BUILD DIVERS ASTRAY   作:ヌオー来訪者

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 リライズ2期が始まったり、世の中がごたついているので初投稿です。


STAGE36 真と偽

 何事だ。

 眼前で起こった出来事について思考するより先に偽オルタナティブの変態は始まっていた。アストレイタイプの装甲全体から生物的な血管が浮かび上がり、最早モビルスーツというより機械のガワを被ったバケモノのように見えた。

 

 そしてスラスターからは緑色の粒子を吐き出している。

 コジマ粒子か、GN粒子か──当然後者だ。

 

 

 GNドライヴも、貯蔵タンクを有している素振りは一切見受けられなかったのにも関わらずこれは──ブレイクデカールの力か。

 偽物とはいえ自分の機体が怪物のようになりコンセプトと外れた行動をされるのは気分のいいものじゃない。

 

 カタナの胸には少しばかりの落胆もあった。自分の偽者だというのだから少し期待していた。もしかしたら凄いヤツなんじゃないかと。

 けれども今この瞬間歪んでいく偽オルタナティブの姿に一縷の期待も消え失せた。

 

 

 カタナの操る真オルタナティブは身体の側面を前に、千子村正の柄を機体のコックピットの少し上に持ち上げ切っ先を偽オルタナティブに向けた。剣術で言う霞の構えだ。

 狙うはコックピットただ一点。あまり時間を掛け過ぎればまたべアッガイランドの二の舞だ。

 

──一気にケリを付ける。

 

「はぁッ!」

 

「──迂闊だ!」

 

 地面を蹴った矢先、コーイチの制止の声が聴こえたがもう既に止められる状況ではなかった。フレームごとカスタマイズを施しオリジナル以上の跳躍力を持ったオルタナティブは風を切り、唸りを上げる。

 

 

 最短で一直線に。

 突き出された白刃はそのまま偽オルタナティブのコックピットに吸い込まれるように突き進む。だが……

 

 その白刃がコックピットに刺さることはなかった。

 偽オルタナティブはメインカメラに影すらも映っておらず、コーイチの声ではっと目を見開いた。

 

「後ろだ!」

 

「チィッ!」

 

 振り向きざまに得物を振るうもやはり偽オルタナティブの姿はない。

 そして必死に周囲を映すカメラを見回すと、空からソードメイスを落下の勢いと一緒に振り下ろす敵の姿が映る。

 

 即座に千子村正で受け太刀し、一度当たるだけで火花がけたたましく散る。

 オルタナティブのフレームが軋む。少しでも出力を下げようなら圧殺。ぺしゃんこにされる。

 

「まさか俺の機体の外ヅラで使う姿を見る事になろうたァなぁ」

 

 機体が赤く発光し、動きの一つ一つに実体のない残像を生み出す。

 オルタナティブには本来積まれていない機能だ。

 

「TRANS-AM……!」

 

 カタナは忌々しげに舌打ちした。

 トランザムシステム。英語表記だとTRANS-AM。ガンダム00の西暦世界において、GNドライヴ搭載機に与えられた一種のリミッター解除機能だ。

 機体スペックを通常の3倍にまで引き上げるという恐るべき力を秘めている。

 

 理屈としては機体内部に蓄積された高濃度圧縮粒子を全面開放させるとか、今はそんなことはどうだって良い。重要なことじゃない。

 

 

 パワー差があちらの方が上回っている。

 だが、横殴りにコーイチのガルバルディリベイクがシールドに内蔵された滑腔砲を発砲した。

 このまま鍔迫り合いしていれば見事に命中して重心をずらすことが出来ただろう。しかし偽オルタナティブはそれをせず、真オルタナティブを蹴り剥がし、機体を空中で自在に動かしガルバルディリベイクの射撃を避けてみせた。

 追撃でカタナも千子村正を納刀し、代わりに両腰の《クスィフィアスレール砲》バックパックの両ウイングに内蔵された2門の《バラエーナプラズマ収束ビーム砲》の計4門の砲撃武器で以上から弾幕を貼る。

 

 まるで弾丸の雨だ。それをトランザム特有の滅茶苦茶な機動力で全弾避けてみせた。

 

