シュウゴはガンプラというものを初めて組んだ。
ネットによると、初心者には初代、AGE-1やストライクがお勧めなのだという。MGやRG、PGには手を出すのは危険だとも。
個人的には形状がシンプルなガンダムMk-Ⅱなる機体が気に入ったのでそちらに手に取ることにした。
Mk-Ⅱや店員に押されて買った強化パーツらしきものが入った袋片手に、カナタたちに悟られないように人目を気にして帰る様はさぞかし不審者か何かに見えていたことだろう。
無事帰宅し、
「待っていたわぁ、ゴーシュ。アナタのガンプラ、組めたかしら?」
あれからマギーに基礎知識を教えてもらってから、一週間ぶりのログインだ。彼は広場のど真ん中に居た。
「えぇ。お陰様で」
ゴーシュはマギーのもとに駆け、頷いてから彼の傍に険者を思わせる青い衣装の少年と、同じくも少し趣が違った緑の冒険者風衣装に帽子と眼鏡を掛けた少年。そして白いワンピースを着た小柄な少女。3人のダイバーの姿に気付いた。
「彼らは?」
「アナタと大体同じタイミングで始めた新米ダイバーズよ」
「マギーさんから話を聞いてます。俺はリクです」
「ユッキーです!」
「……サラ……」
青い少年と緑の少年、そして白い少女が次々と名乗る。名乗られた以上こちらも名乗ろうと、ゴーシュは口を開く。
「マギーさんに色々聞いているか。俺はゴーシュだ。よろしく」
この中のリーダーに相当するらしいリクがゴーシュが差し出した手を握った。そんな光景を見ていたマギーは少し考え込む仕草をしてから口を開いた。
「んー、ってことは早速4人で何かミッションでもやってみる?」
「……俺は良いですけど3人はいいのか?」
突然の提案に面食らったゴーシュはリクらに訊いてみると、迷うことなくリクたちは一寸の迷いも無く頷いた。
「勿論です! こうして一緒にミッションをする仲間が増えるのは俺たちも嬉しいですから!」
残る2人も異論はないらしく笑顔で応える。
即答で受け入れたリクの良い子っぷりに眩しさを覚えながらマギーが紹介する初心者ミッションの準備に4人は入った。
◆◆◆
今回のミッションは、探索ミッションと殲滅ミッションを兼ねるちょっとしたRPGのダンジョン形式だ。全部で2つのフロアがあり、それを全て突破すればクリア。という内容だ。
これに挑むのは3機のモビルスーツ。
リクが操るガンダム・ダブルオーダイバー、ユッキーのジムⅢ・ビームマスター。そしてゴーシュのガンダムMk-Ⅱだ。
既に改造機を組んでいる2人に対しゴーシュの機体は素組み同然だ。スタート地点が違うことに初心者同士の隔たりめいたものを覚えた。
とはいえ、今のゴーシュ否、シュウゴにはリクやユッキーみたいな改造機を作るスキルは無いので無理しても致し方ないとは言える。
尚、サラは登録ガンプラが無い為リクのダブルオーダイバーに同乗する形となる。
リクのガンダムダブルオーダイバーは青と白を基調にしたガンダムタイプ。ウイングバインダー付きの通常スラスターに取り付けられた両肩部のとんがりコーン型スラスター(GNドライブというらしい)以外はシンプルと言える形状だ。武器は銃剣型兵装GNソードⅡ1本と下半身リアアーマーに搭載されたビームサーベル2本。
どちらかと言えば近距離寄りの機体だ。
ユッキーのジムⅢ・ビームマスターは機体カラーはオレンジがメイン。転じて外見だけでも武器庫と言える装備の充実ぶりだ。それでいてバランスも整っている。肩部のミサイルランチャーに手元のビームライフル。両腰にはバインダー型のビーム放射装置を2門搭載。他にも武器を仕込んでいる風だ。
最後にゴーシュのガンダムMk-Ⅱ。エゥーゴカラーなので黒いボディに白い四肢というカラーリングだ。装備はほぼ素組みなので原型機とまるっきり同じ。装備は手持ちのビームライフル、バックパックにビームサーベル2本をマウント。下半身のリアアーマーにハイパーバズーカを装備後は頭部にバルカンポッドシステムを搭載。
