と思ったので初投稿です。
種2期EDか最近また活躍しているTMKNM姉貴のCASTAWAYでも聴きながらどうぞ。
先日、ナユタもどきがクジョウ・キョウヤとやりあったというネットニュースが流れてきた。
どうもプロビルダー同士の大会優勝者によるエキシビションマッチと銘打っていたようだが――
記事には戦闘中の写真が数枚貼られており、ギリギリの攻防を繰り広げているのが分かった。キョウヤの実力は知っている。たかだかその辺のダイバーが敵うような男ではない。
が、写真を時系列順に進めば進むほど、キョウヤのAGE-2マグナムが破損していた。シグルシールドが砕け、ハイパードッズライフルマグナムの砲身は叩き折られ――
どうやら雷迅掌という掌底技を炸裂させ機体の駆動系に異常を来たさせていたようだ。
アストレイの技である光電球を正式に武器として造り変えた
何故知っているかって?
オルタナティブにも兄のファンタズマにも搭載されていたからだ。
結果は相討ち。
蓄積ダメージが祟って、攻撃する瞬間双方自壊。戦闘不能となったのだという。最後の写真ではアリーナのど真ん中で煙を上げて横たわる2機の姿があった。
「――なんて野郎だ」
あのキョウヤと互角などと。
もちろん、キョウヤが追い込まれた理由は実力というよりは、初手様子を見ている風にも見えた。最初から押していけばそのまま圧殺できただろうにそれをキョウヤはしなかった。
やはりナユタの名前を冠しているからだろうか。
悲劇のファイター、ナユタの名前は今になってその名をとどろかせつつある。
今になって何がしたいんだあの紛い物は。単純に腹が立って仕方がなかった。亡霊は日に日にその姿を肥大化させていく。
そして、生者にまとわりついて行くのだ。物言わぬ死者の冒涜を続けながら――
NAYUTAの接触手段については無いことはない。キョウヤとの個人レベルでの付き合いはあったわけで、彼を介して行けばおそらく容易い。
だが、偶然以外での接触はほぼない現状今になって呼ぶのも少しばかり虫が良すぎる。
だからこそ、憤ることはあれど何ができるというわけでもなかったので一旦忘れよう。……そう簡単に忘れられたら苦労しないが。
もう一つ気がかりなことがある。
こっちの方はまだ手の届く範囲であると断言できる。夏祭りでのアヤの言動だ。
「好きだよ、か」
反芻するように呟いてみる。野郎が復唱するなぞただ気持ち悪いだけだ。
馬鹿馬鹿しい思いをしながら、カナタは大欠伸した。期待していない、下心ない。と言えば嘘になる。
堕ちたもんだ。従業員に手ェ出すたぁ店主代理として恥ずかしくねぇのか、万が一にも可能性があったとしても蹴っちまえ馬鹿野郎……と毅然とした態度を取る謎の職人顔をする脳内カナタA。
いや別によくね? そもそもそこまで重く取る職人気質きしょいからやめろと。つーか脳内カナタAを鼻くそほじりながら一蹴する脳内カナタB。
丁丁発止し合う双方の傍ら、本体であるカナタの身体そのものは手に持っていた、湯呑みから冷たい麦茶が流れ落ちバタバタと服を濡らしていた。
「うわっ撒いてるよ! イズミ君!」
そして出入り口から制服姿のアヤが現れたタイミングでAとBによるその不毛な対決は終わりを告げた。
STAGE41 彼+彼女の問題
取り敢えず裏で着替えて後始末を済ませた所で店に出ると、制服の上にエプロンといういつも通りの姿で作業台の上でガンプラを組み立てているアヤの姿があった。
台にはシャイニングベアッガイが、ガンダム・ザ・ガンダムのポーズをとっている。
「おかえり」
「ただいま」
アヤはいつも通りに見える。
考え込んでいた自分がバカだったらしい。ばーかばーか。
いつも通りに振る舞う姿を見て、カナタの胸の内のざわつきもすぐに収まった。いや押さえつけられたと言った方がいいだろうか。
ヘタレがと言われても仕方がないだろう。おそらく変わらないことに安心したがっている自分がどこかに居るのだろう。
けれども環境の変化というものは容赦なくカナタに殴りかかって来る。