「無駄だってんだよ! そんな産廃装甲のアストレイもどきと、遅えだけのグシオンリベイクもどきにSDとかいうにわか女どもがよってたかるだけのリアリティのない趣味枠が! 俺に勝てると思うなよッ!」

 

 随分な言われようである。

 ガンダムというものは作品の性質上宗教戦争じみたファン同士の対立というものは多々ある。野球と宗教と政治、ガンダムの話は知らない人に迂闊にするものではない。

 なので、これ以上の男の戯言は聞かず、問わず。今回の場合黙って退場して貰うのが正しい方法だ。

 

「さぁ! ソードマン! ここで手始めにギガフロートに大穴を空けて差し上げなさい!」

 

「なんだとコイツ!」

 

 一連の戦闘を見ていたエピオン改の発した指示で、元々無軌道だった偽オルタナティブの動きが露骨に変わる。咄嗟にマップを見ると、偽オルタナティブの向かっている場所がジャンクマーケットの中心地であった。

 そこにはまだ避難を済ませていないジャンク屋連中がわんさかといる。

 

 カタナは咄嗟にコンソールを叩きながら操縦桿を引く。するとオルタナティブのバックパックの翼が2枚羽から5枚羽へと変わり、高機動形態ハイマットフォームへと移行する。

 荒らされるのが先か、こっちが止めるのが先か。

 

 一番速く動けるのはオルタナティブだ。満身創痍の騎士ガンダムと、重装甲のガルバルディリベイクでは間に合わない。

 カタナは何も言わずに偽ソードマンに向かって飛び出した。

 

 

 

 

 トランザム状態の相手が、移動からの降下。

 破壊を始める時間とこちらが迎撃態勢に入るまでの時間を計算するならばほぼ同じだ。

 

 あとは──間に合わせるのみ。

 

 

「来い! ツインバスターライフル!」

 

「何ッ!?」

 

 偽オルタナティブの手元に、虚空から兵器が現出する。ウイングガンダムゼロが持つツインバスターライフルだ。

 あまりにも強烈過ぎる光景にカタナは目を見開いた。降下してソードメイス攻撃をするのではない。それ以上に強力な一撃を放とうとしている。

 

 そしてチートによるブーストを考慮すればギガフロートが沈没するという最悪の事態を幻視してしまう。

 させるか。これ以上好きにさせるか。

 

 以前ここで出会ったアストレイ使いのニヤケ面が浮かぶ。ふざけんなくそったれ。テメェの思い通りにさせてたまるか。

 

 上空からツインバスターライフルの射撃準備に入る偽オルタナティブの下、ハイマットフォームで地面すれすれのところを背にクスィフィアスとバラエーナを同時展開。

 照準をバラエーナをツインバスターライフルに。クスィフィアスをコックピットに合わせて発砲した。

 

 ビーム砲とレールガン。

 原作アストレイでも散々っぱら描写されていたが、GBNにおいても前者の方が弾速が速い。

 勿論このゲームにおいてビーム兵器は目視で避けられるようにバランス調整されているが、その事実に揺るぎはない。

 

 まずは手元にダメージを与え、本体に当てれば反動で射線がある程度揺らぐはずだ。

 しかし、今この瞬間悠長にフルバーストフォームに変形していればギガフロートは火の海だ。

 変形する時間すら惜しいこの現状やれることはただ一つ。

 

 

 ハイマットフォームのままフルバーストフォームになればいい。

 ハイマットフルバースト。

 オリジナルのフリーダムがやっていたことを贋作がやろうとするならばただでは済まない。

 アレは全身を走るフェイズシフト装甲と多量のエネルギーを自己生成する核エンジンの合わせ技が可能とさせた力だ。

 今やろうとしていることは通常のアストレイに150ガーベラを持たせるようなものだ。

 

 それほどこのモビルスーツは筋肉モリモリマッチョマンに仕上がってはいない。

 アストレイタイプで無理やりフリーダムの装備を真似たのだから当然といえば当然ではあるが。

 

「間に合えぇぇぇぇっ!!」

 

 叫びと共に銃口から放たれるプラズマ砲とレール砲。

 ツインバスターライフルの銃口は紫電を散らしており今にも爆発しそうな勢いだ。

 