リクが近距離、ゴーシュが中距離、ユッキーが遠距離とすればバランスは良くはなるだろう。
早速ミッション開始だ。開始のスイッチを入れるや否や、3機は薄暗い空間に転送された。左右には朽ち果てたビルが立ち並び、平均18メートルのモビルスーツが横3列に並べる程の広さで、地下都市と形容するにはあまりにも広い空間であった。天井は金属板で覆われている。その世界に――空は無かった。
何かの騒乱で滅んだのだろうか。かつて人の営みがあったのだろう朽ち果てた街を4人は機体のモニター越しに見渡す。
『……皆。まずは次のフロアへの道を探そう』
リクの意向通り、ガンダムタイプ2機ツインアイとジムⅢ・ビームマスターのゴーグル型のカメラが点灯し、バックパックのバーニアに青白い火を噴かせ、機体を飛ばす。
その片手間にゴーシュはセンサーに目をやった。
「――NPC機が居る。それも2機……こっちを待ち構えているらしい――ッ後ろにも1機!」
リクのダブルオーダイバーは即座に肩部のGNドライブを前後違う方向に向けて機体を強制ターンさせ、腰に納刀したGNソードⅡを手に取り、構える。
そしてそのままのガンダムMk-ⅡとジムⅢビームマスターは其々得物を構えて、敵機が待ち構えているビルの陰目掛けてビームライフルを発砲した。
2筋の光芒が左右のビルを崩すと、隠れていたリーオーNPDが飛び出して来た。1機は道路上に。もう一機は崩れ行くビルの上にジャンプし、それからバーニアを吹かせ小ジャンプしながらこちらに距離を詰めて来る。
「俺は上をやる。ユッキーは下の奴を討ってくれ!」
『了解!』
ガンダムMk-Ⅱは跳び、ビルの上に乗る。ずしり、と音を立て軽く足元が沈む。18メートルもある鉄の巨人がビルの上に乗ること自体がおかしいか。ゴーシュの頬に嫌な汗が伝う。
小ジャンプしてビルの上を跳び進むリーオーNPDにビームライフルを発砲した。
しかしこまめにジャンプするせいで照準が定まらず、返しのマシンガンの弾丸が飛んで来る。
「チッ……」
シールドで防ぎ弾丸が止んだ瞬間、防御を止め機体を小ジャンプを繰り返してビルからビルに飛び移る。そして、ビームライフルを連射する。しかし小刻みにジャンプして動くリーオーNPDには効果が薄く辛うじて左腕部を焼き切ることは出来た。
「いたずらに連射して当たるものじゃないか。……カートリッジ」
ビームライフルに装填されたカートリッジを排除。既にあのカートリッジに残されたエネルギーは残り少なかった。こういう時慌てれば碌なことが起こらない。余裕のあるうちにタクティカルリロードを行いいつでも連射出来るように準備をしておく。
一方で道路上ではジムⅢ・ビームマスターとリーオーNPDが撃ちあっている光景が見られた。真正面からの撃ち合いならばジムⅢ・ビームマスターの方が上だが、リーオーNPDはこまめにビルの陰に隠れて砲撃を躱す。
地形を活かして立ち回っている。後方でダブルオーダイバーがビームサーベルを持ったリーオーNPDと斬り合っていた。
援護はあてには出来ない。一人で何とかしなければならないようだ。ビルとビルを飛び回りつつ、一定の距離を保ちマシンガンを放つリーオーNPDを憎らしく思いながら、Mk-Ⅱの左腕に装備されたシールド裏に取り付けられたシールドランチャーの存在を思い出した。そして僅かに沈む足元のビルを見ながらゴーシュは深呼吸した。
――よく狙えよ。一番脆そうなビルにアイツを乗せるんだ。
ビームライフルを撃ち、それを躱すリーオーNPDはビルからビルに飛び移り続ける。目的のビルに乗るようにその動きを制限し逃げ道を奪う。
そして――
「シールドランチャー!」
リーオーNPDが狙いのビルに着地する寸前にシールドランチャーを発砲した。
計画通り、とゴーシュはほくそ笑む。
ミサイルが一番脆いビルに炸裂すると同時にリーオーNPDがそのビルに着地した。