環境の変化と言えばシバと対立し、今となってはカドマツも情報をくれなくなった。
スマホのメールボックスには一通のカドマツからのメールが置かれている。中身は「これまで頼りっぱなしですまなかった」という謝罪と、今後は運営が全面的に対応するという旨のものだった。
それから後日ありったけのアイテムが詰め込まれた箱が運営から投げられてきた。多分何百時間も遊んでも手に入らないような分量だ。口悪く言ってしまえば手切れ金だ。
この様子からマスダイバーを倒すための算段がついたのだろうか。いや――それはないだろう。
こうして無理矢理手を切ったとは言ってもそれからのアクションはブレイクデカールの存在を広めただけで、対応パッチらしきものは一切投げられていない現状から察するに――無用な心配でもされたか。
そんなもの余計だというのに。
そんなことより、シバが本件の容疑者になりつつある事実の方が被害甚大だ。
この調子じゃコウイチやらプレハブ小屋の連中までそうだとか言われでもしたら確実に心が折れる。そしてあのアストレイが立ちはだかった時、容赦なく叩き潰せるのか――いや、やるんだ。
何もかも誰かに吐き出してしまいたかったが、言った所で自分が満足するだけなのだ。
あの夏祭りで弱音を吐き出したことも少し後悔もしている。今この瞬間自分自身に必要なのは、いつも通りに生きて、いつも通りにマスダイバーを狩ることだけ。
やらなければ、ならないんだ。俺が俺でいるために。
そして気付けばアヤがすぐ隣に寄り添って手を握ってくれていたことに気付きふと我に返った。
◆◆◆◆
数分前。
アヤは作業台でガンプラを組み立てながら、カウンター奥の座敷に座り込んで壁にもたれ虚ろな目で何処かを見ているカナタにちょっと腹が立ちそうだった。
今日はいつにも増して酷い気がする。
しかし言えと言ったところで大人しく吐くタチではないということをアヤは知っている。
抱え込んで抱え込んで抱え込んで。爆発起こすまで何もしゃべらないんだ。そして、あの夏祭りは爆発寸前のようにも見えた。
わたしじゃ役者不足か。
――馬鹿な女
カナタを想う度に
――GBNを壊してのうのうと自分が幸せになろうなんてちゃんちゃらおかしいわね
違う――と否定はできなかった。
「あの男」の周囲に群がっている連中は普通じゃない。「あの男」という個人はまだしもSSSなる連中は本気でGBNを滅ぼそうとしている。そして傭兵を名乗る連中。
多分……近い内にGBNは滅ぶ。
――取り戻したいんでしょう?
かつてあった絆を取り戻せる最後の鍵をこのまま捨てて置くことは、アヤにはできなかった。
だからこそせめて誰かを苦しめる代わりに目の前の誰かを救いたかった。それが自己満足だということは分かっている。かつての仲間たちの絆とカナタ。
それだけはどんな手を使ってでも守りたかった。そして離したくなかった。
――その想いが矛盾だって言うのよ
咎める声を振り切り何処か遠くを見ているカナタに寄り添って、手を握ってやる。
この人が、そばにいる大好きな人がひとりぼっちにならないように。
◆◆◆◆
……とまぁ、そんなことをされてカナタは冷静ではいられなかった。
そもそも女の子がすぐ横に腰掛けて手を握ってくるなどという状況自体普通じゃないのだ。ふんわりとしたシャンプーの甘い匂いがほのかに鼻腔をくすぐる。そして地味にアヤの手がひんやりとしているとか柔らかいとか、彼女いない歴=年齢特有の気持ち悪い感想を抱きながら思考する。
先日の夏祭りで抱きしめられるという状況も中々おかしかったが、その時精神が参っていたお陰で衝撃度は薄かった。
だが今この瞬間普通に焦りもすれば、戸惑いもする。
とはいえ、振り払おうにもそんなことをして何かいい事はあるのかと言われればすぐに答えは出ず。喉に引っかかった言葉を絞り出した。
「お前さぁ……毎度毎度勘違いするぞほんと」
呆れ交じりに溢す。
今の関係が変わらないことに安心しようとする自分自身と、職人ヅラしている脳内カナタAの最期の抵抗だった。
「……ん、して」