 この場にいた者皆が目を覆う。

 誰もが皆あのツインバスターライフルの威力を知っているのだ。

 コロニーを吹っ飛ばすだけの威力をギガフロートが受けたらどうなるのか。誰かに教わらなくたってわかる。

 

 恐るべき破壊兵器の膨張したエネルギーが爆発するより先にプラズマ砲が偽オルタナティブに命中。射線が僅かにぶれたところで追撃のレールガンがボディに炸裂した。

 爆煙が咲くと同時に内側のツインバスターライフルの銃口から放たれた黄金色の光芒が爆煙を裂き、海面目掛けて吸い込まれるように着弾。

 

 

 

 遥か遠くから水が塊となって浮く音がした。そしてその光芒は鞭のように上にしなり、雲を切り裂き、成層圏に──消えた。

 

 

 

 

 

 

 

「あっ……ぶねぇぇ……」

 

 ギガフロートごと海の藻屑にされるところだった。偽オルタナティブが煙を上げて墜落していくのを見ながらカタナは安堵する。

 無茶の賜物と言えるその行為。しかし当然代償が伴った。

 

 機体のスラスターが反動を殺せず、バックパックが地面を擦り火花を散らし、金属と金属が擦れ合う不快な音をまき散らしながら窪みに装甲の突起部分が引っかかるや否や派手に転がり近くのビルに突っ込んだ。

 

「あだっ!?」

 

 コックピットが派手に揺れ、モニターに頭から突っ込む。

 デフォルトの立ったまま操縦するタイプならきっとコックピット内で身体が鞠のように跳ねていたに違いない。

 幸いカタナがいま使っているコックピットはC.E.のタイプでシートベルトもあったので頭を突っ込むだけで済んだが、デフォルトより狭いのが仇となったらしくめり込むようにモニターに顔がくっついていた。

 

 GBNはその高すぎる再現性から本来ないはずの痛みを思い込みで感じてしまう人間もいるのだという。

 

「いってて……」

 

 今し方それを実感した気がした。

 モニターから離れて手で顔を覆う。機体状況はフェイズシフト装甲が機能したお陰で損傷は軽微。ただパイロットの損傷は甚大である。

 こんなの絶対おかしいよ。

 

「おいアンタ大丈夫か!」

 

 見ていたジャンク屋操るヘルメットを被った人型マシーンのデスペラードら作業機らが駆け寄る。

 

 それを他所にカタナは機体を起こす。

 あの偽オルタナティブがあのまま破壊されるわけがない。このまま叩き落としくれる。

 

 コンソールを叩きながらジャケット換装用の項目を開く。欄に出てきたのはこれまで使ってきたメテオ、ワイルド、スケイル、そして……ジンバー。

 恐らくこの状況ならパワータイプのワイルドで肉弾戦に持ち込むのが正しいのだろうが、この瞬間は感傷を持ち込ませてもらう。……あえて同じ条件で叩き潰す。

 

「アンタ、一体何なんだ。本当にソードマンなのか」

 

「……」

 

 知るものか。

 誰かの作った人斬り像なんて。

 知るものか。

 誰かの作った贋作なんて。

 

 カタナは疑問には返さず、機体を真上に跳躍させ、空高くから地上の偽オルタナティブを見下ろす。

 

追加装甲(フライハイトジャケット)解除(キャストオフ)。来い、ジンバージャケット」

 

 弾け飛ぶフライハイトジャケット。入れ替わりにオルタナティブの隣に黒く鈍い光を放つ金属の塊が飛来する。

 ジャケットフライヤー。換装のために自律行動するジンバージャケットの単独飛行形態だ。

 

「ジャケットフライヤー・パージ、追加装甲(ジンバージャケット)……構築(ビルドアップ)

 

 ジャケットフライヤーがパーツごとに分離し、パーツの一つ一つがオルタナティブの周囲に集まりそのまま覆いかぶさるように装着。

 アストレイオルタナティブジンバージャケットが完成する。そしてスラスターを一度噴射してそのまま慣性で偽オルタナティブのもとまで一直線に着地した。

 

「どっちのアストレイが強いか、ケリ付けようや……!」

 

 千子村正を抜刀し、刀身に偽オルタナティブの姿を映す。そして刃を敵に向けて真っ直ぐ見据えた。

 味方のガルバルディリベイクと騎士ガンダムはまだこの場に辿り着くことはない。

 であればここでシメることにする。

 

