲームシステムが崩壊しかねないのだ、そして運営の調整により無理やり載せようにも何かしらの代償(例えば稼働時間の致命的な短縮化とか)を伴う。

 

 それが永遠に動ける上に1.5倍のサイズで暴れ狂う構図を想像してみるがいい。

 

「ったく……あの坊主はあんなバケモンとやり合ってるってのかよ」

 

 騎士ガンダムの乗り手が1人毒づく。

 その声色には、勝算の一欠片も感じられない。他人に期待するな、今この瞬間自分で考えなければならない。

 

 双方が動きを止め、化け物はこちらを見下ろし、ゼータと騎士ガンダムはそれを見上げるように勝ち筋を脳裏で探り続ける。

 雨が装甲と地面を叩く音と、化け物から発せられる獣の呻き声のような音が支配していた。

 

 なればこそ重い一撃叩き込むしかないのだ。隕石や、それこそ巨大な鉄塊……質量。

 

「そうか……!」

 

 まだ勝機はある。手元に強力な一撃が無ければ周りの物を使えばいい。

 が、確実性に欠ける。もう一つだけ、もう一つだけ奴に痛手を負わせるだけのものがあれば。

 

 次に動いたのは化け物の方だった。

 巨大なソードメイスを握り直し、地面を抉るように蹴る。そして──

 

 

 空から光芒が化け物の目の前で落雷した。

 

 

「なんだっ!?」

 

 化け物が動きを止め咄嗟に空を見上げる。それに釣られるようにゼータも騎士ガンダムも同じ場所を見上げる。

 そこには両肩部に大剣をマウントし、ライトアームに持ったスーパーGNソードⅡからビーム弾を撃つ蒼いモビルスーツが暗雲をその翼で切り裂きながら戦場に向かって降下していく。

 

 ダブルオーダイバーエース。

 リクのモビルスーツだ。

 

「カトンボが増えようがッ!」

 

 化け物は頭部のバルカンを発砲し、それを叩き落とそうとするも、ある弾丸はかわして、ある弾丸はスーパーGNソードⅡをソードモードに切り替えて叩き斬り落とす。

 

 そしてゼータや騎士ガンダムと化け物の間に降り立った。

 

「お前、リクか!?」

 

「ゴーシュさん!? あの巨大なモビルスーツ……カタナさん、ですよね」

 

 まるで自信のないような物言い。当然か、眼前にいる化け物は曲がりなりにもオルタナティブの原形は()()()()留めている。

 逆を言えば疑ってしまうほどの変貌を遂げてしまったとも言うが。

 

 普通あんな巨大化するはずもなければ、こんな生体パーツ混じりの意匠になるはずもないのだ。

 

「その答えは否だ。確証はない。だが、その辺に転がっている粗悪品以上のものではない。俺はそう信じている」

 

「偽物だって言うのか……!」

 

 リクはスーパーGNソードⅡをライフルモードに戻してビームライフルを化け物の装甲やフレームに満遍なく撃つも、案の定その攻撃は全て無効化された。

 

「無駄だ! ナノラミネートアーマーはそんな豆鉄砲ごときでぇ!」

 

「だったらッ!」

 

 それまで使っていた得物を腰のサイドアーマーにマウントしてから、入れ替わりに両肩部にマウントされた大剣、GNダイバーソードを引き抜く。

 そして、化け物のバルカンを避け地上を滑るようにホバーしながら接近。ヒットアンドアウェイの要領で振り回されるソードメイスを避けながら斬撃を浴びせる。

 

 火花が散るものの装甲やフレームに傷ひとつも付きやしない。当然の帰結とはいえ、近接戦闘のエキスパートがこのざまとなれば、いささか堪えるものだ。

 

「無駄だ、見ての通り奴はビーム並びに実体兵器に対する耐性を持っている。俺たちの兵装では……!」

 

 無理だ。そう続けようとした矢先リクはプライベート回線に切り替えた。

 

「じゃあ、エスピーブキは」

 

「は?」

 

「エスピーブキです」

 

 リクの言葉に合点が行かずゴーシュは一瞬混乱する。そんな中で、騎士ガンダムの乗り手は「なるほど」と溢した。

 

「ビームでも実体でもない第3の兵器か……確かにこのゲームにおいてまだ対SP武器耐性を持つ防御アビリティは存在しない。手持ちにはあるがトドメを刺すには程遠い……!」

 

 騎士ガンダムの嘆きにゴーシュはふっと笑う。最後のピースがお陰で嵌った。こちらがお膳立てすればトドメにまで届くはずだ。

 

「いや、そうでもない。少しいいか?」

 

 

 

 STAGE31 運

 

 

 ◆◆◆

 

 一旦化け物から離れ、岩陰に隠れて作戦を立てた。

 化け物がこちらを探し当てるにはさしたる時間はかからないだろう。EWAC機能をチートで呼び出されて仕舞えばたちまち見つかってジャンクにされる。

 ゴーシュは極力端的に伝えるだけ伝えるとゼータはそのまま、MA形態ウェイブライダーに姿を変え化け物の有視界に躍り出た。

 

