BUILD DIVERS ASTRAY   作:ヌオー来訪者

32 / 55
 過去の意志(完結させること)はなんだかんだで欺けないので初投稿です。


STAGE32 過去の意志

 ブレイクデカールとは元々見えないデカール状のパーツだ。貼り付けてGBNに読み込ませるだけでいともたやすくセキュリティの目を欺き、ログインを可能とさせる。

 値段についてはそこそこ。かのエージェントを名乗るバイヤーの黒服の男が提示したビルドコインの価格が相場だったのかどうかは、今となってはステアにはわかりはしないが、下手なアビリティを買うよりはするのには間違いない。

 

 起動スイッチは、GBNのUIに紛れておりその項目を開きブレイクデカールの起動状態、ブレイクブーストを発動させるだけ。

 たったそれだけで、機体性能はガンプラの出来やパイロットアビリティに左右されずシステム上の限界値を超えた性能を獲得し、ありとあらゆるアビリティを搭乗者の意志一つで自由自在に呼び出すことができる。

 

 インチキ臭いが、事実目の前で起きていることそのものだ。

 

 ただ、ステアが使っていたものは自由自在とは程遠いものだった。

 

 最初こそ機体性能が比べ物にならないくらいに向上したし、本来GBNに読み込ませたガンプラの出来によって機体性能が変動するゲームシステムに阻まれて変形すら出来なかったガイアがステアの意思に応えるように変形すらした。

 

 

 だが問題はそのあと。

 まるで機体そのものが意思をもったかのように動き、破壊の限りを尽くしたのだ。

 その時ステアは強制ログアウトも敵わず、結果として救出を待つ運びとなってしまった。

 

「配布していた奴はどんな奴だった?」

 

「黒いスーツ着てたおじさんで、何というか……マジシャンって感じがした。それでエピオンに乗ってて……なんか、エージェントって名乗ってました」

 

 それまたフワッとした物言いだった。だがあの時、下品な笑い声を上げていたエピオン乗りが元凶なのだとしたら手がかりとしては充分だ。

 エージェント、無銘。どいつもこいつも人を煙に撒くような名前をしやがって。

 

 ロボ太……もといカドマツは毒づいた。

 

「どこで貰ったんだ、それは」

 

「えっと……エリアX-2314区画です」

 

「……初心者用エリアか。なるほど、道理で」

 

 GBN運営は基本的にGBN最深部にいると踏んでいたものがほとんどだった。それは先入観から来るものだったのだろう。

 だが、そもそも初心者や鳴かず飛ばずのダイバーを中心に配布されているのであれば上級者エリアを根城にしているのは逆におかしいのだ。

 加えて、初心者用エリアはGBNの中心核に近い区域であることを考えると格好の場所だ。

 

「ごめん……なさい……あたしのせいでこんな……」

 

 誰も責めなければ誰も否定しない。

 ステアが招いた悲劇の一つであることには変わりはないし、悪意込みでやった訳でもないのもまた事実なのだ。

 それからステアは自分が何故ブレイクデカールに手を出したのかポツリポツリと語り始めた。

 自分のせいで負け始めてフォースのランクが落ちたこと。自分がガンプラに向いてないと突きつけられたこと。そして……居場所はもう無いということを

 息苦しい空気になり始めて、ロボ太は居心地悪くなりながら二人から背を向け、言葉を紡いだ。

 

「君は別に、GBNを壊したかった訳じゃないだろう」

 

「…………はい」

 

「俺が一番気に食わないのは知らん間に犯罪の片棒を担がせるクソッタレだ。間違えるなよ?」

 

 騎士ガンダムらしからぬ口の悪い喋り方で吐き捨てながらその姿を森を包む霧の中に紛れて姿を消した。

 彼はこれから一体何処へ行くのだろう。

 それはゴーシュもステアも、そしてリクも知る由はない。それを知るよりも先にリクにはやることがあった。

 

「オレに出来ることはお姉さんを探すだけ。無理に連れ戻しても多分お姉さんの心は納得しないと思う。でもこれだけは知っておいて欲しいんです!」

 

 リクは必死に訴えかける。

 彼は知り過ぎた。アークエンジェルスらの想いを、ステアを必死に探すその姿を。故に結果はどうあれ絶対に伝えたかった。

 

「いつでも、貴女の帰るところはあるってことを!」

 

「……うん」

 

 叫びは届いたのか。それとも届かなかったのか。

 これ以上ステアが言葉を返すことは無かった。

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 ……今から2日前。

 

 カーン、カーン、カーン。

 バットが球を打つ音がバッティングセンターのフィールド内で大きく響く。

 