 

 

 STAGE36 と偽

 

 

 

 直進してきた偽オルタナティブを前に真オルタナティブは正眼の構えを崩さず攻撃を待つ。そしてトランザム状態で迫る偽者がある一定の距離にまで迫った次の瞬間、持ち上げた得物を真っ直ぐに振り下ろした。

 

 このまま真っ直ぐ向かうのならそのまま縦に真っ二つ。そして──

 眼前の偽オルタナティブの姿が掻き消える。気付いたカタナの真オルタナティブは機体の片脚をもう片脚の後ろに運ぶ。空振った得物はそのまま切っ先が床に落ち、上を僅かに滑る。そして掬い上げるように背後を斬り上げた。

 

「なん……だと」

 

 背後に回っていた偽オルタナティブが深い切り傷を作りながら驚愕する。

 何故だ。

 こちらの動きを完全に読まれているんだ。

 何故だ。

 こっちはあちらの機体データにブレイクデカールによるバフを載せているんだぞ。

 

 ソードメイスを持ったライトアームごと切り裂かれた偽オルタナティブは咄嗟に千子村正を引き抜こうとレフトアームを動かす。しかし──

 

「俺の剣が!」

 

 既にオルタナティブが偽者の千子村正を奪い引き抜いていた。逆手持ちに持たれたそれを見せつけるように柄の端……言わば(かしら)に相当する部位を突きつけるように構えていた。

 そして元々持っていた千子村正は機体の肩にかけている。

 

 

 偽オルタナティブは泡を喰って後退しながら新たに、虚空から光球状のビットをを呼び出す。

 ドラえもんのポケットのごとくホイホイとアビリティを発動させていくその姿はガンダムじゃないが、さながらゲートオブバビロンだ。

 

 

 インチキ能力も大概にしていただきたいが、そんな泣き言をほざいた瞬間負けるのは必定。

 技量の方でアドバンテージは取れても機体性能では完全に負けてしまっている。

 その貴重なアドを心理的に殺すような真似は極力避けねばならないのだ。

 

 強がれ、勝ち筋があると確信を持て。

 

 飛び交う光球状のビット。

 恐らくこれはガンダムAGEに登場する敵ガンダムタイプ・レギルスが有するレギルスビットだろう。

 搭乗者の意識に従って動き、ダイレクトにぶつかってくるというシロモノだ。

 だが生憎千子村正は光学兵器だろうが平気で斬り裂く。

 

 

 無駄だ。

 

 

 無数の飛び交う光弾を時には最低限の動きで避け、二刀で無力化していく。

 極限に高めた照準だろうがこうして使い方を誤れば、こうして全弾台無しにされる格好の例だ。

 

 この手の武器はまず相手を撹乱させて攻撃に入るべきだ。単純な飽和攻撃ではこうして読まれた挙句に防がれる。

 

 正面から降り注ぐ光の雨は、オルタナティブのジンバージャケットに施されたラミネート装甲で受けるか、回避されるか、二本の千子村正で掻き消されるか。

 一方的な展開に偽オルタナティブの動きにやや怯えが見えた。

 

 行ける。

 

 この手の勝負は弱みを見せた瞬間付け込まれる。偽者は今この瞬間勝ち筋を自分から投げ捨てたのだ。

 ビットが打ち切られ、オルタナティブ2機がゼロ距離にまで詰め寄ったところで、本物の方が一太刀浴びせた。

 一撃浴びせればここからはこちらの番だ。ソードメイスをライトアームごと斬り落とされ防御手段を半分失った偽オルタナティブはトランザムによる高機動で避けに入るがもう遅い。

 こちらも既にリミッターを切っている。

 

 オルタナティブのブレードアンテナからビームが炎のように発せられ、緑色のツインアイが真紅に切り替わる。

 冷却フィンからは蒼白い焔が噴き出し、刃物の届く距離から離脱出来ないほどのラッシュが偽オルタナティブを襲う。

 

「なんだテメーは! 突然現れて変な装備取っ替え引っ替えして突然暴れやがって通り魔かよ偉そうに!」 

 