ぐらり、と足場が揺らぐ。そして――轟音を立ててビルが倒壊した。
チャンスは一瞬。落ちた粉塵を巻き上げ倒壊するそれの向かいのビル上に立ったガンダムMk-Ⅱは容赦なく残りのシールドランチャーを撃ち、煙を爆風で強引に吹っ飛ばす。そして泣きっ面に蜂の如くビームライフルでリーオーNPDのコックピットをぶち抜いた。
「精度が甘い。ビームライフルの出来が悪いか。それとも俺の腕が悪いのか。……どっちもか」
瓦礫を見下ろしながらゴーシュは呟き、奥歯を噛み締める。事実、自機の造りの甘さが性能に現れていた。
一方、ジムⅢ・ビームマスターが対応していたリーオーNPDは遮蔽物に隠れながら撃ち合いを演じていた。
総火力はユッキー側の方が上なものの、身軽さはリーオーNPDの方が上だ。しかもNPCとしての操縦精度の高さは過去に行ったチュートリアルの比ではない。悪戯に撃ち続ければ敵一機のために弾切れを起こす事になるだろう。
こういう状況こそマシンガンとか連射火器が活きるのだろうが、生憎今はそれを持ち合わせてはいない。
リーオーNPDは広い路上を蛇がうねるような動きでFCSを欺き続ける。
が、突如その背後でビルが倒壊した。
「……ゴーシュさん!?」
ゴーシュ操るMk-Ⅱのシールドランチャーが崩したのだ。崩したビルの上にはゴーシュが対応していた方のリーオーNPDが体勢を崩している。
このチャンスを逃す手はない。
ユッキーが対応しているリーオーNPDも予想外の倒壊で生まれた瓦礫にぶつかって、その脚を止めている。
好機、とビームライフルの銃口を向けた。チャンスは一瞬。
「これで!」
放たれた一条の光芒は狙い通り胸部のコックピットを貫いた。弱点である部位を撃ち抜かれ、膝を地に付け頽れる。
――倒せた……?
最初こそ実感はなかった。しかし沈黙し、鉄塊と化したそれを茫然と観ていると、やや遅れて実感が徐々に湧いてきた。
やったんだ。僕が
「……やった」
◆◆◆
味方機から大きく離れた場所でリクのダブルオーダイバーはGNソードⅡを抜刀し、単身リーオーNPDと接近戦を行なっていた。
互いの斬撃と斬撃がぶつかり合い、突風が溜まった砂埃を巻き上げ、火花が薄暗い空間を照らす。
リーオーNPDの反応は的確だ。チュートリアルの比では無い。横に振ればそれを防ぎ、突きを放てばそれを避ける。
そして鍔迫り合いに入れば蹴り剥がされてしまう。
CPUレベルの高いリーオーNPDに蹴り剥がされたダブルオーダイバーは地を踏みしめてブレーキをかけた。
「……だったらっ!」
手数を増やして避けづらくすればいい。その結論に至ったリクは即座に操縦桿を操作した。
リアアーマーにマウントされたビームサーベルを引き抜き投げつける。
投げられたサーベルは回転しながら目標目掛けて飛来するも難なくそれは弾かれ、明後日の方向に飛んでいく。
しかし、間髪入れずにもう一本のサーベルを引き抜いたダブルオーダイバーがリーオーNPDのすぐそばにまで肉薄していた。
「うぉおおおおおおおおッ!」
雄叫びと共に気合を入れ直し、まずは一撃。GNソードⅡを振るい、敢えてサーベルで防がせる。次は二撃。ビームサーベルをコックピット目掛けて突きを打ち込んだ。
確かな手応えを感じた。光の刃で胸部を貫かれたリーオーNPDは糸の切れた人形のように崩れ落ち、手元にある得物のビームサーベルは光を失った。
「皆はっ……!」
刺さったサーベルを引き抜きリアアーマーに格納したダブルオーダイバーは咄嗟に後方に方向転換した。戦闘が続いているならば助けに行くという切り替えはとうに出来ている。しかしリクの後ろにいたサラが
「安心して。大丈夫だよ……!」
サラの言う通り。杞憂だったらしい。
眼前には崩れ落ちたビルと鉄屑にされたリーオーNPD2機を背に歩くジムⅢビームマスターとガンダムMk-Ⅱの姿があった。
「……良かった。リクも無事みたいだ」
