BUILD DIVERS ASTRAY   作:ヌオー来訪者

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 ここで言う北極星とはキョウヤのことを指す。


STAGE40 過去と未来の北極星

過去の北極星

 

 

 

 

 

 クジョウ・キョウヤ。現在GBNのプレイヤーにおいてその名を知らぬものはいない。

 圧倒的ビルドスキルと、操縦技術を持って攻略不可能と目されたミッションを攻略してみせ、世界大会においてはその圧倒的技量をもって個人並びにフォースランキング一位をもぎ取ったという『不可能を可能に』してみせた。そんな男である。

 

 

 彼がソードマン……否、カタナと出遭ったのはクローズドβテスト末期の頃だ。

 カタナは所在なく未完成のディメンションを彷徨っていた。その時の乗機は今のようなジャケットシステムを採用したオルタナティブではなく、SEEDの主役機であるソードストライクだ。

 当時キョウヤもソロとして活動しており、今のフォース《AVALON》のように付き人がいるというわけではなかった。

 

 キョウヤから見たカタナの最初の印象としては何かを探しているような、それでいてこの電脳世界越しにでも生気が感じられなかった。

 それに加えてクローズドβテスト末期なのもあって見慣れない顔が現れるということ自体に少しばかり興味が出たのもある。キョウヤの記憶力が他人より優れていたのもあったろうが、元々βテスターの参加者が限られていたのだ。どうしてもキョウヤからすれば目立つ。

 

 ちょうどクローズドβテストの最大の目玉だったらしい、レイドイベントが開始されるタイミングだったおかげで、いずれは即席でフォースを組まなければならなかった。そこで近くにいた彼と組むことを提案した。

 

「そこの君。今日はレイドイベントなんだが、もしよければ僕と組まないか? もちろんこのレイド戦だけの暫定だ」

 

「はい……いいですけど」

 

 カタナは少しうわの空気味に了承してくれたが、少しばかり心配にもなった。ガンプラバトルどころじゃないのではないか──とか。

 だが、彼の技量を思い知らされるのには然したる時間はかからなかった。

 

 レイドイベントの内容は南米の軍事基地、ジャブローに出現したアプサラスⅢの撃墜。

 当時GBNのバランスも粗削りであり若干理不尽要素も絡んでいた。……俗にいう鬼畜要素を多分に含んでいた。

 今回アプサラスⅢだけではなく、Ⅱが3機。指で数えるのがバカらしくなるくらいのグフやザクの軍勢が立ちはだかっておりジャブローを守りながらアプサラスという強力な機体を撃墜しろとなると、ちょっとやそっとの戦術では太刀打ちができない。

 地上のザクを放置していれば、司令部まで辿り着かれて終了。だがアプサラスを放置していると時間切れで敗北だ。

 

「俺は、地上のカトンボを斬ります。キョウヤさんは空のカトンボをお願いします」

 

 ジャブロー防衛とアプサラス撃墜に追われている他のダイバーを他所にソードストライクが、携えた片刃の大剣こと15.78m対艦刀《シュベルトゲベール》を振り上げ寄らば斬る。寄らずとも寄って斬るを始めた。

 蹴りや掌底など体術を織り交ぜながら、ザクやドムをスクラップに変え、序でに空から襲い来る小型戦闘機ドップをイーゲルシュテルンで叩き落とすその様は現在で言う『ソードマン』に通づるものもあった。

 

 一気に地上の敵のヘイトを集め、返り討ちにしていく。

 ストライクが元々対実体兵器用の装甲を持ち合わせているのもあって、マシンガン程度でならダメージをシャットアウト出来た。そのためカタナの提案は理にかなっていた。

 だがアプサラスを叩き落とした方が報酬的には美味しい。そんなアドバンテージを棄て自ら囮を名乗り出る殊勝なことをしたのが意外に思えた。

 と言うよりこの動きは捨て鉢のようにも思えた。

 もちろんここで撃墜されようが、死にはしない。どこぞのデスゲームじゃないのだから。だが死の恐怖に近いものを()()()()ことはできる。それだけの精密さをGBNは持っているのだ。

 

 ダメージを恐れず前に出て、対艦刀でグフを両断し。少し離れたザクに左肩部にマウントされたビームブーメラン《マイダスメッサー》を投げつけて破壊。

 背後からバズーカの直撃を貰いながら後ろのドムを睨みつけ、レフトアームに取り付けられた籠手状のパーツに仕込まれたロケットアンカー《パンツァーアイゼン》を射出。ドムの腕を捕縛して力づくで引き寄せ、シュベルトゲベールで再び叩き斬る。