 そしてMS形態ではビームサーベルをマウントするサイドアーマーだった場所からビームガンを発砲。適度に落としたスピードで指定位置に飛行を開始した。

 

 行先は他のもの比較して一際大きい山。

 ある程度近付いたところでMS形態に戻り、その麓までわざと追い込まれるように引き撃ちを繰り返す。悟られないように、振り下ろされるソードメイスを紙一重でかわし続ける。

 ゼータの三号機風に塗装された純白の装甲は、衝撃波や石礫を浴び続け泥と雨水で濁らせていた。

 

「ハッ、ヒットアンドアウェイのつもりかよッ!」

 

「チィッ」

 

 力任せに振るわれるソードメイスは周囲に散らばる岩を砕き、土を抉る。

 自然破壊は楽しいと言わんばかりに荒らされる大地は少しばかり心が痛むが、元々変動の激しい不安定なエリアだ。おそらくこの大地からすればこの程度きっとへでもないのだろう。

 これから起こる出来事を考えれば。

 

 化け物ぬかるんだ山の斜面を踏みしめ、その巨大な脚部を僅かに沈める。

 そして振るわれた一撃は山を叩いた。

 地震に近い揺れが大地に立つゼータを軽くふらつかせる。

 あまりにも絶望的な光景であったが、ゴーシュはほくそ笑んでいた。

 

 そうだ。

 暴れるがいい。こんな不安定でかつ舗装されていない区域で規格外のモビルスーツで暴れ倒せ。

 そして──

 

「壊れてしまえ」

 

「何……ッ」

 

 何度も何度も地面を揺るがせれば仏の顔をした山だろうが牙を剥く。

 加えてその背中を押そうものなら、鉄槌は……下される。

 

 山の上から聞こえる爆発音と地響きに気付かず暴れ狂う化け物を前にゴーシュは小さく呟いた。

 

「手札は揃った。あとは並べるだけだ」

 

 その言葉の意味が分かるのは間もないことだった。横殴りに土石流が化け物を飲み込み、一方ゼータは寸前のところで大きく飛翔。難を逃れた。

 

 この程度では破壊に至れまい。ゴーシュは山頂近くでスーパーGNソードⅡで山を削るダブルオーダイバーエースを見て頷く。

 そうだ、囮、破壊工作、トドメ役。この三つが揃ってようやく成立する策。

 条件はクリアされた。

 

 最後は空高くから化け物目掛けて降下する騎士ガンダム。彼がトドメを刺すだけだ。

 だが、収まった土石流を必死にもがき外に出ようとする化け物がいる。

 

 あのアストレイ系列特有のフレーム剥き出しの状態で質量に勝る土石流を叩き込まれたのだ。ノーダメージではないはずだ。

 

「こんなしゃらくせぇ土石流如きでッ! SD如きが今のてめぇに何が出来るッ!」

 

「教えてやる、SDガンダムの真骨頂をッ!」

 

 騎士ガンダムは化け物に向かって降下しながら何処からか古びた石板を取り出し、この世の言葉ならざるナニカを(そら)んじ始めた。

 

「オーノホ・ティムサコ・タラーキィィ!!」

 

 それは、炎を剣とし、力を盾とし、霞を鎧に変える呪文。

 騎士ガンダムの白い装甲は青く重厚なものになり、左手には十字のエンブレムがあしらわれた青い盾を。右手には紅く輝く剣を。

 

 兜もまた、赤い宝珠が埋め込まれた。攻撃的なシルエットに変わっており心なしか騎士ガンダムの瞳はキリッとしていた。

 

 人はかの姿をこう呼んだ。

 フルアーマー騎士ガンダム、と。

 

「消えてしまえッ!」

 

 叫ぶソードマンもどき。だが、今この瞬間、化け物の足は泥と岩で固められ動きもままならない。最早フルアーマー騎士ガンダムを止める術を化け物は持ちわせていなかった。

 

「消えるのはお前だッッッ!」

 

 風を、雨粒を斬り化け物のコックピット目掛けて携えた炎のように紅く輝く剣を突き立てる。

 今の騎士ガンダムの武器は実体兵器やビーム兵器を超越したナニカだ。

 フェイズシフト装甲やナノラミネートアーマーは意味を為さない。

 

 勝敗は決した。

 化け物の装甲とフルアーマー騎士ガンダムの炎の剣は押し合い、徐々に化け物の装甲を歪めていく。

 

 

 

 このままなら勝てる。

 

 

 

 

 そう、確信した次の瞬間。化け物の姿が掻き消えた。

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

「イベント用エネミー版のターンエーの空間跳躍を呼び出したんだろうな。味な真似をしてくれる」

 

 フルアーマー騎士ガンダムが消えると人間大のサイズの騎士ガンダムがかわりに現れ、眼前の怪現象について語り始める。それを横目にゴーシュは大きくため息をついた。

 なんとか追い払うことができたらしい。あわよくば撃破してひっ捕えたかったがもう贅沢は言うまい。

 化け物が消えてからというもの、突然の雨は止み先ほどまでの轟音や怒声が嘘のように静まり返っていた。

 