ユッキーがホッと胸をなで下ろす。今回のCPUは少数精鋭的なもののようだ。敵機の反応はいまのところは無い。ゴーシュはセンサーを一目確認してから機体を未だ脚を踏み入れていない方向に向けた。
「敵機反応は無し……2Fに繋がる所を探そう」
地下都市に機体を走らせ、暫くすると街が終わり広場が待っていた。その奥にはモビルスーツの身長でも余裕で入るぐらいのゲートが聳え立っている。
その縁にはMSが操作できるサイズのコンソールが配置されていた。それにゴーシュは機体を近付け、操作する。18mもする鉄の巨人が端末をカチャカチャ操作するという構図は中々シュールな光景に見える。
辛うじてシステムは生きているようだ。コンソールの画面が煌々と輝き、スピーカーから機械的な音声を放った。
《暗証番号4ケタを打ち込んで下さい ヒント:グリプス戦役開始》
「……グリプス戦役?」
グリプス戦役とはなんだ。ゴーシュは既に少し混乱していた。4桁の番号を打ち込めばいいので大体6561通りの番号を打ち込めばいずれ当たる。
――気が遠くなりそうだ。
ゴーシュが知っているガンダムの戦争と言えばCMとかでちょくちょく聞かされる一年戦争くらいだ。
『……分からないんですか?』
「……ぅ」
後ろでみていたユッキーが訊く。ゴーシュの顔は滝のような汗が流れていた。しかし強がったゴーシュのMk-Ⅱはユッキーの方を向いて身振り手振りでわたわたし始めた。
「わわわわわ分からなくてもももももも問題はないぞ!? 6561通り数字を打ち込めばいずれ当たるぞ!?」
完全に無茶である。そんなことをすれば制限時間ぶっちぎってタイムオーバーだ。一応タイトではないが制限時間は設けられているので悠長には出来ない。ユッキーは苦笑いしてから口を開いた。
『正解は0087。グリプス戦争は初代の続編である機動戦士Zガンダムで起こった地球連邦軍内がティターンズとエゥーゴに分かれ、終盤にはジオン残党のアクシズって勢力が割り込んだ三つ巴の戦争だね……っと』
ユッキーのジムⅢ・ビームマスターが割り込んでコンソールに0・0・8・7と打ち込むと重く閉じたゲートはこびり付いた埃をパラパラと落としながら音を立てて開かれた。
扉の向こうはMSが数機入るエレベーターとなっていた。ダブルオーダイバーとジムⅢ・ビームマスターが入り、ガンダムMk-Ⅱは開いたゲートの前で棒立ちで居た。不審に思ったリクがゴーシュに声をかける。
『どうしたんですか?』
「…………いや。自分は些か情けなくなって来たと思ってな」
同じ初心者ながらも差というものを見せつけられている気がした。遅れてガンダムMk-Ⅱがエレベーターに乗ると、操作を待たずに扉が閉じ、降下し始めた。
おーーーーーーん。とエレベーターの駆動音だけが耳朶を打つ。閉所で脅威と言えるものが無い空間に置かれて先ほどの問題で負った精神的ダメージが薄まって行く。意識が駆動音に溶け込んでしまいそうな錯覚に陥りそうだった。
そんな空間で3人とも無言で2Fに至るのを待ち続けた。
ついに止まると、サラが沈黙を破った。
『むこうに、なにかがいる』
彼女が言っていることは本当かどうかは分からないが、警戒するに越したことは無いだろう。開かれるゲートを前にして3機は構えを取る。
さて、鬼が出るか蛇が出るか――
待っていたのは――
『トールギス? でも黒い』
本来ならば白いはずのトールギスが漆黒に塗装されて、2Fの中心に立っていた。その事実にユッキーが疑問符を浮かべる。
2Fは何もないただっ広い殺風景な空間が広がっており、そこにポツリと居る黒いトールギスが目立って見える。
――なんだ、コイツ。
得も言われぬ『圧』を感じ、鳥肌が立つ。……息苦しい。
トールギスなるMSをゴーシュは知らない。デザインだけならリーオーNPDに似ている程度の感想しか浮かばない。
しかしこの圧力から感じ取れるものが一つだけある。
――コイツは只者じゃない!