 頭にマイダスメッサーもといブーメランが刺さっている。お前も同じことをやっているのに。お前が俺の真似をした瞬間からその言葉に正当性は失われているんだ。

 最早まともに取り合う義理はなかった。

 

「あ? なんだチミはってか? そうです、俺が──」

 

 斬。

 アッパーカット気味に振るわれた逆手持ちの奪った千子村正がクリーンヒットし、トランザム状態が解けてコーヒーのシミが白地に拡がるように元の姿に戻りながら、仰向けに倒れていく偽オルタナティブを見下ろす。断たれたアームの断面から触手のようなものが生え始め、機体装甲の各部からナニカが蠢く生々しい音も聞こえてきている。

 

 そうだ、このままトドメを刺せ。次の別の力を使われる前に。またあのデストロイのようになる前に。

 ソードマンという名に未練も愛着もない。だが、このような奴にくれてやるものでもない。

 

「ひっ」

 

「変なダイバーです」

 

 と迷いなく無情の白刃を振り下ろした。

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 カタナの救援に向かおうとしていたカドマツとコーイチの前に、あのエピオン改がこちらに立ちはだかり空から地上へ降り上りを繰り返すヒットアンドアウェイを繰り返していた。

 

 それをコーイチはガルバルディリベイクの持つ近接兵装《ハンマープライヤー》で防いでは逃げる相手に滑腔砲を撃つもてんで当たらない。

 

「無駄ですよその鈍重な鉄屑ではなぁ! このGBNβ時代のバージョン0.13時代の()()()()()()の前ではねぇ!」

 

「過去のデータを参照したのか⁉︎」

 

 コーイチも知っている。

 最初期のGBNにてβテスト時代バランスが酷かった時期があったことは。ネットでもやたらとdisられた暗黒時代。

 ゼロシステム並びにエピオンシステムが当初のレベルの高いAIを使用し猛威を奮っていたとかいう曰く付きだ。

 

 

 だが、それに対してコーイチは怯みもせず、淡々と自機の機能を確認する。

 メイン兵装のハンマープライヤー。

 その名の通り工具のハンマーとプライヤーを合わせたような複合兵装だ。

 ソードメイスより重たく太く重厚な鉄塊に、先端部にハンマーが取り付いている。

 

 シンプルでかつ大雑把な作りであるが故に、その強度は折り紙付きだ。

 多少の実弾はおろか、ちっとやそっとのビーム兵器なぞ無意味なものに変えてしまうほどの強度を誇っていた。

 振るわれたビームソードをそれで受け流し、飛んできたヒートロッドは避けてからハンマープライヤーをこじ開けロッドそのものを挟んだ。

 

「何ッ!?」

 

「捕まえた……!」

 

 エピオン改のヒートロッドはシールドと一体化している。

 つまるところ今この瞬間、本体ごと捕縛したに等しいのだ。

 

「離せこのっ! 離すんだよッ!?」

 

「誰が離すかッ!!」

 

 必死にジタバタする彼にコーイチは確信する。この男に分離という発想は無い。

 加えてあのエピオンシステムをアップデート前のデータを無理矢理抽出しただけの旧仕様ではこちらの武器は参照出来ない為不完全だ。

 最初期の仕様ではハンマープライヤーなど存在しなかったのだから。

 やはりオリジナルのエピオンシステムやゼロシステムには程遠い。そして搭乗者も使いこなせていない。

 

 GBNを始める前軽い気持ちで覗いてみたとあるフォーラムからの抜粋だが。

 GBNのゼロシステム系列は不完全だ。何せ、調整が難しいのだ。自立稼働するAIを搭載しようならあっという間にバランスが崩壊するし、既存データを参照し算出するシステムもやり過ぎればアップデートごとに手入れをしなければならなくなる。

 ただ、一時期GBNは後者を採用した。結果として猛威を奮ったが度重なるアップデートや追加要素もあり自由度が高まるにつれて未来予測の機能停止を起こしたり処理落ちを招いたりと弊害が多かったため、今のあまり毒にも薬にもならない仕様で落ち着いた。

 無論、イレギュラーがない状態での撃ち合いならそこそこの強さを発揮するので中堅クラスのお供として最適だ。

 