 車と同じ速度で飛んでくる白い球がフルスイングされたバットで反対方向に勢いよく飛んでいく。そしてフェンスに当たり、地面に落ちていく。ホームラン用の的には一向に当たる様子は無かった。

 いいのだ、当たらなくても。別に当てるために来たのではなくイライラをボールに叩きつけたかっただけだ。

 

 ボールは友達なんて絶対嘘だ。今この瞬間カナタとシュウゴからしたらサンドバッグ同然だ。

 

「居場所がないだァ?」

 

 シュウゴの切り出しにカナタは素っ頓狂な声をあげた。と、同時に振るったバットが空を切り、ピッチングマシンから放たれた白球は虚しく壁に叩きつけられた。

 突然何を言い出しやがる。とカナタはシュウゴを恨みながら彼の話に耳を傾けた。

 

「あぁ、オレの友人がな。悪気がなかったんだが諸事情で自分のこと知らん間に裏切りのようなことしてしまってな。友人の仲間たちはそのこととっくに許しているが、やらかした本人が納得しなくてな……」

 

「つかお前、友人なんていたのか……」

 

 信じられないものを見るような目と迫真の声色でバットの先を地に置くカナタにシュウゴは軽くイラついた。

 人が真面目な話をしているときにふざけるんじゃない。

 

「殴られたいのか貴様は。……どうしてやればいい」

 

「……お前的には、そいつを元のところに戻してやりたいのか」

 

 しかし直ぐに真面目に話を聞いてくれた。そうで無ければこんな相談なぞ投げかけないが。この男は若干ふざけこそするが、話は一応聞いてくれるのが救いだ。

 こうして話を進めてくれるのは流石腐れ縁というべきか。

 

「さあな」

 

「まぁ戻すにしても本人を無理やり納得させにゃァならんからおすすめしねェや。禍根残すしな。つーか、そいつ自身はどうしたかったんだ?」

 

「結局元の居場所との完全な縁切りは出来なかった。それでも元の居場所には戻れない、そう彼女は思っている」

 

「……贅沢だなオイ」

 

「そうだと思うか。だが、俺はそうは思わん。下手くそでも、好きな事だったんだ」

 

「……そりゃまた随分と肩入れするんだな」

 

 カナタが目を丸くし、バットを振るのを辞めてシュウゴを見た。

 視線に落ち付かず、シュウゴは一心不乱に振るったバットはことごとく空振り、不毛に思ってカナタ共々振るのをやめた。

 次々と射出されるボールたちは打たれることもないまま、壁を打ち地面を転がる。

 

 他に客がいないお陰でピッチングマシンの駆動音とボールが弾む音だけがセンターに木霊した。

 

「悪いか」

 

 誰かを庇うことに理由などいるものか。

 受けて立とうと言わんばかりにフェンス越しの隣のバッターボックスに立つカナタと対峙すると、カナタは突然噴き出した。

 

「何がおかしいんだ」

 

「いやまァ、ここまで他人の事でムキになってくるの初めて見たっつーか。なんつーか……いや、()()()()()()()()()()()のか?」

 

 その指摘は正鵠(せいこく)を射たものだった。

 あぁ、そうだ。自分は彼女と重ねているところがある。

 正確には今自分が置かれている状況もまた、GBNという居場所を得ても尚襲い掛かる現実というものがある。

 その現実から逃げるためには一度GBNから縁を切らなければ成り立たないのだと。ガンプラに対する未練は腐るほどあるが。

 

「……さぁな」

 

 勿論、逃げても上手くいく保証なんてない。

 あの女は自分の理想の息子という名のアクセサリーが欲しいだけだ。物に反論は許しもしなければ、夢も見ることすらも許しはしない。

 オイシャサマになる未来しか許しはしないし、別のこと考えよう、提案しようものなら癇癪を起こす。

 理想のものを手に入れたら次に彼女は何を欲するのか。次に何を要求するのか。

 普段の行いを見て真っ当な可能性を考えろというのも無茶な相談だ。

 

 

 今、ステアも自分も宙ぶらりんだ。

 

 どっちを選んだって苦痛。一生苦しみ続けるか、行き先保証されない未来か。

 何が起こるのが分からないのが未来だ。その未来に向かってひた走れなどという青臭い説教臭い胡散臭い物言いなど今は不要だ。そんなものとっくにわかり切っている。

 

 だのに何故、こんなふうに足踏みばかりしているのだろう……

 シュウゴが思考している間にもカナタもまた少し顎に指を当てて考え込んでいた。

 そして暫くしてから口を開いた。

 