 地上の問題がクリアされたとなれば、あとは空を飛ぶアプサラスを叩き落とすだけだ。他のダイバーたちは大挙してアプサラスを袋叩きにしていく。

 

 完全に地上のことなぞそっちのけで。

 ……やられるより先にやるという点では彼らの戦術もまた理にかなっている。だが──

 

 それを他所にキョウヤは地上でジャブローを攻めるMSたちをドッズライフルで風穴を開け始めた。

 

 

 ◆◆◆◆

 

「なんで俺を……」

 

 結果的に作戦は成功した。その裏ではキョウヤやカタナが地上でせっせと敵機を叩き落としていたことはあまり知られていない。報酬は当時の環境では強力だったブースターでアプサラスⅢに一番大きなダメージを与えたり、最後にトドメを刺すなどした『貢献度』が最も高かったダイバーに与えられた。

 で、当然地上の雑魚ばかりを刈っていたキョウヤとカタナには与えられるわけもなく……貢献度ゼロという凄惨たる有様だった。

 

 いくら実体兵器耐性持つストライクとはいえ、無敵ではない。

 あの数のモビルスーツを叩き落としつつジャブローの司令部を守るというのは難しいものだ。事実キョウヤの介入がなければアウトだった。だがこうした死守の結果ノーコンティニューで討伐成功しているのだ。無駄……と言うわけではなかった。参加者報酬も少しは豪華にはなったのだから。

 戦闘を終えて、煤だらけのストライクから降りたカナタは、何故かアプサラスを討たなかったキョウヤに問う。

 

「どうして俺を……助けたんすか」

 

「君一人に重さを背負わせる訳にはいかないからね。それに君に負担をかけて自分だけ報酬を貰うわけにもいかない」

 

 カタナは少し納得のいかなさそうな表情で、ストライクの脚にもたれた。

 ジャブローの夕暮れに染まりながら、キョウヤは口を開く。

 

「人のプレイスタイルに口出すのも良くないのかもしれないが、今の戦いで少し投げやりな戦い方に見えてね。そしてある時は遠くを見て何かを探しているように見える」

 

「……そう、見えましたか」

 

「うん」

 

 虚ろにカタナは夕暮れを見上げる。初めて見かけた時も思ったが、何処か遠くを見ているような、何かを探しているようにも思えた。彼が何を探しているのか、きっとリアルの事情なのだろうことなので深入りはしないが気にならないと言えば嘘になる。

 

「多分、探してるんだと思います。現実(ここ)じゃない何処かに探してるものはあるって思って」

 

「そうか──見つかりそうかい?」

 

「見つかんないと思います。一生……でも、諦められない俺がどっかにいるんです。とにかく戦って、戦って、戦い抜いて……」

 

 その言葉からキョウヤは察した。

 おそらくリアルの死人が絡んでいる。これ以上突っ込むのもマナーに反するであろうと思いキョウヤは口を噤む。だが、カタナは軽く笑ってから溢した。

 

「すんません。今日遭ったヒトに言うもんじゃないですね」

 

 そんなカタナを他所にキョウヤはコーヒーを淹れていた。このイベントの参加者報酬として配布されたジャブロー豆を使ったものだ。……噂によるとガンダムカフェで販売しているものとほぼ同じと聞いている。

 出来上がったコーヒーの入ったマグカップをカタナに渡し、キョウヤも自分のを一口呷る。

 

 ガンダムカフェのものの味をそのままエミュレートしたものなのもあって出来は良かった。一方でカタナはマグカップを執拗にふーふーしている。猫舌なのだろうか。

 

「どうだい? GBNは」

 

「……こうしてモビルスーツに乗って、敵を倒して……月並みなんですが凄いゲームだなって。こうやってコーヒーの味も分かるし、このジャブローの生温い風も、虫の鳴き声も……ここまでくればちょっとした異世界みたいだ」

 

「異世界か……面白い見方だね」

 

「だからしばらく、この世界を廻ってみようと思うんです」

 

 カタナのリアルに何があったのかは分からないが、こうしてGBNに触れて面白いと思ってくれるのであれば拒む理由にはならない。

 それに、彼のマニューバは捨て鉢気味とはいえタダモノではない。下手な腕前でなら被弾しまくって装甲が破壊されてダウンだ。なのにも関わらず、生還してみせているのは相応の腕前を持っているに他ならない。

 いちビルダーとして、いちファイターとして。彼と戦ってみたかった。

 

「暫くの間僕と組まないか? 多分このGBNに来てあまり間もないだろう」

 

 それに負担を強いた負い目もある。

 カタナは縦に頷いた。

 

 

 

 

 