 ただし、このハンマープライヤーはイレギュラー中のイレギュラー。

 残虐メイスことレンチメイスや、鉄血ニッパーことシザース可変型リアアーマー、グシオンハンマーなどを足して3で割ったようなオリジナル兵装だ。

 埃かぶった旧バージョンのAI如きで捌けるものじゃない。

 

 そんな背景を知らずにホイホイと過去データを抽出してきただけで勝てやしない。

 

 逆にこちらが釣り上げられないように滑腔砲を撃ち込み続ける。相手は既に行動を制限されているお陰で面白いように当たる。

 

 

 

 こんな状況なら敢えて距離を詰めてインファイトを仕掛けるのが正解だった。

 だが奴は日和ってしまった。それが奴の敗因だ。

 

「えぇい何故当たる!? ゼロだぞ! 俺が勝つ未来を見ろォォォ!」

 

 反撃をさせるな。思考をさせるな。やられる前にやれ。ならばこっちは残虐だ、殴れ殴れ殴れ。

 あのベアッガイランドで見てきたことから学んだことだ。

 

 だが、一発一発がフェイズシフト装甲持ちを酷く揺らすはずの滑腔砲を一頻り撃ち込んだ所で撃墜にまでは至らなかった。

 弾数は既に数えるだけしか残っていない。

 となればレフトアームに納められたハンマープライヤーを使う。

 射撃しながら出力を調整し、センサー類を最後の一発を打ち切ったタイミングでメインカメラ以外は全カット。

 そして──

 

「はぁッ──」

 

 エピオン改をぶん投げた。

 ガルバルディリベイクのパワーは下手なモビルスーツを上回る。出力を上げる前のエピオン改が相手ならさしたる問題でもない。

 

「のわッ!?」

 

 地面に叩きつけられたエピオン改。落下地点はやや離れている。このままハンマープライヤーで圧殺するべきであろうが、距離を詰めている間に態勢を立て直されたらこれまでの苦労が水の泡。

 だというのなら──

 

 

 機体の姿勢制御を強引に上げたエピオン改は立ち上がろうとしている。想定通りだ。

 そして、フルアーマー騎士ガンダムが炎の剣を携えて風を焼きながら疾る。

 

「まさか姿を消していたのはッ!」

 

「そういうことだッ!」

 

 騎士ガンダムが起き上がる寸前のエピオン改に炎の剣を振り上げる。既に詠唱は終わっており最早、避けられる余地は残っていなかった。

 

「このッ……私がこんな所でぇ!」

 

「まずは貴様から落ちろッ!!」

 

 ぶち抜かれたエピオン改はコックピットに大穴を開けて両膝を地につける。

 マスダイバーの防御アビリティの呼び出し行為には武装カテゴリがSP属性の武器を叩き込めば無視して大ダメージをたたき込むことができる。

 リクに教わったことだ。

 

「やった……のか?」

 

 機能を停止したエピオン改。コックピットは既に消し飛んでおり乗り手の姿も最早なかった。

 しばらくするとまるで風化するかのように、無数の青白いデータ片のように流れ消えていった。

 

 掴むものを失ったハンマープライヤーを腰のリアアーマーにマウントし、離れた中心地から聞こえる打ち合いの音を機体のマイクが拾う。

 真ソードマンと偽ソードマンがやりあっているのだろう。

 

 そしてその音はやがて静かになり、現場に進んだ時には既に全てが終わった後だった。

 

「短時間で単独で落としたのか……」

 

 隣で驚愕する騎士ガンダムを他所に、コーイチは眼前に広がる光景を目の当たりにしていた。

 各地で上がる煙、中心には2本の千子村正を持ってぽつりと佇むほぼ無傷のオルタナティブ。

 一人でやり切ったとでもいうのか。

 

 離れた所でジャンク屋のモビルスーツたちはどうすればいいか分からず遠巻きに見ていた。

 オルタナティブは一本を投げ捨て、空を見上げる。このまま何処ぞの光の巨人の如く飛んで帰りそうだ。

 

 一声かけようとプライベートチャネルを開こうとした矢先、ビームライフルの銃声が木霊した。

 

「「!?」」

 

 誰が撃った? オルタナティブの足元が赤い光で焦げ付く。

 コーイチもロボ太も咄嗟に周囲をキョロキョロし、飛んできた方を見ると、そこにはビルの上でジムスナイパーがライフルを構えて立っていた。

 