見えた答えだった。完全勝利した脳内カナタBは右腕を天に突き上げ、Aは何処かの中佐の如く消し炭となった。
ここまでされて疑うのも中々ヘタレだと自分を笑いながら、握りしめてきているアヤの手を空いた手で重ねた。ぴくりと、寄せられた小さな肩が跳ねた気がした。そして限界までその肩はもっと寄せられる。
「俺さ……やっぱお前の事が好きらしい。バイトに何ふざけたこと言ってるんだって思うかもしれないが――」
「ん。ありがと……でも、駄目だよ」
訳が分からなかった。頭が混乱して疑問の声すらも出なかった。
勘違いしろと彼女は言った。けれども重ねられた手は離され、一方的にアヤがカナタの手を握っているだけの恰好となった。
「わたしね、キミが思ってるより性格が悪いし、ひどいこともしてるんだ。いろんな人を裏切って辛い思いもさせてる」
自分の知らないアヤがいる。
そんなことは薄々気付いていた。時々見せるアヤの闇に気付かないほど鈍い人間ではない。けれども、それでも好きになってしまったのだ。どうしようもないくらいに。
「じゃぁ、なんでこうしてるんだよ」
「これはわたしの片想い。勝手に好きになって勝手に笑顔であって欲しいって思ってるだけの。イズミ君はもっと別の娘好きになればいいんだよ、わたしなんかよりずっと優しい娘を」
卑屈が過ぎる物言いだった。
何が彼女をここまで卑屈にさせるのか分からなかった。分からないが、それを笑って聞いてやれるほどカナタは薄情にはなれなかった。
堰を切るように喉の奥からあふれ出た言葉を吐き出す。奔流のようにまとめて出て来そうな思いを辛うじて言葉に変えながら――
「なァにが片想いだよっ! ガンプラのことで凄く楽しそうに話してくれたり、凄く真面目に仕事してくれたり、凄く……かわいかったり……」
最後の所はどうしても声が尻すぼみになるがカナタは負けじと言葉を紡ぐ。
「性格が悪かろうが悪いことしてようが、好きになったんだよ。知ったことか馬鹿!」
もしそのやった悪いことを教えてくれるならその罪も一緒に背負う。理不尽な殺し以外ならなんだって。
気付けば、彼女の手が酷く震えていることに気付いた。先日自分の味方だと言ってくれた。だというのなら、今度はこっちの番だ。
意趣返しと言わんばかりにアヤを抱き寄せる。
「ごめんね……だいすき」
それはよく耳をそばだてないと聞き取れないほどにか細い声だったが、この誰も居ない空間では充分過ぎるものだった。
少し離れてアヤの顔を見ると、ひどく瞳が揺れているのがわかった。
そして目をぎゅぅっと閉じ、ゆっくりと唇が近づいて行く。それに応えるようにカナタもまた吸い込まれて行く。
多分、息も止めているのだろう、息らしきものが当たらず自分もと息を止める。
このまま触れるか触れないか――そこまで近づいたその時だった。
「あのすみません……お楽しみのところすみませんが」
思わぬ客が阻んだ。その客は高級であろうスーツを身に纏い眼鏡をかけた30代であろう男性だった。不思議と威圧感はない。
「ひゃいっ!?」
ひっくり返った声がアヤから発せられ互いに跳び退いて接客モードに入る。しかしカナタは変な所を見られたことの驚きよりも、客が何者かであることへの驚きの方が勝っていた。
「――まさか、ウツギさん?」
「そう、その通り――そのまさか。ウツギでございまーす」
スーツの男のサザエさん風味に放たれたおちゃらけ声がこのさっきまでしっとりとしていた空気の古鉄やに木霊した。
あぁもうこいつらMAXめんどくせぇ! と思っていただければ作者冥利に尽きます。
ウツギとは言ってもジョウト地方の博士とは無関係なので悪しからず。
「Gサイファー。こいつがお前の新しいモビルスーツだ。こいつでソードマンを殺れ――必ずな」
取り戻したいものがあっても失敗してしまえば意味がない。
だからあの男は新しいモビルスーツを遣してきた。名前はGサイファー。
零丸の代わりにこれで戦えとあの男は言う。
確かに同じゼロのモビルスーツではあるけれど!
次回『暗号のG』
見てください!