 それからというもの、しばらくカタナと様々なミッションやクエスト、イベントに挑み次々と強敵をねじ伏せて行った。

 時間が経つごとにカタナの表情から何処か遠い所を見る様子は減って行った。おそらく心の中で何かしらの決着を付けたのだろう。βテスト終了時には少し晴れた顔をしていた。

 それから正式サービス開始から、また元に戻ろうとは思いもしなかったが──

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

未来の北極星

 

 

 

 

 マスダイバーが出現したのはそれから数年後のことだ。

 GBNが正式にオープンし世間の話題をかっさらい……少しはほとぼりが冷めた頃。

 キョウヤとカタナが再び顔を合わせたのもその頃あたりだ。その時には既に機体はストライクではなく、今のオルタナティブに近いものとなっていた。

 

 次々と切り伏せていくその様は在りし日の姿の面影もあったが、ファイターとして好かれる戦い方ではなった。パイロットキルを狙った戦術だ。なにも知らない人間が見れば世間的に言われているソードマン像そのものになる。

 最初こそちょっとした陰口程度で済んだが、今となってはリカバリー不能なまでに肥大化してしまった。

 

 チャンピオンとしてソードマンは無実だと言えば楽だったのだが、冤罪材料であるマスダイバーの存在が立証できない上に、煽る者の悪意が勝った。

 完全に外堀を埋められている状態で、的確にソードマンが危険人物であるということを浸透させていく。本来ならばマスダイバー狩りの先駆者として効率よくマスダイバーを倒すことができただろう。だが現実がそれを許さなかった。

 

 こちらからカタナにコンタクトを取ろうにもあの連戦ミッションのように遭遇しない限りは出来ず、彼と同じくマスダイバーを狩り偶然、カタナと会って何とかするしかない。

 だが、いかんせんGBNのチャンピオンという立場がそれを許さなかった。

 ゲームマスターは言う「GBNを盛り上げることもまた一つの戦いだ。マスダイバーについては我々に任せろ」と。

 

 ──それでは間に合わない

 

 マスダイバーのログは見つからず、完全に後手に回っている。それでいてマスダイバー1体を倒すのにも一苦労。せめて、ソードマンがどんな人なのか知っておいて欲しいとあの連戦ミッションで素性を明かさせたがこれが効果があったかと言えば、焼石に水だった。

 世の中善行より悪行の方が世に広まりやすいのだ。

 

 それにあの時期からだろう。偽ソードマンが出現し始めたのは。

 ログに出ないというブレイクデカールの性質を利用したそれは公式の介入を困難とさせた。加えて比較的有名なネネコなる配信者が被害を伝えたことによって燃え広がる一方。運営も遠まわしにデマには気を付けろという旨を告知したが全く効果は無かった。ブレイクデカールによるシステム破損の事後処理もあって通常より対応力は墜ちてしまっているありさまだ。

 

 自警団を結成するにまで至るとなればキョウヤとしても看過できなかった。

 潜入用のサブアカウントを用意して、自警団の集会に潜入してみたものの彼らの熱気は異常なものだった。ソードマンを討て、許すな、と。

 憎しみが憎しみを増幅し、脳裏で創造した悪党『ソードマン』が肥大化していく。おそらくまともにソードマンと対峙した人間は1割も満たないはずだ。

『悪』を倒すこと。それは最も手軽かつ安い娯楽なのだ。

 

「君たちは見たのかい? ソードマンが罪も無いダイバーを襲う所を」

 

 流石に我慢ならず遠まわしに訊く。すると自警団のメンバーから帰って来た言葉が──

 

「見ちゃいない。だが火のない所に煙は立ちはしない。それにこんな膨大なアカウントが居るのにも関わらずピンポイントであのアストレイが出るとなれば確定も良い所だろう。それに奴がそうじゃないという証拠もないからな」

 

 悪魔の証明というものを知っているだろうか。

 ○○は××であるという前提で決めつけにかかっているお陰で最早キョウヤが何を言おうが詭弁でねじ伏せられるのがオチだった。

 幽霊がいないという証拠はない、故に存在する。そんな主張を地で行くような空気感だった。

 

 自称被害者の代表格であるのネネコが提示したログはおそらく偽ソードマンとの交戦データだ。

 だが偽ソードマンがギガ・フロートで討たれたといううわさが流れてもネネコは止まりはしなかった。エスカレートしていく自警団の行動を扇動していくだけだ。

 GBN外でもTwitterで「悲しい事がありました」と拡散しGBNプレイヤー外の怒りを煽っている。

 