「最早これまでだ、ソードマン」

 

 ジムスナイパーのそばにはロングソードを持ったグレイズが立っており、他にもオルタナティブを取り囲むようにその他GBNガーディアンズのモビルスーツがずらりと並び立つ。

 このまま飛べば集中砲火で消し飛びかねない状況であった。

 

 漁夫の利を狙ったか。道理で真ソードマンの出現から何もしてこなかった訳だ。

 本物にしろ偽物にしろ、GBNガーディアンズからしたら知ったこっちゃないのだ。そこになんの価値も無いのだ。

 何処かの怪獣映画ではないが「勝った方が我々の敵になるだけ」なのだから。

 

「ソードマン、貴様をここで落とす。理由は分かるな?」

 

「分からん」

 

 即答。

 待ってくれ、おかしいだろ。マスダイバーと戦っていた奴が何故こんな袋叩きに遭わねばならないんだ。と、コーイチもロボ太も割り込もうとするが、カタナが先に手を打っていた。

 短い一言で敵のヘイトを煽っている。

 

 余裕綽々に千子村正を肩部に掛け、リーダーのグレイズを見やる。

 

「この数はエグくないか……バトルの申し込みなら数絞ってくれねェか……」

 

「外道にかける情けなど無い! 撃てッ!」

 

 リーダーの合図と共に、四方八方のモビルスーツが一斉に射撃武器のトリガーを引いた。

 しかし最低限の動きで被弾を最小限に抑え、飛び交う弾丸を切り裂き無力化していく。

 

 まるで雨のように降り注ぐ銃弾を前にコーイチは機体を前進させ、オルタナティブの前に出た。

 流石にこれ以上看過出来る状況ではない。こんな袋叩き、許されていいはずがないのだ。

 

 ハンマープライヤーを盾代わりに降り注ぐ弾丸を受け止める。それに気付いたGBNガーディアンズは咄嗟に撃ち手を止めた。

 

「何故邪魔をする⁉︎」

 

 反駁するGBNガーディアンズからは威圧めいたものを感じる。下手な返答をすれば二度とこのGBNの敷居を跨げない、そんな気がした。それでも引いてはならないラインというものはコーイチにもあった。

 

「君たちは見たのか!? あのアストレイがジャンク屋を襲うのを! マーケットを襲っていたのはあのもう一体じゃないのか!」

 

「今日は見ていない。だが、これもまた作戦の可能性も高い。それにもし仮に偽者が居たとして何のメリットがあると言うんだ? このゲームプレイヤーである者ならば消滅を望むほどの悪人を。今更偽善者ヅラをした所で既にネタは上がっているんだぞ……!」

 

「そのネタとやらが疑わしいと思わないのか!」

 

 ロボ太も反駁するものの、最早眼前にいる者が倒すべき敵であると言う前提でものを語っているGBNガーディアンズ相手には届かぬ言葉であった。

 その一方で、何故かオルタナティブが鞘に収めた千子村正をバトンのようにくるくる回し遊び、飽きたら腰に収めて、開いた両腕を上下に振るモンキーダンスを踊り始めていた。

 

──ふ、ふざけているのか

 

 明らかに煽っているようにしか見えない動きにコーイチの表情が限界まで引きつった。

 

「あったまってんなァ。後で挑戦なら幾らでもうけてやらァ、そっちの前のガルバルディと騎士ガンもかかってこい、望む所だ。でも事前に掲示板にXYZと決闘を申し込むって書いとけ。紳士の嗜みだぞ」

 

──なんでそう君は煽るような真似をするんだ!? というか紳士って何!? というかXYZって何!? 