ゴーシュのゲーマーとしての勘が警鐘を鳴らす。
リクとユッキーたちが先んじて室内に入るとトールギスの頭部のゴーグル型のカメラが紅く鋭く光った。
「拙い!」
ゴーシュが叫ぶと同時に黒いトールギスが動いていた――否。リクのダブルオーダイバーのすぐそばにまで肉迫していた。
『なっ――』
『避けて!』
ユッキーの叫びに応じるように、ダブルオーダイバーは肩部のGNドライヴから粒子を噴射させて上体を逸らす。そして次の瞬間すぐ横を黒いトールギスのビームサーベルが奔っていた。
紙一重の回避に、ゴーシュは極度の緊張に襲われながらガンダムMk-Ⅱのスラスターを吹かせ接近をかけつつビームライフルを連射する。
トールギスは全弾を躱し、味方機で最速と思われるダブルオーダイバーの速度とは比にならない機動力でこのフロアを縦横無尽に飛び回り始めた。こうなったら最早精度の甘いビームライフルは頼りにならないのは明白だった。
ビームライフルを棄てリアアーマーのハイパーバズーカをセットし、ユッキーのジムⅢ・ビームマスターは肩部に搭載されたミサイルランチャー発射の準備をする。そして、ガンダムMk-Ⅱが大きくジャンプすると同時にミサイルが発射された。
飛び回るトールギスを追ってミサイルが飛び、トールギスは殺人的な加速度で振り切りにかかる。
一方でジャンプしたガンダムMk-Ⅱは落下速度をスラスターで抑えゆっくりと降下しつつ照準を、ミサイルから逃げ回るトールギスに合せずに速度に合せて予測照準を合わせた。
「行けぃ!」
バズーカの弾丸が放たれ少し離れた所で弾が破裂、無数の金属がトールギス目掛けて飛び散った。
予測も狙いも完璧。が
命中率は高くても威力が心もとない。金属はトールギスの装甲に軽くめり込んだだけで飛行に支障はまるでなかった。
「チィッ! 散弾では――ッ」
マトモにライフルを当てなければ意味がないというのか。スピードも装甲も兼ね備えた相手にどう勝てばいいのか。一頻り散弾を撃ってからMk-Ⅱを着地させゴーシュは思考する。
しかしトールギスも待ってはくれない。ミサイルを振り切ってから肩部に固定していた大型ライフル(ドーバーガン)でガンダムMk-Ⅱを狙い撃つ。
「えぇいッ!!」
ビームの奔流が空間を照らし、着弾した金属の床が紅い熱を帯びる。小ジャンプを繰り返しそれらを避けるものの、今反撃に出てもあのビームの餌食になるのが目に見えていた。
ユッキーとリクの機体がそれぞれの得物でビームを撃つが、圧倒的な機動力で虚しく空を切るばかり。
そして偶然一番近くにいたダブルオーダイバーを見るや否やシールドの裏面からビームサーベルを抜き放ち、手に持っていた得物GNソードⅡを弾き飛ばした。
『しまッ――まだッ! こっのおおおおおおおッ!』
無理矢理崩れた機体の姿勢をGNドライヴとスラスターの噴射で取り戻し、ヒット&アウェイで離脱しようとするトールギスの装甲を掴んだ。
あまりにも無茶ながらも、今のトールギスを倒すには一番効果的な方法でもあった。振り切ろうとバレルロールするものの、噛みつかん勢いで逃がさない。
ダブルオーダイバーの重量も加わったトールギスは最早先ほどまでの殺人的な機動力は見る影もなかった。
今ならば、完全にトールギスの機動力を落とす事は叶うかもしれない。見た限りトールギスの機動力はバックパックの2基のブースターから来ていると思われる。であればそれを破壊してしまえば勝機はある。