 その一方で増加し強化されていくマスダイバーの軍勢。

 キョウヤも何十人ものマスダイバーを狩り続けてきたが、限界も近づきつつある。サーチ&デストロイの効率の悪さもあれば、こちらに罠も張っている。

 カタナ共々いつマスダイバーの処理に失敗するか危うい状態にある。……それにあのロンメルですらマスダイバーにやられて全滅したという話も耳にしている。

 

 一刻も早くブレイクデカールの出元を突き止め、この流れを食い止めなければ取り返しのつかないことになる。このままではガンプラを愛する者たちの世界も、そしてガンプラを愛する者両方を失うこととなる。エキシビションマッチ以降の仕事の依頼は当面蹴っている。

 このエキシビションマッチの仕事が終わればすべてのリソースを、対ブレイクデカールに割く。これ以上GBNを守る為に刃を振るう男に負担を背負わせやしない。

 

 

 プロビルダートーナメント優勝者とのエキシビションマッチの仕事ばかりはスポンサーの多さやらなにやらで、下手に蹴れば別の意味でGBN存続の危機に陥りかねないというあまりにも身も蓋も無い事情があった。

 そしてもう一つ理由がある──

 

 対戦相手は、ガンダムアストレイ・ファンタズマ。搭乗者はNAYUTAというダイバーだ。スポンサーにはSafety-Security-SoftwareというGBNのセキュリティ関係で貢献している企業がついているという。

 たとえ、スポンサーの素性がなんであれ手加減はしない。全力で戦うだけだ。そして彼らにはブレイクデカールの件で気になる点がいくつかあるのだ。

 

 

 

 

 

 

 キョウヤの乗機AGE-2マグナムがアリーナの眼前に立つ、アストレイ・ファンタズマにターゲットを絞る。ファンタズマは刃の無い刺突剣の柄を腰のサイドアーマーに近付けていた。

 発せられる(プレッシャー)はカタナと同じか──否、それ以上か。

 

 戦闘開始の合図が発せられたその時、携行していたビームライフル《ハイパードッズライフルマグナム》の銃口を即座にファンタズマに向け引き金を引いた。

 

 電光石火。

 AGE-2マグナムの砲撃は空を裂き、瞬時に背後に回り込み引き抜いたバーストサーベルを突き立てる。最早思考より反射の方が先立っていた。

 振り向きざまにレフトアームに装備された攻防一体のシールド《シグルシールド》でその刺突を間一髪で受け止めた。

 

 ──速いッ! 

 

 スピードはトランザムほどではないにしろ、少しでも気を抜けば蜂の巣にされる。

 音速の突きをシグルシールド一つで的確に処理しながら、反撃の機を伺う。こうして戦っていると不気味さが浮き彫りになっていく。

 

 NAYUTA。かのGPD時代の悲劇の男。イズミ・ナユタと同じ名を冠する男──

 事前に戦闘ビデオはチェックしていたが、基本マニューバは丸々いっしょだ。だが死んだはずの男が生き返ることなどあり得ないのだ。キンケドゥやムウ並みの奇跡の生還、死者蘇生、クローン、カーボンヒューマン、AI、エトセトラエトセトラ。

 

 考え付く可能性は即、キョウヤの思考が否定した。それはあまりにも非ィ現実的な可能性だった。

 そしてそれを擁するSafety-Security-Software。連中が参加したのはこの今年が最初。それだけではない。

 ブレイクデカールのシステムが何故こうもGBNのセキュリティを掻い潜ることができるのか。その責任は一体どうなっているのか。

 得も言われぬ不穏なものがあの企業には漂っていた。無論、杞憂ならそれでいい。だが最悪の展開がキョウヤの脳裏を過って仕方がない。

 扇子を扇ぐシーマ・ガラハウがちらつく。

 

 ──調べてみる必要がありそうだな……! 

 

 ファンタズマのバーストサーベルと鍔迫り合いをしながら、キョウヤは操縦桿を潰しかねない力で握りしめた。

 そして、その時──ファンタズマの左掌から紫電が迸った。

 

 

 

 

 STAGE40 過去未来の北極星

 

 

 




 シーマ様はいいぞ(ハイブリッド4コマ大戦線片手に)。
 別にキョウヤさんが熟女趣味とかそう言うのではない。断じて。というかシーマ様まだ三十代だし熟女でもない(支離滅裂な思考、発言)





 ……で、当面リアルの話になります。祭りの後のことも書く必要もありますしね(´・ω・`)
 因みに現時点の時系列は原作で言う9話周辺に相当します。

 ファンタズマのパイロットの話もしたりとかで、もう少しお付き合いいただきそうです。
 シバの出番も増えそうですし。

 STAGE41『彼+彼女の問題』

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