「悩む奴は悩んで当たり前だからとりあえず開き直れと言うしかねえよ」

 

 それはあまりにも無責任で。

 あまりにも豪胆な答えだった。

 たかだか同年代に人生相談なぞ馬鹿げていることをやっておいて、画期的解決法を期待するのもおかしな話ではある。

 

「悩めば出ると思うか?」

 

 見え透いた質問だ。そんなもの決まっている。

 

「出ねえ。一生出ねえ。実際俺出てねえ」

「そうか」

 

 カナタは遠い目で空を見上げる。今日は曇りだったが、僅かな蒼が雲と雲の隙間から覗かせていた。

 

「俺はここにいてよかったのか。ここにいるべきなのか。GPDっつーゲームあったろ、昔」

 

 GPDなら多少知識はある。

 GBNが流行る前に展開していた前身のガンプラバトルシミュレーターだ。戦闘でのダメージがガンプラに直接フィードバックされるもので、一時期社会問題にもなっていた。

 GBNのスポンサーがそれを良しとせず、同じ会社の運営するGPDがGBNのリリースと共に急速に衰退したとかまことしやかに囁かれているが真相は闇の中。

 

 そんなGPDの雑学はどうでもいい。

 カナタは続けた。

 

「アレが急速に衰退して、一緒にガンプラやってた仲間がやりたかったことなくして散り散りになったし、中心にいた兄もなんか突然死んだし、俺がまたGPDやりたいつったって誰も来やしなかった。その結果行き場無くして結局GBN始めてさ。GPDに対する未練というのは今でも多少あるし、こうしてGBNでガタガタやってることが良かったのか分からなくなって考える時もあるっちゃある。けれどもこれだけは確かだ」

 

「これだけは?」

 

「あぁ。俺は最初何がしたくてガンプラに手ェ出したか。何故GPDを始めたのかってことくらいはさ」

 

 カナタはバットを構え直して勢いよく飛んできた白球を派手にカッ飛ばした。

 

 

 

 

 

 フライ。

 

 

 

 

 

 大きくホームランの的から外れ、緩慢なアーチを描く。多分普通に野球していたらフライで外野手に取られてアウトだ。締まらないシメにカナタは不格好な振り方で止まったまま口を3の字にしつつ続けた。

 

「……過去にあった意志っつーのは多少取り繕った嘘如きで誤魔化せやしねえよ。今のそいつだってそうだろう。そいつは、何をしたくて好きなはずのそれを始めたんだ?」

 

「それは……」

 

「そゆこと。おかしな理屈をつけ続けると分からなくなるのさ。俺みたいに……なぁ!」

 

 再び飛んできたボールをまたまたカナタはかっ飛ばす。今度はコースを大きく外れてファール。

 当てる技能はあってもちゃんと狙った方向にいかないのが何もかもを台無しにしている感が凄いバッティングに、シュウゴは苦笑いしながらバットを構え直した。

 

「お前も分からなかったのか」

 

「あぁ。しかもおかしな理屈をつけ続けて滅茶苦茶だ。到着地点は見えているのに戻る方法がわからねえ。でもそいつはきっとまだ間に合う。手遅れになる前に気付くといいんだけど……な!」

 

 

 

 

 今度もバットに命中。

 

 

 

 

 但し、打ったボールがそのまま体に命中するセルフデッドボール。

 言い換えるなら見事なまでの自打球だった。

 

 

 

 

「あだぁっ!?」

 

 ボールは凄まじい勢いでカナタの太腿に命中。そのまま頽れてもんどり打った。

 

「ッッッッッてぇええ……」

 

 自打球くらった瞬間それはもう凄くいい音がした。カナタからすれば呪しき音であろうが。

 見ているだけで痛々しい光景を前にシュウゴは必死で腹の奥から込み上げる笑いを押さえ込んでいた。

 

「ッたく……笑いやがって」

 

 痛みが収まった所で再びバットを構える。そして飛んできたボールを今度は真芯で捉えた。

 

「っしゃぁ!」

 

 当たりを確信した。ボールを捉えたカナタは足を踏みしめ、押し上げるようにバットを振るう。

 そして勢いのあるライナーが柵に直撃。ガシャンと金網同士がぶつかり合う音を響き渡らせてからボールは落ちていった。

 

「ホームランではないらしいな」

 

「やかましいわ。こちとら足の速さで勝負する一番打者なんだよ」

 

「初めて聞いたぞその設定」

 

「そりゃァ今考えたからな」

 

「オイ」

 