ゴーシュはシールドを棄て身軽になった機体を再びジャンプさせ、正面から押さえつけられているダブルオーダイバーを振り落とそうと必死になっているトールギスの背中目掛けて、頭部に装備されたバルカンポッドシステムを起動させた。
幾ら装甲が堅牢だろうと、スラスターの中に弾丸が一発でも入ればひとたまりもない筈だ。狙い通り、片方のブースターに命中。引火してバランスを崩し煙を上げひょろひょろとした軌道で落下し始めた。
トールギスの重装甲の重さに衰えた飛行能力が耐えられなくなっているのだ。
「――今だッ!!」
ゴーシュが叫ぶ。
誰に? それは勿論――ユッキーだ。
ジムⅢ・ビームマスターはビームとミサイルの残弾を全弾撃ち尽くす勢いで撃ち出し遅くなったトールギスにありったけ叩き込んだ。
最初はビームで脚を撃ち抜かれ、更にバランスが崩れた所をミサイルの群れが爆発。
黒い装甲が焼け、煤だらけになった機体が爆風を突っ切って姿を見せた。やはりしぶとい。ミサイルを以てしてもまだ原型をとどめている。
ならばやる事は一つ。
ビームサーベルを引き抜いたガンダムMk-Ⅱとダブルオーダイバーが飛び、トールギスの前に位置取り――真正面からトールギスの装甲を斬り裂いた。
《MISSION COMPLETE》
爆発四散。あの異常なまでの加速を見せていたトールギスは電子に消えた。
「よしッ!」
「「やったぁぁぁぁぁぁ!!」」
勝利条件も達成し、ゴーシュは握りこぶしを作りガッツポーズを小さく取る。リクとユッキーも同様、歓喜の声を上げた。
それにサラは微笑みながらその姿をみていた。
◆◆◆
「ふむ……報酬はパーツか。あの黒い奴の背中にあった大型ブースターっぽいな」
総合受付前に帰還した4人は貰ったアイテムを確認する。貰えたものはパーツのデータでトールギスのものに似たブースターだった。
GBNにおいて、ミッションは成功すると報酬が貰える。貰える物はアバターのカスタマイズに使えるアクセサリーやガンプラのパーツデータなどなど。このパーツデータは模型店に持ち込むと射出成型機で実物のものにしてくれるので、今後も積極的にミッションを攻略してパーツを増やし自機を強化して行く形になるだろう。
「うーん、ちょっと使い辛そうだけどね……」
ユッキーの指摘通り、あの殺人的な加速を制御するには相応の操作技術が要りそうだ。
しかし作り方によっては可能性を広げるものだろう。
――カナタの奴ならコイツをどうするんだろうな……
きっと自分の使いやすいように改造してしまうのだろう。
ゴーシュ改めシュウゴはカナタとは小学生からの付き合いだ。カナタは昔からガラクタ弄りが好きで、ガラクタを別のガラクタに作り変えていた。小学生高学年になってからガンプラの製作にこれまでのガラクタ弄りを活かして新しい機体を作っていた。同じく模型製作が好き
「とはいえ素組みしか出来ん俺には改造なぞまだ無理か……」
今はガンダムMk-Ⅱの完成度を高め納得できるまでの性能にまで高めることが先決だ。ゴーシュは開いていたアイテムウィンドウを消し3人に向き直り頭を下げた。
「ユッキーとリク、それとサラ。ガンダムも分からん初心者に付き合ってくれて……ありがとう」
「そんなかしこまらなくても! 俺たちはもう仲間ですよ。ガンダムを知っているとかそんなことは関係ない。それにこれから知って行けばいいんですよ」