 山の上で土石流発生のための破壊工作をしていたリクのダブルオーも地上で棒立ちになっているゼータのそばまで降り立ち、ゴーシュがゼータから降りるのと同じタイミングでリクも機体から降りた。

 

「でも、お二方が割り込んでくれたお陰であの人斬りモドキを追い払うことが出来た……ありがとう」

 

「礼はいいですよ。僕たち仲間じゃないですか」

 

 何のこともなげに言うリクに、ゴーシュは苦笑いした。眩しい奴だ、と。

 自分では決して言えない言葉だ。仲間だなんて言葉は。腐れ縁と憎まれ口叩くのが関の山だ。

 

「……そう、か。そうだな」

 

 別に認めていない訳ではない。仲間と思ってくれていることは。

 けれどもいつ居なくなるかわからない身なのでこうして仲間だって思われるのは些か罪悪感もある。恐らく自分GBNにいる残された時間はきっとわずかしかない。

 

 

 

 で、見知ったリクはさておいて、あの騎士ガンダム型のアバターには見覚えがあった。

 元々ポピュラーなアバターなので他人の可能性こそあったが、喋り方や設定された声色でなんとなくあたりはついていた。

 

「それで確か、貴方はギガフロートにいた……」

 

「ロボ太だ。久しぶりだな、リク、ゴーシュ」

 

 ギガフロートで指揮を取っていた男は案外戦いも出来るようだ。別段有力なフォースに所属したりするような実績が無いにもかかわらず第七機甲師団のリーダーであるロンメルやマギーやら果てはソードマンまでギガフロートに集めてしまうというあまりにも謎な男だ。

 この男の人脈はどうなっているのだろうか。

 

 

 

「間に合ってよかった。だが……ソードマンの紛い物まで現れるとなるともうこの流れは止められんだろうな……」

 

 ロボ太は化け物が消失した跡を一瞥する。しれっと断定しているのはおそらくアリバイを把握しているのだろう。

 

「やっぱりあれ、偽者なんですね……」

 

 状況を細かく把握し切れていないリクの瞳に影が差す。これまで見てきたあの男は、人斬りと言われたり確かにバイオレンスでおっかない戦い方をしたりしたが、こんなマスダイバーになったりするような人間ではないと信じているのだろう。

 偽者とはいえあの姿でこれまでの行動に反することをされては心穏やかではいられない……それが本音なのだろう。

 

「俺たちを見ても無反応、恐らく知らんのだろう。加えてあれほど容易くこちらの策に嵌ってくれたのでな。お陰で容赦なくやれた訳だが」

 

 一方的にマスダイバーのエピオンを斬り伏せるだけの実力を持っておいて、同質の力を使い新参のゴーシュやリクにしてやられるのは不自然だ。

 この後どうしてくれようか、なりすましで通報でもしてやろうか。

 

 ふと、ゴーシュは近くの木陰に隠れているステアに視線を移した。

 そういえば何故彼女はあれだけ派手なことをやらかしておいて何故ペナルティが発生せずこうして出奔ができているのか? 

 

 別に彼女を責めたい訳ではない。

 だが、マスダイバーという存在に対して疑念が深まるばかりであった。あれだけのさばっておいて通報もあって然るべきだ。普通のネットゲームなら垢BAN(アカウント停止)措置も止むなしな流れだ。電子計算機損壊等業務妨害罪、なるものもあるので警察沙汰もあり得る。

 大型メンテナンスなど対策もあって然るべきところだと言うのに。

 運営からは表立ったアクションはほぼ皆無……

 

 その理由は恐らく何かしらの手段で足をつかませないように細工をしている。そう考えるのが妥当だろう。

 

「あれ……お姉さん」

 

 ステアに気付いたリクが目を丸くする。何故こんな所にいるのか掴めずにいる、といった様子だ。

 

「こんな所に居たんですね。フォースの皆、お姉さんのこと探してましたよ」

 

 しかし、ステアは首を横に振った。それに納得のいかないリクは「どうして」と問いかける。

 

「あんな酷いことしておめおめと戻れる訳ないじゃない……」

 

 カナリや他の皆優しいからこそ余計に戻れない。

 その優しさに甘えるのは悪だ、と。甘えた結果あんな風に負けを重ねていくのは絶対に嫌だ。

 それがステアの思いだった。

 

「でもあたしは負けてしまった。だからあんなブレイクデカールなんてものに頼って……あたしは!」

 

 ブレイクデカール。初めて聞く単語にゴーシュは目を見開いた。それがマスダイバーの根幹にあるものとでもいうのか。

 

「ブレイクデカールのこと、詳しく聞かせてくれないか」

 

 ロボ太の切り出しに、ステアは暫く沈黙してから首を縦に振った。

 

 




 SDガンダムのやべー所は既存の兵器に縛られないインチキ兵装と、初見殺し要素に尽きると思うの(´・ω・`)

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