 こんな話をしているが彼らは別に野球なぞやっちゃいないし、カナタもシュウゴも当然のように帰宅部であるのは内緒だ。

 

 

 

 

 STAGE32  去の意志

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 ロボ太とリクが去ってからというもの、ステアはウェイブライダー形態のゼータのコックピットの中で無言。ゴーシュも遠い空を見上げながら機体を飛ばしていた。

 

 行く先は相変わらず無い。

 ただいく宛無く飛び続ける。

 

 このまま無言のまま無駄にこの架空の空を彷徨い続けて今日も終わりそうだと思ったその矢先だった。ようやくステアがあれから重く閉じられた口を開いた。

 

「あたしね。好きだったんだ、アークエンジェルスが」

 

 朴訥に告げられる言葉にゴーシュは「そうか」と相槌を打つ。

 たった3文字の素っ気無い言葉にしか見えないものだったが、その語り口はその想いを肯定する優しいものだった。

 

「あの時皆で楽しくいろんなミッションやったり、イベントに参加したり。フォースネストを大きくしたり。その時は楽しかったんだ。GBNをやってて良かったって思ったんだ」

 

 それで終わるなら良かった。

 けれども、そうじゃなかった。現実と悪意がそれを許しはしなかった。

 

「それでもあたしね、そんな日にまた戻れるようにしたい。でもあたしの所為で出来ないっていうのならあたしは……」

 

「アークエンジェルスを出て行く、か」

 

 続けるゴーシュにステアは肯定も否定もしなかった。

 居たいのは重々承知していて、居たいのに心が痛いのだろう。

 冷酷に言ってしまえば考え過ぎの類なのだ。彼女たちはそこまで深刻に考えていない。

 

「彼女たちのやりたいことって何なんだろうな」

 

「やりたいことって?」

 

「そうだ。あいつらがどうして探すのか、分かるか?」

 

「…………」

 

「一応ちゃんと聞いておけ。まだ話せるうちにな」

 

 まだ話せるうちに。

 シュウゴにはすでに対話なるものは存在しなかった。あの長い年月を経て凝り固まったモノを相手に和解するのも最早無意味であった。

 でもステアはそうじゃない。

 

「それからでも遅くないはずだ……多分、な。逃げるのも立ち向かうのも自由だがその前に色々はっきりはさせておかないと、お互い目覚めが悪かろう」

 

 確証はない。何故ならゴーシュ自身が対話を拒否し続けているからだ。元から無駄なのは目に見えている故に時間の無駄なのは承知している。

 だからこれからもやらない。

 

 でも、ケリくらいはつけておくべきだ。お互いのあり様をはっきりさせてからでも遅くないはずだ。

 

「ゴーシュはどうするの。もし一人になったら何処へ行くの」

 

 親から逸れた子供のようにステアは問いかける。そんなの決まっている。元から一人でやってきたことに戻るだけだ。

 

「そこは手出し無用、家庭の事情なんだ」

 

 家庭の事情を口にされてはステアも口を噤まざるを得なかった。とはいえ、これは卑怯だ。

 そんなこと言われたら何も出来ないのを分かって自分は言っている。そんな自覚がゴーシュにはあった。

 

「でもお前が答えを出すまでは付き合ってやる。どの答えを選んでも、だ。一応乗り掛かった泥舟だし、余計なお節介をした分のケツは持つ」

 

「舟じゃないんだ」

 

 先程の深刻な表情から一転してクスリと笑う。曇った顔を延々とされるよりはずっと良い。

 

「うん。じゃあ、やってみる」

 

 握り拳を作ってなんだか頼りないファイティングポーズを取るステアに堪らず、ゴーシュは吹き出した。普段そんな強気なことはやったことが無いのだろう。

 

「何笑ってるの⁉︎」

 

 ぷくー、と頬を膨らませて抗議するステアになおのことゴーシュは笑う。

 あまりにも似合わなさ過ぎて、小動物が肉食動物の真似をしているかの如く無理して作った仕草が面白くて仕方がなかった。

 

「いやすまん、なんか……色々」

 

「なーに笑ってんのー!」

 

「だからすまんと!」

 

「おねーさん、許さないぞー!」

 

 ぷんすかと追いかけ始め、ゴーシュは着地したゼータから飛び出し一目散に逃げ出した。そんな中で彼は願う。

 いつかまた。かつての仲間と楽しくGBNが出来ますように、と。

 




 NEXT:STAGE33『Out Of Orbit』

 意味は軌道から逸れたもの。つまりはアストレイ
 ステア編はここでひと段落。本格的に対偽ソードマンに入ります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。