厭味一つなく言い放つリクの姿にゴーシュは穏やかな笑みで「またいつか。一緒に戦おう」そう言い残してログアウト。消滅した。
◆◆◆
長いプレイだった。
筐体のシートから立ち大きく伸びをする。血が全身を巡り心地よい。セッティングされたガンダムMk-Ⅱとダイバーギアを手に取る。
――今日の帰りは模型誌とか入門用の書籍でも買って帰ろうか。
外の窓を見るともう暗くなっていた。早く帰らなければ勉学にも支障が出る危険がある。
同じく筐体から顔を出す二人の少年に見覚えしか無かったが、彼らに声を掛ける体力も勇気も無くその背中を見送った。
世間とは、案外狭いモノである。
シュウゴの自宅はこの模型店から少し離れている。
近所が過疎っている訳ではない。寧ろ近所にもそこそこの模型店が存在するので、わざわざここに来る理由は普通ならないのだ。
そう、
電車に乗って、学校付近の駅をそのまま通り過ぎ13分程乗った先にシュウゴの自宅の最寄り駅がある。
駅から徒歩8分。住宅街の一角に他より少し大きな2階建ての一軒家が建っている。そこがシュウゴの家だった。
そこからまず玄関に入らず、周囲に人の目がないことを確認してから庭の陰に手に持った雑誌やパーツの入ったビニール袋を隠すように置く。それから玄関のドアを開けた。
「……ただいま」
「シュウゴさん。今日中間試験の成績発表だったでしょう? ちゃんと1位取った?」
開口一番、シュウゴの帰宅に気付いてリビングから玄関に出て来た母親の言葉がそれだった。シュウゴは無造作に通知表を鞄から取り出して母親に渡して、言葉を返さず2階に上がり自分の部屋に入った。
勉強机。ベッド、参考書やらお堅い本ばかりの本棚、エアコン、クローゼット。
「ご飯ですよ!」
既に夕食は出来ていたらしい。部屋着に着替えた直後に呼び出され、シュウゴは顔色一つ変えずにリビングへ降りた。父親は出張で今日は帰って来ない。母親と二人だけだ。
テーブルにつき、夕食にありつくと母親は誇らしげに口を開いた。
「ちゃんと1位取ってて安心したわ。今日のお昼、ヤマダさんに教育が行き届いているって言われたのよ? ヤマダさんのお子さん、最近ゲームに熱中していてこのままではヒキコモリになるんじゃないかって心配なんですって。しかも戦争ゲームだって言うじゃないの、怖いわねぇ……シュウゴさんはそんなものに手を出さないで勉学にスポーツに一生懸命で真っ当な子に育ったわ。今じゃ見ないって言われたのよ。それで私はアドバイスしてあげたの、そんなもの壊してしまいなさいって。代わりにお勉強道具を買い与えてあげれば絶対にちゃんと育つって」
耳障りな自慢話が耳から耳にすり抜けて行く。
きっと1時間前の自分を母が見たら怒り狂うのは目に見えていた。故に庭に隠したものはどうしても見せられたものではなかった。
「これからもちゃんとバカな事しないで勉強して真っ当なオトナになるのよ?」
最後に吐いた母親のその言葉が何処か空虚に聴こえた。
こんな環境で我ながらそこまで歪まなかったものだと自分の人生を振り返ってシュウゴは自嘲気味に思う。最早無菌室に閉じ込められたようなものだ。父はそんな環境をなんとも思わず仕事人間で碌に家に戻ろうとしないし干渉もしない。
そんな夫と息子をブランド品のように見せびらかすのがシュウゴの母という人間だ。
カナタという碌でも無い
それゆえに――
心中で両親を唾棄する内なる顔をシュウゴは持っていた。
小ジャンプはレイヴンの基本テクだからね、仕方ないね(レ)