 

 突っ込むコーイチを他所にモンキーダンスをやめたオルタナティブは沸き立つGBNガーディアンズを他所に、地面を強く蹴り何処かへと飛び去った。

 慌てて、射撃武器を使うものの一度加速し切ったオルタナティブを捉えることは不可能。逃げるように飛び去るそれを見送りながらロボ太は呟いた。

 

「まさか、庇ったのか……俺たちを」

 

 ヘイトをカタナ自身に集めて、コーイチたちを事情の知らない間の悪い奴として処理させようとしたのか。

 時既に遅し。

 真意に気付いた時コーイチは、カタナとビルドダイバーズを隔てる壁のようなものを感じた。

 

 馬鹿な男だなぁ……本当に、大馬鹿だ……

 

 

 

 

 

 それからというもの。

 GBNガーディアンズ連中に叱られ、ソードマンがいかに危険人物かを熱弁され1時間かけてコーイチもロボ太諸共ようやっと解放された。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 カタナは遠方から見える黒煙を燻らせるギガフロートを見下ろしながら小さくボヤいた。

 

「ったく、なんてことしやがる……」

 

 なんでそんな自分を庇うような真似をしたのか問い詰めたかった。そんなことをすればGBNガーディアンズの標的になるだけだというのに。

 そんな事をするくらいなら、黙って見ていればいい。

 

 カドマツからも気負いめいたものを感じられた。恐らくもうこれ以上協力を望むのも無理だろう。それにあちらからもマスダイバーの情報をくれるとは思えない。

 こういう時一人が一番楽だ。

 巻き添えになる人間は少ない方がいい。くたばるのはチーターと自分と首謀者だけでいい。

 

 

 

 それにしても、あの偽物は妙に手応えが無かった。あまりにも呆気ない偽ソードマンの倒れ方にカタナは引っかかりを覚えていた。

 だがそれを確認する余裕が無かったのは惜しむべきか。このまま出てこなければ良し、また出てくれば倒すのみだが、妙にすっきりしない幕引きだった。

 とはいえ確認するためにこのままUターンしようなら自警団にタコ殴りだ。大人しくギガフロートエリアから離脱しようとした矢先、機体が誰かの声を拾った。

 どうせGBNガーディアンズの恨み言に違いない。シャットアウトしようとした矢先、その手を止めた。

 

「あー、あー、テステス。えー、聞こえるかソードマン。私はジャンク屋連盟ガンズの代表だ。……一体どう言う状況なのかは俺達には分からない。けれどもあの怪物からマーケットを救ったのは事実だ。そのことに深く感謝する」

 

 声の主はジャンク屋だった。

 拍子抜けすると同時に少し肩が軽くなったような、そんな気がした。

 

「っていうか、そのガンダムの換装かっちょいいな! 後で自警団引き払ったら見せに来……いでぇっ! アネゴ!拳骨はねえだろ!」

「こんな状況で招くバカがいるかい!」

 

 先程までの偉い人風の挨拶はなんだったのかと言わんばかりに子供のような、顔は見えないがきっと目を宝石のように輝かせているに違いない言葉が飛んできた。

 そして咎めるような鈍い拳骨の音がしたと思ったら別の勝ち機な女の声が聞こえてくる。喧騒も聞こえてくるお陰で騒がしさ抜群だ。

 

「ウチらのジャンクマーケットはヤカラ以外来るもの拒まずって信条さね。まぁ安くしといてやるからいつか、遊びに来な」

「って言うワケだ! あばよSAMURAI!」

 

 ぶつり、と一方的に話して一方的に漫才を始めて、一方的に通信を切られた。

 嵐のような物凄い勢いで切断された通信にカタナはどんな顔をすればいいのか分からなかったが、今この瞬間抱いている一つの思いだけは確かだった。…………ジャンクマーケット、行きたかったなぁ。

 




 知らない人に政治と宗教と野球とガンダムの話は迂闊にしてはいけない。死ぬぞ(あなたの心が)。


 余談ですがブレイクデカールの力の源は「想像力」。パワーにムラがあるのはそういうことです。思考をさせずに相手をビビらせる威圧も無意味ではなかったりします。
 外伝のブレイクはブレイクデカールの使い方について語られてたり、可愛いアヤさんと凄く怖いアヤメさんが見られるので是非是非読んで欲しいです(小並感)
 マギーさんの長話の内容もブレイクを読んでればもれなく変な笑いが出ます。



・ガンダムエピオン改(OZ-13.5MST)
 エージェントが搭乗していたエピオンの改造機。Tはトライアルの意、某アトリームからやってきたあの男ではない。
 基本装備はオリジナルとは相違ないが、とある機能をセットするための準備として手を加えられている。つまるところ未完成。



 次回、STAGE37  夏の日の午後   
 ……夏、それは死者が集う季節
 
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